データドリブンマーケティングとは、データにもとづいて分析や施策の意思決定を行うマーケティング手法だ。
従来の経験や勘に頼る方法ではなく、収集・蓄積した実際のデータをもとにユーザー行動や市場の動向をより正確に把握すれば、意思決定の確度や施策の効果を高められる。
データ収集の技術やツールが大きく発展した現代ではデータドリブンマーケティングが主流だが、実際に導入すると、その進め方や重視すべきポイントに迷う方も多いだろう。
そこで本記事ではBtoBビジネスで重要性が増しているデータドリブンマーケティングについて、基本概念やメリット、実践のステップ、成功のコツまで網羅的に解説する。
「データドリブンマーケティングの教科書」として何度も読み返し実践すれば、マーケティング施策の効果を数倍に高められるはずだ。
1.データドリブンマーケティングとは?
はじめに、データドリブンマーケティングの概念を理解し、実際にどのようなデータを活用できるのか、具体例を見ていこう。
1.1.データドリブンマーケティングとは何か?
データドリブンマーケティングとは、営業や販売に関連するさまざまなデータを収集・分析し、結果をもとに意思決定を行うマーケティング手法だ。
いわば、担当者の勘や経験ではなく「データ」という客観的な事実にもとづくマーケティング手法である。
勘や経験で行うマーケティングは、マーケターの力量に依存するため、組織としては再現性や持久力が低いのがデメリットである。
さらに現代ではインターネット上での行動がユーザーの日常やビジネスにおいて浸透している。
データドリブンマーケティングを用いてユーザーの行動データを収集・分析すれば、顧客のニーズを捉えたより最適なマーケティング施策の策定につながるのだ。
1.2.データドリブンマーケティングで活用できるデータの例
では、データドリブンマーケティングでは具体的にどのようなデータを活用できるのか、マーケティングのフェーズ別に例を挙げてみよう。
<データドリブンマーケティングに活用できるデータの例>
BtoBマーケティングのフェーズ | 活用できるデータの例 |
問い合わせフェーズ |
など |
商談フェーズ |
など |
受注フェーズ |
など |
2.データドリブンマーケティングを取り入れるメリット
データドリブンマーケティングの主なメリットは、以下の3つだ。
- 顧客理解の深化
- ROI(費用対効果)の向上
- 市場の変化を早期に察知し、競合優位性を確保できる
それぞれ詳しくみていこう。
メリット1.顧客理解の深化
データドリブンマーケティングでは、ユーザーのWeb上での行動データや、流入チャネル別の商談化率・受注率など、自社との直接的な接点を持っていないときの潜在的な行動やニーズを把握できる。
このようなデータを活用しない場合と比較して、顧客やユーザーのニーズをより深い部分まで理解できることは明白だろう。
そして、顧客理解が深化すれば「リード獲得率の向上」「広告パフォーマンスの向上」「ナーチャリング施策の最適化・パーソナライズ」「受注率の向上」「顧客満足度の向上」など、あらゆるプラスの影響をもたらす。
つまり、(もちろん業界や企業規模にも依存するが)BtoBやIT、SaaS企業など、インターネット上での施策やコミュニケーションが盛んな企業では、データドリブンマーケティングが「デフォルト」だといえるだろう。
メリット2.ROI(費用対効果)の向上
データドリブンマーケティングでは顧客の行動やニーズだけでなく、実施した施策の効果をダイレクトに把握でき、PDCAを高速に回せる。
投資したコストに対して大きな成果につながった施策とそうでない施策が明確化するため、施策選定やコスト配分が最適化され、マーケティング施策のROIが向上しやすくなるのだ。
たとえばメールマーケティングであれば、開封率やクリック率を分析して、コンテンツ内容や配信タイミングの改善を図れる。
逆にデータによる分析がなければ、顧客の反応や過去の反響傾向もわからず、改善を図る裏付けがないため、やみくもに施策を打つことになりかねない。
このようにデータによる客観的事実の分析にもとづく意思決定が、成功確率の高い施策の選択を可能にし、リソースを集中できるので、ROI(投資対効果)の最大化につながるのだ。
メリット3.市場の変化を早期に察知し、競合優位性を確保できる
データドリブンマーケティングを取り入れれば、市場環境や顧客ニーズの変化が激しい現代でも変化を早期に察知し、スピーディな戦略立案や改善が可能となる。
