ホワイトペーパーは、リード獲得やナーチャリング、商談化などBtoBマーケティングにおいて高い効果が期待できるコンテンツだ。
一方で、ノウハウや専門知識を必要とすることから、制作に二の足を踏む企業も少なくない。
実際に、次のような課題や相談をよく耳にする。
- ホワイトペーパーを内製した経験がなく、社内にノウハウがない
- 見込みユーザー向けにどの段階で何を作ればよいかわからない
- 他社の事例や参考になるサンプルを知りたい
こうした課題は多くの担当者が直面するものだ。
そこでこの記事では、一般公開されているIT業界の大手企業が提供する良質なホワイトペーパーの制作事例について、営業・マーケティング活動で役立つポイントや、作り方のコツについて客観的な視点で紹介していきたい。
制作の流れやおすすめポイントを押さえれば、自社商品に関連する内容にあてはめることで有効なホワイトペーパーを効率的に企画できるはずだ。
※弊社の事例ではありません。
目次
1. ホワイトペーパーの種類
ホワイトペーパーの制作では、目的によってテーマ・構成・内容・デザインなどを変えていく必要がある。
そのため「これ」といった正解がない。
一方で、おおまかな目的やテーマに応じて、いくつかの種類に分けることはできる。
そこでまずは、IT業界におけるホワイトペーパーの種類について理解しておこう。
1.1.IT業界におけるホワイトペーパーの活用例(8種類)
IT業界といっても、ソフトウェアやハードウェア、インフラ、SaaS、コンサルティングなど多様な分野がある。
それぞれの分野で扱う商品やターゲットユーザーは異なるが、共通して見込み顧客との接点を作り、営業・マーケティング活動に役立つ手段としてホワイトペーパーが活用されている。
ホワイトペーパーをwebサイトで公開することで、オンライン上の潜在層への認知拡大にも役立つ。
制作の際には、資料そのものの質だけでなく、作りやデザインの見やすさも重視するとよい。
これにより、ダウンロード後も社内資料として役立ちやすくなる。
ここでは、IT業界で特に利用される場合が多いホワイトペーパーの型を8種類に整理して紹介する。
① 調査レポート型
② トレンド情報型
③ 事例紹介型
④ 課題解決型
⑤ ノウハウ提供型
⑥ セミナー資料・イベントレポート型
⑦チェックリスト型
⑧テンプレート型
①調査レポート型
目的:認知拡大とリード獲得
調査レポート型は、現行の市場状況や顧客の動向など、専門的な知見を要する調査結果を提供するのが特徴だ。
業界で需要がありそうなデータを独自に収集し、資料としてまとめて、認知拡大を図り、リード獲得につなげる。
中立・公平な立場が前提となるため、強い訴求にはつなげにくいものの「自社の名前を知ってほしい」「リードの裾野を広げたい」という場合に適している。
②トレンド情報型
目的:認知拡大、リード獲得、ナーチャリング、既存顧客との関係強化
トレンド情報型のホワイトペーパーは、業界の新しい動きや変化をすばやくキャッチして伝えるものである。
主な内容は、新しい技術に関する報告、業界の大きな動き、国内外の流行、法改正によるビジネスの変化、社会的な動きなど。
さらに、これらの動向にもとづく企業の対応策を提案する場合もある。
トレンド情報型は、情報の新しさが人々の関心がダウンロード数に影響するため、タイムリーな制作が不可欠だ。
③事例紹介型
目的:ナーチャリング、商談化、比較・検討の対象に入れてもらう など
事例紹介型のホワイトペーパーは、顧客の導入事例を中心に、背景や取り組みの成果を具体的に示すことで、自社の能力と実績を強調する。
社内の資料を活用して短期間で質の高い内容を作成でき、複数の事例を通じて製品やサービスの広範なアピールが可能だ。
BtoB取引の場では「実績」が何よりも重視されるため、商談や顧客の追加購入の促進に効果的といえる。
費用対効果が高く、非常に実用的なホワイトペーパーといえるだろう。
④課題解決型
目的:リード獲得、ナーチャリング、顕在層および明確層への昇格を狙う など
課題解決型のホワイトペーパーは、業界の一般的な問題を提起し、解決策として自社製品を提案するものだ。
具体的な事例を用いることで説得力が高まり、商談のチャンスを増やすことができる。
ただし、ターゲット設定やペルソナの作成や、ターゲットのニーズ・課題の理解は慎重に行わなければならない。
ターゲットやペルソナの設定については、こちらの記事を参考にしてほしい。
⑤ノウハウ提供型
目的:主にリード獲得
ノウハウ提供型のホワイトペーパーは、一般的な知識を伝えることで、認知の拡大やリードの獲得、企業の信頼を高める目的がある。
BtoBでは「RPA導入の基本ガイド」や「失敗しないテンプレート」などの「ハウツー」情報がメインだ。
