ビジネスにおけるあらゆる活動は「投資」と「成果」の関係で成り立っている。
限られた予算やリソースのなかで、何にどれだけ投資し、どれほどのリターンが得られたのか。
それを明確に測るための代表的な指標がROI(投資収益率)だ。
特にSaaSのような継続課金型モデルでは、ROIへの正しい理解と活用が、成長戦略の成否を左右するといっても過言ではない。
本記事では、ROIの基礎から計算方法、関連指標、具体的な施策、活用時の注意点までを網羅的に解説する。


1. ROIとは
ROIとは「Return on Investment」の略であり、日本語では「投資収益率」または「投資利益率」と訳される。
ある投資に対してどれだけの利益が得られたか、つまり費用対効果(投資対効果)を示す指標だ。
具体的には、投資によって得られた利益をその投資額で割ることで算出し、通常はパーセンテージで表す。
ROIは、企業の経営判断やマーケティング施策の効果測定、資金配分の優先順位決定など、さまざまな場面で活用される。
ROIが高ければ高いほど、投資効率が良いと判断される。
2. ROIの計算方法
では、ROIは具体的にどう計算すればよいのだろうか。
一般的なビジネスとSaaSビジネスでは適切なROIの計算方法が異なるため、それぞれ説明する。
2.1. 一般的なROIの計算式
一般的なビジネスにおいては、以下の式でROIを計算できる。
ROI(%)=(利益 ÷ 投資額)× 100 |

例えば、ある企業が広告に100万円を投資したとする。
その結果、売上が180万円、利益が 80万円だった。
この場合のROIは、次のように計算する。
ROI = (利益 ÷ 投資額)× 100 =(80万円 ÷ 100万円)× 100 = 80% |
この投資では、80%の収益率が得られたことになる。
2.2. SaaSビジネスにおけるROIの計算式
SaaS(Software as a Service)ビジネスの場合は、ROIを計算する際に注意が必要だ。
一般的なビジネスでは商品やサービスを売った瞬間に利益が確定するケースが多いが、SaaSはサブスクリプションモデルであるため、売上は月または年単位で徐々に積み重なっていく。
このため、単純に投資額に対して得た当月の利益でROIを計算しても、初期はマイナス(赤字)になることが多く、SaaSの実態を正しく捉えられない。
そこで、SaaSビジネスでは「LTV(顧客生涯価値)」と「CAC(顧客獲得コスト)」を用いた以下のROI計算式がよく使われる。
ROI(%)={(LTV − CAC)÷ CAC}× 100 |
- LTV(Customer Lifetime Value):1人の顧客が契約期間を通じて企業にもたらす総収益
- CAC(Customer Acquisition Cost):1人の顧客を獲得するためにかかった平均コスト

例えば、クラウド型プロジェクト管理ツールを扱っている企業のROIについて、以下の前提で計算してみる。
<前提> ・月額料金(MRR):5,000円/1ユーザー ・平均契約月数:8か月 ・CAC(顧客獲得コスト):30,000円 <計算> LTV = 5,000円 × 8か月 = 40,000円 ROI = {(40,000 − 30,000)÷ 30,000}× 100 = (10,000 ÷ 30,000)× 100 = 33.3% |
この場合、1人の顧客あたり33.3%の投資リターン(ROI)が得られていることになる。
ちなみに、SaaS業界ではLTV/CACの比率3:1以上を健全とするため、今回の LTV/CAC = 1.33は「やや不十分」と判断される。
3. ROIに似た他の指標
ROIにはいくつか似た指標が存在するため、それぞれの違い・特徴を理解し、目的に応じて使い分けることが重要だ。
各指標について詳しくみていこう。
指標 | 計算対象 | 基準 | 基準にする金額 | 特徴 |
ROI | 投資全般 | 利益 | 投資額 | 汎用性が高い、基本となる指標 |
ROMI | マーケ投資 | 利益 | マーケ費用 | ROIの一種、マーケに特化 |
ROAS | 広告 | 売上 | 広告費 | 売上ベース、利益は含まれない |
ROE | 株主資本 | 純利益 | 自己資本 | 株主目線の資本効率 |