なぜなら、ユーザー行動やニーズのリアルタイムな変化をデータで把握できるためだ。
たとえばユーザーニーズを表す検索語句の変化、特定のキーワードでの検索広告のパフォーマンスの変化などを把握できれば、該当カテゴリーサービスの広告投資を増やしたり、検索クエリのコンテンツ制作を重点的に行ったりなどのチューニングができる。
さらに、競合他社の動向や業界トレンドなど、外部環境に関するデータ分析も取り入れれば、より「独自性の確立」や「差別化」をスピーディに行えるだろう。
このように変化が激しい市場環境でも、データドリブンマーケティングは競争力の維持・向上に貢献する。
3.データドリブンマーケティングを行う上での重要ポイント
では、実際にデータドリブンマーケティングを導入する際に押さえておくべきポイントを解説する。
ポイント1:KPI・KGIの設計
データドリブンマーケティングでは、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)の明確化が不可欠である。
KGIやKPIを基準として、マーケティング施策のパフォーマンスや進捗度を図り、改善すべきかどうかを定めていくためだ。
KGIは最終的な組織目標を数値化したものだ。
マーケティングでは、マーケティング部門だけでなくセールス部門やカスタマーサクセス部門などの連携が重要である。
各組織で共通するKGIを設定し共有すれば、一貫性を持った戦略策定の土台ができるのだ。
一方KPIは、KGI達成のための各プロセスの目標としての指標だ。
KGIが大目標だとすると、KPIは中目標や小目標にあたり、最終のKGIを達成するための進捗度や各プロセスのチューニングを行うために重要な指標だ。
たとえば、広告のコンバージョン率やオウンドメディア内のSEO記事への流入数など、各施策における細かい成果を表す指標がKPIに値する。
KPIツリーの作成
KGIとKPIの設計時には、KPIツリーを使用するとわかりやすい。
KPIツリーとは、KGIを達成するために必要なKPIをツリー形式で可視化したものだ。目標達成のための要素を洗い出し、網羅的かつ具体的な施策立案に役に立つ。
以上のように、KGIとKPIの明確化がデータドリブンマーケティングの大前提となる。
目標設定の具体的手法については以下の記事を参考にしてほしい。
ポイント2:全社で共通認識を持って計画・実行する
データドリブンマーケティングでは、全社レベルで共通認識を持った計画と実行が重要だ。
全社的なデータ活用に一貫性が生まれる
データドリブンを成功に導くためには、全社的にデータドリブンに対する必要性を理解し、取り組むことが重要だ。
複数の部門が異なる業務を行う中、収集できるデータや着目点などは少なからず異なるだろう。
ただし、部門は違えど同じ社内にあるデータを最大限に活用しないのはもったいない。
たとえば、一顧客と直接コミュニケーションできるセールス部門が得るデータは、顧客につながるリードの獲得・ナーチャリングに取り組むマーケティング部門にとって貴重なデータとなる。
反対にマーケティング部門が保有する顧客行動や潜在的なニーズを含んだデータは、セールス部門にとって提案や営業計画を立てるで貴重なデータだ。
このように、各部門が持つデータを共有し、顧客に対する理解をそろえれば、リード獲得・ナーチャリング・商談・カスタマーサクセスと、すべてのフェーズで社内データを最大限に活用した一貫性のあるアプローチを行える。
一貫したアプローチは、顧客からの信頼構築にもつながる。
4.データドリブンマーケティングの実践プロセス5ステップ
データドリブンマーケティングの概要やポイントをご理解いただけただろうか。
ここからは、実際にデータドリブンマーケティングを進めるための実践ステップを解説する。
<データドリブンマーケティングの実践ステップ>
- データの収集
- データの加工・可視化
- データの分析
- 施策や行動計画の策定・実施
- 効果測定
ステップ1.データの収集
まずは、必要なデータを網羅的に収集しよう。
データの収集には、ツールが必要だ。
収集したいデータによって、活用できるツールは異なる。
たとえば、オウンドメディアにおける流入元別のトラフィックや各コンテンツの滞在時間などは、Google Analytics4(GA4)から、メールの開封率や回帰率などはMAツールやメール配信システムから取得可能だ。
