「SNSや展示会で集めた顧客情報を活用し、継続的にフォローしたい」「会員やお客様との継続的な関係を構築し、自社の商品やサービスの購買につなげたい」と考えるマーケティング担当者は多いだろう。
一方で、メールマーケティングは「とりあえず始める」「他社もやっているから」と目的が曖昧なまま実施されてしまうケースも少なくない。
顧客属性やニーズを把握せず、誰に対しても同じ内容を送り続けるような施策では、読者の反応が低く、CVRも上がらず、PDCAサイクルが機能しないといった“失敗”が発生しがちだ。
配信が形骸化し、ついには継続できずに施策そのものが途絶えてしまうケースも珍しくない。
こうした事態を防ぐためには、メールマーケティングの基本的な考え方をあらためて整理し、自社のマーケティング活動にどう活かせるかを明確にしておくことが不可欠だ。
手順の設計・目的に沿った配信条件の設定・有効なKPIの確認・コンテンツとの連携など、押さえるべきポイントは複数ある。
そこで本記事では、メールマーケティングの基本や種類を整理したうえで、具体的な実施ステップ、効果検証の方法、メールマーケティングとコンテンツマーケティングとの関係性などを紹介していく。
目次
1.メールマーケティングの基本とは
メールマーケティングとは、企業や団体が消費者や見込み客に対して「メール」で情報を提供して関係構築していくマーケティング手法だ。
製品やサービスの宣伝、顧客との関係構築、ブランドの認知度向上などさまざまな目的で使用され、目的に応じて活用するべきメールの種類は異なってくる。
「4章メールマーケティングの主な種類と活用法」を参照
顧客との1対1のコミュニケーションというよりも、マス(大人数)へのアプローチにおいてメールをうまく活用し、マーケティング・営業効率を高めることがメールマーケティングの本質である。
2.メールマーケティングが注目される背景
メールマーケティングはBtoC・BtoB問わず多くの企業が導入している。
その理由はコミュニケーション手段としての有益性が高いからだ。
特に、BtoB企業には店舗やECサイトといった販路がない分、顧客とのコミュニケーション手段は限られている。
昨今ではテレワークの普及により、対面の接点が減る、顧客のオフィスに電話をかけても不在であるといった状況が増えたことで、メールの利用価値が高まっている。
さらに、日本の労働市場は慢性的な人手不足に陥っており、1人の営業担当が何十・何百もの顧客を担当するケースも珍しくない。
そうした状況において、機会損失なく顧客へアプローチしていくために欠かせない手段がメールマーケティングである。
3.メールマーケティングのメリット、デメリット
メールマーケティングを実施する際は、メリットとデメリットを認識したうえで活用することが大切だ。
3.1.メリット
メールマーケティングのメリットは以下のとおりだ。
- 高いROI(投資収益率):メールマーケティングは比較的低コストで実施できるため、うまく活用すれば高いROIが期待できる。
- パーソナライゼーション・セグメンテーション:特定の顧客セグメントに対してパーソナライズされたメッセージを送ることが可能。
- 測定可能性と追跡性:開封率、クリック率、コンバージョン率など、多くの指標にもとづいて容易に測定および分析が可能。
これにより、マーケティング戦略の効果を追跡し、改善点を特定できる。
- 広範なリーチ:メールは特にビジネスにおいては欠かせないツールであり、送り先のメールアドレスさえ入手できれば例外なくコミュニケーションを取れる。
- 直接的なコミュニケーション:メールは企業と顧客の間で直接的なコミュニケーションを可能とする。
顧客との関係がより深まり、信頼とロイヤリティの構築につながる。
- タイムリーなコミュニケーション:メールを通じて、特定のイベントや締め切りに関連する情報を迅速に配信できる。
また、ユーザーの行動や特定の日付にもとづいて自動化されたメールを設定可能。
- コンテンツの多様性:メールマーケティングではテキスト、画像、動画など、さまざまなタイプのコンテンツを組み合わせることが可能。
受信者にとって魅力的で関連性の高いコンテンツを制作できる。
- 顧客エンゲージメントの向上:メールを通じて、顧客に教育的なコンテンツを提供したり、フィードバックを促したりすることで、エンゲージメントの向上につながる。
3.2.デメリット
一方、メールマーケティングには以下のデメリットもある。
どのようにデメリットをカバーできるか、対応の方針も含めて解説するため参考にしてほしい。