ROIC | 投下資本 | 営業利益 | 投下資本 | 戦略的判断、資本コストと比較 |
目的に応じて、以下のように使い分けができる。
- 投資全般の収益性比較 → ROI
- マーケティング施策の評価 → ROAS・ROMI
- 事業部の経営効率 → ROIC
- 企業全体の体質把握 → ROA・ROE

3.1. ROMI(Return on Marketing Investment)
ROMI(%)=(マーケティング起因の利益 − マーケ費)÷ マーケ費 × 100 |
ROMIは、マーケティング投資によって得られた利益に基づき、その投資効率を測定する指標を指す。
広告費だけではなく、ブランディングやコンテンツ制作、キャンペーン全体の費用対効果を定量的に評価できる点が特徴だ。
経営判断や施策の継続・撤退、さらにはマーケティング予算の再配分に資する情報を提供する。
ROIと同様に利益を基準とするが、ROMIはマーケティング領域に特化したROIの派生形と位置づけられる。
3.2. ROAS(Return on Advertising Spend)
ROAS(%)=(広告経由売上 ÷ 広告費)× 100 |
ROASは、広告費1円あたりが生み出す売上の金額を示す指標を指す。
短期的な広告キャンペーンの売上効率を評価するのに適しており、特にECやデジタル広告において広く活用されている。
ただし、利益を考慮しない点に注意する必要があり、利益率が低い施策でもROASが高く見える可能性がある。
ROIとの違いは、ROASが売上ベース、ROIが利益ベースの指標である点だ。
3.3. ROE(Return on Equity)
ROE(%)=(純利益 ÷ 自己資本)× 100 |
ROEは、株主資本(自己資本)に対して、どれだけの純利益を生み出しているかを示す指標だ。
企業が株主から預かった資本をどれだけ効率的に運用しているかを測るため、株主リターンや企業価値の評価において重視される。
ROEが高ければ高いほど、株主にとって魅力的な投資先と評価される。
ROIと異なり、ROEは企業全体の財務パフォーマンスを表すマクロな指標だ。
3.4. ROIC(Return on Invested Capital)
ROIC(%)=(税引後営業利益 ÷ 投下資本)× 100 |
ROICは、企業が事業運営のために実際に使っている資本(株主資本+有利子負債)に対して、どれだけの営業利益を生み出しているかを示す指標だ。
資本の使い方の効率性、つまり資本コストを上回るリターンを得ているかどうかを測定でき、企業価値の創出に直結する。
ROIよりも財務的な視点が強く、資本構成や資本コストとの比較において用いられることが多い。
3.5. ROA(Return on Assets)
ROA(%)=(純利益 ÷ 総資産)× 100 |
ROAは、企業が保有するすべての資産を使って、どれだけの純利益を上げたかを示す指標だ。
経営資源の総合的な活用効率を測定するため、企業の「収益体質」や「経営効率」の良し悪しを判断する材料となる。
総資産には自己資本・負債の両方が含まれるため、資本構造の違いを超えて企業間の比較が可能だ。
ROIとの違いは、ROAが企業全体の利益創出能力を測るのに対し、ROIは個別投資や施策単位の効率評価に使われる点にある。
4. ROIを活用するメリット
ROIを活用することで、企業はさまざまなメリットを享受できる。
ここでは、どのビジネスにも共通する一般的なメリットに加え、ROI活用の重要度が高いSaaSビジネスにおけるメリットも解説する。
4.1. 一般的なメリット
まず、どのビジネスにも共通するメリットとして、以下の4点が挙げられる。
①投資判断の客観化
ROIは、どの施策やプロジェクトがどれだけ利益を生んだかを明確な数値で示す指標のため、感覚や主観に頼らない判断が可能となる。
複数の選択肢を比較する際、ROIを用いれば、最も効率的な投資対象を特定できる。
②リソースの最適配分
ROIに基づいて部門・施策・商品の収益性を可視化すれば、限られた人材・資金・時間をより効果的なところへ集中投下できる。
これにより経営効率が向上する。
③PDCAの加速と改善
ROIをモニタリングすることで、継続すべき投資・改善すべき施策・中止すべき活動の判断が容易となり、PDCAサイクルのスピードと精度が上がる。
