BtoB企業のブランディング事例5選を紹介&徹底分析!自社活用のポイントも解説

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ブランディング自体の重要性は認識しているものの、戦略的に実行できているBtoB企業は多くない。

以下のような課題を抱える企業も多いだろう。

「ブランディングへのリソース投下を検討しているが、BtoB企業の参考事例が少ない」

「ブランディングについて、成功事例を参考にして効率的に取り組みたい」

「自社サービスの差別化や収益の安定に苦戦している」

リソースを費やしてブランディングに取り組む以上、なんとなくの取り組みとなってしまうことは避けたい。

本記事では、BtoB企業のブランディング成功事例の紹介と、それぞれのポイントを詳しく解説するため、貴社のブランディング活動へぜひ活用してほしい。

 

1.ブランディングの事例を理解するための前提知識

 

はじめに、ブランディングの全体像と事例を読み解くための視点を確認しておこう。

 

1.1.ブランディングの全体像

 

ブランディングとは、企業の存在意義や顧客への提供価値を規定し、さまざまな方法で発信することで、顧客との関係を構築・強化する活動だ。

顧客との関係が強化すれば、収益の向上や安定につながり、ビジネスは上向きになる。

ブランディングが表す範囲は広いが、大きく以下4つの要素に分けられる。

  • ブランド提供価値の規定
  • ブランド・コミュニケーション:提供価値の発信
  • ブランド・アクティベーション:行動や継続の促進
  • ブランド・マネジメント:ブランディング体制の構築

ちなみに、このなかでマーケティング部門担当領域は「提供価値の発信」と「行動や継続の促進」が中心だ。

本記事では、ブランディングの詳細には触れないため、ブランディングについて知りたい方は、以下の記事を参考にしてほしい。

ブランディング戦略の構築・実践9ステップを徹底解説

 

1.2ブランディングの4つの要素

 

事例を読み解く前に、ブランディングを構成する4つの要素についても確認しておこう。

 

①ブランド提供価値の規定

 

自社の製品やサービスによって、顧客がどのような価値を得られるのか、どうなれるのかという「顧客にとっての価値」を規定する。

ブランディング活動すべての基盤となり、これに沿って発信チャネルやターゲット、具体的な施策が決められていく。

市場や競合のリサーチだけではなく、社内や既存顧客へのアンケートなどあらゆる方面から情報を収集し、唯一無二の「価値」を定めることが重要だ。

 

②ブランド・コミュニケーション(提供価値の発信)

 

ブランド・コミュニケーションは、規定したブランド提供価値を社内外へ発信し、認知拡大や従業員への浸透を図ることだ。

広告やホームページなど、さまざまなチャネルを通じて一貫性を保ちながらメッセージを作成し、顧客へと届けていく。

社外だけでなく、社内でブランドの理解や発信方法を深めることも含まれる。

 

③ブランド・アクティベーション(行動や継続の促進)

 

ブランドを認知した先のフェーズとして、ブランドメッセージに共感した人の行動や継続を促す施策だ。

より細かいニーズに訴求できるポイントを見極め、他社にはない独自の価値をさらに強調して発信し、意思決定を促していく。

ブランディングの取り組みによる「成果」を具体的に求めていくフェーズともいえる。

 

④ブランド・マネジメント(体制の構築ブランド)

 

ブランディングを行ううえでの、社内の体制づくりやガイドラインなどを整備する。

ブランドの発信だけではなく、それを社員が適切に行えるように整備するブランド・マネジメントも怠ってはならない。

本記事では、ブランディングで重要な4つの要素に着目し、事例を解説していく。

ブランディングの要素

そして、この4つの視点でブランディングの全体像を表すと下図のようになる。

ブランディングの全体像

 

2.BtoBブランディングの事例5選

では実際に事例を見ていこう。

本記事では、以下の5つの企業のブランディング事例を紹介する。

ブランディング事例

 

ブランディング事例1.ラクスル

まずは、ネット印刷で有名な「ラクスル」の事例を紹介する。

 

ブランド提供価値の規定

 

印刷業界の非効率性や構造、顧客の不満を解決するために「楽に刷る」という意味を込めて立ち上がった「ラクスル」。

その社名・サービス名自体をブランド価値として定義している。

ラクスルのブランディングのポイントは「楽に刷る」というブランド・コミュニケーションとブランド・アクティベーションを徹底しているところだ。

 

ブランド・コミュニケーション

 