- オーバーコミュニケーション:企業が送るメールの量が多すぎると、受信者に無視されたり、メールリストからの購読が解除されたりするおそれがある。
顧客との信頼関係を築くためには、適切なメール配信頻度を考える必要がある。
- スパムの問題:送信したメールがスパム扱いされることがある。
配信に用いるツールにおいてSPF、DKIM、DMARCといった技術的な設定を行うことである程度は回避できる。
- 個人情報の取り扱いとプライバシーの問題:宛先を間違えるなどのミスが生じた場合、法的な問題や顧客の信頼損失につながるおそれがある。
個人情報の管理は厳重に行わなくてはいけない。
- 効果測定の限界:メールマーケティングそのものが、顧客のアクションにどれほど直接的に寄与したかを測るのは難しい。
ほかの施策と複合的に検証していくことが必要となる。
- リソースと時間の必要性:効果的なメールマーケティングキャンペーンを計画、実施、維持するには時間とリソースが必要。
特に小規模なビジネスにとっては負担となるため、計画性をもってリソースを用意することが求められる。
4.メールマーケティングの主な種類と活用法
代表的な6つメールマーケティング手法について、用途やターゲット、成功のポイントをみていこう。
手法 | 用途 | ターゲット | 成功のポイント |
メールマガジン | 定期的な情報提供、ブランディング | 保有リード全般 | 汎用的かつ魅力的なコンテンツ、定期的な配信 |
ステップメール | 教育プロセスを通じて顧客の検討フェーズを進める | 新規流入顧客、特定のアクションを取った顧客 | カスタマージャーニーの活用、明確なCTA |
セグメントメール(ターゲティングメール) | 特定の顧客セグメントへカスタマイズされたメッセージング | 業種、規模、行動、関心等で区分された顧客群 | 正確なセグメンテーション、関連性の高いメッセージング |
リターゲティングメール | ウェブサイトの訪問者や未完了の購買行動に再度アプローチ | サイト訪問者、フォーム離脱者 | タイムリーな配信、パーソナライズ |
休眠発掘メール | 長期間接点がない顧客の掘り起こし | 一定期間アクションのない顧客 | 強力な件名、インセンティブ、パーソナライズ |
メール広告 | 新規リード獲得 | リード化していない潜在顧客(ターゲット) | 適切なターゲティング、インセンティブ |
4.1.メールマガジン
- 用途:接点をもった顧客に、定期的に情報提供を行うことで、自社ブランドへのエンゲージメントを高める。
- ターゲット:自社が保有しているリード(顧客基盤)全般。
- 成功のポイント:自社の顧客層に幅広く関係する汎用性がありながら、トレンドを盛り込むなど魅力的なコンテンツを用意し、定期的に配信を行う。
4.2.ステップメール
- 用途:複数回のメールにより段階的な教育プロセスを提供し、顧客の検討意欲を高める。
- ターゲット:新規に流入した顧客や、Webサイト上で何らかのアクションを取った顧客。
- 成功のポイント:顧客のカスタマージャーニーを意識してメールのシナリオを組み立てる。
最終的なゴールを設定し、CTA(コールトゥアクション)を明確に設置する。
ステップメールについては以下の記事も参考にしてほしい。
4.3.セグメントメール(ターゲティングメール)
- 用途:特定の顧客セグメントごとにカスタマイズされた内容のメールを送信し、顧客の興味・関心を喚起する。
- ターゲット:業種、規模、行動、関心等で区分された顧客群。
- 成功のポイント:自社製品やサービスと親和性の高い(見込み度が高い)顧客像を分析し、それを忠実にセグメントへ落とし込む。
汎用的すぎず、ターゲットにとって関連性の高いメッセージを意識する。
4.4.リターゲティングメール
- 用途:Webサイトの訪問者や未完了の購買行動を起こしていた顧客に再度アプローチし、再訪問やコンバージョンの完了を促す。
- ターゲット:Webサイト訪問者、コンバージョンポイントのフォーム離脱者など。
- 成功のポイント:直前のWebサイト訪問から間を空けず、タイムリーに配信を行う。
閲覧していたコンテンツや起こそうとしていたアクションに応じて、パーソナライズされたメッセージを発信する。
4.5.休眠発掘メール
- 用途:長期間接点のない顧客へアプローチすることで、自社の存在を思い出させて再検討を促す。
- ターゲット:一定期間(半年間、1年間など)営業との接点やWebサイト訪問などがない顧客
- 成功のポイント:ほかのメールに埋もれない強力な件名(指名、期間限定など)を設定する。
再訪問を促すための魅力的なインセンティブを提示する。
