事業拡大を狙う多くの企業が、マーケティングにおいて「リードが不足している」という課題を抱えている。
同時に、販促予算が限られているなど、新たなリードの獲得だけでは成約や案件の増加に直結せず、効率的な運営に限界を感じている会社も少なくない。
そこで注目されているのが、すでに獲得した見込み顧客情報を有効活用し、信頼関係を長期的に育成していく「リードナーチャリング」の強化だ。
この施策は、営業部門に確度の高いリードを渡す流れをつくるうえで極めて有効であり、ROI改善にも大きな効果をもたらす。
とはいえ、リードナーチャリングの意味や目的を正しく理解している企業はまだ少なく、実際に次のような悩みも多い。
「具体的にどのような施策を行えばよいのかわからない」
「有益な打ち手の選択肢を広げたい」
「施策は実行しているが、売上や成約につながらずデメリットばかり感じている」
こうした声は、分類や手順を明確にせずに進めてしまったり、顧客ニーズに沿ったソリューション提案を欠いたりすることが原因であるケースが多い。
本記事では、リードナーチャリングの重要性と実践手順について、効果的な成功事例から注意すべき失敗パターンまでを解説。
さらに、効果測定の方法や営業活動への活用ポイントも紹介し、読者が自社のマーケティング施策へ具体的に落とし込めるようわかりやすくまとめているので、ぜひ実務に活用してほしい。
目次
1.リードナーチャリングとは
はじめに、リードナーチャリングの定義とメリットをおさらいしておこう。
1.1.リードナーチャリング施策とは
リードナーチャリングとは、見込み客(リード)との関係を築き、彼らが購入を検討する段階まで育成するプロセスを指す。
企業が新たな顧客を獲得し、既存の顧客との関係を強化するための重要な戦略だ。
1.2 リードジェネレーション・リードクオリフィケーションとの違い
リードジェネレーションが「見込み客を獲得する段階」、リードクオリフィケーションが「有望度を見極める段階」であるのに対し、リードナーチャリングはその中間に位置する段階だ。獲得した顧客情報を継続的に育成し、最終的に商談や案件の成約へとつなげる重要なプロセスを担う。
例えば、イベントや資料ダウンロードで集まったリードは、必ずしも購買意欲が高いとは限らない。
こうしたリードに対して、メールやセミナーを通じて効率的に情報提供やフォローを続けることで、信頼関係を維持・強化し、営業活動で引き渡せる状態まで育てていける。
これは、BtoB商材のカスタマージャーニーにおいて欠かせない基礎的な取り組みだ。
・リードの量と質の視点が重要
ここで重要なのが「リードの量」と「リードの質」という視点だ。
リードジェネレーションの段階では、セミナーや広告、SEO施策などで大量のリードを獲得できるが、そのなかには検討度合いが低いものも多く含まれる。
一方、リードクオリフィケーションの段階に至ると、アンケートやサイト閲覧履歴をもとにしたスコアリングで分類され、質の高いリードだけが営業部門に渡される。
こうした選別を通じて、営業は成約の可能性が高いリードに集中でき、生産性の向上や課題解決のスピード化が実現する。
リードナーチャリングは、その中間に位置し、「数は多いが質が低い状態」から「数は絞られるが質が高い状態」へとリードを変化させるプロセスだ。
メールマガジン、ステップメール、セミナーやホワイトペーパーといったナーチャリング施策を継続的に行うことで、リードの理解度や関心度を高め、最終的に案件化や成約につながる受注確度を引き上げられる。
このプロセス全体は「デマンドジェネレーション」と呼ばれ、見込み客を発見してから受注につなげるまでの一連の流れを指す。
上記の図にあるように、デマンドジェネレーションは大きく3つのステップに整理できる。
- リードジェネレーション:見込み客を見つけ出し、獲得する段階。展示会、広告、SEO、資料ダウンロードなどで新規リードを集める。
- リードナーチャリング:獲得した見込み客の購買意欲を高める段階。メールマーケティングやウェビナー、事例紹介コンテンツを通じて興味を深める。
