ブランディングは、ターゲットと提供価値を定め、視覚的なデザインや顧客体験を構築し、顧客との関係を強化するためのプロセスだ。
一方でマーケティングとは、顧客に対する具体的な施策を行い、リード獲得や売上向上などの成果を追求するプロセスを指す。
BtoBビジネスではターゲットを絞った個別の施策(マーケティング)も、顧客との関係強化(ブランディング)も、差別化や収益性向上のために欠かせない。
そこで本記事では、ブランディングとマーケティングの違いと関連性を明確にしつつ、BtoBにおいて独自の価値を確立し、着実にビジネスの成長へつなげていくための戦略について紐解いていく。
1.ブランディングとマーケティングの違い
まずはブランディングとマーケティングの違いについて、定義、ターゲット、目的、手段、成果の5つの観点から見ていこう。
1.1.定義の違い
ブランディングとは、製品・サービス、そして企業全体のアイデンティティを形づくりながら、長期的な視点でターゲット顧客との関係性を強固にしていく取り組みだ。
一方マーケティングとは、販売促進・売上最大化を目指し、顧客に対して行う具体的な施策、またはそのための戦略構築のプロセスを指す。
基本的には、ブランディングをもとにマーケティング活動を行っていく必要がある。
ブランディングは見込み客だけではなく既存顧客にも続いていくため、両者の視点から顧客との接点をもつことで、徐々に顧客との関係性が構築されていく。
1.2.ターゲットの違い
ブランディングでは、ブランドが求める顧客の理想像を「象徴」として掲げ、商品開発や企業イメージ構築の基準とする。
そしてマーケティングでは、この「象徴」を実在する具体的なターゲットへ落とし込み、広告宣伝やコンテンツマーケティング、メールマガジンなど各種施策の対象とされる。
ブランディングにおけるターゲットは、企業や製品・サービスが提供する価値や世界観に共感する理想的な人物像であり、必ずしも実在する人物ではない。
一方、マーケティングにおけるターゲットは、実際に行う施策の対象となるため、既存顧客の傾向やオンラインでの顧客行動などのデータを参考に、より解像度の高いターゲット像(ペルソナ)を設定する必要がある。
ブランディングにおけるターゲット | マーケティングにおけるターゲット | |
---|---|---|
求める顧客像 | 長期的にブランドを支持し、価値観を共有できる理想的な顧客像 | 具体的な製品やサービスを購入する可能性が高い顧客層 |
具体例 |
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1.3.目的の違い
ブランディングの目的は、長期的な視点でターゲット顧客と深い関係性を築くことだ。
短期的な目線で売上を立てるのではなく、長期的な「収益力の強化」「企業の成長」に視点をおいている。
一方のマーケティングは、製品やサービスの販売を拡大することが主たる目的だ。
最終的なゴールはどちらも企業の成長や売上の拡大だが、マーケティングのほうが粒度が細かい。
具体的には、リード獲得のためのWeb広告運用やメルマガ設計などが該当する。
ブランディングで構築・設定した自社の提供価値やコンセプトなどを、マーケティングの現場で各ターゲットにさまざまな施策を通して提供していくイメージだ。
1.4.手段の違い
ブランディングは、企業理念や提供価値を明確に定義づけたうえで、ロゴやキャッチコピー、Webサイトなどの「デザイン」や、顧客体験の「場所」によって展開していく。
ここでいう「場所」とは、顧客同士が交流・意見交換などを行えるプラットフォームや、教育コンテンツを利用できるページなど、顧客体験の基盤となる場所を指す。
これらの手段により、企業やサービスの印象を強化し、顧客との関係性・ロイヤリティを構築していく。
一方でマーケティングは、市場のニーズを満たすために製品・サービスを企画し、適切なチャネルを選択してターゲット顧客へ直接アプローチする。
メールや電話、Webサイト、Web広告、LPなどが主な手段だ。
これらの手段を通じてリードや顧客と直接コミュニケーションを取り、商談化や成約、リピートを狙っていく。
1.5.成果の違い
ブランディングによる成果は、単に製品やサービスの性能や価格の評価だけではなく、顧客が企業へロイヤルティや愛着を抱き、ロイヤルカスタマーとして定着してもらうことだ。
一方、マーケティングにおいては、売上や収益の最大化が成果となる。
キャンペーンやプロモーションなどの販売施策を企画・実施し、その効果を測定しながら改善を繰り返すことが必要だ。
ブランディングでは、顧客が感じる「情緒的な価値」も成果の対象となることから、定量的な評価が難しいケースが多い。
しかし、自社で工夫して定量数値に置き換えたり、自社独自の評価基準を設定したりして、ブランディングの成果を図りながら改善を繰り返すことで、モチベーションの維持につながるだろう。