直近のアクションに応じてパーソナライズされたメッセージを発信する。
4.6.メール広告
- 用途:外部メディアを通じて広告費を支払い、メールを配信して新規リードを獲得する。
- ターゲット:リード化していない潜在顧客。多くのメディアでは規模や業種、役職などでのターゲティングが可能。
- 成功のポイント:自社のマーケティング戦略に応じた適切なターゲティングを行う。
資料ダウンロード、無料セミナー、限定無料トライアルといった明確なインセンティブを用意する。
5.マーケティングにおける配信頻度と時間
メールの適切な配信頻度やタイミングは、メールの種類によって異なる。
以下は一般的なガイドラインだが、受信者からのフィードバックやエンゲージメントデータをもとに、それぞれのビジネスやオーディエンスに合わせて随時調整していってほしい。
手法 | 配信頻度・タイミング | ポイント |
メールマガジン | 週に1回から月に1回 | 毎週月曜日など、配信頻度を一定に保つことで顧客も意識しやすくなる |
ステップメール | 最初の数週間は2〜3日に1回、ステップ後半になるにつれて間隔を長くする | 何度かコンタクトを取っても反応がない顧客は見込みが薄いため、頻繁に連絡を取りすぎないようにする |
セグメントメール(ターゲティングメール) | 明確なルールはない | 顧客の興味や行動にもとづくため、一律のルールはない。そのセグメントにとってタイムリーな情報であることが重要 |
リターゲティングメール | 顧客のアクションから24時間以内 | 顧客が一連のカスタマージャーニーから離脱しない内に早期にアプローチする |
休眠発掘メール | 最後の顧客接点から3〜6か月後 | 自社への信頼を損ねないためにも時間を置くのが原則。ただし、複数回の休眠発掘メールシリーズを送信する場合は数週間に1回連続して送ることも良い |
メール広告 | 明確なルールはない | 予算や目的によって異なる |
6.マーケティング戦略とコンテンツの関係
コンテンツマーケティングとは、ホワイトペーパー、ブログ・コラム記事、ウェビナーといったコンテンツを用いて見込み客の獲得・育成・評価を行うマーケティング手法だ。
コンテンツマーケティングについては以下の記事でも詳しく解説しているため参考にしてほしい。
コンテンツは「届ける情報の中身」で、メールは「情報(コンテンツ)を届ける手段」である。
メールマーケティングにコンテンツを用いることで、リードジェネレーション・リードナーチャリング・リードクオリフィケーションのどの段階においてもメリットを享受できる。
ここからは、それぞれの具体的なメリットについてみていこう。
6.1.リードジェネレーションにおけるメリット
メールマーケティングとコンテンツマーケティングを組み合わせれば、リードジェネレーションにおけるコスト効率の向上が期待できる。
主にメール広告を用いて新規のリードジェネレーションを行う際は、何らかのコンテンツが欠かせない。
なぜなら、外部で集客する顧客は既にリード化している顧客よりも自社への関心が薄い状態であり、単なる製品・サービスの告知はほとんど響かないからである。
具体的には、トレンドレポート、企業事例、ハウツーなどの教育的な内容を含むホワイトペーパーやウェビナー、動画コンテンツなどがおすすめだ。
6.2.リードナーチャリングにおけるメリット
メールマーケティングとコンテンツマーケティングの併用により、各見込み客のカスタマージャーニーに応じてパーソナライズされた情報提供が可能となり、リードナーチャリングの効果が向上する。
以下は、人事評価システムを提供するIT企業におけるカスタマージャーニーの例だ。
コラム記事やホワイトペーパー、ウェビナーなど多様なコンテンツを用意しておき、顧客の検討フェーズに応じて適切なコンテンツを届けていこう。
このように、カスタマージャーニーを描く際に発信するコンテンツまで決めておくと、ステップメールのシナリオを考えるのが格段に楽になる。
6.3.リードクオリフィケーションにおけるメリット
リードの質を評価し、より詳細にクオリフィケーションを行えるようになることもメリットだ。
受信者のエンゲージメントレベル(特定のコンテンツへのクリック数や、ダウンロード数、メール内の特定セクションでの滞在時間など)を追跡すれば、どのリードが商談化や受注の確度が高いのか、または追加の情報や育成が必要かを判断できる。
これにより、マーケティング部門は営業部門に引き渡す前にリードを適切にセグメント化し、優先順位をつけることができるだろう。
結果として、販売プロセスが効率化されて受注率が向上し、マーケティングとセールスの努力が最適化される。