- リードクオリフィケーション:受注確度の高い見込み客を絞り込む段階。スコアリングや営業との連携を通じて、どのリードが商談につながりやすいかを見極める。
この流れを見ると、リードナーチャリングは獲得したリードを営業に渡せる状態へと“橋渡しする中心的なプロセス”であることがわかる。
つまり、単に見込み客を集めるだけではなく、適切に育成してから評価につなげる仕組みをつくることが、BtoBマーケティングにおける成功のカギといえるだろう。
1.3.リードナーチャリングのメリット
リードナーチャリングには、主に以下のメリットがある。
営業効率の向上
リードの質(購買意欲)を高めて、セールス部門が受注率の高いリードへ優先的にリソースを投下できるようになる。
機会損失の回避
リードを放置せず、課題やニーズに合わせた情報提供・アプローチを行うことで、リードとの関係を維持し、購入やコンバージョンへ誘導できる確率が高まる。
マーケティングROIの向上
新規リードの獲得に比べて、既存リードを育成するほうがコストが低いため、マーケティングROIを向上させることができる。
販売サイクルの短縮
リードナーチャリングによって、リードが購入するまでの時間を短縮し、より迅速に売上アップを実現できる。
マーケティング戦略の最適化
リードの行動データやフィードバックを収集・分析することで、顧客のニーズや傾向を把握し、今後のマーケティング戦略に役立てられる。
1.4.リードナーチャリングのデメリット
リードナーチャリングは顧客育成に有効な施策だが、実施にあたってはいくつかの注意点がある。代表的なデメリットを見ていこう。
デメリット1. 成果が出るまでに時間がかかる
BtoBの購買プロセスは複雑かつ長期化しており、リードナーチャリングの効果はすぐに現れない。
数か月から1年以上の期間を要することも珍しくなく、短期的な売上目標との両立が難しいケースがある。
デメリット2. 運用に手間とリソースがかかる
メール配信、ブログ記事やホワイトペーパーの発信、MAツールやCRMの利用など、継続的な取り組みが必要だ。
そのため、社内の工数や予算が不足すると継続が難しくなり、属人的な運用に陥ると失敗のリスクが高まる。
1.5.リードナーチャリングが重要視される理由
では、昨今なぜリードナーチャリングへの取り組みが重要視されているのだろうか。
BtoBビジネスを取り巻く環境の変化の観点から、5つの理由を解説する。
商談プロセスの長期化
Webでの情報収集により、顧客が複数社の製品を比較検討できるようになったことで、商談プロセスが長期化している。
企業は、見込み客が購入を検討する段階まで、長期的にサポートしなければならない。
特にIT業界では、DX推進や社内システム更新に伴い、多数のソリューションを比較・調査するケースが増えた。
クラウドサービスやSaaS型ソフトウェアは導入・解約が比較的容易であるため、ユーザー企業は「本当に自社に最適か」を慎重に見極める傾向が強まっている。
加えて、新しい技術やサービスが短いサイクルで登場するため、担当者は常に最新の動向を把握しつつ、自社の業務フローにどう適合させるかを考えなければならない。
こうした状況下では、単発的な営業活動だけでは不十分であり、中長期にわたり有益な情報を発信し、信頼関係を構築するナーチャリング施策の重要性が一層高まっている。
顧客にパーソナライズしたアプローチの必要性
顧客にとっては、競合製品を含めた多種多様な選択肢がある状況だ。
インターネットやSNS(twitter・facebook・instagramなど)を活用し、商品やサービスの知識を自ら得るようになっている。
企業にはマス型のアプローチだけではなく、それぞれの顧客の需要に合わせたパーソナライズ型の情報提供が求められており、有益なブログ記事や資料発信を通じて「知りたい情報を適切なタイミングで提供する」ことが重要だ。
休眠リードの増加