ラクスルのブランド・コミュニケーションは、テレビCMやネット広告に集中的なマーケティング投資を行い、認知を拡大していった。

単純に「ラクスル」という社名やサービスを認知させるだけではなく、実際のサービスの強みである「安さ(チラシ印刷1枚1.1円〜)」「速さ(最短24時間発送)」「楽さ(3分で注文完了)」と合わせて打ち出すことで、ブランド名とセットでラクスルの具体的な強みも浸透させている。

つまり、サービスやブランド名の認知拡大にとどまらず、何で覚えられたいか、何を解決するサービスとして覚えてほしいか、まで詳細に設計し、ブランド・コミュニケーションを行っていったのだ。

さらにラクスルは、この第一想起を計測する手段として指名検索をKPIにおき、定点観測を実施してきた。

結果として、下図のようにカテゴリーである「ネット印刷」以上に「ラクスル」が検索がされるようになった。

ブランディング事例:ノバセル

引用:「ラクスル」のノウハウを結集! 指名検索で事業成長を支える“サードエージェンシー”「ノバセル」(ICC KYOTO 2022)

このように、ラクスルのブランド・コミュニケーションにより、ただ認知拡大を図るだけではなく、実際に課題を解決したいときの第一想起を獲得するにまで至ったことが、大きな成功要因となっている。

 

ブランド・アクティベーション

 

ラクスルはブランド・アクティベーションについても徹底的な戦略をとっている。

具体的には、テレビCMなどで「初回無料」を打ち出し、サービススイッチのハードルを押し下げた。

もう一点特筆すべきは、徹底した顧客へのヒアリングだ。

ラクスルは従来のサービスと比較し、次のような強みを持っている。

  • オンライン上で簡単に印刷の見積もり、発注が可能
  • 低コスト、高品質な印刷物の獲得
  • 24時間注文や入稿受付可能
  • 迅速な納品
  • ボタンひとつでポスティングや折込チラシの注文(スマートチラシ)
  • 小ロットでの依頼が可能

これらはロイヤルカスタマーからのヒアリングを通し、徹底的に顧客体験を向上させる改善を多く行ってきた結果だ。

このヒアリングから、自社では気づけない自社サービスの価値を見出し、サービスを改善・バージョンアップし続けることで、顧客全体のブランドへの信頼を醸成している。

つまり、ラクスルでは、ロイヤルカスタマーのヒアリングで顧客理解を徹底して行い、ブランド・コミュニケーションの打ち出し軸や「楽に刷る」ことを体験できるブランド・アクティベーションの設計・改善を積み重ね、現在の確固たるブランドを構築してきた。

 

ブランド・マネジメント

 

ラクスルでは、印刷から始まったこともあり、ブランドカラーが印刷の4色分解のシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックとなっている。

これらの色をベースにオフィス全体の色も規定しており、オフィスにいながらラクスルのブランドを体感できるつくりとなっている。(2025年、本オフィスより移転予定)

このあたりは自社内だけで実施するのではなく、うまく外部を取り入れた。

外部パートナーと共に、フォントやロゴ、オフィス、IR資料などのアウトプットを一貫したデザインで統一し、ラクスルのブランドを感じられるようになっている。

 

まとめ

 

ブランド提供価値の規定 「楽に刷る」=ラクスルというブランド提供価値を規定
ブランド・コミュニケーション 圧倒的なTVCM投資と事実に即した強みの打ち出しで、会社名・サービス名がカテゴリーキーワードを超えた指名検索を獲得
ブランド・アクティベーション
  • ロイヤルカスタマーからの徹底したヒアリングで強みを磨き上げ、それをブランド・コミュニケーションに活用
  • サービススイッチしやすいように初回の利用のハードルを下げる
ブランド・マネジメント 外部パートナーと共同し、デザインアウトプットやオフィスでブランドを体験できる設計

 

参考:

ラクスル 公式ホームページ

未来志向が組織を変える──ナイル、ラクスル、CAMPFIREの事例から紐解く、リブランディング戦略の肝

ラクスルがブランディングにつながるTVCMの奥義をレクチャー!カタパルト登壇者が近況を報告! ICCカタパルト・アルムナイ【開催レポート】

印刷業界を革新するラクスル:急成長のビジネスモデルを徹底解説

デザインで株式会社 事例

ブランド力を高める「指名検索」マーケティング 顧客の検索行動を決める、動画広告の活かしかた(田部正樹)

 

ブランディング事例2.サイボウズ

 

次に、チームワークを支援するグループウェアを開発・販売している「サイボウズ」の事例を紹介する。

 

ブランド提供価値の規定

 

サイボウズは、業務の効率化やシステム化につながるサービスを提供している。

ブランド価値を業務効率化などの機能面ではなく「働き方」という社会課題から逆算して規定している点が特徴だ。

つまり企業全体で、社会課題としての「働き方」の解決に取り組む「働き方改革の会社」であることを、ブランドの中心に据えている。

 