6.4.各ステップの設計の重要性
メールマーケティングとコンテンツマーケティングを効果的に組み合わせるためには、リードジェネレーション・リードナーチャリング・リードクオリフィケーションを一括で考えるのではなく、各ステップごとに少しずつ設計を積み重ねることが重要である。
たとえば、下図の「フェーズ別のテーマ設計例」が示すように、課題認知前から意思決定に至るまでのプロセスは段階的に変化する。
- 課題認知前では、業界トレンドレポートなどを活用し「自分ごと化」につなげることが求められる。
- 課題認知フェーズでは、チェックリストや課題解説型コンテンツを提示し、解決策の必要性を理解してもらう。
- 解決策収集では、ノウハウ集や導入ステップ資料を用いて比較検討を後押しする。
- 比較検討に入ると、競合との差別化や選定理由を明確に伝える導入事例や比較ガイドが有効だ。
- 意思決定の段階では、ROIや稟議用の資料を提示して最終判断を支援する。
このように、各フェーズに適したコンテンツを少しずつ設計することで、全体のシナリオが自然につながり、メールマーケティングにおける訴求力と効率性を最大化できる。
さらに、こうした段階設計を具体的なメール配信に落とし込むには、ステップメールの設計方法を理解しておくことが有効である。
ステップメールについては以下の記事でも詳しく解説しているため、あわせて参考にしてほしい。
7.メールマーケティング開始前に押さえるべきポイント
メールマーケティングは「とりあえず配信を始める」といった感覚的な施策では、成果はなかなか達成できない。
明確な目的とターゲット設定、そして配信後のアクション設計までを含めた“戦略的な準備”が必要不可欠といえる。
特に近年は、BtoB分野においても、単なるメルマガ配信では読者に響かず、継続的なエンゲージメントを得るのが難しい状況にある。
そこで押さえておきたいのが以下の視点だ。
① 読者のニーズと課題に応える情報設計
顧客層を属性別(役職・業種・年齢)や課題フェーズで絞って設計することで“この会社のあなたのための情報だ”と伝わりやすくなる。
以下のような専門性と新たなニーズを捉えたテーマは読者の注目度と基礎理解を高めるのに効果的だ。
- 「LLMO特化ノウハウ」
- 「2025年のAI検索対応」
② 行動を促すオファー設計
メールは“読むだけ”ではなく、“動かすための配信”を意識すると良いだろう。
具体的には、書籍出版・無料セミナー・ウェビナー・展示会など、複数チャネルへの導線設計(CTA強化)が成果を左右すると海外マーケでも注目されている。
また、トリガー配信やOne-to-Oneの個別提案といった、読者の行動に応じて自動的に配信内容を切り替える仕組みも効果的だ。
たとえば、ウェビナー参加などのアクションを起点に配信を開始するシナリオメールやステップメールは、関心の高まっているタイミングで適切な情報を届けることができ、コンバージョンにつながりやすい。
③ メディア連携で深掘り体験を提供
単体のメルマガだけですべてを伝えるのが難しい今、ブログ・YouTube・オウンドメディア・Web記事などへの導線設計が重要だ。
読者にとって好ましいチャネルでアクセスできるようにすることで、情報理解と関係性の深化を促し、中長期にわたってブランド価値を伝える土台を築ける。
④ 継続運用とPDCAで業務効率化を図る
「成果につながるメール施策」は、KPI設計と定期的なチェックが前提となる。
初期にはKGI・KPI・メールの効果指標(開封率・CTR・CVR)を設計し、MAツール搭載の自動化やトリガー機能を使って繰り返し配信の効率化を進めていこう。
さらに、壁打ち会や読者アンケートなどを活用することで、運用面の強化にもつながる。
⑤ 現状を踏まえ、将来の変化に対応する意識を持つ
AI検索の普及やゼロクリック時代の到来など、業界構造の変化を読み解く視点も、メルマガ設計には不可欠だ。
「何を伝えるべきか」だけではなく「この変化をどう捉えて今後のマーケティング活動に活かすか」までを見据えると、読者から“信頼される発信者”として認識されるようになる。
これらの観点を踏まえておくことで、メールマーケティングは単なる「配信作業」ではなく、顧客と中長期的な関係性を築く有効なマーケティングチャネルになるだろう。
このあとご紹介する5つのステップでは、実務上の流れを具体的に解説していくが、その前提として「誰に・なぜ・何を届けるか」という構造的な設計が非常に重要であることを押さえておいてほしい。
8.メールマーケティングの実施ステップ