④経営層やステークホルダーへの説明がしやすい
ROIは利益ベースでの成果を示すため、経営層や投資家への説明においても説得力を持つ。
特に、費用対効果の根拠が求められる場面で有効だ。
4.2. SaaSビジネスにおけるメリット
ROIはすべての企業にとって有効な投資評価指標だが、特にSaaSのような「継続課金+顧客獲得コストが重視されるモデル」において、その真価を発揮する。
ROIを活用することで、SaaSビジネスはより戦略的に、持続可能な成長を目指せるだろう。
具体的には、以下の4つのメリットが挙げられる。
①長期的な収益構造に対する可視化
SaaSはサブスクリプションモデルであり、初期投資に対して利益の回収が数か月〜数年にわたって行われる。
ROIを使えば、初期CAC(顧客獲得コスト)とLTV(顧客生涯価値)のバランスを通じて、中長期での投資効率を把握できる。
②LTV/CACと連動した財務管理ができる
ROIは、LTVとCACを組み合わせた指標としても使えるため、顧客獲得効率の定量評価が可能だ。
SaaS企業にとっては、チャーン率や契約期間を含めた収益性の追跡が極めて重要であり、それをROIで把握できるのは大きな強みといえるだろう。
③スケーラビリティの評価
SaaSは顧客数が増えるほど収益が積み上がるモデルだ。
ROIを使えば、どのチャネルや施策がスケールする価値があるのかを明確に判断でき、成長に向けた投資の優先順位付けに役立つ。
④チャーン率やアップセルとの関連性の追跡
ROIは時間軸で追跡するため、顧客維持施策(カスタマーサクセス)やアップセル戦略の効果を数値化し、改善に活用できる。
例えば「初期のROIはマイナスでも、6か月後に黒字転換」など、施策の成果を段階的に評価できる。
5. ROIを改善する方法
ROI(投資収益率)を改善するための具体的な方法は誰もが知りたいところだろう。
ROIは「投資に対する利益の割合」であるため、基本的には「①収益を増やす」「②投資額を減らす」のいずれか、または両方によって改善される。
そのうえで、特に現代のビジネスで有効な施策を役割別(マーケティング、営業、経営・戦略)にいくつか紹介しよう。
5.1. マーケティング領域のROI改善施策
マーケティング部門においてROIを高めるには「いかに少ないコストで質の高いリードを獲得し、最終的な収益につなげるか」が鍵となる。
以下に、代表的な施策と具体的な効果を紹介する。
①コンテンツマーケティングの活用
ROI向上において、最も本質的かつ持続的な効果をもたらすのがコンテンツマーケティングだ。
コンテンツマーケティングは、広告のような一時的な集客ではなく、検索エンジンやSNS、メディアを通じてユーザーとの接点を継続的に生み出す「資産型のマーケティング」といえる。
例えば、自社サービスが解決する課題やユーザーが持つ疑問に応える形で、ブログ記事やホワイトペーパーを提供すれば、検索経由で定期的に見込み客が流入する仕組みができあがる。
さらに、ウェビナーや動画コンテンツを組み合わせれば、比較検討段階のユーザーとの信頼関係の構築にも有効だ。
このような手法は初期投資こそ必要だが、一度構築されれば広告費をかけずに継続的なリード獲得が可能であり、結果として顧客獲得コスト(CAC)の削減とコンバージョン率(CVR)の向上につながる。
したがって、ROIに対するインパクトは極めて大きい。
当社ではコンテンツマーケティングに関するサポートを提供しており、以下の記事でも詳しく解説している。
ぜひ参考にしてほしい。

②チャネル別の投資効率の最適化
マーケティングには多様な集客チャネルが存在するが、すべてのチャネルが均等に効果をもたらすわけではない。
ROIを最大化するには、チャネルごとの費用対効果を定量的に評価し、最適な予算配分を行うことが必要だ。
例えば、Google検索広告はニーズが顕在化しているユーザーを捉えやすく、短期的なCV獲得に有効である一方、Facebook広告や動画広告は認知や初期段階のリード育成に適している。
これらの違いを理解せずに、すべてのチャネルに均等な予算を投下すれば、無駄なコストが発生してROIは低下する。
重要なのは、各チャネルのCPA(1件あたりの獲得コスト)やCVR(コンバージョン率)、LTV(顧客生涯価値)などを指標としてトラッキングし、低ROIのチャネルを見極めて排除したうえで、高ROIチャネルに集中投資する体制を整えることだ。
