MQLは「Marketing Qualified Lead」の略で、マーケティング活動の対象として育成していくべきリード、SQLは「Sales Qualified Lead」の略で、営業活動の対象として商談、受注を狙っていくべきリードを指す。
どれだけ営業部門のスキルが高くても、見込み客(リード)の絞り込みや育成を適切に行わなければ、セールスマンの無駄な稼働が発生し、残念ながら企業の収益向上は足踏みしてしまうだろう。
よって、BtoBビジネスでは、MQLとSQLの位置付けを明確にし、リソース配分や業務効率を最適化させていくことが重要だ。
そこで本記事では、
「MQLとSQLをどのように定義すればよいかわからない」
「MQLとSQLの概念を活用した具体的なマーケティング戦略を知りたい」
「MQLからSQLへうまく移行させるにはどうすればよいか」
という疑問や悩みを解消していきたい。
本記事でMQLとSQLの基礎知識、それぞれの位置付け、リード評価のポイント、効果的なアプローチ法などについて理解すれば、リードから顧客への転換に関する改善点や具体的な施策が見えてくるはずだ。
1.MQL・SQLとは?
MQLとSQLは、BtoBマーケティングにおいて、見込み客(リード)の検討段階を評価する概念だ。
-
- MQL(Marketing Qualified Lead)
マーケティング活動により育成していくべきだと評価されるリード。
エンゲージメントが高く、今後、具体的な検討フェーズへ進む可能性が高い。 - SQL(Sales Qualified Lead)
営業活動により商談、受注を狙っていくべきだと評価されるリード。
見積もりや他社との比較検討など、具体的な検討フェーズに入っている。
- MQL(Marketing Qualified Lead)
それぞれの特徴と具体的な基準をみていこう。
1.1.MQL(Marketing Qualified Lead)とは
MQLはその名のとおり、マーケティングにふさわしい(適格な)リードを指す。
ひとことでいえば「見込みが高いリード」だ。
継続的なマーケティングアプローチによって、今後購買意欲が高まり、具体的な検討フェーズに入る可能性が高い状態にある。
では、どのようなリードがMQLに該当するのか。
その評価基準の例は、以下のとおりだ。
- エンゲージメントが高い:Webページへの訪問数が多い、メルマガの開封率が高いなど
- ターゲット(ペルソナ)との適合度が高い:自社サービスのターゲット像とマッチしている
- サービスへの潜在的なニーズがある:顕在ニーズはなくとも、検索キーワードからリスティング広告で流入してきた、ウェビナーに参加した、など
実務では、上記のような基準を複数定め、ベストプラクティスに基づく独自の方針でスコアリングされたうえで、MQLとして識別される。
MQLの基準を定め、最適化することで、リードナーチャリングの優先順位がつけやすくなり、リソースの最適な配分が可能となるだろう。
また、認知段階のリードからMQLへ移行するプロセスを分析すれば、効果的なチャネルの選定やマーケティングコンテンツの改善などに役立つ。
つまり、リードジェネレーションの強化にもつながるということだ。
MQLについては、以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしてほしい。
1.2.SQL(Sales Qualified Lead)とは
SQLは、営業活動にふさわしい(適格な)リードを指す。
ひとことでいえば「受注を狙うべきリード」だ。
つまり、コンペや社内稟議、決裁担当者への連携、予算取りなどが具体的に進んでいる、または進める予定がある状態だ。
SQLの評価基準の例は、以下のとおりだ。
- 購入意欲が明確化している:予算取りやスケジュールの確認など、具体的な購入意欲を示す行動や発言がみられる
- 決裁担当者が明確であり、コンタクトが取れる:決裁担当者であるエグゼクティブとの面談やデモのアポが取れるなど
- トライアルを利用している:サービスの無料トライアルを使用し、比較検討しているなど
SQLはいわば、いまから商談のアポを取りに行っても良いリードだ。
SQLの評価が最適化されていくと、営業部門は確度の高いリードへの商談に集中でき、営業効率や受注率の向上につながるだろう。
1.3.MQLとSQLの違い
MQLとSQLの大きな違いは、リードの購買意欲と検討フェーズだ。
違いを表にまとめると、以下のようになる。
項目 | MQL
(Marketing Qualified Lead) |
SQL
(Sales Qualified Lead) |
定義 | 関心や検討の見込みが高いリード。ナーチャリングにふさわしい。 | 予算やスケジュールを含めた具体的な検討段階に入っているリード。
購入意欲が明確である。 |
評価基準 |
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目的 |