ここからは、メールマーケティングの具体的な実施ステップを5つの段階に分けて解説する。
8.1.ゴール設定
まず、メールマーケティングキャンペーンのゴールと具体的な目標(KPI)を設定していこう。
ゴールは新規リードの獲得、製品の販売促進、ブランディング、休眠顧客の発掘などさまざまだ。
ゴールを定めれば「4.メールマーケティングの種類と種類別の成功ポイント」で紹介したように、ある程度メールの種類も定まってくるだろう。
また、目標(KPI)を設定する際は、たとえ製品の販売促進がゴールであっても「受注●件」といった目標ではなく、クリック率やWebサイトへの流入数など目先の数値を目標に置いたほうがよい。
メールキャンペーンそのものが受注に及ぼした影響を測るのは困難であり、実数が少ないと分析できない状況に陥りやすいからである。
8.2.配信リスト作成
次に、ターゲットとなる受信者のリストを作成する。
キャンペーンの目的やコンテンツの内容に合わせて、全範囲に情報を漏れなく届けたいのか、特定のセグメントにのみに届けたいのかを検討しよう。
セグメントを区切る際は、あまりに小さい単位になると分析がしづらいため注意してほしい。
できればリストに数百人はいたほうがよいだろう。
また最低限のルールとして、個人情報の誤りには厳重な注意を払うこと、メールの配信停止(オプトアウト)を行っている顧客をリストに入れないことが求められる。
・ 属性別のセグメント配信で反応率をアップ
さらに、属性情報を活用することでセグメント配信の精度は大きく向上する。
たとえば、業種・部署・役職・企業規模・過去の購買履歴・展示会やウェビナーの参加履歴・アンケート回答などのデータをもとに、より的確に“誰に・何を・いつ届けるか”を最適化できる。
これにより、読者が「これは自分のための情報だ」と感じやすくなり、開封率やクリック率、CVRの向上につながる。
特にBtoBでは、見込み顧客の関心フェーズに応じた情報提供が求められるため、属性に基づくセグメント設計は不可欠な工程といえる。
■ 手作業に限界を感じたら、ツールを活用
MAツールなどを活用すれば「直近で資料請求をした人」「過去に特定製品を購入した企業」「年齢や役職によるセグメント」など、複数の条件を組み合わせたリスト生成も可能だ。
読者にとって有効で、継続的に読まれるメールを実現するためにも、単なる配信対象の収集ではなく、行動・属性データに基づいた“選び抜かれた対象リスト”の準備が成果の鍵となる。
8.3.メール文面の作成
メールの文面や件名は、メールの効果を大きく左右する。
キャッチーな件名を設定する、本文に画像を入れるなど構成を工夫する、CTAを明確に設置するなどの工夫が求められる。
先述したように、コンテンツへの導線を張ることも重要だ。
加えて、メール文面では“読者の課題解決”にどれだけ寄り添えているかが、反応率を左右する大きな要素となる。
ただ情報を伝えるのではなく「読者がどんな悩みを抱えているのか」「どのような情報を求めているのか」といったニーズや背景を想像しながら構成することが重要だ。
たとえば「LLMO対策に不安を感じているSEO担当者」に対しては「なぜ今それが注目されているのか」「放置するとどんなリスクがあるのか」「どう取り組めばよいのか」といった流れで、“気づきから行動につながる情報提供”が効果的である。
また、読者によって情報の受け取り方は異なるため、メルマガだけではなく、YouTube動画・ブログ記事・ホワイトペーパー・無料セッション案内など、複数チャネルへの導線を文中に含めることで、読者が自分に合ったスタイルで理解を深められる工夫も有効だ。
最終的に読者が「自分のためのメールだった」と感じてもらえることが、メールマーケティング成功の鍵といえるだろう。
以下の記事ではメールの文面作成における具体的なポイントを解説しているので、参考にしてほしい。
8.4.メール配信
リストと文面ができたら、しかるべきタイミングで配信を行っていこう。
メール種類別の適切な配信頻度やタイミングについては「5.メールの適切な配信頻度・タイミング」で述べたとおりだ。
また、大勢への配信を通常のメールクライアントで手作業により行うのは、手間がかかるうえにミスも起こりやすい。
そのため、基本的には「メール配信スタンド」または「MAツール」を活用してほしい。
詳しくは「8.メールの配信方法」で解説する。
8.5.効果検証
メール配信後、数日が経過した段階で、あらかじめ定めたKPIに対する効果を検証する。
期待したKPIに到達していない場合は、以下のような原因が考えられるため、可能性が高いものから一つずつ検証し、改善していこう。