Webサイトを通じたリードジェネレーションが主流となり、リードを「獲得」するハードルは低下したが、それは同時に休眠状態のリードも増加するということだ。
マーケティングROIを最適化するためには、休眠状態のリードをナーチャリングによっていかにファネルへと引き戻せるかが重要だとなる。
顧客との直接接点の減少
新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークが普及し、顧客との直接的な接点が減ったことで、リードの検討意欲を高める難易度が増している。
テクノロジーの進化
MAツールやCRMシステムの発展により、リードの行動データの取得や顧客アプローチの自動化が可能となり、ナーチャリングの精度が向上した。
1.6.リードナーチャリングの位置付け
リードナーチャリングは、BtoBマーケティングにおいて、デマンドジェネレーションのプロセスの一つに位置付けられる。
具体的には、リードジェネレーションで獲得した見込み客を、リードクオリフィケーションへとつなぐ“橋渡し”の役割を担う。
この位置付けを正しく理解することで、マーケティング活動は単発のキャンペーンや営業活動のサポートにとどまらず、組織的かつ効率的な顧客育成へと発展する。
特にIT業界では、DXやクラウド移行などの大規模な意思決定が関わるため、購買プロセスは複雑で長期化しやすいのが実情だ。
そのなかでナーチャリングを体系的に組み込むことは、休眠リードの再活性化、営業部門への確度の高い案件供給、そしてROI向上に直結する。
言い換えれば、リードナーチャリングは単なる「施策のひとつ」ではなく、BtoBマーケティング全体の成果を底上げするための中核的プロセスだ。
<デマンドジェネレーション>
リードジェネレーション | 新しい見込み客(リード)を発見・獲得する活動例:広告出稿、コンテンツSEO、ウェビナーなど |
リードナーチャリング | リードの購買意欲や満足度を高め、育成する活動例:メルマガ、オウンドメディア、ウェビナーなど |
リードクオリフィケーション |
|
同じデマンドジェネレーションのプロセスであるリードジェネレーションについては、以下の記事で詳しく解説している。
1.7.BtoBに特化したナーチャリング
一般的に、ナーチャリングはBtoCマーケティングでも用いられるが、BtoBではアプローチの方向性や目的が大きく異なる。
BtoCとの主な違いは以下の3点だ。
① 購買サイクルの長さ
BtoCでは意思決定が短期間で終わることが多く、購入意思のある消費者に対して即効性のあるキャンペーンやクーポンなどが効果的だ。
それに対し、BtoBでは意思決定が複数部門にまたがり、数ヶ月から1年以上かかることも少なくない。
そのため「教育的コンテンツや事例紹介などの継続的かつ戦略的な情報提供」が求められる。
② ゴールとアプローチの違い
BtoCは個人の購買を促すことがゴールだが、BtoBでは組織的意思決定支援が目的であり、営業部門に質の高いリードを渡す役割が求められる。
この違いが、施策の設計・チャネル選定・コミュニケーションスタイルにも影響を与えている。
③ 信頼関係の構築の重要性
BtoCでは短期間のエンゲージメントで成果を得られるケースもあるが、BtoBでは長期にわたり情報を届け、信頼関係を深化させることが不可欠だ。
これは特に、業務影響が大きいIT/SaaS領域において顕著であり、ナーチャリング施策がBtoBマーケティングの要となる。
2.リードナーチャリングの施策事例8選
リードナーチャリングの施策には、メールや電話、Webサイトなどを活用したさまざまなアプローチ方法がある。
基本的には、メールを通じた顧客との継続的なコミュニケーションを土台として、コンテンツやウェビナー、リマーケティング広告で教育や訴求を加えていく形がおすすめだ。
ただし、最適な施策はリードの検討フェーズによって異なる。
リードの検討フェーズが深まるほど、より直接的な製品・サービスの販促を仕掛けていこう。