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2.ファネルにおけるMQLとSQLの位置付けと重要性
MQLとSQLを、マーケティングとセールスの実務へ効果的に活用するには、顧客の購買プロセス全体、つまり「マーケティングファネル」におけるそれぞれの位置付けを理解する必要がある。
MQLもSQLも分断された概念ではなく、同じリードにおける意識や購買意欲の遷移を表すためだ。
マーケティングファネルについては、以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしてほしい。
2.1.ファネルにおけるMQLの位置付け
マーケティングファネルにおけるMQLの位置づけは「興味・関心」から「比較・検討」までの段階だ。
広告や検索結果など、さまざまなチャネルを通してサービスに興味を持った段階から、その機能やプランなどの具体的な情報を欲し始めるフェーズに位置する。
リードの行動分析やセールスからのフィードバックにより、認知段階のリードからMQLと評価する基準、さらに、SQLへ昇格させる基準などを、より現実的なものにしていく必要がある。
2.2.ファネルにおけるSQLの位置付け
SQLは、ファネルの「比較・検討」フェーズの終わりから「購入」にかけての段階に位置する。
SQLは「興味がある」という段階から、実際に購入する意欲が明確化した状態だ。
具体的には、予算取りや導入のスケジュール調整、社内稟議、決裁担当者への連携などが行われる状態である。
SQLに対しては、営業部門が具体的な提案やデモを行い、成約に向けて優先的に動いていく必要がある。
2.3ファネルにおけるMQLとSQLの重要性
このように、ファネルにおいて、リードはMQLからSQLへと移行していく。
よって、ファネルを踏まえたMQLとSQLの理解と評価の基準、そして施策の明確化が非常に重要なのだ。
また、上図のように、とあるフェーズではMQLもSQLも存在する、という事態も発生するだろう。
そうなるとリード管理はますます複雑になってくるが、これも事前の仕組み化ができていれば、難しいことではない。
「このフェーズのリードにはこのような施策を打ち、このような反応が返ってきたらこうするとよい」というルールを作っておけば、マーケティング活動を効率的に進められる。
そのためにも、まずはどんどんPDCAを回していくことが重要だ。
3.MQLとマーケティング戦略
MQLに対するマーケティング戦略のポイントは、質の高いMQLを効率よく生成することだ。
具体的には、以下が挙げられる。
- ターゲティングとリードジェネレーションの最適化を行う
- コンテンツの品質を高める
- MAツールによるアプローチの自動化とパーソナライズ
それぞれみていこう。
3.1.リードジェネレーションの最適化を行う
質の高いMQLを創出するには、MQLの前の段階にいるリードの質も高める必要がある。
はじめに質の高いリードを獲得できれば、MQLの生成も容易になることは想像しやすいだろう。
よって、リードの創出、つまりリードジェネレーションから最適化しなくてはならない。
リードジェネレーションとは、リードを獲得することだ。
特にBtoBにおいては、広告から自社コンテンツ(LP、ホワイトペーパー、ウェビナーなど)へ誘導する方法や、展示会への参加などが代表的だ。
リードジェネレーションの方法は、掘り下げていくと山ほどあるが、どれが最適かどうかは、企業やサービスによって異なる。
それぞれ得意分野やターゲット層が異なるため、いくつかの手法を組み合わせて運用することが一般的だ。
ただし、はじめから手を広げすぎるとコストがかさみ、業務管理も複雑になってしまう。
まずは、受注が近しいリードを獲得しやすいチャネルから取り組み、成果を上げてから少しずつ広げていくことが懸命だろう。
リードジェネレーションについては、以下の記事でも詳しく解説しているため、参考にしてほしい。
3.2.コンテンツの品質を高める
リードジェネレーションやリードナーチャリングの段階において、コンテンツは非常に重要だ。
ファネルの上流に位置するリードにとっては、自社が提供する「コンテンツ」が、情報収集や自社との関係性構築のための全てである、といっても過言ではない。
よって、リードが自社へ興味を持つか、どのような印象を抱かれるかに関しては、コンテンツにかかっている。
もちろん、Web広告の運用も重要だが、リードは広告から必ず自社のコンテンツへ辿り着く。
そこで、「有用な情報だ」「関われば自社にとってメリットがあるかもしれない」と思わせるような、高品質なコンテンツを作成する必要がある。
競合他社よりも有益でわかりやすいコンテンツを作成すれば、十分差別化は可能であり、MQLが分厚く育っていく強固な土台ができるだろう。
3.2.MAツールによるアプローチの自動化とパーソナライズ
