MAツールは、自社の商品やサービスを検討する見込み顧客との接点を継続的に構築し、商談へとつなげる仕組みを実現できる支援ツールだ。
Webサイトや展示会での名刺登録・アクセス解析など、さまざまな情報を蓄積・解析しながら、ユーザーの関心度合いやニーズに合わせたコミュニケーションを行える点に強みがある。
さらに重要なのは、これらの機能がナーチャリング施策を継続的に回すエンジンとなることだ。
メルマガ配信やWebページ閲覧履歴のトラッキングを通じて得られたデータを基に、見込み顧客を段階ごとにリスト化し、ペルソナや目的に沿ったアプローチを行える。
これにより、「情報収集の段階」にいる潜在層から「商談直前の有望案件」に至るまでを、精度高く抽出・選別することが可能となる。
MAツールは単なるオートメーションではなく、属人的な運営による失敗を防ぎ、社内外のナーチャリング施策を最大限に活かす仕組みと言える。
継続的な関係構築と商談化の可能性を高め、成功事例の再現に役立てていこう。
1.MAツールの概要とメリット
まず、MAツールの概要とメリットを簡単に説明する。
なお、MAツールの定義や詳細については、下記の記事も参考にしてみてほしい。
MA(マーケティングオートメーション)ツールとは、企業のマーケティング活動を効率化・自動化するためのツールだ。
MAツールの役割としては、リード(見込み顧客)の獲得、育成(ナーチャリング)、購買意欲の評価(スコアリング)、成果の分析と可視化などがある。
特にナーチャリングにおいては、メルマガやサイトの閲覧履歴をもとに顧客ごとの関心度合いを把握し、段階的に信頼関係を構築して商談につなげる点が重要だ。
デジタルマーケティングにまつわる種々のタスクを、自動化を織り交ぜながら効率よく実行できることがMAツールの強みである。
ナーチャリング施策をどのように設計すべきかについては、ナーチャリング設計の解説記事もあわせて参考にすると理解が深まる。
1.1.MAツールのメリット
MAツールのメリットは以下3つだ。
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- マーケティング活動の見える化と効率化
- ホットリード化の促進
- 購買プロセスへの貢献
MAツールは、マーケティング活動の「見える化」と「効率化」に貢献する。
「手を動かすタスク」の多くを自動的に実行し、マーケティング施策の立案など「思考」が必要なタスクのリソースを増やすことができる。
また、ホットリード化とは「購買意欲が高いリード」を育成することである。
MAツールは、見込み顧客に対して段階的に適切な情報提供を行い、購買意欲を高める仕組みを提供できるためだ。
さらにMAツールは、リードを営業部門に引き渡すタイミングの判断にも貢献する。
マーケティングが育成したリード(MQL)から、営業が担当するリード(SQL)への移行がスムーズに進むことで、「購買意欲が低いリード」に無駄な時間を費やすことを防ぐ。
1.2.MAがナーチャリング施策に欠かせない理由
MA(マーケティングオートメーション)ツールは、単なるマーケティング活動の効率化や自動化にとどまらない。
最大の価値は、顧客データを活用しながらナーチャリング施策を継続的に実行できる点にある。
Webサイト閲覧履歴やメルマガ開封データ、展示会で取得した名刺情報などを統合・解析することで、見込み顧客の関心度や購買意欲を数値化し、段階に応じたアプローチを行うことができる。
これにより、「今すぐ検討中の顧客」と「将来有望な潜在顧客」とを精度高く選別し、適切なコミュニケーションへとつなげられる。
もしMAを活用しなければ、ナーチャリングは属人的で断続的な活動にとどまり、施策の効果検証や再現性は大きく低下してしまう。
言い換えれば、MAツールはリードを商談に押し流すポンプとして機能し、企業のマーケティング施策と営業活動を結びつけるための不可欠な存在とも言えるだろう。
2.MAツールの主要な機能
次に、実際にMAツールでできることを機能ベースで詳しく見ていこう。
MAツールの基本機能一覧表
| カテゴリ | 概要 |
|---|---|
| リード管理 | 見込み顧客情報を一元管理し、ステータスやアクティビティを追跡。 |
| リードスコアリング | 行動や属性に基づきリードをスコア化し、購入意欲の優先順位を明確化。 |
| リードナーチャリング | 顧客の購買意欲を育てるための情報提供を自動化。 |
| シナリオ機能 | 見込み客が成約に至るまでの行動を予測し、アプローチを自動化。 |
| メールマーケティング | 見込み客や既存顧客に効率的にメールを配信。 |