施策 | 概要 |
①イベント情報の提供 | 自社が開催・登壇するウェビナーやセミナー、カンファレンスなどの情報提供 |
②教育的コンテンツの提供 | 業界のトレンドやベストプラクティス、ノウハウ提供系のホワイトペーパー、記事などの公開、提供 |
③休眠リードへの呼びかけ | 長期間アクティビティが見られないリードに対して、再び関心を引くためのアプローチ |
④製品情報とアップデート情報の定期的な提供 | 新機能のリリースやアップデート情報など、リードの課題に合わせた機能についての定期的な情報提供 |
⑤離脱したリードへの再アプローチ | 過去に興味を示したが購入に至らなかったリードに対する再アプローチ |
⑥競合サービスとの比較 | 自社製品と競合製品を比較し、自社製品の優位性を訴求する |
⑦成功事例の紹介 | 実際の顧客の成功事例を紹介し、自社製品やサービスの効果を具体的に示して信頼感や安心感を高める |
⑧特別オファーの提示 | パーソナライズされた限定的な特典や割引の提示により行動を促進させる |
施策①:イベント情報の提供
自社が開催・登壇するウェビナーやセミナー、カンファレンスなどのイベント情報を提供する施策だ。
イベントへの参加を促すことで、リードと直接的な接点を持ち、エンゲージメントを高められる。
また、イベント参加後のフォローアップにより関係構築を図ることも重要だ。
<具体例>
- オンラインウェビナーへの招待
- 業界イベントの案内
- オンラインイベント参加の案内 など
施策②:教育的コンテンツの提供
業界のトレンドやベストプラクティス、ノウハウ記事などの教育的なコンテンツを提供する施策だ。
リードに価値のある情報を提供することで、自社に対する信頼感が高まるほか、ブランディングにもつながる。
<具体例>
- 業界の最新情報を解説するブログ記事
- 専門知識を提供するホワイトペーパー など
施策③:休眠リードへの呼びかけ
長期間アクティビティが見られないリードの関心を引くための施策だ。
休眠リードを逃さずに再度活性化させ、購買プロセスに引き戻すことができる。
<具体例>
- 休眠リード向けの特別キャンペーンの紹介
- 前回の問い合わせからのアップデート情報の提供
- 最新の業界ニュースやトレンド情報の提供 など
施策④:製品情報とアップデート情報の定期的な提供
製品の新機能やアップデート情報をリードに伝えることで、興味を引き続ける施策。
最新情報の提供により、リードに製品の価値を理解させることができる。
<具体例>
- 新製品のリリース情報
- 既存製品のアップデート内容
- 機能の改善点
- 製品のデモ動画 など
施策⑤:離脱したリードへの再アプローチ
過去に興味を示したが購入に至らなかったリードに対して、再度アプローチする施策だ。
リードに再度興味を引き起こし、購入を促すことができる。
<具体例>
- 特定の製品ページを訪問したリードに対するリターゲティング広告
- フォームを途中まで入力したが離脱したリードへのリマインドメール
- 過去の他の施策に反応したリードへの再アプローチ など
施策⑥:競合サービスとの比較
自社製品と競合製品を比較し、自社製品の優位性を強調する施策だ。
リードが競合製品を検討している場合、自社製品の優位性を明確にすることで、購買決定を後押しできる。
<具体例>
- 自社製品と競合製品の機能や価格、顧客満足度の比較表
- 他社との違いや自社の強みをアピールする資料 など
施策⑦:成功事例の紹介
実際の顧客の成功事例を踏まえて、自社製品やサービスを紹介する施策。
実際の成功事例を示すことで、リードに自社製品やサービスの信頼性と効果を理解させ、購買意欲を高められる。
<具体例>
- 顧客の問題とその解決策を詳細に記述したケーススタディ
- 成功事例のインタビュー動画
- 顧客の声を含む記事 など
施策⑧:特別オファー
リードに対して限定的な特典や割引を提示する施策だ。