ブランド・コミュニケーション

 

サイボウズのブランド・コミュニケーションの有名な事例といえば、当時は新しかったオウンドメディア「サイボウズ式」を立ち上げ、「働き方」に関する情報を発信し続けてきたことだ。

今でも「新しい価値観を生み出すチームのメディア」として、働く人を応援するコンテンツを提供し続けている。

しかし、オウンドメディア戦略自体が主流でない2012年の段階から、どれくらいの成果・売上につながるのかを度外視し、これほど長期間にわたり発信し続けられること自体が異例だといえる。

社会課題から逆算した自社のブランドの規定だけではなく、採算度外視で根気強く発信し続けた決断力と継続力が同社の強みだ。

また、サイボウズはブランディングムービーの制作、新聞広告・TVCMなど、さまざまな媒体でのブランド・コミュニケーションを行っている。

例えば、ショートアニメーションである「アリキリ」の制作や、「がんばるな、ニッポン」という新聞広告で「働き方改革の会社」であることを一貫して伝えてきた。

ただし「働き方」といった共通のテーマではあるが、同じような発信を行ってきたわけではない。

働くママの大変さが問題になった2014年当時には「働くお母さんをサポートするメッセージ」を発信し、非効率な働き方が浮かび上がったコロナ時には「非効率な働き方をなんとかしたい」といったメッセージに変えて発信した。

発信する媒体や時代によって、同じテーマでも伝え方を変えることで、それぞれの層に届くようにチューニングしているのだ。

さらに、その施策が社会課題の解決にいかにつながるかという視点を持ち続けて発信していたことも、より伝わるメッセージとなった要因といえる。

このような社会課題解決のメッセージを打ち出す効果は、対外的な部分だけではない。

社外で反響を得た記事や企画によって「社会の課題解決という大きなことにつながっている」という認識が社内で広がれば、社員たちの自信となり、さらに発信したいというモチベーションにつながる。

社内外の好循環を生み出すブランド・コミュニケーションの好例だ。

 

ブランド・アクティベーション

 

サイボウズでは、自社サービスを活用して社員が業務を改善している様子も継続的に発信している。

継続的な発信の結果「メディアでよく見かける」「サイボウズのように働き方改革をしたい」という顧客が増えた。

これは「自分たちもやってみたい!」と思わせるブランド・アクティベーションがうまく効いている。

先のブランド・コミュニケーションによる認知度の拡大と、自社の実際の業務改善を発信するブランド・アクティベーションの相乗効果により、成熟したグループウェア市場において選ばれるブランドとなったのだ。

また、サイボウズのブランド・アクティベーションは顧客だけではなく、求職者にも有効に働いている。

例えば、代表青野氏の「働き方改革で学んだことを本にまとめたい」というきっかけで始まった、書籍の出版。

当時、これらの書籍が中途入社の入社理由の1位となり、書籍の出版が採用につながるブランド・アクティベーションとなっていた。

さらに、フルリモートや複業の自由化、誰でも取締役など、ブランドメッセージに沿ったブランド・アクティベーションを積極的に実施し、低い離職率を実現した。

ブラック企業からホワイト企業への変貌も発信することで、より強固なブランディングとなっている。

 

ブランド・マネジメント

 

サイボウズには、サイボウズ式の運営や広報業務など会社の認知拡大を中心に行うコーポレートブランディングチームがある。

また2018年より、自社サービス「kintone 」を使い、実際に社内で働き方を変える発信を継続的に行っているプロダクトブランディングチームが発足した。

社名の認知は拡大したが製品認知と紐づいていない、という課題を解決するためだ。

サイボウズではこの2つのチームが両輪となり、ブランディングを実行している。

 

まとめ

 

ブランド提供価値の規定 社会課題である「働き方」を解決する「働き方改革の会社」として規定
ブランド・コミュニケーション
  • 長期視点で、一貫したブランドメッセージを発信し続ける
  • テーマは変えず、さまざまな媒体でそれぞれの層に沿ったメッセージを伝える
ブランド・アクティベーション
  • 自社サービスで実際に働き方改革を行い発信することで「うちもサイボウズのように業務改善を行いたい」という顧客を増やす
  • 出版や社内制度の改革で、自社がまずブランドを体現していることを示す
ブランド・マネジメント 会社認知のコーポレートブランディングと製品認知のプロダクトブランディングチームの組織化

参考:

サイボウズ 公式ホームページ

kintone 公式ページ

【イベントレポート】企業ブランディングの創り方 ―サイボウズの事例に学ぶ、”社会浸透するブランディング”の5つの実践ステップ―

サイボウズ、パーパスを原動力に“行動するブランド”として認知を高める

BtoB企業にブランドプロモーションはおすすめか?サイボウズがブランドに投資する経営上の理由

 

ブランディング事例3.Sansan

 

次に、名刺管理サービスなどを提供している「Sansan」を紹介する。

 

ブランド提供価値の規定

 

Sansanは、名刺管理サービスや営業DX支援サービスなどを提供する企業だ。

「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げ、「出会い」や「イノベーション」「出会い✕イノベーション」をブランドの中心に据えている。

 

ブランド・コミュニケーション

 

Sansanのブランド・コミュニケーションといえば、2013年から実施していたTVCM。

ここで一気に名刺管理としての認知度を獲得した。

一方、同社は名刺管理以外のサービスも増え、現在では請求書の一元管理システム「Billone」など、ビジネス領域全体のサービスを提供するまでに成長した。

「名刺」のイメージが強いSansanが、ブランドをさらに進化させることを目的に、企業初となる企業ブランドCMを2023年にリリース。

「出会い✕イノベーション」というテーマを持った「社会人と呼ばれる人のほとんどは、つまり『会社員』だ。『会社員が動きやすい日常』をイメージすれば、新しい景色が見えてくる」というメッセージを発信した。

このようにSansanは、根強いブランドイメージを超え、新しいステージに登るためのブランド・コミュニケーションに挑戦中だ。

 

ブランド・アクティベーション

 

テレビCMを中心とした認知施策を継続的に実施してきたことで、サービスの認知は向上した。

しかし、顧客が経営・業務課題の解決策を考える際、直接的にSansanのサービスへの想起にはつながらないこともあったようだ。

そのGAPを埋めるべく、顧客課題の解決策と自社サービスを結び付けることを目的に、有料メディアにてタイアップ記事も出すブランド・アクティベーションを実施している。

さらに、イベントによるブランド・アクティベーションにも積極的に取り組んだ。

例えば、3月3日の「Sansanの日」に「#ビジネスの出会い」というテーマでnoteコンテストを実施。

コーポレートサイト内の特設サイト、PR TIMES、Twitter、Sansan公式noteといったチャネルで告知し、一般に向けてエピソードを広く募集した。

また、コンテスト期間中は、告知記事・投稿作品の紹介、社員のエピソードなどを公開、マガジンとしてまとめて伝えた。

結果、約2,000もの投稿が集まる結果となった。

さらに、コンテスト受賞者には「出会い」や「イノベーション」をコンセプトに作ったノベルティのプレゼントも用意。

例えば、2つの酵母を出会わせてつくったビールや、ご縁茶といったものまである徹底ぶりだった。

つまり、コンテストや表彰をやっておしまいではなく、コンセプトを感じてもらえるような体験設計まで作り込んでいたのだ。

DX CAMPというイベントでは「出会い」を生み出すブランド・アクティベーションも実施している。

このイベントには一定の役職以上の方が参加でき、名刺交換や立食でのコミュニケーションなど、ネットワーキングが可能な新しい形式の展示会として開催されている。

このようにSansanでは、新たな出会いを創出できるイベントや新しい形の展示会を行い、「出会い」を体験できる場を積極的に提供している。

 

ブランド・マネジメント

 

Sansanにはブランドイメージの醸成や強化のため、全社的なブランディングを行うブランドコミュニケーション部や、多様なデザインを担当するブランドエクスペリエンス部が存在する。

そして、会社のブランディングを統括するCBO(チーフ・ブランド・オフィサー)がいる。

こういった縦と横の組織編成により、トップと綿密なコミュニケーションを取りながら、全社的で一貫したブランディングを行うことが可能となっている。

また、Sansanが特徴的なのは、ビジョン・ミッション・バリューを変更するにあたり、社内メンバー全員で議論する時間を設けたことだ。

元々、ビジョン・ミッションを重要視する採用を行っていたため、入口でのズレは少ない。

しかし、ビジョンのさらなる「自分ごと」化に向け、1年をかけて自分たちの進むべき方向を見つめ直す期間を設けた。

ここまで徹底しているからこそ、Sansanの一挙手一投足にブランドメッセージを感じることができている。

 

まとめ

 

ブランド提供価値の規定 「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションをブランド提供価値の規定
ブランド・コミュニケーション 会社のフェーズに合わせて、ブランド・コミュニケーションもバージョンアップ
ブランド・アクティベーション イベントや展示会、企画、ノベルティなど、企画から細部に至るまで「出会い」や「イノベーション」を感じてもらえる体験の提供
ブランド・マネジメント BPOという経営に近く権限のある役職の設置と、専属の組織である部署を設けることで、全社的かつ一貫したブランディングが可能