| ウェブトラッキング | ウェブサイトの訪問状況を追跡し、興味関心を具体的に把握する。 |
| ランディングページ作成 | キャンペーン用のページやフォームを簡単に作成。 |
| キャンペーン管理 | マルチチャネルのキャンペーンを一元管理。 |
| 分析とレポート機能 | マーケティング活動の結果を可視化し、改善点を特定。 |
| CRM連携 | 購買履歴と購買プロセスのデータ共有 |
| SNS連携 | ソーシャルメディアを活用したマーケティング活動を支援。 |
2.1.リード管理機能
リード管理機能では、見込み顧客(リード)の情報を一元管理し、ステータスやアクティビティ(行動履歴)を追跡・記録する。
リード情報のデータベース化により、属性情報(業種や役職など)や過去の行動履歴(例:ウェブサイト訪問やメール開封状況)を記録し、リードの全体像を把握できる。
2.2.リードスコアリング機能
リードスコアリングは、リードの行動や属性に基づいてスコアを付与し、購買意欲の高いリードを特定する機能だ。
行動スコア(例:メール開封やクリックなど)や属性スコア(例:業種や役職など)を測定し、独自の評価基準によってスコアリングできる。
この機能により、優先的にアプローチすべきリードを特定しやすくなり、リソースの最適配分にも貢献する。
2.3.リードナーチャリング機能
リードナーチャリングでは、リードに対して適切なタイミングで情報提供を行い、購買意欲を高めるプロセスを自動化する。
メールキャンペーンやトリガーメールの自動送信、セグメント別のターゲティング、パーソナライズされたメール配信を通じて、リード育成を効率化できる。
2.4.シナリオ機能
シナリオ機能は、リードが滞在している購買プロセスのフェーズに応じて、最適なアクションを自動で実行する機能だ。
例えば「オウンドメディアから資料をダウンロードしたリードには、セミナーの案内メールを送る」という具合に、特定の行動に対してアクションを設定できる。
リードの購買プロセスをシナリオに落とし混む作業が必要だが、うまく機能すれば自動的に問い合わせやセミナー参加の数を増やせる。
リードナーチャリング機能と一体化していることもある。
2.5.メール作成・配信機能
メール作成・配信機能は、見込み客や既存顧客に対して、適切なメールを作成・配信するための機能だ。
一括配信機能やA/Bテスト機能を活用し、メールの開封率やクリック率を分析することもできる。
2.6.ウェブトラッキング機能
ウェブトラッキング機能では、ウェブサイト上におけるリードの行動を可視化できる。
滞在時間や訪問回数、どのコンテンツを参照したかなどが把握できるため、リードの興味や関心を掘り下げることに役立つ。
また、特定ページの訪問をトリガーとして案内メールを送信するなど、次のアクションを設定することも可能である。
2.7.ランディングページ作成機能
ランディングページ作成機能では、コーディング不要でキャンペーン用のページやフォームを作成できる。
いくつかのテンプレートが用意されており、簡易的なページであれば数十分で完成させることも可能だ。
また、ドラッグ&ドロップによるデザインや、分析機能と連動したコンバージョン率の測定なども実施できる。
2.8.キャンペーン管理機能
キャンペーン管理機能では、メール、ウェブ、SNSなど複数のチャネルを活用したキャンペーンを一元管理できる。
スケジュール設定やキャンペーン内容の確認、進行状況の管理をサポートする。
また、キャンペーンごとのROIを測定できるツールもある。
2.9.分析とレポート機能
分析とレポート機能は、KPI(例:クリック率やコンバージョン率)の可視化、カスタムレポートの作成、セグメント分析により、施策の成果を具体的に把握し、最適化を図ることができる。
2.10.CRM連携機能
CRM連携では、購買履歴や購買プロセスに関するデータを共有する。
リード情報の同期や滞在ステージの更新作業を自動化し、顧客化したあとのデータをマーケティングに活かすことができる。
また、重要なアクションがあれば営業やカスタマーサポートにアラート通知を送ることができる。
2.11.SNS連携機能
SNS連携機能は、投稿スケジュールの管理、エンゲージメントの測定、SNS広告のROI追跡を行い、SNSを活用した施策の効果を最大化することができる。
3.MAツールの活用を業務目線で解説
続いて、「業務目線」からMAツールでできることを整理していく。
ここでは「MAツールで何ができるか」「業務がどう変わるか」を整理する。
3.1.業務目線でのMAツールの効果一覧
| 現在の課題(導入前) | MAツールでできること | 業務がどう変わるか |
|---|---|---|