限定的なオファーの提供により、リードの購買意欲を刺激し、コンバージョン率を高める効果がある。
<具体例>
- 期間限定の割引クーポン
- 無料トライアルの紹介
- 購入特典の案内 など
3.リードナーチャリング施策のプロセスと注意点
続いて、リードナーチャリング施策を実施するにあたって、どのようなプロセスを踏めばよいかを、プロセスごとの注意点も含めて解説する。
ステップ1:ターゲットリードのセグメンテーション
まず、リードを属性や行動データに基づいてセグメントに分ける必要がある。
例えば、リードの行動データを用いて「認知層」「興味関心層」「比較検討層」といった検討ステージ(ファネル)別にセグメントするとよいだろう。
これにより、パーソナライズされたコンテンツやメッセージを各セグメントに提供できるようになる。
<注意点>ターゲットを明確にする
リードのペルソナ(ターゲット像)を明確にし、それに基づいたコンテンツやメッセージを作成することが重要だ。
適切なターゲティングは、効果的なナーチャリングの出発点だと考えてほしい。
ステップ2:コンテンツの作成/用意
次に、各セグメントに適切な、価値のあるコンテンツを作成/用意する。
コンテンツの種類はウェビナー、ホワイトペーパー、ブログ記事、ケーススタディなどさまざまだ。
リードの関心やニーズに合わせた多様なコンテンツを作成していこう。
コンテンツの種類や活用方法については、以下の記事で詳細に解説しているので参考にしてほしい。
https://it-bell.com/types_of_content_marketing/
<注意点>コンテンツの品質と関連性を高める
リードに提供するコンテンツは、高品質かつ、自社との関連性が高いものにする必要がある。
他社のコピーのようなコンテンツではなく、オリジナリティのある内容を意識しよう。
また、コンテンツの内容と自社の製品・サービスの関連性が低いと、たとえコンテンツの中身に関心が得られたとしても購買意欲の醸成は難しくなるため注意してほしい。
ステップ3: コミュニケーションの計画と自動化
リードナーチャリングのアプローチ方法は、メールマーケティングが基本だ。
ステップ1で定めた各セグメントに対する一連のコミュニケーションを計画し、MAツールのシナリオ機能などを用いて可能な限り自動化しよう。
定期的なメールマガジンやパーソナライズされたメッセージを送ることで、リードの関心を維持できるだろう。
メールマーケティングの種類やステップについては、以下の記事で詳細に解説しているので参考にしてほしい。
<注意点①>適切なパーソナライズを行う
リードの行動データや属性に基づいて、パーソナライズされたコミュニケーションを行うことがエンゲージメントを高めるポイントだ。
例えば、まだ「認知」フェーズのリードに対して、製品に関するオファーを頻繁に送ってはいけない。
反応を得られないどころか、見えない部分で自社への信用を棄損しているおそれがある。
<注意点②>データを収集し活用する
CRMシステムやマーケティングオートメーションツールを活用して、リードの行動データを収集・分析し、効果的なナーチャリング戦略を策定することが重要だ。
MAツールの具体的な活用方法は「7.3.リードナーチャリングにおけるMAツールの具体的な活用方法」で解説する。
ステップ4: 効果測定と最適化
メールの開封率やクリック率といったKPIを日常的に測定し、目標の数値に到達できそうかどうかをモニタリングする。
進捗が芳しくない場合は、コンテンツやメール文面の見直しなどを実施しよう。
効果測定の詳細については後の章で説明する。
<注意点>継続的な最適化と改善を行う
施策の効果は定期的に評価し、スピーディに最適化・改善を行う必要がある。
施策を行う前に、あらかじめ「どの指標を重点KPIにするか」「どの程度の頻度で評価を行うか」を定めておくことが重要だ。
ステップ5: リードスコアリングとセールスチームへの連携
効果検証による施策の改善と並行して、MAツールのスコアリング機能を使用し、リードの行動や属性に基づいてスコアを付け、購買意欲の高いリードを特定しよう。