- 配信ターゲットが適切でない
- コンテンツがターゲットに対して適切でない・内容が魅力的でない
- 配信タイミングが適切でない
9.マーケティングに使える配信手法
メールの配信方法には「メール配信スタンド」と「MAツール」がある。
それぞれの特徴についてみていこう。
比較項目 | メール配信スタンド | MAツール |
主な機能 | ・メール配信 ・ステップメール ・HTMLメール ・メール効果測定 |
・メール配信 ・ステップメール ・HTMLメール ・メール効果測定 ・A/Bテスト ・リードの閲覧・行動履歴 ・スコアリング ・キャンペーン管理 |
用途 | 簡単なメールマーケティングキャンペーン、定期的なニュースレター配信 | 複雑なマーケティング戦略の実行、自動化とセグメンテーションを活用したキャンペーン |
価格帯 | 一般的に低コスト月額数百円〜数千円 | 中から高コスト月額数千円〜数十万円 |
ユーザビリティ | シンプルで使いやすいインターフェース | 機能が多く、学習に時間がかかる |
データ分析とレポーティング | 基本的なレポート機能、開封率やクリック率の追跡 | 詳細なレポーティングと分析機能、ユーザー行動の追跡と分析 |
9.1.メール配信スタンド
メール配信スタンドは、メールの一斉配信に特化したツールだ。
HTMLメールも含めたメールテンプレートの作成と配信、ステップメール、効果測定といった、メールマーケティングに必要な要素を一通り備えている。
「定期的にメルマガが送れればよい」「これまでメールマーケティングを行ったことがなく、低コストで手軽なものから始めたい」という場合に向いている。
コストは一般的にMAツールよりも安く、月額数百円〜数千円で導入可能だ。
9.2.MAツール
MAツールは、メール配信だけではなく、リードナーチャリングやリードクオリフィケーションを含むマーケティングプロセスを幅広くカバーしてくれるツールである。
メール配信スタンドと大きく異なるのは、ウェビナーや資料ダウンロードのような個々のキャンペーンの作成・申込管理が可能な点や、リードのWebサイト閲覧・行動を紐づけてスコアリングできる点だ。
「マーケティングプロセス全体を最適化したい」「コストは多少高くてもよい」という場合はMAツールを導入するとよいだろう。
コストは月額数千円からで、高いものだと数十万円かかるものもある。
10.メール施策の効果検証とKPI指標
メールマーケティングの効果検証に用いる指標を解説する。
IT業界におけるKPI平均値(参考指標)
以下は、GetResponse社の調査(2023年)をもとにしたアジア地域におけるIT業界平均の目安値だ。
配信施策の効果検証時に、自社の状況と照らし合わせるための参考指標として活用してほしい。
自社の属する業界における平均値を把握しておくことも、KPIの妥当性を判断するうえで非常に重要だ。
「数値が低い=失敗」と捉えるのではなく、業界特性やターゲット属性と照らし合わせて評価・改善する視点が求められる。
KPI指標 | IT業界平均(アジア) | 備考 |
開封率(Open Rate) | 約19.1% | 件名の工夫や配信時間帯によって大きく変動 |
クリック率(CTR) | 約1.4% | CTA設計やコンテンツ構成が影響 |
コンバージョン率 | 非公開(大きく異なる) | ゴール内容により幅あり(申込、資料DL、成約など) |
配信停止率(Unsub) | 約0.06% | 内容の不一致・過剰配信で上昇しやすい |
※出典:2023 Email Marketing Benchmarks by GetResponse
※業種や配信対象、リスト精度、使用ツールなどにより結果は変動する。
10.1.開封率
メールが受信者によって開封された割合。
一般的に以下の計算式で算出する。
開封率=メールを開封した人数/メールを送信した人数 |
アジアにおいては、開封率の平均は19.14%とされている。
(出典:2023 Email Marketing Benchmarks by GetResponse)
ただし、開封率は対象となるオーディエンス、メールの内容やデザイン、送信時間など多くの要因によって変動する。
そのため、この平均値を基準にしながら、自社の具体的な状況やキャンペーンの目的に応じて目標を設定し、最適化を行う必要がある。
10.2.クリック率
受信者がメール内のリンクをクリックした割合。
一般的に以下の計算式で算出する。
クリック率=メール内のリンクをクリックした人数/メールを送信した人数 |
アジアにおいては、クリック率の平均は1.46%とされている。