企業独自の知識を取り入れた実用的な内容はリード獲得に効果がある。
また「今すぐ使える」内容であれば、ダウンロード数を稼ぎやすくなる。
⑥セミナー資料・イベントレポート型
目的:認知拡大、リード獲得、ナーチャリング
次回セミナー参加者の獲得など、セミナーやイベントの内容を整理して提供するのが、セミナー資料・イベントレポート型のホワイトペーパーだ。
セミナーでの発表内容やディスカッションの要点、写真や参加者のフィードバックなどを掲載する。
実際のセミナーやイベントでは、日時や場所などの制限があり、多くの人に情報を伝えにくい。
しかし、ホワイトペーパーであればWebを通じて多くの人々に情報を提供できる。
セミナー・イベントレポート型の制作では、情報の取捨選択によって、いかにわかりやすく内容を整理できるかが品質を左右するだろう。
⑦ チェックリスト型
目的:課題認識の深化と検討段階への誘導
チェックリスト型は、顕在層や準顕在層の課題認識を深め、次の検討段階へ進ませることを目的とするホワイトペーパーだ。
自己診断や比較形式を取り入れることで、読者が自分の現状を客観的に把握しやすくなり「自分ごと化」を促す効果がある。
IT企業向けの例としては「セキュリティ対策度合いチェック」や「業務効率化の自己診断」などが代表的だろう。
診断結果にもとづき改善ポイントを提示し、自社製品やサービスの提案へ自然に誘導できるのが特徴である。
一方で、設問設計や結果の提示方法を誤ると、意図した訴求ができなくなるおそれがあるため、ターゲット層の課題感を十分に把握したうえで慎重に設計する必要がある。
⑧ テンプレート型
目的:業務負担軽減と関心度の向上
テンプレート型は、実務に役立つひな形を提供し、読者の業務負担を軽減すると同時に関心度を高めるホワイトペーパーだ。
「システム提案書のフォーマット」や「運用マニュアルのひな形」など、現場でそのまま使える形式が好まれる。
具体的なアウトプットを提示することで、成果のイメージを持たせやすく、資料の保存や再利用にもつながる。
BtoBでは役立つ情報を継続的に提供する姿勢が信頼構築に直結しやすく、ナーチャリングや認知拡大にも効果的である。
ただし、単なる形式提供にとどまると訴求力が弱まるおそれがあるため、自社のノウハウや活用方法を解説に盛り込むことで、専門性を訴求しつつ商談や問い合わせに結びつけやすくなるだろう。
その他資料
目的: 補足的な情報提供を通じて、ホワイトペーパーの内容の理解を深める
ホワイトペーパーを補足するため、サービスカタログや料金表、用語集などの追加情報が添付されることがある。
これらの補足資料は、ホワイトペーパーとは別に作られるのが一般的だ。
ホワイトペーパーに補足資料を添えることで、情報の信憑性を向上させ、信頼を深める効果が期待できる。
ホワイトペーパーの種類については、こちらの記事を参考にしてほしい。
1.2 種類と購買段階の対応関係
ホワイトペーパーは、顧客の購買フェーズに応じて適切な種類を活用することが重要だ。以下では「課題認知前」から「意思決定」までの5フェーズと対応関係を整理する。
課題認知前(潜在層)
目的:課題に気づかせ「自分ごと化」させる
資料例:①調査レポート型、②トレンド情報型
課題認知(準顕在層)
目的:課題構造を理解させ、解決の必要性を認識させる
資料例:④課題解決型、⑤ノウハウ提供型、⑦チェックリスト型
解決策収集(顕在層)
目的:課題解決の具体策を提示し、選択肢を明確化する
資料例:④課題解決型、⑤ノウハウ提供型、⑧テンプレート型
比較・検討フェーズ
目的:差別化要素を提示し「選ばれる理由」を示す
資料例:③事例紹介型、⑥セミナー資料・イベントレポート型、⑦チェックリスト型
商談フェーズ(意思決定)
目的:社内稟議や最終判断を後押しする
資料例:③事例紹介型、⑤ノウハウ提供型、⑧テンプレート型
上記のように、ホワイトペーパーの種類は購買フェーズごとに使い分けることで効果を高められる。
以下の図では「課題認知前」から「意思決定」までの5つのフェーズに対して、各ホワイトペーパーの型をどの段階で活用すべきかを整理している。
フェーズと資料の対応を視覚的に把握することで、テーマ設計や企画段階での検討がしやすくなる。
さらに詳しいホワイトペーパーの作り方は以下の記事も参考にしてほしい。
2. ホワイトペーパーの役割とメリット
ホワイトペーパーは、営業・マーケティング活動を効率化し、リード獲得から商談化までを後押しする有力なコンテンツだ。
単なる資料提供にとどまらず、購買段階ごとの適切な活用や営業連携、フォーム・CTA・展示会との組み合わせによって、成果を大きく高められる。
この章では、ホワイトペーパーが持つ役割やメリットを、IT業界特有の活用シーンを交えて解説する。