③マーケティングオートメーションとリードナーチャリングの強化
ROIを高めるには、単にリードを獲得するだけではなく、そのリードをいかに成約まで導くかが重要だ。
特にBtoB商材では、意思決定までに一定の時間と情報収集が必要とされるため、リードナーチャリング(育成)が欠かせない。
ここで有効なのが、マーケティングオートメーション(MA)の活用だ。
顧客の行動や属性に応じて、ステップメールやパーソナライズされたコンテンツを自動配信することで、検討度の低いリードを、営業に渡すまでに育成できる。
その結果、営業のCVRが向上し、無駄な営業リソースの削減にもつながる。
つまり、マーケティング部門と営業部門の橋渡しとしてのROI改善効果が期待できるのだ。
以下の記事では、MAツールの活用も含めリードナーチャリングの施策やポイントを解説しているので、ぜひ参考にしてほしい。
④リファラル・バイラルによる低コストリードの獲得
顧客紹介(リファラル)やシェアによって自然発生的に広がるリード獲得の仕組みも、ROI改善に大きく寄与する。
特に既存顧客の満足度が高い場合、紹介やレビューを通じて新規顧客が流入することは少なくない。
このような施策は、広告費ゼロで顧客を獲得できる可能性があり、ROIは極めて高い。
紹介制度の設計やカスタマーサクセスの強化と連動させることで、マーケティング施策全体の投資効率を引き上げられるだろう。
5.2. 営業領域のROI改善施策
営業部門がROIを高めるためには、単に売上を追うだけではなく、人件費や営業活動にかかるコストに対する利益貢献度を最大化する視点が不可欠だ。
以下に代表的な施策を示す。
①営業プロセスの効率化と分業体制の確立
営業活動のROIを高める第一歩は、営業プロセスの見直しと分業による効率化だ。
例えば、インサイドセールス(内勤営業)によるリードのスクリーニングと、フィールドセールス(外勤営業)によるクロージングを分業化することで、リードの質が高まり、営業1人あたりの受注率が向上する。
さらに、CRMやSFAツールを活用し、商談状況を可視化すれば、無駄な追客や非効率なアプローチを排除し、営業リソースの最適配分が可能だ。
②顧客セグメントごとの優先順位付け
すべての顧客に対して等しく営業を行うのではなく、LTVが高く、成約率が高いセグメントにリソースを集中させることで、ROIを効率的に引き上げられる。
例えば、業種・従業員規模・導入目的などに応じて顧客を分類し「利益貢献度の高い見込み客リスト」を営業内で共有するといった取り組みが効果的だ。
これにより、営業投資に対する売上および利益の最大化が期待できる。
③アップセル・クロスセルの推進
既存顧客に対して上位プランや関連サービスを提案することで、1件あたりの契約金額や利用期間を延ばし、LTV(顧客生涯価値)を向上させる施策もROIに直結する。
新規顧客の獲得には常にCACが発生するが、既存顧客からの収益増加は比較的コストがかからず、利益率が高い。
したがって、継続的な関係構築と提案力の強化は営業ROIの核心的施策だ。
④カスタマーサクセスとの連携によるチャーン率改善
営業が契約後のサポート体制と連携することで、顧客の満足度と継続率を高め、LTVを伸ばす取り組みが可能となる。
SaaSなどの継続課金型モデルでは、顧客の離脱(チャーン)はROIに直接的なダメージを与えるため、営業部門がオンボーディングや定着支援に積極的に関与することが重要だ。
5.3. 経営・戦略領域のROI改善施策
経営層がROIを意識した意思決定を行うと、企業全体の投資効率を構造的に高めることが可能だ。
以下に、経営レベルで実行すべき施策を示す。
①KPIの整備と可視化によるROI中心の意思決定
まず、ROIを含む主要な財務指標(LTV、CAC、ROAS、ROMIなど)を全社KPIとして設定し、定期的にモニタリングできる仕組みを整えることが基本となる。
これにより、数値に裏付けられた形で経営判断が行われるようになり、感覚的な投資や施策の乱発を防げる。
ダッシュボードやBIツールを活用して、部門横断的にROIを追跡できる環境を構築することが望ましい。
②ROIに基づいた施策選定と予算再配分