参考:

Sansan 公式ホームページ

クリエイティブの力でビジョンを伝える。初の企業ブランドCMに込めた意思と意図

「ビジネスの出会い」の大切さを伝えたいーーnoteコンテストを通してブランディングを強化するSansanの取り組み

Sansan、初の企業ブランドCMを公開

ビジネスを加速する人脈づくりのための新展示会「Eight Networking EXPO 2023」を東京ビッグサイトで初開催

〜多数の交流プログラムで、ビジネスパーソンの出会いを後押し〜

クリエイティブで、会社のステージを上げる。インハウスだからこそできるチャレンジングな姿勢

急成長でも失われない一体感 Sansanはどのように“ミッションドリブン”な組織をつくりあげたのか

 

ブランディング事例4.SmartHR

 

次に、クラウド型労務管理システムなどを提供している「SmartHR」を紹介する。

 

ブランド提供価値の規定

 

SmartHRでは、コーポレートミッションとして「well-working(労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。)」を、サービスビジョンとして「Employee First.(すべての人が、信頼しあい、気持ちよく働くために。)」を掲げている。

自社のwell-workingと社会のwell-workingの両輪で推進することを目指し、その一手段として提供するSmartHR(サービス名)にてEmployee First. を規定している。

 

ブランド・コミュニケーション

 

2020年には、交通広告やテレビCMにてブランド・コミュニケーションを実施していた。

コロナにより緊急事態宣言が出した交通広告で「はんこを押すために出社した」というメッセージを打ち出した。

これは、SmartHRのブランド提供価値と時流を組み合わせたものだった。

さらに同時期、テレビCMも打ち出し、その効果を最大化させるために「テレワーク」や「リモート」といったキーワードの対策を施したランディングページなども設計した。

これにより「Employee First.」を提供する会社として、テレワークなどを後押しするサービスという連想ができる状態にしたのだ。

さらに、noteを使ったブランド・コミュニケーションも徹底している。

SmartHRの公式noteとして発信するだけではなく、各部署に在籍している個人が、SmartHRで働くことについて発信しており、すでにフォロワーが5,000名を超えている。(執筆当時)

 

ブランド・アクティベーション

 

SmartHRの特筆すべき点は、ブランド・アクティベーション(同社では、ブランド・アクティベーションの近しい概念として「ブランドエンゲージメント」と表現)だ。

具体的な施策としては、以下があげられる。

WORK DESIGN AWARD:
働き方をアップデートしたACTION・PRODUCT・PERSONを、ビジネスパーソン1万名が選ぶアワード

WEDNESDAY HOLIDAY:

「よく働くってなんだろう?」を問いのテーマに、個人の働き方や、組織やチームのあり方、仕事を通じた社会との関わり方に至るまでをゆるやかに語るPodcast

アクセシビリティムービー:

多様な人が集まる「職場」という場に、必要なものって何だろう。

SmartHRは障害者週間に合わせて、働く環境のアクセシビリティをテーマにしたショートムービーを制作

これらの施策を通して、SmartHRは「Employee First.」や「well-working」を感じてもらえるようなブランド・アクティベーションを実施している。

 

ブランド・マネジメント

 

SmartHRは、2023年にコミュニケーションデザイングループとマーケティンググループを統合し、ブランディング統括本部を設置した。

さらに、ブランディング統括本部に「ブランドマーケティング部」「ブランドコミュニケーションデザイン部」「ブランドマネジメント部」から成るブランドコミュニケーション本部を設置している。

この構造は本フレームワークのようになっている。

つまり、ブランド・マーケティング(ブランド・コミュニケーションとブランド・アクティベーション)の部分をブランドマーケティング部とブランドコミュニケーションデザイン部が担い、ブランド・マネジメントをブランドマネジメント部が担う構造だ。

ブランドコミュニケーション本部の役割を「企業や組織が自身のブランド価値をステークホルダーに伝え、ステークホルダーの心の中におけるブランド地位向上を図ること」と規定し、コーポレートブランディングからサービスのブランディングまでを一気通貫で担っている。

ブランディング事例:SmartHR

引用:「ブランドコミュニケーション本部の役割と大切な要素」SmartHRのブランディングを牽引する組織のはなし

 