2.1. 営業・マーケティング連携の視点
ホワイトペーパーは、マーケティング施策だけでなく営業活動でも活用できる資料だ。
マーケティングではリード獲得やナーチャリングの接点として機能し、営業においては商談前の事前配布資料や提案補足資料として、顧客理解を深めるきっかけになる。
特にIT業界では、技術的な説明や導入効果の訴求に時間がかかりやすい。
ホワイトペーパーを事前に共有することで、商談時には製品比較や提案検討などの本質的な議論に集中できるメリットがある。
さらに、事例紹介型やROI提示型のホワイトペーパーは営業資料としてそのまま利用可能であり、マーケティングから営業へのスムーズな情報引き渡しにも役立つ。
2-2. 購買段階ごとの活用シーン
ホワイトペーパーは、購買段階ごとに適切なマーケティング・営業施策と組み合わせることで、成果を最大化できる。以下では、各フェーズにおける具体的な活用シーンを紹介する。
課題認知前(潜在層)
活用目的:業界課題やトレンドへの関心を喚起し、認知を広げる
施策例
広告連動DL:LinkedIn広告やディスプレイ広告経由で調査レポート型を配布
展示会配布:来場者へ業界トレンド資料を配布し、Webフォームへの再訪誘導
SEO流入:オウンドメディア記事と連動し、ホワイトペーパーDLで接点を作る
課題認知・解決策収集(準顕在層)
活用目的:課題の具体化と解決策理解を促し、検討フェーズに進める
施策例
ナーチャリングメール:MA配信で課題解決型やノウハウ提供型を順次案内
ウェビナー誘導:課題解説資料DL後に関連セミナーを案内
チェックリスト型連動:自己診断資料で課題を「自分ごと化」させ、改善提案に誘導
比較・検討フェーズ
活用目的:競合比較や導入事例を提示し、検討対象に加える
施策例
営業フォロー配布:商談前に事例紹介型や比較ガイドを送付し、打ち合わせを効率化
セミナー資料活用:参加後のフォローとして配布し、導入イメージを具体化
MAスコアリング連動:DL行動データで検討度合いを可視化し、営業に引き渡し
商談フェーズ(意思決定)
活用目的:社内稟議や最終判断を後押しする
施策例
ROI・稟議資料の提供:意思決定者向けにROI試算資料や導入効果レポートを共有
営業資料化:提案書にホワイトペーパーのグラフや図解を流用し、説明時間を短縮
展示会後のクロージング:展示会来場者に商談特化型資料を案内し、訪問・デモへ接続
このように、ホワイトペーパーを単体で使うのではなく広告・フォーム・メール・展示会・営業フォローと組み合わせれば、購買段階ごとの行動を次のステップへと誘導でき、商談化の向上が期待できる。
2.3. IT業界ならではの有効な手段とメリット
ホワイトペーパーは、IT業界特有の購買プロセスや複雑な技術背景に対応できる有効な手段だ。ここでは、IT業界における主なメリットと、汎用的な活用例を紹介する。
メリット1:専門性の高い情報を効率的に伝達できる
IT商材は技術的な背景や業界知識が必要なケースが多い。
ホワイトペーパーは、複雑なテーマを整理した形で提示すると、初期検討層にも理解しやすく伝えられる。
例:クラウドサービスのセキュリティ動向を解説したレポートを配布し、潜在層に課題意識を持たせる。
メリット2:購買フェーズに応じた育成が可能
調査レポートで認知を獲得し、課題解決型資料で解決策を提示、事例紹介型で比較検討層を後押しするなど、購買段階に応じた段階的なリード育成ができる。
例:クラウド移行に関心を持ったリードに、課題整理ガイド→導入事例集→ROI試算資料の順で配信。
以下の図では「ハードルの低い資料」から順に提供し、段階的に比較・検討、商談フェーズへと引き上げるプロセスを示しています。
顧客のフェーズに応じて資料を段階的に提示することで、自然な流れで商談化へ導ける点が重要です。
とはいってもBtoBビジネスの場合はこの行動がスムーズに行くことが難しく、ステップが戻ることや中断も多い点は把握しておこう。
ファネルでイメージしておくとよいだろう。
メリット3:営業資料としても活用できる
導入事例集やROI資料はそのまま営業資料として使用可能。商談前に配布すると、顧客理解を深め、打ち合わせを効率化できる。
例:ERP提案時に「導入事例集」を事前送付し、商談時は具体的な条件調整に集中できる状態を作る。
メリット4:オンライン・オフラインの接点を補完できる
展示会やセミナーで配布した資料をWebフォーム経由で再配布したり、メールや広告と連動させたりすることで、複数チャネルで接点を維持できる。
例:展示会で配布した「最新技術トレンド資料」をWebでもDL可能にし、イベント後のフォロー接触を強化。
このように、ホワイトペーパーはIT業界の長い検討プロセスに対応しつつ、マーケティング・営業双方での活用を可能にする柔軟な資料といえる。