一方でマーケティングの施策は、MAやCRM、広告配信プラットフォームなどを活用してオンラインで行われるため、成果を定量化しやすく、合理的な分析を行える。
ブランディング | マーケティング | |
目的・成果 | ターゲット顧客との関係構築 | 販売拡大による売上最大化 |
ターゲット | ブランドに共感する人物像 | ペルソナで設定する顧客層 |
時間軸 | 長期 | 短期 |
手段 |
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2.ブランディングとマーケティングの関係性
ブランディングとマーケティングは異なる概念だが、両方の視点をもち、事業の目標に向けて施策に取り組むことが重要だ。
その理由や、具体的な効果について見ていこう。
- ブランディングはマーケティングを最大化する
- 強力な差別化で価格競争から脱却できる
- マインド・シェアの獲得に貢献する
- 顧客の意思決定をサポートする
- 顧客との関係強化によりROI(費用対効果)が向上する
2.1.ブランディングはマーケティングを最大化する
ブランディングによって顧客からロイヤルティを獲得できていると、マーケティング施策の効果も増大する。
ロイヤルティの高い顧客は、以下のような特徴をもっているからだ。
- マーケティングメッセージを肯定的に受け入れやすく、素早い購買行動につながる。
- 他人にブランドを推薦しやすく、顧客自身がブランドの魅力を拡散することでマーケティング活動の一翼を担う。
- LTV(顧客生涯価値)の最大化に貢献するため、マーケティングのROI(費用対効果)に好影響を与える。
つまり、顧客のロイヤルティが構築されていれば、通常1の施策で1の効果が出るところを、10の効果が得られるようになるといえる。
2.2.ブランディングは「真の顧客視点」を取り戻す
現代はマーケティングにおいてMAやCRM、広告ツールなどを用いたデジタルマーケティングが普及し、行動データをもとにシナリオ設計された自動的なアプローチが主流となっている。
これにより、マーケティング施策のプロセスが効率化され、定量的な効果測定も可能となった。
ただし、この施策が本当に顧客視点のマーケティングとなっているかについては疑問が残る。
なぜなら、相手にしているのは顧客の「データ」で、施策を打っているのは「システム」だからだ。
BtoBにおける顧客は企業であり、企業を構成するのは「人」だ。
すなわち、顧客を獲得するには「人」の心を掴む必要がある。
そこで、ブランディングが重要な役割を担う。
顧客のロイヤルティ、顧客との関係構築を重視するブランディングに同時に取り組むことで、データやシステムを基盤として「無機質」に近づきつつあるマーケティングに再び顧客視点の息を吹き込める。
「人」である顧客を理解し、企業のコンセプトや提供価値を伝えれば、顧客との距離が縮まり、商談や受注につなげられるだろう。
2.3.差別化により価格競争から脱却できる
ブランディング戦略に成功している企業は、すでにロイヤルティの高い顧客を多く獲得しており、サービスの機能や価格以外の付加価値に魅力を感じてもらえている。
ブランディングによる競争力強化のポイントの一つは、機能的価値だけではなく、情緒的価値による差別化だ。
この2つのブランド提供価値が組み合わされば、競合他社が容易に真似できない強力な差別化による競争力を手に入れることができる。
その結果、競合企業との価格競争に巻き込まれにくくなり、マーケティング戦略を優位に展開できるだろう。
ブランディングによる高い競争力の獲得は、企業の収益力強化に直結し、さらにマーケティングとの相互作用によって持続的な成長をもたらすのだ。
2.4.マインド・シェアの獲得に貢献する
ブランディングによるコミュニケーションを通じて、ターゲット顧客のマインド・シェアを占有する効果が期待できる。
マインド・シェアとは、顧客の心の中に存在する好意的なブランドとしての占有率だ。
「会計システムといえば〇〇」「IT業界のマーケティング支援といえば〇〇」のように、想起してもらいやすくなることを指す。
マインドシェアの獲得により、BtoBのサービス選定で行われる「比較・検討」の土俵に乗りやすくなり、市場競争を優位に進められる。
2.5.顧客の意思決定を促進する
情報過多で市場競争が激しく、類似したサービスも多く存在する現代では、顧客にブランディングの価値観やストーリーに共感してもらうことが、購買意思決定を促す要因となる。
これは、ブランディングへの「共感」や「愛着」という情緒的な価値が、他社との差別化として奏功している良い例といえるだろう。
2.6.顧客との関係強化によりROI(費用対効果)が向上する