| リード情報がExcelや個別システムで管理され、煩雑になっている。 | リード情報を一元管理し、属性や行動履歴を簡単に把握。 | 情報が一箇所に集約され、誰でも簡単にリードの状況を確認可能。情報の抜け漏れや重複が減り、管理が効率化。 |
| 優先すべきリードが分からず、効率的に動けない。 | リードスコアリングで、購入意欲の高い顧客を特定。 | スコアに基づき優先度が明確化され、営業が高確度リードに集中できる。無駄なフォローを減らし、成約率が向上。 |
| メール配信が手作業で、送信時間や内容の最適化が難しい。 | メール配信の自動化やA/Bテストで、効率的かつ効果的なキャンペーン運用が可能。 | 一度設定すれば、自動でメールを送信できるため手間が大幅削減。開封率やクリック率をテストし、成果を最大化することための改善案が立てやすくなる。 |
| ウェブサイト訪問者の情報が収集できず、興味を持った顧客の把握が難しい。 | ウェブトラッキングで訪問履歴を追跡し、興味関心を把握。 | どの顧客がどの製品に興味を持っているかが分かり、アプローチが効果的に。訪問回数や行動から、ホットリードを早期に発見可能。 |
| キャンペーンごとにランディングページやフォームを作成するのに時間がかかる。 | ランディングページやフォームを簡単に作成し、コンバージョン率を測定。 | 数時間でページを立ち上げ可能になり、キャンペーン開始がスピーディに。コンバージョン率の改善ポイントが見つかりやすくなる。 |
| 各種マーケティング施策の成果が曖昧で、次のアクションが決められない。 | 分析レポート機能で、施策の効果を定量的に把握。 | 開封率、クリック率、コンバージョン率が視覚化され、成功要因が明確に。成果をもとに改善施策を素早く決定し、PDCAサイクルが短縮。 |
| 営業とマーケティングの連携が不十分で、リードの引き継ぎに時間がかかる。 | CRMと連携し、リード情報を自動で共有。 | ホットリードが営業に即時通知され、対応が迅速化。営業とマーケティング間の情報共有がスムーズになり、チーム連携が強化。 |
| SNSや広告キャンペーンの成果が不明確で、次回施策の方向性を決めにくい。 | ソーシャルメディアや広告のエンゲージメントを可視化。 | SNS投稿や広告の効果をリアルタイムで追跡可能。最も効果的なチャネルを特定し、次回施策のROIを最大化。 |
| 受注や契約後すぐに解約されるケースが多い。 | トリガー設定やパーソナライズメールで顧客と関係性を強化。 | 顧客の利用状況に応じて自動で適切なフォローが可能に。既存顧客からの解約を減らし、アップセルの機会を創出。 |
3.2.業務変化の具体例
最後に、MAツールによる業務変化の具体例について見ていこう。
ここで紹介する内容は、実際にMAツールを導入した企業の事例を要約したものだ。
ケース1:営業チームからの要請に対して迅速に対応できた
従来は、Excelでリード情報を手作業で整理し、属性や行動履歴を個別に確認する必要があった。
そこでMAツールを導入すると、リード情報が一元管理され、属性や行動履歴を瞬時に確認可能となる。
例えば、営業部門から「特定業種で購買意欲の高いリード」をリクエストされたときでも、検索や絞り込みで即座に情報を提供できるようになった。
マーケティングチームはリードの管理作業から解放され、戦略設計やナーチャリング施策の計画に集中できるようになる。
ケース2:改善ポイントを第三者に説明しやすくなった
従来は、施策の効果測定を感覚的な評価に依存して行っていた。
しかし、MAツール導入後はデータに基づく分析により、定量的な評価を得られるようになった。
メールの開封率やランディングページのコンバージョン率がリアルタイムで可視化されるため「次回はどの時間帯にメールを送るべきか」「フォームの入力項目を減らすべきか」といった課題に対して、具体的な改善策を立案できる。
また、改善案を上長や他部門に説明する場合の根拠が明確になり、予算の承認率も上がった。
3.3.実務担当者が感じる変化のポイント
以上の内容を総合すると、MAツールによって感じられる業務の変化は以下3つに集約される。
- 時間の節約
リード情報の整理や引き渡しにかかる時間が大幅に削減される。 - 的確な優先順位付け
購買意欲が明確なリードに集中できるため、売上への貢献度があがる。 - 成果の見える化
データを基に改善を繰り返し、マーケティングと営業活動の質を継続的に向上させられる。
3.4.MAを導入しただけでは成果は出ない
MA(マーケティングオートメーション)は多機能で強力なツールであるが、導入しただけでは成果につながらない。