3. よいホワイトペーパー事例から学ぶ作り方
優れたホワイトペーパーには共通する成功要素があり、それらを理解することで自社の資料制作にも応用できる。
ここでは、事例から学べる成功のポイント、最新トレンド、制作や運用に役立つツールについて整理する。
最新トレンド
近年のホワイトペーパーには、以下のようなトレンドが見られる:
調査レポート×インフォグラフィック(一目で理解できる形式)
→ 調査データをグラフィカルにまとめ、要点を短時間で理解できる資料形式が増加。
チェックリスト・診断型
→ 「自社のセキュリティ対策度合いを確認」「クラウド移行準備度チェック」など、自己診断形式で「自分ごと化」を促す資料が成果を出しやすい。
以下の図は、チェックリスト・診断型の例です。
このように、項目ごとに○/×で診断できる形式を採用することで、読者が自社の現状を客観的に把握しやすくなり、改善すべきポイントや必要な施策が明確になります。
診断結果をもとに、改善ガイドや解決策資料への導線を組み合わせると、次の検討段階への移行を自然に促進できます。
動画・ウェビナー連動型
→ ダウンロードした資料からウェビナー視聴や動画解説ページに誘導する「資料+動画」の組み合わせが主流化。動画コンテンツの訴求は強みを増している。
業界特化型
→ 「製造業向け」「金融業界向け」など、業種を絞り込んだテーマでターゲット層にフォーカスする事例が増えている。
以下は、アイティベルが制作した「IT業界向けホワイトペーパー」の表紙例です。
タイトルで対象業界を明示することで、訴求対象を明確にし、ターゲット層へのダウンロード率の向上につなげている。
テンプレート型・実務支援型
→ 「稟議書テンプレート」「提案書フォーマット」など、現場で即活用できる資料形式がダウンロード数を伸ばしやすい。
マルチフォーマット型
→ PDF版のほか、Webページ版やスライド形式でも公開し、閲覧ハードルを下げる事例が増加している。
役に立つツール
デザイン・制作:Canva、Adobe Express(テンプレート活用で短時間制作)
MAツール:HubSpot、Marketo(DL後のメール自動化・スコアリング)
フォーム作成:フォームメーラー、HubSpot Forms(DLフォーム最適化)
データ可視化:Googleスプレッドシート、Excelグラフ(数値データを視覚化)
ホワイトペーパーで活用できるツールやデザインについては以下の記事も参考にしてほしい。
このように、最新事例には「短時間で理解できる」「業界特化」「自己診断や実務支援性」「動画連動」といった要素が共通している。
4. 種類別 に参考にしたいホワイトペーパー事例15選
ここからは、参考事例としてIT業界の企業が制作したホワイトペーパーを紹介していこう。
前述の種類に応じて紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
4.1 事例紹介型、課題解決型
会社名:SB テクノロジー株式会社
SB テクノロジー株式会社のホワイトペーパーでは、Microsoft Teamsを題材にしつつ「グループウェアとしての魅力」を伝えている。
一見すると製品紹介のように感じるが、内容を見ていくと良質な事例紹介・課題解決型のホワイトペーパーであることがわかる。
デザインはいたってシンプル、かつテキストが主体だ。
BtoB向けらしく、無駄を省いて可読性を上げている点が印象的である。
ターゲット:顕在層、明確層
製品名をタイトルに組み込んでいることから「すでに製品名を知っていて、比較検討中である層」、つまり顕在層や明確層をターゲットにしたホワイトペーパーといえるだろう。
評価ポイント
特に評価できるポイントは、4ページという短い構成のなかで「製品紹介×課題提示×事例」をうまくミックスし、Microsoft Teamsが持つ効能を伝えている点だ。
「コミュニケーションコストの低減」「コミュニケーション品質の向上」という2つの効能を、ユースケースを用いてわかりやすく伝えている。
グループウェアは、普段使いの社内向けツールを統合しているだけに効果が見えにくく、比較しにくい側面がある。
一方、このホワイトペーパーでは、導入効果を定量的な数値で表し、読者に比較・検討の材料を提供しているのが特徴だ。
同社では製品紹介や課題別のホワイトペーパーも公開しており、なかにはマンガを使った制作事例もある。
マンガによるホワイトペーパーは、複雑なユースケースの認知負荷を下げる手法として参考になるだろう。
会社名:株式会社サンブリッジ
株式会社サンブリッジは、Salesforceの導入コンサルティングや運用支援、マーケティング支援、クラウド製品開発などを手掛ける企業である。