さらに「SmartHR タッチポイントwiki」という、顧客接点の全体像をまとめた資料を作成。

これにより、顧客体験全体を考慮したブランドコミュニケーションやブランドアクティベーションをしやすい仕組みを整えているのだ。

こうした体制によって、全社的かつ一貫したブランドメッセージを発信できている。

 

まとめ

 

ブランド提供価値の規定 人事・労務分野だけではなく、タレントマネジメントの会社として「well-working」 「Employee First.」というブランド提供価値を規定
ブランド・コミュニケーション
  • テレビCMや交通広告で、ブランド提供価値を時流に合わせたメッセージで打ち出し
  • 公式noteによる継続的な発信
ブランド・アクティベーション ブランド提供価値に合わせたイベントやアワードの主催
ブランド・マネジメント
  • ブランディングに注力するブランド・コミュニケーション本部の設置
  • 顧客接点を洗い出した資料を作り、一貫したブランドメッセージを管理

参考:

SmartHR 公式ホームページ

ブランドを安定的に、もっと強く。SmartHRブランドマネジメントユニットについて

株式会社SmartHR 公式note

well-working story

指名検索は前年比2倍!中長期で勝ち抜く、SmartHRのマーケ&ブランディング戦略

 

ブランディング事例5.Slack

 

最後に、ビジネス用のメッセージサービスなどを提供している「Slack」を紹介する。

 

ブランド提供価値の規定

 

Slackでは「Make work life simpler, more pleasant and more productive(ビジネスライフを​よ⁠り⁠シ⁠ン⁠プ⁠ル⁠に⁠、​よ⁠り⁠快⁠適⁠に⁠、​よ⁠り⁠有⁠意⁠義⁠に​)」をというミッションを掲げ、単なるコミュニケーションツールではなく「シンプルで快適、そして生産的な働き方」を実現するためのプラットフォームとしてブランド提供価値を定めている。

 

ブランド・コミュニケーション

 

Slackは、創業当初からコンテンツマーケティングを活用してきた。

現在でも、Slackを活用した最新情報や、生産性向上のヒント、チームビルディングやコミュニケーションにおける役立つ情報など「Make work life simpler, more pleasant and more productive」を体現するテーマのコンテンツを配信し続けている。

また、当時のSlackのSEO戦略も特徴的だったようだ。

以下の記事によると、あくまで一般的なキーワードでのSEOは注力しておらず、Slackと連携できるサービスであるZapier やGoogle drive、Trelloといったキーワードで検索上位を獲得していった。

ブランディング事例:Slack

出典:Peek Inside Slack’s Multi-Million Dollar SaaS Growth Strategy

 

つまり、顧客はSlackについて直接調べなくても、Slackと連携できるサービスを検索する過程で、間接的にSlackの連携性の高さを実感する。

そこから、Slackによって実現する生産性の向上や快適な働き方を連想するようなブランド・コミュニケーションとなっている。

さらに、連携できるツールが増えれば増えるほど、Slackの重要性やSlackへの依存度が高まるというブランド・アクティベーションにもつながるのだ。

 

ブランド・アクティベーション

 

実はSlackは、ブランド・コミュニケーションではなく、まずブランド・アクティベーションにリソースを集中させてきた。

具体的には、顧客の声を聞き、フィードバックをもらい、サービスの強化に注力するという活動だ。

その際にうまく活用していたのが、Twitter(現X)だ。

サービスの質を良くするために、顧客からのフィードバックを集める重要チャネルとしてTwitterを使っていた。

Twitterで顧客との対話を積み重ねた結果、Twitterの拡散力も相まって、口コミが広がっていったのだ。

この顧客の口コミと、初回使用のハードルを下げるフリーミアムモデル(無料トライアル)をブランドアクティベーションのコアとして、サービスを拡大した。

その結果、Slackのメインサイトへの流入の大部分が直接トラフィック(検索エンジンを介さずに、直接ウェブサイトのURLをブラウザに入力すること)となるまでに至った。

また、コロナ禍が落ち着いた2023年には、SXSW(世界最大級の複合フェス)にて、スポンサーを務めている。

SXSWでは、未来の働き方を体験できるブースを出展し、Slackのチームが実際にやっているSlackの活用方法を学べるワークショップやパネルディスカッションも実施した。

このように、Slackはブランドや考え方、使い方などを知ったり体験したりできるブランド・アクティベーションにも注力している。

 

ブランド・マネジメント

 

Slackは、ブランドマネジメントとしてデザインガイドラインを明確に定義し、公開している。

デザインガイドラインには、Slackがどのような価値観を大切にし、どのようなパーソナリティを持っているのかが明確に示されているのだ。

これにより、グローバルに展開している企業でも、上述した施策や体験に一貫性が生まれ、自然とブランドが形成されたといえるだろう。

なお、ブランドガイドラインについての詳細は以下の記事で解説している。

BtoBでのブランディングデザインの本質|ビジネスの成果につなげるポイントは?