まずは、現状活用しているツールまたは導入予定のツールで、どのようなデータを収集できるかを洗い出そう。
施策の策定や目標達成に向けて不足するデータがある場合は、追加ツールの導入も検討したいが、単に多くのデータを取得すればよいわけではないため、注意が必要である。
なぜなら、データは収集が目的ではなく、活用して成果につなげることが目的だからだ。
自社の目標(KGIやKPI)、ターゲット層の行動範囲などを考慮して、データ収集の環境を整えるようにしよう。
さらに、ビッグデータを管理・格納する環境の準備も欠かせない。
データウェアハウス(DWH)やデータマネジメントプラットフォームなどのツールを導入すればデータの一元管理に有効だ。
ステップ2.データの加工・可視化
収集したデータは、そのままでは活用しづらい場合が多いため、データクレンジングを実施し、不正確な情報や重複データを削除する必要がある。
さらに、BIツールなどの可視化ツールを使用してデータを見やすい形式に整理すると、関係者全員が同じ情報を理解しやすくなる。
BIツールのグラフやダッシュボードの活用は、データの洞察を得るために有効である。
データクレンジングの方法は、以下の解説記事がおすすめだ。ぜひ参考にしてほしい。
ステップ3.データの分析
データ加工と可視化のあとは、データをもとに具体的な傾向や課題、行動パターンなどを分析する。
例を挙げれば、エントリーフォームへの遷移率やフォーム離脱率、コンバージョン率などのデータを過去に遡って集計し、問題点や異常値がないか探り当てる作業だ。
そして業界動向や競合状況などの外部環境を踏まえてデータの変化や問題点の原因は何かを分析すれば、次の施策に役立つ洞察を得られる。
ただし、マーケティングの知識に加えて、統計分析などデータ解析の専門スキルを有した人材がいなければ、このデータ分析のプロセスはハードルが高い点に注意が必要だ。
データの分析方法は、以下の記事を参考にしてほしい。
ステップ4.施策や行動計画の策定・実施
分析結果をもとに、具体的な施策や行動計画を策定する。
データ分析で浮き彫りになった現状課題と目標とのギャップを把握して、ギャップを埋めるための手段を仮説を立てながら検討しよう。
データドリブン的な取り組みが初めての場合は、施策の策定を「仮説」のみに頼らなければならないケースもあるが、心配無用だ。
データとデータ分析による仮説をもとに施策を行い、何度もPDCAを回せば、施策のチューニング精度は徐々に高まっていくためである。
たとえば、ファーストビューでの離脱率が高く、コンバージョン率が思わしくないLPがあるとする。
このLPに対して、ヒートマップツールで離脱ポイントを特定したり、ユーザーがよくクリックしている部分を把握したりしながら、改善計画を練るといった具合だ。
ステップ5.効果測定
一連のプロセスの最後は、果たして行った施策が「良かったのか悪かったのか」を把握するための効果測定だ。
効果測定では施策の実行前後の変化や、あらかじめ設定したKPIへの達成度で成果を評価し、成功要因や改善点を明確にする。
たとえば、ページ離脱率が何%改善したか、コンバージョン率はどれほど上昇したかなどから成功(または失敗)の要因を明らかにする。
効果測定の結果は自社のノウハウや顧客の傾向として蓄積し、次回以降の施策に反映させれば、マーケティング施策の再現性と確度が高まっていくのだ。
ここまで述べてきた5つのステップを繰り返せば、データドリブンマーケティングの成果を最大化できるだろう。
5.データドリブンマーケティングで押さえるべき15の指標
データドリブンマーケティングを効果的に実践するためには、施策の正しい評価につながる適切な指標選びが不可欠である。
本章ではノースウェスタン大学の非常勤教授マーク・ジェフリー氏の著書「データ・ドリブン・マーケティング-最低限知っておくべき15の指標」にて提唱されたデータドリブンマーケティングにおける15の重要指標を紹介する。
どのデータを集めればよいのか、何を指標にすればよいのかわからない場合は、ぜひこちらの指標を参考にしていただきたい。
重要指標 | 特徴 |
ブランド認知率 | ユーザーが自社の製品・サービスをどのくらい想起できるかの指標。 |
試乗(お試し) | 実際の購入前に、ユーザーが試用して比較評価・検討すること。将来の売上高の先行指標として機能する。 |
