レッドオーシャンになりがちなBtoB IT市場では、競合との差別化が成長と生存のカギを握る。
しかし、成熟した市場において差別化は容易ではない。
そこで着目すべきなのが「コアコンピタンス」だ。
コアコンピタンスを正しく理解し、自社の戦略に盛り込むことで、競合との差別化が可能となる。
本記事では、マーケ施策に差別化や競争優位性をもたらす「コアコンピタンス」の使い方を解説する。


目次
1. BtoB IT企業が直面する“差別化”の壁
近年、BtoB IT市場では、製品やサービスの差が見えにくくなっている。
その結果、顧客からは「どれを選んでも大差ない」と感じられやすい。
つまり差別化が非常に難しいのだ。
1.1.差別化はなぜ難しいのか
差別化が難しい理由としては以下が挙げられる。
理由1:機能面での進化が一定の水準に達した
SaaSなどの業務系ITソリューションでは、各社の技術力や製品設計が成熟してきており、めぼしい機能は出そろっている。
顧客にとっての「必要十分」はどの製品にも搭載されているため、細かい違いは判断材料となりにくい。
理由2:「柔軟性」や「対応力」が共通の訴求軸になっている
多くの企業が「柔軟なカスタマイズ対応」「手厚いサポート体制」「業界特化型のテンプレート」といった類似の強みを掲げている。
言っていることがどの企業も似ており、顧客にとっては違いが見えにくい。
理由3:選定基準が“価格”や“導入スピード”に寄りがち
機能や対応力で差がつかないと「価格」「初期導入コスト」「スピード感」などが比較軸になりやすい。
その結果、安さ勝負・早さ勝負に巻き込まれることになる。
1.2.「伝わらない強み」が営業とマーケティングを苦しめている
差別化がしづらい環境下では、プロダクトの価値が正しく伝わらず、以下のような問題が起こりやすくなる。
- 資料やデモで良さを示しても、競合との違いが伝わらない
- 比較検討フェーズで脱落しやすくなる
- 価格や契約条件でしか選ばれなくなる
たとえ自社にしかない強みがあっても、それが顧客に伝わらなければ選ばれる理由にはならない。
営業やマーケティングの現場では「良いサービスなのに勝てない」状態が続き、打ち手が見えにくくなる。
1.3.多くの企業が「強み」を表面的に捉えている
差別化に悩む企業の多くは「自社の強みは技術力です」「サポートに自信があります」といった曖昧な表現を使っている。
競合も同じような内容を語っていることが多く、差別化要素として機能しにくい。
本当に伝えるべきなのは「なぜ自社の技術が優れているのか」「どのようにサポート体制を作り上げてきたのか」といった具体的で構造的な価値だ。
2. コアコンピタンスで「強み」を定義する
明確で強力な差別化のためには、自社が持つ“見えにくい強み”を言語化し、競合に真似できない形で整理していこう。
つまり「差別化の核」を見つける必要がある。
この核が「コアコンピタンス」だ。
2-1. 「自社固有の核」コアコンピタンス

コアコンピタンスとは「自社の成長を支えている中核的な強み」のことだ。
以下のような、企業に深く根づいた知見・仕組み・文化・人材などが含まれる。
- 特定業界に特化したシステム設計ノウハウ
- 高い運用サポート体制
- スピーディーな開発体制
2.2.ケイパビリティを考慮し「強みの文脈」まで踏み込む
これらは一見すると“普通の強み”に見えるかもしれない。
しかし、その裏にある「ケイパビリティ(組織的な構造や社内の風土に支えられた実行力)」まで踏み込むことで、本質的な価値が見えてくる。
- 特定業界に特化したシステム設計ノウハウ
顧客の業務構造を深く理解し、業界特有の課題に対して標準機能以上の提案ができる力。 - 高い運用サポート体制
単なる問い合わせ対応にとどまらず、定着支援や改善提案まで含めた一気通貫のサポート。 - スピーディーな開発体制