 

まとめ

 

ブランド提供価値の規定 「Make work life simpler, more pleasant and more productive(ビジネスライフを​よ⁠り⁠シ⁠ン⁠プ⁠ル⁠に⁠、​よ⁠り⁠快⁠適⁠に⁠、​よ⁠り⁠有⁠意⁠義⁠に​)」を掲げ、シンプルで快適、そして生産的な働き方をブランド提供価値として規定
ブランド・コミュニケーション
  • オウンドメディアに注力し、ブランド提供価値に沿って、顧客が知りたい情報を発信を継続
  • 連携できるサービスのキーワードに絞ったSEO施策で、間接的にブランドメッセージを感じてもらう仕掛け
ブランド・アクティベーション
  • 顧客にロイヤルカスタマーになってもらうべく、実際の声をサービスへ反映
  • その収集、拡散ツールとしてTwitterを活用
  • オフラインイベントで、ブランド提供価値を体験
ブランド・マネジメント ブランドガイドラインを明確に定義、公開し、グローバルでも一貫したメッセージが発信できる仕組み

参考:

Slack ブログ

Peek Inside Slack’s Multi-Million Dollar SaaS Growth Strategy

Slack創業者が語る、壮大なローンチ戦略(2/2)

Brand Guidelines

Slack 公式X

Slack 2023 Case Study

ブランディング事例のまとめ

 

3.事例から学ぶ、自社に活かすためのブランディングの重要ポイント

紹介した事例から、ブランディングを実施するうえで重要なポイントを整理していこう。

 

ポイント1.BtoBでもビジョンが差別化になる

 

デジタル化などが進み、プロダクトでの差別化が難しくなっている。

そこでBtoB企業でも、企業の存在意義や自社がどのように社会課題を解決しているかを発信し、共感してもらうことが重要だ。

例えば、サイボウズの事例では、社会課題である「働き方」についてブランド・コミュニケーションを粘り強く実施してきた。

その結果、成熟市場であるグループウェア市場でも「ビジョン」で明確な差別化ができている。

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エンタープライズ企業の多くは、何かしらのグループウェアをすでに導入している現状です。

そうなると機能性の違い、価格の安さ、使いやすさなどの訴求軸では差別化できません。

そこで、重要な訴求軸がビジョンです。

サイボウズが、どのような社会課題を解決するためにグループウェアを作っているのか。

いまのグループウェア市場で言えば、製品性よりも開発企業の目指す方向性に共感して、プロダクト選びをする方々が増えてくるのでは、と思っています。

引用:BtoB企業にブランドプロモーションはおすすめか?サイボウズがブランドに投資する経営上の理由

““““““

また当時セールスフォース・ドットコムの常務執行役員CMOの鈴木祥子も次のように述べている。

““““““

プロダクトでの差別化だけでは競争力が弱いから、企業の存在意義でもメッセージを発信する必要性が高まり、「パーパス・ドリブン」が重視されているのだと思います。

引用:「Why」が問われる時代。“パーパス・ドリブン”なブランディングが必要な理由

““““““

つまり、自社の社会課題解決への取り組みや存在意義をメッセージにして発信し続けることが、他社との違いを作り、自社が選ばれる要因の一つとなっている。

 

ポイント2.短期での数値成果ではなく、長期での行動変容を目指す

 

今回紹介した企業は、オウンドメディアやnoteといった媒体で継続的に情報を発信している。

ここだけを切り取ると「ではオウンドメディアをやろう!」という流れになりかねないが、そう簡単な話ではない。

““““““

サイボウズの企業ブランディングの取り組みにおいて、実は「数値目標はあまり置いていない」と大槻氏。

一番大事なのは、社会的反響を確認し、自社が社会からどう認知されているのかを定性的に観察することのようだ。

引用:【イベントレポート】企業ブランディングの創り方 ―サイボウズの事例に学ぶ、”社会浸透するブランディング”の5つの実践ステップ

““““““

つまり、数字として回収できるか不明なところに数年単位の投資が可能であるか、それを継続し続けられるか、という覚悟が重要だ。

短期的成果は求めず、顧客を深く理解し、顧客に役立つ情報をブランド提供価値に沿って発信し続ける決断をした本事例の企業は、前述の差別化やインバウンドでの集客や受注につながっている。

 

ポイント3.ブランディング専属の人材・組織の存在

 