解約(離反)率 | 既存顧客の中で、継続購入を中止する人の割合。特定の業界においては業績に対する影響が非常に大きく、平均解約率を下げることが売上の上昇に直結する。 |
顧客満足度(CAST:Customer Satisfaction ) | 製品・サービスに対する顧客満足度を評価するための指標。顧客が友人や同僚に推奨したいと思うかどうかを尋ね、回答を収集して測定する。顧客満足度は、ロイヤルティとブランド認知の双方に深く関連し、将来の売上の先行指標としても機能する。 |
オファー応諾率 | DMやテレマーケティングなど、マーケティング施策の接触数(オファー)に応じた顧客数の割合。マーケティングの効果を戦術レベルの観点で評価する指標となる。 |
利益 | 売上高から費用を差し引いたもの。売上高よりも、優れたマーケティングを通じた利益の最大化が適切な戦略となる。 |
正味現在価値(NPV:Net Present Value) | マーケティング施策が生み出す将来収益の現在価値から、施策に必要な費用を差し引いた結果。
複数のマーケティング施策を比較して、最適な価値を生み出すものを選択する際に役出つ。通常、NPVがプラスなら投資を実行し、マイナスなら否決とする意思決定がなされる。 |
内部収益率(IRR:Internal Rate of Return) | マーケティング施策を実施する際の投資利回り(投資金額に対する利益の割合)を示す指標。施策実行によって企業内で資金が増幅する度合いを示す。IRRが割引率の数値を上回っていれば投資を実行し、下回っていれば却下するのが原則となる。 |
投資回収期間 | マーケティング施策の実施に投じた累計支出と同額の累計利益を稼ぐまでにかかる期間。 |
顧客生涯価値(CLTV:Customer Lifetime Value) | 顧客が将来にわたって自社にもたらす価値(利益)の累計を示す指標。多くの指標の中でも特に重要視され、長期的なビジネス成長を評価する際の基盤となる指標。 |
クリック単価(CPC:Cost per Click) | リスティング広告やディスプレイ広告における1クリックあたりの費用。広告運用の効率性を評価し、予算配分を最適化するために活用される。 |
トランザクションコンバージョン率(TCR:Transaction Conversion Rate) | 広告をクリックしてWebサイトへ流入したユーザーが、実際に製品・サービスの購入に至った割合を示す指標。 |
広告費用対効果(ROAS:Return on Ad Dollars Spent) | 広告を通じて得た収益を広告費用で割った値。特定のキャンペーン予算を増やして収益をどの程度増加させるか試算できる。
広告に対する投資効果を定量的に評価し、広告運用を最適化するために活用される。 |
直帰率 | Webサイトを訪問したユーザーの中で、他のページに遷移せずに離脱した割合を示す指標。ユーザーのサイト滞在時間を計測し、(たとえば5秒未満で)離脱したユーザーの比率を算出して、Webサイトがユーザーのニーズを満たしているか否かを評価する指標となる。 |
口コミ増幅係数(WOM:Word of Mouth) | ユーザーが広告を直接クリックした数に友人へのシェア(口コミ)から発生したクリック数を足した合計を、広告が直接クリックされた総数で割った値。WOMは、インターネット上における「友人・知人へ推奨するか?」という質問を数値化する。口コミはSNSマーケティングに増幅効果をもたらし、クリックおよびインプレッションの価値を倍にする効果をもつ。 |
※出典:マーク・ジェフリー 著,データ・ドリブン・マーケティング-最低限知っておくべき15の指標
6.まとめ
データドリブンマーケティングは、BtoBマーケティングの成果を最大化するために欠かせないアプローチ手法である。
なぜなら、データに裏付けられた意思決定により、顧客のニーズを正確に把握し、適切な施策をタイムリーに実行できるからだ。結果、リード獲得や顧客満足向上といった目標達成が可能となる。
一方、データドリブンマーケティングの成功にはデータの収集・分析だけでなく、KPIの明確化や部門間の連携、ツール活用といった体制の整備が重要である。
さらに今後は、AIや機械学習の進化、ビッグデータの活用、プライバシー保護の強化といったトレンドがデータ活用の鍵を握る。
BtoBビジネスの競争力強化に向け、まずは自社の現状を見直し、本記事で紹介したポイントを取り入れながら効果の高いマーケティングを実現してほしい。