リードに優先順位を付け、適切なタイミングでセールスチームに引き渡すことで、ナーチャリングプロセスが完了する。
<注意点>セールスチームとの連携を強化する
ナーチャリングは、メールなどの自動化されたアプローチのみで完結させることはできない。
顧客との健全な関係構築のためには、セールスチームとの情報共有が重要だ。
特に、インサイドセールス担当が、適切なタイミングで顧客へ電話・web会議などの踏み込んだアプローチを行えるようにサポートする必要がある。
ナーチャリングにおけるインサイドセールスとの連携方法については、以下の記事で解説しているので参考にしてほしい。
4.リードナーチャリング施策の効果測定と改善方法
ここまで、リードナーチャリングは定期的に効果測定と改善のサイクルを繰り返すことが重要だと解説してきた。
そこで、KGI・KPIの設定方法や効果測定指標、KPI達成のためのポイントを述べておきたい。
4.1.KGI・KPIの設定方法
①ナーチャリングにおけるKGIを設定する
KGIは「重要目標達成指標」であり、マーケティングチームに限らず全社で設定しているビジネス目標を指す。
KGIは以下のように、具体的な数値で設定することが重要だ。
(具体例)
- 売上◯億円
- 受注件数◯件
②KGIの達成に必要な要因を定義する
KGIの達成にはさまざまな要素が必要となる。
以下を参考に、マーケティング以外の範疇も含めて影響要因を特定し、それぞれの項目がどの数値を目指せばよいのかを、全社で連携しながら定義しよう。
(セールス/カスタマーサクセス要因)
- 受注率
- 客単価
- リピート率
(マーケティング要因)
- HP・オウンドメディアのPV数
- リード数
- MQL数(商談化数)
③ナーチャリングのKPIを設定する
ナーチャリングにおいては、獲得したリードをMQL、SQLへ押し上げていくことが使命だ。
後述する「ナーチャリングに関わる効果測定指標」を、現状からどの程度改善/維持させる必要があるのかをシミュレーションし、ナーチャリングKPIとして設定しよう。
(具体例)
- メールのクリック率を平均3%から3.5%に改善する(その結果、メール経由のWebサイトトラフィックを月間◯◯件にする)
- ナーチャリングメールを通じウェビナーの参加人数を月間◯人獲得する
4.2.リードナーチャリングの主な効果測定指標
リードナーチャリングの主な効果測定指標は以下のとおり。
メール関連の指標
- 配信リスト数
- 開封率
- クリック率
- コンバージョン率
セミナー関連の指標
- 参加人数
- アンケート回答率
- アンケートにおける導入検討率
- 商談化率
4.3.KPIを達成するためのポイント
リードナーチャリングでKPIを達成するには「PDCA」のサイクルを回すことが重要だ。
Plan(計画) | KPIの計画は綿密に行う必要がある。「開封率を高める」といった漠然とした目標ではなく、最初は決めうちでもよいため具体的な数値に落としこむ。 |
Do(実行) | 「リードナーチャリングのプロセス」で解説した内容を参考に、各プロセスを迅速に設計・実行する。 |
Check(評価) | 設定したKPIと照らし合わせて現状を評価する。週に一度など、定期的な頻度でチームメンバーが確認・共有できるようにする。 |
Action(改善) | うまくいっていない指標については要因を話し合い、次の計画につなげる。現実的に改善が難しい場合は、別のどの指標をどこまで改善していくのかを改めて計画する。 |
5.リードナーチャリングの施策実行に不可欠な「MAツール」
最後に、リードナーチャリングのプロセスを最適化・効率化させるために欠かせない、MAツールのメリットや活用方法についてみていこう。
5.1.MAツールとは
MAツール(マーケティングオートメーションツール)とは、マーケティング活動を自動化し、効率化するためのソフトウェアだ。