全施策に対してROIを定期的に評価し、低ROI施策を縮小・停止、高ROI施策にリソースを集中させることで、企業全体の収益性を高める。
例えば、広告チャネル別のROASを比較し、成果の出ないチャネルへの投資を見直すといった判断がこれにあたる。
また、過去のROI実績に基づき、将来的な施策ポートフォリオを組み直すことも、経営層の重要な役割だ。
③価格戦略・収益モデルの見直し
収益構造そのものを見直すことも、ROI改善において強力な手段となる。
例えば、プラン体系の整理、価格帯の調整、フリーミアムから有料化への転換などを通じて、顧客単価を上げられれば、同じコストでより多くの利益を得られる。
こうした戦略的な価格設計や、パッケージ化・サブスクリプション化の導入も、構造的にROIを押し上げる施策といえるだろう。
6. ROIを活用する際の注意点
ROI(投資収益率)は、投資の効率性を測るうえで極めて有用な指標だが、そのシンプルさゆえに過信や誤用が起こりやすい側面もある。
ROIを活用する際に注意すべき代表的なポイントをみていこう。

注意点1. ROIは「利益率」であって「利益の絶対額」ではない
ROIはあくまで割合(効率)を示す指標のため、ROIが高いからといって、必ずしも事業として多くの利益を生んでいるとは限らない。
例えば、ROIが300%でも元手が1万円なら利益は3万円に過ぎない。
一方で、ROIが50%でも元手が1億円なら利益は5,000万円になる。
したがって、意思決定においてはROIとあわせて、投資規模や利益の絶対額も確認する必要がある。
注意点2. 投資期間(タイムラグ)を考慮していない
ROIは「いつの時点の利益を、いつの投資と比較するか」が明確に定まっていないケースが多く、特にSaaSやR&Dのように長期で回収される投資においては、短期的なROIだけを見ても正確な判断ができない。
例えば、初月でROIがマイナスでも、1年後にはプラスになるようなケースでは、LTV(顧客生涯価値)や回収期間(Payback Period)などの指標と併用することが望ましい。
注意点3. ROIの「利益」の定義が曖昧になりやすい
ROIの計算式には「利益」とあるが、この利益が売上−直接費用なのか、営業利益なのか、純利益なのかが不明確なまま運用されることがある。
利益の定義が一貫していないと、部門間や時期ごとのROIを正しく比較できない。
したがって、ROIを算出する際には、利益の定義を明確にし、組織内で統一しておく必要がある。
注意点4. 短期的なROI偏重は、長期的成長を阻害する可能性がある
ROIを唯一の評価指標として重視しすぎると、短期的に利益が出やすい施策や事業ばかりに資源を集中しがちだ。
その結果、本来時間をかけて育てるべきブランディング・人材開発・プロダクト改善といった領域が後回しにされるおそれがある。
ROIは「結果を測る」指標であり「未来をつくる」指標ではない。
したがって、長期視点での戦略的投資としてバランス良く評価する必要がある。
注意点5. 市場規模やスケーラビリティも考慮する
ROIが高い施策を見つけた場合でも、その施策がスケーラブルであるか(規模拡大が可能か)を検証する必要がある。
例えば、ニッチな広告チャネルでROIは高いが、リーチできる顧客が少なければ、売上の上限もすぐに頭打ちとなる可能性が高い。
ROIだけではなく、拡張性(スケーラビリティ)や市場規模の観点をあわせて評価することが重要だ。
注意点6. ROIは定性的価値を反映しにくい
ROIは定量的な利益にフォーカスする指標であり、ブランド認知、信頼構築、顧客満足度の向上といった定性的な成果は計算に含まれない。
そのため、長期的に企業価値を高める施策の正当性が見えにくくなるという弱点がある。
ROIに表れない「戦略的価値」を加味した総合判断が求められる。
7. まとめ
ROIはシンプルながらも、投資判断の軸として非常に強力な指標だ。
マーケティング、営業、経営といったあらゆる部門がROIを共通言語として活用することで、さまざまな施策や意思決定の土台となり、成果を高めていけるだろう。
一方で、ROIは短期的・数値的な側面に偏りやすい指標でもあるため、LTVやCAC、ブランド価値といった長期的・定性的な視点を併せ持つ必要がある。
ROIは正しく使えば、戦略と実行をつなぐ“最も現実的な羅針盤”となるはずだ。