ホワイトペーパーの主な内容は、DXの概要や背景、よくある誤解、推進のためのポイントや成功例など。
また、後半ではDXの推進におけるシステム連携の重要性を説いており、そこから自然な形で自社サービスへの導線が設置されている。
ターゲット:準顕在層
DX推進に疑問や不安を感じている人々に対して「よくある誤解」や「推進のための方法」という言葉を投げかけ、興味・関心を喚起している。
また「DX=デジタル化ではない」というサブタイトルも、理解が浅い層への注意喚起に一役買っている。
評価ポイント
全体的にわかりやすく、可読性に優れているホワイトペーパーだ。
「DXとは何?」という根源的な問いに対して、平易かつ短い文章で回答した冒頭の文章が印象的。
また、DXという概念が実務に落としこまれていないことを想定し「3つのよくある誤解」として解説している点が秀逸といえる。
先端技術やそれに伴うトレンドワードは、言葉だけが独り歩きし、多くの誤解が生まれがちだ。
こうした誤解を解きつつ、テキストとイラストを組み合わせながら「DXに向かってやるべきこと」をわかりやすく伝えている。
さらに、背景・誤解・推進という主要ポイントをすべて「3」で統一している点も見逃せない。
「マジックナンバー3」という言葉があるように、3は人間が記憶しやすく、納得しやすい数字の一つだと考えられている。
難しい話題を扱いつつも、全体的にすっきりとした印象があるのは、すべてのポイントを3つに統一しているからだろう。
落ち着きとスタイリッシュさが同居する色使いも、可読性の向上に貢献している。
会社名:アステリア株式会社
データ連携基盤ソリューション「ASTERIA Warp」を主力製品とするアステリア株式会社のホワイトペーパーでは、DX推進のステップや課題を提示している。
また、ソフトウェアベンダーとしては珍しく「内製化」を推奨しつつ、その一助として自社製品の訴求につなげている点も特徴だ。
ターゲット:準顕在層、顕在層
DX推進について課題があることを認識しているものの、具体的な解決方法までは知らない「準顕在層」がターゲットと考えられる。
また、DXを踏まえて「システムのあるべき姿」を探っている「顕在層」にもアプローチしている。
評価ポイント
DX推進について一般論を交えつつも「内製化」という観点で明確な解決方法を提示している点が素晴らしい。
また、内製化のツールとしてデータ連携基盤を自然に提案している。
トレンドワードに自社独自の見解をうまく融合させているため、認知拡大にも効果があるだろう。
ちなみにアステリア株式会社では、セミナー動画・ホワイトペーパーなど120以上の資料を提供しており、情報量の多さは特筆に値する。
会社名:SAPジャパン株式会社
SAPジャパンが提供するこのホワイトペーパーは、デジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトに取り組む企業に向け「構想策定」「組織変革(OCM)」「バリューマネジメント」「人材育成」の各段階で成功を導く具体的手法を体系的に解説している。
ERPやクラウドの技術だけでなく、ビジネス意識や組織運用の視点を含めた包括的な内容で、社内のDX推進やプロジェクト設計に活用できる構成である。
ターゲット:準顕在層~顕在層
DX構想を具体化し、プロジェクト担当・経営層・支援パートナーとしての導入体制を構築したい企業の企画部門や情報システム部門。
評価ポイント
この資料は、企業が直面するDX推進の壁—意識改革や組織運用、長期戦略—に対し、段階的なアクションを提示している。単なる技術解説ではなく、構想設計から組織体制までを広い視野で整理しており、導入前の不安や課題に応える構成が秀逸です。またSAPの知見をもとにした実務視点の提言を含むため、DXプロジェクトの計画段階で信頼できる指針となる内容だ。
会社名:NRIセキュア
NRIセキュアが提供するこのホワイトペーパーは「NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)2.0」の要点を整理しつつ、日本企業が直面するセキュリティ課題に対する適用方法を解説した資料だ。
NIST CSF2.0の基本概念から各機能(Identify、Protect、Detect、Respond、Recover)の概要、適用にあたってのポイントまでを体系的に整理しており、自社のセキュリティレベルを強化するための実践的な指針となる内容だ。
ターゲット:顕在層・準顕在層
サイバーセキュリティ強化が経営課題となっている企業
グローバル規格準拠を求められる金融・製造・公共系の情報システム部門やセキュリティ担当者
評価ポイント