リードナーチャリングを含むデマンドジェネレーションの一連のプロセス、顧客関係管理などのプロセスを強固にサポートする。
メールマーケティング、ソーシャルメディア管理、ウェブ解析、キャンペーン管理など、多岐にわたる機能を備えており、マーケティングROIの向上に大きく貢献する。
5.2.MAツールの活用がマーケティングROIの向上につながる理由
具体的にどのような理由で、MAツールの活用がマーケティングROIの向上につながるのだろうか。
以下の4つの観点から複数の理由が挙げられる。
コスト削減の観点
- 人件費の削減
メール配信の自動化、レポートの即時閲覧などにより、手作業が減少して人件費の削減につながる。 - リソース配分の効率化
自動化により、マーケティング戦略設計など重要な工程にリソースを集中させることができる。
収益増加の観点
- リードの質向上
ステップメール・リードスコアリングなどの機能をナーチャリングに活用することで、リードの質が高まり受注率の向上につながる。 - リードタイムの短縮
データに基づくナーチャリングにより、リード獲得〜受注までのリードタイムが短縮し、早期に売上につながる。
顧客エンゲージメント向上の観点
- 顧客満足度の向上
リードへパーソナライズされた情報を継続的に届けることで顧客からの信頼性が高まり、満足度向上につながる。 - リピート率の向上
メールマーケティングを通じた長期的な関係構築により、既存顧客のリピート率が高まる。
データドリブンな意思決定の観点
- 改善の高速化
リアルタイムなデータ分析により施策の効果を迅速に評価し、改善策を即座に実行できる。 - 成果の可視化
詳細なレポート機能により施策の成果を明確に可視化し、ROIを正確に評価できる。
5.3.リードナーチャリングにおけるMAツールの具体的な活用方法
では、リードナーチャリングにおけるMAツールの活用方法について「策定」「実行」「効果検証・最適化」のフェーズごとに紹介する。
施策の策定フェーズ:①リードスコアリングの設定
リードのWebサイト訪問、メールの開封・クリック、資料のダウンロードなどの行動データを収集する。
行動データをもとに、スコアリングルールを設定し、リードの検討意欲を定量化する。
スコアリングの設定例:
行動 | ポイント |
Webサイトのコラムページを閲覧 | 10pt |
Webサイトのサービス紹介ページを閲覧 | 20pt |
導入事例紹介のホワイトペーパーをダウンロード | 30pt |
施策の策定フェーズ:①セグメンテーションの検討
リードの業界、役職、企業規模、あるいは興味関心や行動履歴などの属性データをもとにセグメントを検討・作成する。
セグメンテーション例:
- 小・中規模と大規模の企業に分けてセグメントを作成し、異なるアプローチを行う。
- 特定のアクション(セミナー申込など)を起こしたリードのセグメントを作成し、固有のアプローチを行う。
施策の実行フェーズ:①パーソナライズしたメール施策の実施
あらかじめ定めたセグメントごとにパーソナライズしたメール文(メールテンプレート)を作成する。
ステップメール機能やシナリオ機能を用いて、メールの送信フローを自動化する。
メール施策例:
- 特定のセミナーに申し込みをしたリードに対し、関連性の高いテーマのホワイトペーパーを紹介するフォローアップメールを自動で送信する。
- 紹介したホワイトペーパーをダウンロードしたリードに対しては、数日後、打ち合わせの打診メールを自動で送信する。
施策の実行フェーズ:②マルチチャネル施策の展開
メール、SNS、広告など、複数のチャネルを1つのMAツールで統合して施策を実施する。
各チャネルでのリードの反応に基づき、次のアクションを自動設定する。
マルチチャネル施策例:
セミナー案内のメール送信後、実際に参加したリードに対しては、SNSでセミナーテーマに関連する製品のリターゲティング広告を配信する。
施策の効果検証・最適化フェーズ:①パフォーマンス分析