(出典:2023 Email Marketing Benchmarks by GetResponse)
開封率と同様、クリック率もさまざまな要因で変動するため、あくまで参考値として参照してほしい。
10.3.コンバージョン率(CV率)
メールの受信者がWebサイトに遷移したあと、期待されるアクション(申込やダウンロード、登録など)を実際に行った割合。
一般的に以下の計算式で算出する。
コンバージョン率(CV率)=コンバージョンした人数/メールを送信した人数 |
コンバージョン率については、設定しているゴールによって結果が大きく異なるため、平均値を特定することは難しい。
ただし、1件もコンバージョンが得られないような場合、そもそものコンバージョンのハードルが高すぎる可能性があるだろう。
10.4.配信停止率
メールの受信者が配信停止(購読解除)をリクエストした割合。
一般的に以下の計算式で算出する。
配信停止率=配信停止した人数/メールを送信した人数 |
アジアにおいては、配信停止率の平均は0.06%とされている。
(出典:2023 Email Marketing Benchmarks by GetResponse)
この数値よりもはるかに高い配信停止率を出している場合、メールの内容が顧客にとって不信感を抱かせるものとなっているおそれがある。
ネガティブな反応は可視化されづらいため、配信停止率をひとつの指標にしてほしい。
11.改善につながる成功事例と運用ポイント
効果的なメールマーケティングは、一度きりの配信ではなく、継続的な読者コミュニケーションと運用の効率化によって成果を高める“仕組みづくり”に支えられている。
たとえば、以下のような成功事例が参考になるだろう。
① 展示会で獲得した名刺情報をもとに、業種や役職などの属性でセグメント設計を行い、マーケティングオートメーションツールを活用したことでクリック率が大幅に向上。
② 読者の関心に応じて、メルマガからブログ、動画、無料セミナー申込ページなど複数チャネルへ誘導し、コンバージョン率(CVR)が増加。
③ 読者アンケートの回答をもとに、ニーズに合った情報を効率的に出し分ける運用体制を構築。開封率・フォロー率・費用対効果が大きく改善。
特にBtoB領域では、メール単体で完結させず、展示会・セミナー・オウンドメディア・営業支援ツールなど他チャネルとの連携が成果向上に直結する。
PDCAサイクルを継続的に回しながら、読者の行動ログや顧客属性を活用した改善施策を繰り返すことで「配信して終わり」ではないマーケティング運営へと進化できるはずだ。
12.よくある失敗例と未然に防ぐための対策集
メールマーケティングでは「なんとなく配信する」状態が最も危険だ。
特にBtoB企業では、以下のような失敗パターンが多く見られる。
失敗例 | よくある原因 | 対策案 |
続かない | KPI未設定・効果が見えず工数だけが増える | 初期にKGIとKPIを明確に定義する/成果の小さな変化も記録・可視化 |
開封されない | 件名が弱い/配信時間が適切でない | ABテストや過去配信の分析を行い、最適な配信設計を選ぶ |
解除率が高い | 内容が読者ニーズと乖離/押しつけ感が強い | アンケートやペルソナ属性を反映し、役立つ内容にシフト |
配信ミス | 手動運用・BCC配信など属人的 | マーケティングオートメーションを導入し、属人化を解消 |
特に、読者が誰かを理解せず大量配信を続けてしまうと、配信施策は形骸化しやすく、費用対効果も著しく低下する。
こうしたリスクを防ぐには「読者層・課題・配信目的・KPIを配信前に必ず確認する」という基本に忠実なチェック体制の定着が重要だ。
13.今後のメールマーケティング
近年、検索やコンテンツの受け取り方に明確な変化が見られる。
こうした変化は徐々にメールマーケティングにも影響を与えており、今後さらに広がっていく可能性があるだろう。
こうした変化の代表例が「ゼロクリック検索」と呼ばれるユーザー行動だ。
ゼロクリック検索とは、Googleなどの検索エンジンで、リンクをクリックせずにAI要約やFAQの抜粋を読むだけで完結する検索行動様式を指す。
たとえば、AIによって生成された要約や、FAQ的な抜粋情報を読むだけで十分と判断し、リンク先には遷移しない——そんな行動がすでに日常化し始めている。
このような検索スタイルの変化により、ユーザーの情報接触時間は短くなり、「次のアクション」へ進んでもらうまでのハードルは確実に高まっている。
その背景を受けて登場したのが「ゼロクリックコンテンツ」という考え方だ。
ゼロクリックコンテンツとは?