課題提起:「セキュリティリスクの高度化に伴い、国際標準にもとづく統合的な対策が求められている」ことを冒頭で明示。
解決策提示:NIST CSF2.0の全体像をわかりやすく整理し、企業規模や業種に応じた実践ポイントを解説。
実務適用例:セキュリティ運用やガバナンス強化における活用方法を提示し、導入時のステップがイメージできる構成。
特に、経営層やセキュリティ部門における「なぜNIST CSF準拠が必要か」「自社にどう落とし込むか」という疑問に答える資料であり、課題解決型ホワイトペーパーの好例といえる。
4.2 調査レポート型
会社名:バーチャレクス・コンサルティング株式会社
カスタマーサクセスをテーマに、独自のCRM製品やコールセンターソリューションを提供しているバーチャレクス・コンサルティング株式会社のホワイトペーパー。
RevOps(レベニューオペレーション)という新しいトレンドワードに対して、「認知と取り組み状況」「成果」「運用」という3つのフェーズで独自のリサーチ結果を提供している。
RevOpsは市場開拓や売上向上に向けた部門横断型の取り組みを指す言葉だが、日本ではそれほど認知されていない。
このホワイトペーパーでは、RevOpsの定義を丁寧に解説しながら、9,000件以上のサンプルから得た独自の調査結果を公開している。
ターゲット:潜在層
「RevOpsという言葉自体は聞いたことがある」もしくは「社内で話題になり始めた」という層、つまり潜在層がターゲットだ。
新しいトレンドに関する詳細なレポートを公開することで、自社の認知拡大やリード獲得などを狙っている。
評価ポイント
評価ポイントとしては、新しいトレンドであるRevOpsを独自調査によって掘り下げていることが挙げられる。
また、職位別(部長、取締役など)および部署別(人事、経営企画など)の調査によって、具体的かつ信憑性のある結果を提示している点が素晴らしい。
専門領域のトレンドを職位や部署という単位で調査することは難しいため、情報源としての希少価値は高いといえるだろう。
株式会社KAIZEN PLATFORM
顧客体験の改善をテーマに、さまざまなプラットフォームやチームを提供する株式会社Kaizen Platformのホワイトペーパー。
同社ではDXという言葉が世に出始めたころから定期的に「DX白書」と銘打った調査レポートをリリースしている。
事業概要の紹介、DXをめぐる海外企業の動向や施策の例、Web3やAIといった先端技術に関する解説などが含まれている。
また、後半ではDXの成功例に絡めた自社サービスの訴求もあり、事例紹介型や課題解決型の特徴を含む実践的なホワイトペーパーだ。
ターゲット:潜在層、準顕在層
DXに取り組んでいるが効果が出ていない、もしくは今後取り組むなかでDXの実情を知っておきたいという潜在層が対象だと考えられる。
ただし、同ホワイトペーパーは定期的にリリースされていることから、すでに社名を知っている層(準顕在層)に対する訴求も含まれるだろう。
評価ポイント
評価すべきポイントは「定義からトレンド、事例まですべて学べる」こと。
便宜上、調査レポート型に分類したが、実際にはオールジャンル型のホワイトペーパーといえる内容だ。
100ページ超にわたって、トレンドの紹介や解説、実際の事例と製品訴求などが掲載されており、無料で入手可能な資料とは思えないほど内容が充実している。
また、テキストとインフォグラフィックのバランスもよく、難解な用語やテーマの認知負荷を下げている点も魅力といえる。
会社名:東京電力グループ
東京電力グループの「TEPCO DX白書 2024」は、エネルギー業界におけるDX推進の現状と将来構想をまとめた調査レポートだ。
AIやドローン、スマートグリッドなどの技術活用を具体例として挙げ、社会インフラ企業におけるDXの必要性と実践方法を整理している。
ターゲット:潜在層、準顕在層
DX推進に興味を持ちながらも具体的な実践例が不足している層を想定。特にインフラ・製造系企業の経営企画部門やIT部門に有用な資料といえる。
評価ポイント
エネルギー業界のDXを体系的に整理した構成は希少であり、官公庁・大企業の事例が含まれるため説得力が高い。調査結果やロードマップが視覚的に提示されており、戦略立案の参考として活用しやすい。
会社名:FPT Software
ベトナム発のグローバルIT企業FPT Softwareが公開する「Digital Kaizen™」は、大規模企業向けにクラウド移行やアジャイルDXを推進する手法を解説したレポートだ。
アジア圏での事例と成果をもとに、海外視点からの実践的DXステップを提示している。
ターゲット:準顕在層、顕在層
DXを検討中の情報システム部門やグローバル展開を見据える経営企画部門が中心。海外の最新手法を参考にしたい層を狙う。