MA(マーケティングオートメーション)ツールを使用して、リードの行動データを収集し、そのデータにもとづいて各リードの購入意欲や適合性を評価する。
特定のコンテンツへの関与度や、製品に関する問い合わせの頻度など、具体的な指標を分析しよう。
MAツールでは、これらのデータをもとにパーソナライズされたアプローチを、自動的に行える。
これにより、自社への印象や信頼度、満足度が上がり、自社の業務プロセスやリソース配分も最適化されるだろう。
また、MAツールを活用して適切にナーチャリングを行えば、営業へ渡すSQLの質も上がり、営業活動の効率化にも寄与する。
4.SQLと営業戦略
SQLは、営業が積極的にコミュニケーションを取り、商談、受注を狙うべきリードだ。
マーケティング活動を通じてすでに一定の基準を満たしており、具体的な購買意向が確認された段階にある。
では、MQLからSQLへの移行(SQLの創出)やSQLへの営業活動におけるポイントをみていこう。
- BANT情報を明確にする
- 受注に近しい行動を見逃さない体制を作る
- アプローチに優先順位をつける
それぞれみていこう。
4.1.BANT情報を明確にする
BANT情報とは、BtoBでの営業活動において、受注のために把握しておくべき以下の情報だ。
- Budget(予算):サービスの導入にあたってどれだけの予算を確保できるのか
- Authority(決裁権):契約の意思決定を行うのは誰か
- Needs(必要性):個人としてではなく企業として必要性があるか・高いか
- Timeframe(導入時期):サービスを導入したい時期はいつか
例えば、リードの窓口とやり取りを続けたしても、契約の決定権を持つエグゼクティブとの連携が取れていなければ、永遠に受注はできない。
上記のBANT情報を明確にすることで、より具体的で現実的な提案ができ、商談を前に進められるだろう。
4.2.受注に近しい行動を見逃さない体制をつくる
SQLを適切に評価し、効果的にアプローチするには、リードが起こした「受注に近しい行動」を逃さないようにすることが重要だ。
受注に近しい行動とは、例えば料金表のダウンロード、デモ動画の視聴、個別見積もり問い合わせなどが挙げられる。
これらの行動データは、MAツールやCRMツールで可視化するだけではなく、その行動の発生時にリアルタイムに通知されるようにしておけば、機会損失を防げるだろう。
4.3.アプローチに優先順位をつける
SQLには優先的にアプローチしていくべきだが、その中でも優先順位があるはずだ。
例えば、導入意思は固くても、システム移行の関係上実装が半年後になるSQLと、今すぐ導入したいSQLでは、当然後者へのアプローチを優先すべきだろう。
その判断基準は難しいことではなく、「受注に近いかどうか」だ。
ただし、限られたリソースの中でそれぞれのリードにおける受注の可能性を頭の中で把握することなど困難である。
そこで重要なのが、ツールによるリード情報の蓄積、分析、可視化だ。
リードは、検討意思の高さを必ずしも言葉で伝えてくれるわけではない。
ホームページへの訪問、メルマガの開封やクリック、料金表のダウンロードなど、あらゆる行動に現れるはずだ。
それらの情報を、CRMやMAを用いて漏れなくキャッチしなければ、受注機会を損失するおそれがある。
行動データをキャッチし、分析し、活用することで、営業チームはリードの潜在的な購入意欲も逃さないアプローチが可能となる。
5.MQLからSQLへの移行におけるマーケティング×セールス連携のポイント
MQLからSQLへの移行プロセスは、マーケティングチームとセールスチームの連携によって最適化される。
ここでの大きなポイントは、MQLとSQLの評価基準と密なコミュニケーションによる連携だ。
本章では、MQLからSQLへの移行を効果的かつスムーズに実現するための、マーケティングとセールスの連携について解説する。
連携のポイント①:ファネルを明確化し、共通認識を持つ
MQLとSQLはファネル(顧客の購買行動プロセス)において連続した概念である。
よって、自社にとってのファネルと、その中でのSQLとMQLの位置付けを明確にし、マーケティング部門と営業部門で共通認識を持っておくべきだ。
これにより、リードの評価基準の議論やフィードバックが円滑に進むようになる。
いわば、連携の土台となってくれるため、まずはファネルを明確化しておくことが重要だ。
連携のポイント②:リードクオリフィケーション基準の明確化
リードクオリフィケーションとは、リードを評価し、優先度が高いリードを絞り込んでいくことだ。
MQLからSQLの移行を効果的に行うには、どのようなリードがMQLやSQLになるのかについて、明確なクオリフィケーションの基準を設けておく必要がある。
これはMQLからSQLへの移行を考える上で非常に重要な作業だ。
MQL基準の最適化により、マーケティングによるナーチャリングの精度が高まり、SQL基準の最適化は、営業活動の効率化や受注率の向上へ直結する。