効果的なブランディングにより、マーケティング全体のROI(費用対効果)向上が期待できる。その理由は以下の2つだ。
- 顧客獲得コスト(CPA)の低減
ブランディングによって認知度や信頼性を向上させることで、ターゲット顧客の購買意思決定のハードルを下げられる。
この状態でターゲット顧客に対し、広告やプロモーションを打てば、より効果の高いマーケティングが可能となり、顧客獲得コスト(CPA)を低減できる。
- LTV(顧客生涯価値)の向上
顧客ロイヤルティを高めながら強力なブランドを築ければ、顧客の忠誠心はますます高まり、リピート購入や長期の関係構築につながる。
既存顧客に対するマーケティングは、一般的に新規顧客獲得よりもコストが低いため、低予算で高い効果を得られる。
このように、ブランディングとマーケティングに同時に取り組むことで、より高いROIを生み出せるのだ。
3.相乗効果を生むデジタル時代のマーケティング×ブランディング戦略
本章では、デジタル時代における、ブランディングとマーケティングを組み合わせた戦略について解説していく。
ポイント1.「単なる」データドリブンマーケティングからの脱却による差別化
現代では、多くの企業がオンラインでのマーケティング活動に取り組んでいる。
ブランディングに取り組まず、顧客との関係を構築できていない企業が、ターゲティング広告だけを頼りに競合と戦うことは難しい時代だ。
自分が望まない一方的なデジタルマーケティングを浴びせられ、不快感や不信感を抱いた経験は誰しもあるのではないだろうか。
データをもとに自動化されたマーケティング施策は便利かつ合理的に見える一方で、ターゲットからの「共感」や「愛着」を考えない無機質な施策となっているおそれもある。
これは「単なる」データドリブンマーケティングになっている悪い例だ。
そこでブランディングが確立していれば、マーケティングで顧客に届けられるメッセージは信頼と共感、愛着を備えた強力なコミュニケーション手段へと変貌するのだ。
多くの企業がデジタルマーケティングに参入している時代だからこそ、独自の価値観やストーリーを伝え、差別化されたブランドイメージを確立することがますます重要視されていくだろう。
ポイント2.「顧客が育て、宣伝する」新たなブランドマーケティングへ
デジタル時代においては、インターネットを通じて顧客発信での口コミや評価レビューも瞬時に拡散される。
そして、企業が自ら発信するよりも、顧客(第三者)が製品の価値を発信したほうが、信憑性は高く影響力が大きい。
現代のブランディングでは、この大きな影響力も十分に活用すべきだ。
例えば、業務系のSaaSビジネスであれば、サービスに関連する業務のノウハウについて、ユーザー同士が意見交換や質問を行うプラットフォームを形成したり、その内容に関するSNSのシェアを推進したりする取り組みが挙げられる。
製品の宣伝には直接つながらなくても、第三者の発信により自社を知らない顧客との接点が生まれることは、マーケティングにおいても非常に大きな意味をもつ。
第三者発信であろうと自社と接点をもった顧客は、マーケティングファネルの土台に立ち、ナーチャリングの対象とできるためだ。
ポイント3.データ活用によるパーソナライズの高度化
オンラインを活用したマーケティング施策は、顧客の購買行動を容易にデータ化し、リアルタイムな分析を行うのに有効だ。
その結果、顧客一人ひとりのニーズに合わせてパーソナライズされたコミュニケーションを実現できる。
これは、デジタル時代以前のマスマーケティングでは難しかった点だ。
パーソナライズされればされるほど、顧客に対してブランドメッセージをよりダイレクトかつ効率的に伝えられる。
顧客は「自分ごと」としてメッセージを共感的に捉えられるため、ブランディングとマーケティングの双方にとって有効に作用するだろう。
4.まとめ
ブランディングとマーケティングの違いは以下のとおりだ。
- ブランディングはターゲット顧客に対し、製品・サービスそのものの満足度に加えて、感情面に刺激を与えることで忠誠心や愛着心を創造していく長期的な活動を指す。
- マーケティングは具体的な購買アクションを喚起する取り組み。売り込みをしなくても自然と製品・サービスの販売拡大を達成する仕組みづくりの全体設計を指す。
ブランディングとマーケティングは役割が異なるものの、相互に密接に関連している。
一方で、特にブランディングに関しては、その必要性を過小評価している企業が少なくない。
企業規模や業種・業界に関係なく、ブランディングへ真剣に取り組まなければ、マーケティングを優位に進めることはできないだろう。
特に、コモディティ化が進みやすいBtoBビジネスにおけるブランディングは、近年ますます重要視されている。
ブランディングは一朝一夕に築き上げられるものではない。
時間をかけて熟成することで効果が増進するため、すぐにでも取りかかる価値のある取り組みだ。