評価ポイント
「Digital Kaizen」という独自メソッドを提示しつつ、クラウド移行やアプリ刷新の実践例を定量データで補足している点、日本企業に不足しがちなスピード感や海外手法の導入視点を提供している点が魅力。
4.3 トレンド情報型
株式会社NTTデータグループ
国内最大手のSIer NTTデータグループのホワイトペーパーでは、データ活用領域のトレンドである「Modern Data Stack」に関する情報を掲載している。
ビッグデータ活用が当たり前の時代になり、多くの企業でデータ活用プラットフォームの運用が行われている。
一方で、レガシーなプラットフォームからの脱却に苦慮する企業も少なくないのが実情だ。
このホワイトペーパーでは、データ活用の現場で起きている課題を整理し、レガシーなプラットフォームを進化させる方法論として「Modern Data Stack」を提案している。
ターゲット:潜在層、準顕在層
ターゲットは以下3つの層だと考えられる。
- Modern Data Stack自体を深く把握していない
- レガシープラットフォームに関する課題を深く把握していない
- 課題は把握しているが解決方法(Modern Data Stack)を知らない
つまり、潜在層と準顕在層がメインターゲットだ。
評価ポイント
定義が難しい「Modern Data Stack」という考え方を、自社独自の視点で丁寧に解説することで、情報収集コスト削減や認知負荷の低減につなげている点が秀逸である。
データ活用プラットフォームをレイヤーで分類し、レイヤーごとの改善例を示すことで、イメージしにくいModern Data Stackの全体像を浮き彫りにしている。
また「データ活用」という裾野の広いテーマからトレンドの詳細解説につなげている構成も素晴らしい。
ちなみに、具体的な製品やサービスの訴求は行われていない。
しかし、自社の見解を明確に示すことで、読者の信頼感を高める効果があると考えられる。
4.4 ノウハウ提供型
バルテス株式会社
自動化や品質向上などソフトウェアテストに関するサービスを提供しているバルテス株式会社のホワイトペーパー。
同社ではソフトウェア品質に関するオウンドメディア「Qbook」において、さまざまなホワイトペーパーを提供している。
ソフトウェア開発の現場で使われるテスト計画書のフォーマットは、企業によってさまざまだ。
一方で、近年ではテストに関する定義や方法論が標準化され、国際的な規格としてまとめられている。
このホワイトペーパーでは、国際的な規格である29119に沿って「テスト背景」「対象テストレベル」「対象範囲」「テストに用いる技法」など必須項目を網羅したテンプレートが提供される。
ターゲット:潜在層
ターゲットとしては、以下のような層が想定される。
- テスト計画の立案方法についてリサーチしている
- 29119の内容をテスト計画に落とし込む方法を知りたい
ノウハウ提供系のホワイトペーパーは認知拡大やリード獲得につながることから、潜在層がターゲットといえるだろう。
評価ポイント
専門的かつ学習機会の少ない内容をテンプレートとして提供し、閲覧者の学習コストや情報収集コストを低減している点が評価できる。
前述したように、テスト計画の立案プロセスや計画書のフォーマットは企業によってさまざまだ。
「テストでやるべきことは理解しているが、国際的な基準を学んだことはない」という方も少なくないだろう。
また、国際標準/規格を読み解くためには、いくつかのルールを知っておく必要があり、文書の量も膨大となる。
そのため、内容を理解してテンプレートに落とし込むだけでも相当な手間を要する。
このテンプレートは、記入すべき項目が網羅されており、なおかつ要所に作成のノウハウがコメントされているのが特徴だ。
実用性が高いため、ダウンロード数を稼ぎやすいホワイトペーパーといえるだろう。
会社名:株式会社サンブリッジ
すでに紹介した株式会社サンブリッジのホワイトペーパーで、こちらはSalesforceに関するガイド資料的な位置づけとなる。
SalesforceのようなBtoB IT製品は「導入したものの、使い方が難しく活用されていない」というケースが少なくない。
このホワイトペーパーでは、Saleseforceに関する基本的な設定を網羅し、わかりやすく解説している。
ターゲット:潜在層、準顕在層
Salesforceに関してあまり知識を持たない潜在層、もしくは名前は知っているが使い方を知らない準顕在層が対象だと考えられる。
評価ポイント
ありそうでなかった「Salesforce入門者のためのガイド的な資料」という位置づけで、情報としての希少価値が高い。