具体的な評価方法は、企業やサービス、そして市場の状況などによっても変化する。
よって、定期的なミーティングやフィードバックを行い、消費者や市場のリアルな状況と乖離のないようにしなければならない。
以下は、評価基準の例だ。
MQL(Marketing Qualified Lead)評価基準 | SQL(Sales Qualified Lead)
評価基準 |
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行動 |
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スコアリング |
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連携のポイント③:ツールの活用とデータの統合
MQLからSQLへの効果的な移行を実現するためには、マーケティングから営業へのシームレスなデータ連携が必要であり、そのためにはCRMツールなどの技術的支援が不可欠といえるだろう。
適切なツールの活用により、マーケティングから営業へのデータ連携や、営業からマーケティングへのフィードバックが劇的にスムーズになるはずだ。
6.リード管理に効果的なツール(MA・CRM・SFA)
現代のBtoB市場において、マーケティングと営業の効率を最大化することは、企業成長の大きな鍵となる。
MQLとSQLを効果的に管理することで、質の高いリードを確実に営業機会へとつなげられるだろう。
このプロセスの中核を担うのが、MA(Marketing Automation)、SFA(Sales Force Automation)、CRM(Customer Relationship Management)の3つのシステムだ。
これらのシステムは、それぞれ独自の機能を持ちつつも、一体となってMQLとSQLの管理をスムーズにし、企業のマーケティング戦略と営業効果を飛躍的に向上させる。
6.1.MA(Marketing Automation)
MAは、マーケティングプロセスを自動化し、効率化するシステムであり、MQLの生成と育成において中心的な役割を果たす。
MAの活用により、潜在顧客に対して最適なタイミングでコミュニケーションを取り、リードを温めることが可能だ。
具体的には、顧客の行動データをもとにしたスコアリングを通じて、購入意欲の高いリードを見極め、それをSQLへと効果的に移行させる。
また、自動的なメールマーケティングやコンテンツ配信により、見込み客の関心を持続させることができる。
6.2.SFA(Sales Force Automation)
SFAは、主に営業プロセスの自動化を目的としたシステムだ。
営業チームが手動で行っていた多くのタスクを自動化し、営業の効率を大幅に向上させる。
SFAを導入すれば、顧客データの一元管理、商談の進捗管理、予測分析が可能となり、より戦力的な営業活動を行えるだろう。
営業担当者はリードを正確に把握し、必要なアクションをタイムリーに実行できるようになるはずだ。
6.3.CRM(Customer Relationship Management)
CRMは、顧客関係管理ツールとして、顧客の詳細な情報を一元的に管理し、顧客とのすべてのやりとりを記録するシステムだ。
主に顧客情報の収集と整理、履歴の管理、顧客とのコミュニケーションの効率化を目的としている。
顧客ごとの購買パターンや行動履歴を把握できるため、パーソナライズされたマーケティングアプローチを実現可能だ。
さらに、CRMは営業チームが適切なタイミングで効果的なフォローアップを行えるようサポートし、顧客の満足度を向上させるための戦略的なデータ提供に貢献する。
上記で紹介した3つのシステムを活用することで、マーケティングと営業の効率が大幅に向上する。
MAはターゲットとなる顧客に適切なタイミングで関連情報を提供し、SFAにより営業プロセスがスムーズに進行し、CRMがこれらの情報を一元管理する。
結果として、MQLからSQLへの転換率が向上し、企業の売上増加に直結するだろう。
このように、MA、SFA、CRMを含むマーケティングシステムは、MQLとSQLの質を高め、持続可能な成長を達成するための重要な要素だ。
まとめ
BtoBビジネスにおけるMQLからSQLへの移行は、企業の収益性に直結する重要なプロセスだ。
MQLとSQLを適切に管理することで、マーケティング戦略と営業成果を最大化できるだろう。
また、MA、SFA、CRMのシステムの統合的な利用により、マーケティングと営業の間でリアルタイムに情報を共有し、各リードに対する最適なアクションを迅速に行えるようになる。
その結果、リードの質が向上するとともに、MQLからSQLへの転換率が高まり、最終的な成約率の向上も期待できる。
これらの戦略的なアプローチを通じて、MQLからSQLへの効果的な移行を実現し、持続可能な成長へとつなげていってほしい。