社内連携や開発プロセスの最適化によって、競合よりも短期間で高品質な成果物を提供できる組織的能力。
ケイパビリティとは「実行力」や「組織的な遂行能力」を意味する。
たとえば、開発スピード、サポートの対応力、マーケティング施策の推進力などが該当する。
コアコンピタンスは、これらケイパビリティの束を通じて発揮される価値だ。
つまり、コアコンピタンスが「主」、ケイパビリティは「従」の関係にある。
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
項目 | コアコンピタンス | ケイパビリティ |
定義 | 競争優位の源泉となる「自社固有の強み」 | コアコンピタンスを発揮するための「組織の実行能力」 |
性質 | 資産・ノウハウ(主に戦略的) | 仕組み・体制・プロセス(主に実務的) |
例(BtoB IT企業の場合) | – 特定業界での深い業務知識とテンプレート資産- 現場主導の業務改善を可能にするノーコードツール | – 専任業界担当による提案・開発- 導入後のオンボーディング体制- 顧客課題に応じた提案資料作成プロセス |
コアコンピタンスは「何がその企業を唯一無二たらしめているか」を示し、ケイパビリティは「それをどう実行・再現しているか」を支える要素群といえる。
3.コアコンピタンスの再定義に使えるフレームワーク
コアコンピタンスを見極めるためのフレームワークとしては「3C分析」や「SWOT分析が」が有名だ。
確かにこれらは有用なフレームワークだが、分析の粒度が荒くなることもある。
そこで、より実用的なフレームワークとして以下の3つを紹介する。
- VRIO分析
- 「顧客」「競合」の2軸で整理する
- ケイパビリティ・マップ
3-1.VRIO分析
VRIO分析は、自社の持っている「強み」や「資源」が、競合と差がつく本物の強み(=コアコンピタンス)になり得るかどうかを判断するためのフレームワークだ。
以下4つの視点すべてに「YES」と答えられるものが、差別化の核となりうる。
Value(価値)
その強みは、顧客にとって価値があるか?
「すごい技術」や「高機能」であっても、顧客の課題解決や成果につながっていなければ、それは“強み”ではない。
例:「導入が早い」「使いやすい」「業務の手間が減った」など、お客様から“助かった”と言われているかを確認する。
Rarity(希少性)
その強みは、他社も持っているものではないか?
競合が同じようなことをしているなら、差別化にはならない。
例:「特定業界に精通したノウハウ」「業務に深く入り込む支援体制」など、自社ならではのユニークさがあるかを見極める。
Imitability(模倣困難性)
その強みは、簡単に真似されないか?
設備や機能はあとから真似されやすいが、企業文化・人材・蓄積された知見のような“時間がかかる資産”は再現されづらい。
例:「経験を積んだスタッフによる対応」「部門横断で動く仕組み」など、再現性の裏に“仕組み”があるかがポイント。
Organization(組織)
その強みを、組織として継続的に発揮できているか?
属人的な対応ではなく、誰が対応しても一定の品質で成果を出せる体制になっているかを確認する。
例:「CSと開発が常時連携している」「提案・開発・運用の流れが社内で型化されている」など、組織全体で支えているかが鍵となる。
3-2.2軸からマップで整理する
よりシンプルな方法としては、自社の強みを「顧客」と「競合」の2軸で整理するものがある。
たとえば、縦軸に「競合との違い」を、横軸に「顧客への価値提供」を据えて「真の強み」を発見する方法だ。
まずは以下のように軸を定義する。
- 縦軸:競合との違い(=希少性)
他社でも同じようなことをしていないか?真似されやすくないか? - 横軸:顧客への価値提供度
顧客の業務改善・成果・満足度に直結しているか?