BtoB向けのIT製品は機能が難解、かつトレーニング自体が有料サービスになっていることも多く、運用が進まない原因となっている。
メジャーなBtoB IT製品の運用を初心者レベルから、無料で学べるという点は大きな魅力だ。
また、難解さを感じさせない柔和でシンプルなデザインにも注目したい。
会社名:キーエンス
キーエンスが提供するホワイトペーパーは、製造現場における「データ活用の手順やポイント」を体系的に整理し、IoTを活用した効率的なデータ収集から可視化・分析・改善までのプロセスを実践的に解説している。
現場担当者がすぐに活用できる内容で、データ活用をこれから始めたい企業にとって、初期段階のノウハウ習得に役立つ資料といえる。
ターゲット:準顕在層~顕在層
製造業の生産技術部門や現場改善担当者、IoTやデータ分析をこれから導入・活用したい層を対象とする。
評価ポイント
IoT活用やデータ分析の基本的な流れを整理し、現場での実践に落とし込みやすい実務に直結したノウハウを提供している。
データ活用初心者でも理解しやすい平易な説明で、現場改善の参考資料として実用性が高い。
自社ソリューションを解決ステップに自然に組み込み、ツールや機器の活用例を解説に織り込み、実践イメージを具体化。
また、キーエンスはこの資料以外にも、RPAや画像解析、品質管理など多様なテーマでホワイトペーパーを公開しており、製造業向けの課題解決型資料が豊富にそろっている点も特徴的だ。
4.5 セミナー資料、イベントレポート型
会社名:富士通株式会社
富士通が提供する「データドリブンセミナー」ページでは、データ利活用やDX推進に関するセミナー内容を整理したレポート資料が公開されている。
セミナーで登壇した専門家の知見や事例紹介、講演要旨がPDF形式でまとめられており、セミナーに参加できなかった層や後から内容を復習したい層に向けた、イベントレポート型のホワイトペーパーとして活用できる構成である。
ターゲット:顕在層、明確層
データ利活用やDXの推進に課題を抱える情報システム部門や経営企画部門、具体的なデータ戦略の立案や基盤整備を検討中の企業担当者が主な対象だ。
特に、セミナー参加に関心を持ちながらもスケジュールなどの理由で参加できなかった層にとって有用である。
評価ポイント
このセミナーレポートは、講演内容の要点を整理し、登壇者の見識や実際の事例を簡潔にまとめているため、短時間で理解しやすい構成となっている。
また、質疑応答やディスカッション内容も含まれており、現場の実務に近いリアルな課題感を共有できる点が特徴だ。
富士通が取り組むデータドリブン経営の事例や具体的なソリューション活用例も盛り込まれており、単なるレポートにとどまらず、実践的なヒントを得られる資料となっている。
4.6チェックリスト型
会社名:SCSK株式会社
SCSKが提供するホワイトペーパーは、AWS Fargate環境でのセキュリティ対策状況を自己診断できるチェックリスト形式の資料として活用できる構成である。
クラウドネイティブ環境で発生しやすい脆弱性や設定不備に着目し、Sysdigを用いた監視・検知・対策手法を確認項目ごとに整理することで、現状評価から改善ステップまでを一貫して把握できる内容だ。
ターゲット:顕在層
クラウド環境のセキュリティレベルを可視化し、改善計画を立てたい層を対象としている。
評価ポイント
セキュリティ設定や運用の状態を自己診断形式で整理しているため、読者は自社環境の現状を容易に可視化できる構成になっている。
また、各項目に改善のヒントやSysdigを活用した具体的な対策が示されており、診断後すぐに実行可能な改善ステップへ移行できる点も実務的だ。
さらに、AWS Fargate特有のリスクに焦点を当てた内容は、現場の担当者にとって直接的な課題解決に直結しやすく、セキュリティ強化の初動資料として高い価値を持つ。
このホワイトペーパーは「現状診断→改善ポイント提示→解決手法紹介」という流れを備えた、チェックリスト型の代表的事例といえる。
クラウド環境特有のセキュリティ課題に直結する構成は、AWS運用担当者にとって実務的な価値が高い。
5. まとめ
ホワイトペーパーの作り方は企業によってさまざまで、正解はない。
しかし「目的やターゲットが明確である」という点は共通している。
まずはシンプルな目的とターゲットを設定し、競合企業の事例などを参考にしながら、制作実績を積み上げていってほしい。
ちなみに近年では、事例・課題・トレンドをミックスさせつつ、自社の訴求につなげるタイプも増えている。
こうしたホワイトペーパーは、複数の価値を提供できる一方で、制作難易度が高い点がデメリットだ。
そのため、完全に内製で賄うよりも、専門企業が提供する制作サービスの活用も検討してみるとよいだろう。