運用体制やナーチャリング施策が整備されていないと、機能が十分に活かされず「ツールを持っているのに成果が出ない」という状態に陥る。
これはBtoBの現場でもよく見られる失敗であり、部署ごとの役割分担や顧客関係管理(CRMやSFAなど)との連携が不十分な際に顕著である。
そのため、社内の役割分担や活用ルールをあらかじめ整備し、マーケティング戦略全体の中でどのような手法やフローにMAを組み込むのかを明確にすることが不可欠である。

特に、リードの「選び方」や「点数(スコアリング)」の基準を明確に分け、会社全体の体制に合った仕組みを整えることが期待される。
3.5.MAで成果を左右する運用とナーチャリング施策
MA(マーケティングオートメーション)は運用不足のままでは機能が十分に活用されず、「ツールを持っているのに成果が出ない」という状態に陥るリスクがある。
そのため、社内の体制整備や継続的な改善が不可欠である。
特に成果を左右するのは、ナーチャリング施策の設計と実行である。MAは以下のシーンで効果を発揮しやすい。
| シーン | MAでできること | 得られる効果 |
| メルマガ配信 | 顧客の属性や行動に応じたパーソナライズメールを自動送信 | 開封率・クリック率を高め、効果的な接点を継続的に提供 |
| シナリオ配信 | 検討段階ごとに最適なコンテンツを届ける | 購買意欲を段階的に育成し、商談化率を向上 |
| 展示会フォロー | 名刺情報とWeb閲覧履歴を統合して追跡 | フォロー漏れを防ぎ、有望顧客を効率的に商談へ育成 |
これらの施策は、リードジェネレーションで獲得した新規リードをナーチャリングで育成し、最終的に営業案件へつなげるというBtoBマーケティングの基本フローと一致する。
MAの成果を最大化できるかどうかは、運用体制とナーチャリング施策の実行精度に左右される。
単なる自動化ツールとして使うのではなく、リードスコアリングやデータ分析を活用し、継続的に改善する仕組みとして運用することが成果創出の鍵となるだろう。
3.6.MAツールを活用したナーチャリング施策の進め方
MA(マーケティングオートメーション)ツールを成果につなげるためには、段階的なナーチャリング施策を設計し、実行することが重要である。以下に代表的な進め方を示す。

ステップ①:顧客データの一元化(名刺・Web登録・展示会リスト)
名刺、Webサイトからの登録フォーム、展示会リストなどの情報をMAに統合し、顧客データを一元管理する。これにより、属性や行動履歴を横断的に把握でき、施策の基盤へとつながる。
ステップ②:メルマガ配信で継続的に接点を持つ
定期的なメルマガを通じて顧客との接点を維持する。
MAを活用すれば、顧客の関心領域に合わせたパーソナライズ配信が自動化でき、関係構築を効率的に進められる。
リード広告やLP(ランディングページ)との連携で精度を高めることも可能だ。
ステップ③:シナリオ設計で「読み手の状態」に沿った情報提供
顧客が検討段階に応じて必要とする情報は異なる。
MAのシナリオ機能を用いることで、ホワイトペーパー、導入事例、比較表などを適切なタイミングで提供し、購買意欲を段階的に高められる。
これはカスタマージャーニー全体の中でどの情報を届けるかを整理する手順にもつながる。
ステップ④:行動データをスコア化して商談候補を抽出
メール開封やWebページ閲覧などの行動データをスコアリングし、購買意欲の度合いを可視化する。これにより、商談につながる可能性が高い顧客を自動で抽出できる。
特にSalesforceなどのSFAや顧客関係管理システムと連携すれば、アポイント獲得や請求管理まで一連のプロセスが効率化できる。
ステップ⑤:営業と連携してアポ・案件へつなげる
抽出したホットリードは営業部門と即時に共有する。MAとCRMを連携させることで、アポイント獲得から案件化までをスムーズにつなげ、部門横断的な成果を最大化できる。
BtoBの営業では特に営業とマーケティングの選定基準の違いを埋める点に役立ち、商談化率の向上に直結するだろう。
4.まとめ
本記事では、MAツールでできることを機能面・業務面の両方から解説した。
MAツールは、単に「作業を自動化するツール」ではない。
リードジェネレーションからナーチャリング、リードクオリフィケーション、営業連携までを一貫して支援するマーケティングオートメーション基盤であり、オフラインの展示会やイベント、オンラインのウェビナー、外部メディア連携など多様なチャネルと組み合わせて実践することで効果を高められる。
分析、可視化、データ共有などを通してコンテンツ設計やマーケティング施策の質を向上させ、2025年以降も競争力を高めるBtoB企業に不可欠なソリューションとして活用していこう。