さらに、自社が「強み」として認識している項目をいくつか書き出して、1つずつマッピングしていく。
たとえば「短納期対応」「業界特化の支援ノウハウ」「スムーズな導入支援」「柔軟なカスタマイズ性」などだ。

評価の目安
マップが完成したら、書き出した強みを評価していく。
- 右上(価値が高く、競合と差がある)
真のコアコンピタンス候補。営業やコンテンツの訴求軸にすべき要素。 - 右下(価値は高いが、競合も同じことをしている)
訴求に使う際は、他社との違いをさらに深掘り・言語化する必要がある。 - 左上(珍しいが、顧客にとってそこまで重要ではない)
面白さはあるが、売上や成果には直結しにくい。ブランディングなどで活用可能。 - 左下(競合もやっていて、顧客の反応も弱い)
差別化要素としては優先度が低い。
このようにマッピングすることで、複数ある「強み候補」のなかから、本当に伝えるべき中核的な強みが見えてくる。
単に「自社らしい」だけではなく、「顧客に響くか」「他社と違うか」という視点で整理していこう。
3-3.ケイパビリティ・マップ(能力一覧)
ケイパビリティ・マップとは、自社が持つ組織的な業務遂行能力を一覧にし、コアコンピタンスの裏付けとなる“実行力”として整理するためのフレームワークだ。
端的にいえば、社内に点在する「できること」を整理する。
企業には、日々の業務のなかで自然と培われてきたさまざまな能力がある。
たとえば「早期導入」「課題ヒアリング力」「エンジニアとの連携体制」など、現場では当たり前に使われているスキルや連携も、外から見ると価値ある実行力の可能性が高い。
ケイパビリティ・マップの作成ステップ
- 業務領域ごとに“できていること”を棚卸しする。
営業部門なら「業界別ニーズの翻訳力」、開発部門なら「他部署との非同期連携プロセス」、CS部門なら「導入後のオンボーディング施策」など。 - それが“顧客にどのような価値をもたらしているか”を評価する。
顧客満足、継続率、業務改善インパクトなどとの関連を明らかにする。 - コアコンピタンスに紐づく要素を抽出する。
単なる業務能力ではなく「競合との差を支える力」に該当するかを見極める。
部門 | 能力(ケイパビリティ) | 顧客への価値 | コアコンピタンスとの関係 |
営業 | 導入前業務フローの可視化力 | 導入前の懸念解消・説得材料 | 初期提案精度の高さを支える |
CS | 業務現場への定着支援ノウハウ | 活用率・継続率の向上 | 長期的な成果保証体制の根幹 |
開発 | 顧客フィードバックの即時反映体制 | 機能改善サイクルの速さ | 開発・運用一体型文化の裏付け |
ケイパビリティ・マップは、コアコンピタンスが「どう実現されているか」の根拠を示すものだ。
経営・マーケ・営業の全員が「どこが強みで、なぜそう言えるのか」を共有するための土台として活用できる。
4. コアコンピタンスの定義と活用ステップ
ここからは、コアコンピタンスを定義し、マーケ施策に落とし込む具体的なステップを解説する。
- 散逸した情報を集める
- コアコンピタンスを定義する
- コアコンピタンスをポジショニングステートメントに落とし込む
- コンテンツ戦略に落とし込み “伝わる価値”へ変換する
4-1. ステップ1.散逸した情報を集める
まずは材料集めだ。
社内に散逸する定性・定量情報を収集しよう。
定性情報①:社内ヒアリング
定性情報としておすすめなのは「社内ヒアリング」および「顧客インタビュー」の情報だ。
まずは営業、開発、サポートといった他部門に対してヒアリングを行い、「お客様に評価されたポイント」や「継続利用・再契約につながった理由」などを収集しよう。
- 営業には「他社と比較された際に勝てた理由」
- カスタマーサクセスには「運用フェーズで感謝された点」
- 開発には「なぜこの仕様で顧客が納得したのか」
上記のような質問により、表には出にくい自社の価値が見えてくる。
定性情報②:顧客インタビュー
顧客インタビューで得られる“選ばれた理由”も有益な情報源だ。
特に「導入決定の背景」や「選定理由」に焦点を当てると、自社の競争優位性が顧客目線で可視化される。
- 導入前の懸念と、それをどう払拭できたか
- ほかの検討候補になく、自社に存在する魅力とは何か
- 導入後のサポートや運用面で特に助かったこと
顧客インタビューでは、自社の“当たり前”が顧客にとっての差別化要素であることに気づくケースも多い。
定量情報
定量情報としては、社内の各システムや分析ツールによる情報、競合調査の結果などを用いよう。
- CRM/SFAツールでの顧客情報管理
「なぜ契約に至ったか」「失注理由」などを可視化 - BIツールでの定量分析
「導入までのリードタイム」「業界別商談化率」などを可視化 - 競合調査データのストック