ゼロクリックコンテンツとは、メールやSNS、ブログ記事などにおいて、リンクをクリックしなくても“その場で価値が伝わる”ように設計された情報コンテンツのこと。
読んだ瞬間に「何が得られるのか」を理解でき、外部ページへの誘導がなくても、読者に行動意欲や納得感を与える構成が求められる。
忙しいBtoBユーザーが「読むだけで理解し、納得できる」よう、次のような工夫が必要だ。
- 要点を冒頭で提示し、情報価値と対象者を明示
- 簡潔で構造的なレイアウト(タイトル/要点/図/CTA)
- 読者ニーズに合わせた課題解決型の見出しとコンテンツ
- 会員登録・アンケート回答・クーポン案内などがメール内で完結可能なUI
- ブログや動画、展示会情報などへ誘導する他チャネル統合型の導線設計
「クリックされない」前提の設計が主流に
実際、IT業界におけるメールの平均クリック率(CTR)は2%未満とされており、開封されてもほとんどの読者がリンクをクリックしていないというデータが出ている。
【出典:Selzy Email Benchmarks】
これはメールに限らず、あらゆるチャネルにおいて「クリックしてくれない前提」で情報設計する必要があることを意味する。
つまり、読者がリンク先で詳細を見るという流れではなく「記事を読んだその場で価値が伝わり、理解が完結する」構成がスタンダードになりつつあるのだ。
BtoBこそ「即伝達・即理解」の設計が重要
特にBtoBマーケティングでは、意思決定者や多忙な実務担当者がターゲットになることが多く、情報接触の1タップすらハードルになり得る状況にある。
- 見出しだけで記事を判断される
- CTAまで読まれない
- クリック誘導しても離脱される
こうした現実に対応するため、**「読んだ瞬間に価値が伝わる構造」**で、ニーズ・課題・導入のポイントをその場で理解してもらえる設計が必要だ。
ゼロクリック時代に適応するコンテンツの実例
設計の工夫 | 内容 |
要点の即提示 | 読者が読み始めて数秒以内に「この記事の目的・得られる知識・対象読者」がわかる |
シンプルなレイアウト | 見出し・本文・図解・まとめで構成された構造的コンテンツ |
行動を促すUI | CTAボタンや問い合わせ、ホワイトペーパー案内などが視認性高く配置されている |
メール内で完結する情報 | 会員登録・アンケート回答など、外部遷移しなくても目的を果たせる導線設計 |
他チャネルとの統合 | 読者の情報取得スタイルに応じて、ブログ・動画・資料・展示会案内へと誘導可能 |
メールが「理解と行動」の起点になる
今後のメールマーケティングや記事設計では「読者をリンクへ誘導する」から「読者がその場で納得し、次に進める」へと発想を転換する必要がある。
- SEOの変化、AIによる検索体験の変化(生成AI・LLMOなど)
- 読者の情報取得行動の変化(検索離れ、要点重視)
- 多チャネル分散時代のなかでの“1コンテンツの価値の完結性”
こうした変化を捉え、メールや記事という1本のコンテンツにおいても「読み切って価値がある」構造が求められるのだ。
「クリックされなくても伝わるコンテンツ」=ゼロクリック設計こそが、これからのメールマーケティング・BtoBコンテンツの新常識となっていくかもしれない。
14.まとめ
本記事では、メールマーケティングの種類別の特徴や、コンテンツマーケティングとの関係性、実施のステップ、KGI・KPIなどの重要業績評価指標を軸とした効果検証方法について解説してきた。
メールマーケティングは、デジタルマーケティング施策のなかでも導入のハードルが低く、効率的かつ継続的に運用しやすい手法だ。
MA(マーケティングオートメーション)や配信ツールを活用すれば、one to one型のコミュニケーションや属性ごとのターゲット抽出、効果的なセグメント配信などが可能となる。
近年は、ステップメールやクーポン配信、定期情報の掲載、ブランドメッセージの継続発信など、メールの役割が“単なる広告”から“顧客との関係を深める媒体”へと進化している。
特にBtoB企業や中小規模の会社にとっては、名刺交換や展示会経由で得たリードの育成手段としても役立つだろう。
メールの設計やKPIの考え方、媒体との連携(Web・LINE・オウンドメディア)も含め、自社のビジネスモデルや顧客属性に応じて最適なプランを選び、徐々に“自走できる仕組み”へと昇華させていこう。