長期視点で情報発信をし続けるためには、ブランディングをする専属の人材や組織を作ることが重要だ。

ブランディングでは、ブランド提供価値の規定からブランド・マネジメントまで、全社を巻き込んだ活動や一貫した発信・体験の設計が大切だ。

しかし、これらをやり切るには、膨大なリソースが必要となる。

つまり、効果的にブランディングを進めるには、専属の部隊が必須だ。

実際、今回紹介した企業の多くが、ブランディングを行う部署を持っている。

会社によっては、デザインやマーケティング、広報など、目的を同じにするものを統合して組織化するところもある。

SmartHRでは、ブランディング統括本部を組織再編した意図として次のことを挙げている。

““““““

達成したいことはすべて「ブランディング」と一貫しています。

今回の組織変更によって、同じ目的を持って動く1つの大きな組織をつくり、近い目的を持つユニット同士が連携しやすい体制に変更します。

引用:マーケティングとコミュニケーションデザインを担う、新しい組織をつくります

““““““

以上より、本気でブランディングを行うためには、ブランディングを最上の目的とした組織を作り、長期視点でやり切る体制を整えることが重要といえるだろう。

 

ポイント4.一貫したメッセージをさまざまなチャネルで発信する

 

これらをやり切っても、いつかは壁にぶつかる。

実際、サイボウズでも次のようなことがあったようだ。

““““““

一つの伝え方では限界があるのも事実です。

サイボウズ式は月間20万PVでぴたっと数字が止まりました。

それ以外の動画やCM、本といった媒体にはそれぞれファンがいますから、例えば本なら「本好き」に届けるためのメッセージ、あるいは伝えたいメッセージに合った媒体を考えていくのがいいのではないでしょうか。

引用:【イベントレポート】企業ブランディングの創り方 ―サイボウズの事例に学ぶ、”社会浸透するブランディング”の5つの実践ステップ

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つまり、一つの媒体やチャネルでは天井があるため、ほかの媒体でも情報を発信する必要がある。

実際、サイボウズだけではなく、今回紹介した多くの企業が複数媒体で積極的に情報発信を行っている。

ただし、獲得したいブランドイメージを形成するためには、ブランドメッセージが一貫していることが重要だ。

ブランドメッセージや扱うテーマを統一したまま、各媒体ごとに伝えることを「編集」し、それぞれの顧客に届けることを意識しなければならない。

 

ポイント5.ブランド・アクティベーションへの取り組み

 

ブランディングは単なる認知拡大ではない。

顧客自身が自社を選び続ける、つまり「行動を起こしてもらう」ことが重要だ。

つまり、ブランド・コミュニケーションだけではなく、ブランド・アクティベーションの設計も必要だといえる。

例えば、サイボウズの自社の業務改善の発信、Sansanの「出会い」を感じるビジネスイベント、Slackの未来の働き方を感じるブースのように、行動や継続使用につながる仕掛けも合わせて設計するとよいだろう。

「どの顧客接点で、どういった体験をし、どのように感じ、どう行動するか」といった顧客体験の全体像を設計しよう。

具体的には、ブランドをベースにしたカスタマージャーニーの作成などが挙げられる。

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体験価値を設計するとは、この工程すべてについて戦略を持ち、どのタイミングでどの顧客接点を通じてどのような情報を得てもらいたいのかという明確な意図を持って、各施策を打ち出すことである。(中略)

そのために活用できるフレームワークが、カスタマージャーニーである。

引用:<第4回>ブランディングとは何をすることなのか~4つのブランディング領域と企業事例
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ただし、ブランディングは、マーケティングにおけるカスタマージャーニーとはやや異なる点に注意してほしい。

カスタマージャーニーは「次の行動を促すこと」だけではなく「自社をどのように知覚してもらうか」「どうすればビジョンに共感してもらえるか、好きになってもらえるか」という視点も設計することがポイントだ。

なお、カスタマージャーニーについての詳細は以下の記事で解説している。

ブランディング戦略の構築・実践9ステップを徹底解説

ブランディングのポイント

 

4.まとめ

 

BtoBブランディングの成功事例を5つ紹介してきた。

BtoCだけではなくBtoB企業においても、ブランド構築はもはや「あれば良い」ものではなく、企業の持続的な成長に不可欠だ。

ただし、ブランディングは、一朝一夕に成果が出るものではない。

今回紹介した企業も、試行錯誤を繰り返しながら、長期的な視点でブランド構築に取り組んできた。

重要なのは、自社のブランド提供価値を明確化し、それを顧客や社会に伝え続けること。

そして、顧客との接点におけるブランド発信や体験を設計し、改善を続けていくことだ。

 

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