機能比較表、価格、営業資料などを一元管理
4-2.ステップ2:コアコンピタンスを定義する
情報収集が完了したら、前述のフレームワークに従ってコアコンピタンスを定義する。
3つのフレームワークを複合的に活用しよう。
たとえば、
- ケイパビリティ・マップで組織的な能力を一覧として整理する
- 整理した結果をVRIO分析で一つひとつ吟味する
- 「顧客」と「競合」の2軸から整理し、真のコアコンピタンスを見つけ出す
というステップを踏むと、自社が持つ本当の強みを特定しやすい。
4-3.ステップ3:コアコンピタンスをポジショニング・ステートメントに落とし込む
コアコンピタンスは、定義して終わりではない。
実際のマーケ施策に組み込んでこそ「差別化」が実現される。
そのためには、コアコンピタンスを「ポジショニング・ステートメント」に置き換える必要がある。
ポジショニング・ステートメントとは「自社の製品・サービスが、誰に対して・どのような価値を・なぜ提供できるのか」を明確に示す文章のこと。
単に「機能」や「導入実績」を並べるだけでは、競合との差は伝わらない。
コアコンピタンスが、顧客の課題・期待をどう満たすかを言語化しよう。
【具体例】
顧客インサイト | 自社の強み(コアコンピタンス) | ポジショニング要素 |
導入は時間もコストもかかる | 最短3ヶ月で導入できる導入体制 | 「短期導入で業務改善がすぐに始められるITツール」 |
自社業務にフィットしないツールは使いづらい | 業界別テンプレートの提供 | 「業界ごとに最適化されたITソリューション」 |
導入後の運用が不安 | 専任サポート体制・導入後オンボーディング | 「導入後も現場に寄り添うサポート体制」 |
ポジショニング・ステートメントを策定に使える技法
ポジショニング・ステートメントの作成では、以下のような技法を活用できる。
実践的な表現技法
技法 | 具体例 | 活用シーン |
数字・実績 | 「導入社数〇〇社」「継続率99%」「業界シェアNo.1」 | LP・広告・導入事例ページ |
具体事例 | 「A社では導入後3ヶ月でマニュアル作業を90%削減」 | ホワイトペーパー・事例記事・営業資料 |
比較データ | 「他社平均導入期間6ヶ月 → 当社3ヶ月」 | LP・提案資料の差別化ポイント |
顧客の声・レビュー | 「導入後、現場から“これなら自分たちで改善できる”という声が出た」 | オウンドメディア記事・提案資料 |
ビフォーアフター表現 | 「導入前:手作業で月100時間 → 導入後:10時間」 | 成果訴求ページ・広告バナー |
4-4.ステップ4:コンテンツ戦略に落としこみ “伝わる価値”へ変換する
ポジショニング・ステートメントが明確になったら、具体的な記事・広告・資料などへ組み込む。
提供価値を一言で表す
まずは「何を、どう提供するのか」を、できるだけシンプルな言葉で示す。
「製品名」や「機能」だけではなく、提供体制・成果・顧客のメリットも含めて表現することが重要だ。
例:
×「業務管理ツールを提供」
○「現場主導で定着する業務管理ツール。導入から1ヶ月でチーム運用を実現」
顧客の不安や不満をねらい打つ
次に「誰に向けた価値なのか」「どのような悩みを解決するのか」を明確にする。
“なぜそれが必要なのか”を、顧客視点の言葉で補足することで、共感と説得力が生まれる。
例:
「現場への定着が進まず、形だけの導入になってしまう」
「属人化が進み、業務改善の効果が持続しない」
「だからどう良いのか?」を一言でベネフィットにする
最後に、「その価値を得るとどうなるのか」を、端的なベネフィットとして言い切る。
ここでは結果(成果)や未来(状態)を具体的に描くと効果的だ。
例:
「導入から1ヶ月で、全社レベルでの業務共有が可能に」
「属人化から脱却し、誰でも業務を引き継げる仕組みに」
「定着率90%以上。ITリテラシーに関係なく使える設計」
5.競争優位性の確立はコアコンピタンスから
本記事では、差別化の根底にあるコアコンピタンスについて解説してきた。
持続的な競争優位を築くためには「中核的な強み=コアコンピタンス」に立ち返ることが不可欠だ。
現場へのヒアリングや顧客インタビューを通じて自社の強みを可視化し、VRIO分析やコアコンピタンス・マトリクスを活用して「差がつく強み」を見極めよう。
さらに、抽出された強みをポジショニング・ステートメントとして言語化し、記事・広告・営業資料などのコンテンツに落とし込むことで、顧客にとって伝わる差別化を実現できる。
弊社では、コアコンピタンスをマーケ施策に落とし込んだうえで、戦略的な施策立案をサポートしている。
ご興味があれば、ぜひお気軽にお問合せいただきたい。