開封率、クリック率、コンバージョン率などのKPIを設定し、施策の効果を検証する。
必要に応じてダッシュボード機能を使い、結果を視覚的に表示して、複数のメンバーが簡単に効果を確認できるようにする。
施策の効果検証・最適化フェーズ:②A/Bテストの実施
メール件名、本文の内容、送信時間など、さまざまな要素において複数パターンを比較検証するA/Bテストを実施する。
テストの結果を分析し、最も効果的なパターンを特定して採用する。
A/Bテスト例:
メールの配信対象を無作為に2つのグループに分け、異なる件名でメールを送信し、開封率が高かったほうを今後のメール件名として採用する。
施策の効果検証・最適化フェーズ:③顧客フィードバックの収集
フィードバック収集用のキャンペーン(アンケートフォーム)を作成して施策後にリード・顧客からフィードバックを収集する。
フィードバックの内容を分析し、特に複数名から得られた意見については施策の内容改善に反映する。
フィードバック収集例:
セミナー後に参加者にアンケートフォームを送信し、得られたフィードバックをもとに次回のセミナー内容を改善する。
6. CRMシステムとの連携
リードナーチャリングを効果的に進めるためには、CRMシステムとの連携も欠かせない。
CRMは顧客情報を一元管理し、過去の接触履歴や案件進捗を整理できるため、営業活動の効率化と顧客との信頼関係強化に直結する。
例えば、リードジェネレーションで獲得した見込み客を分類し、メール開封やセミナー参加といった行動データをCRMに蓄積すれば、営業部門は「成約に至る可能性の高いリード」を的確に把握できる。
これにより、マーケティング施策から営業への引き渡しまでの流れがスムーズになり、成約率やROIの向上につながるだろう。
7. 成功へのポイント
CRMシステムを活用したリードナーチャリングを成功させるためには、次の5つの観点が重要だ。
CRMシステム連携を成功させるためのポイントは、大きく3つある。
- 顧客データの収集・分析
顧客情報を複数システムに分散させず、CRMに集約して更新・共有することが重要だ。正確なデータ基盤を整えることが、マーケティングROIや成約率の改善に直結する。 - パーソナライズされたコミュニケーション
CRMに蓄積されたデータをもとに、顧客の課題やニーズに沿ったパーソナライズ型のアプローチを行うことで、信頼関係の強化とエンゲージメントの向上につながる。 - 顧客体験の向上
コンテンツ配信やサポートの質を高めることで、単なる情報提供にとどまらず、顧客に「有益で効率的な体験」を提供可能だ。 CRMに蓄積されたデータをもとに、顧客の課題やニーズに沿ったパーソナライズ型のアプローチを行うと、信頼関係の強化とエンゲージメントの向上につながる。
- 顧客エンゲージメントの促進
データをもとに適切なタイミングでアプローチすることで、リードの関心を維持し、中長期的なエンゲージメントを育成できる。 - ロイヤリティの構築
ナーチャリングを通じて、顧客に有益な情報や効率的なサポート体験を提供し続けることで、案件や成約に至るだけではなく、長期的な顧客ロイヤリティの獲得につながる。
上記5つのほかにも、ナーチャリングで得られるメール開封やセミナー参加、ホワイトペーパーのダウンロードといった行動データは、営業部門と積極的に共有することが欠かせない。
顧客の関心度合いやカスタマージャーニー上の現在位置を正しく把握し、アポイントや案件化のきっかけを最適なタイミングで提供することで、効率的な営業活動につながるだろう。
近年ではデジタルチャネルや外部メディアでの接触も増えており、名刺やアカウント情報など多様な顧客情報を一元化して活用する体制づくりが大切だ。
・プロセス標準化と自動化による効率化
さらに、リードを営業へ引き渡す際の条件や分類基準をあらかじめ定義し、プロセスを標準化しておくことが重要だ。
例えば、ホットリードの選別ルールや請求情報を含めた登録の仕組みを明確にしておくと、対応のバラつきを防げる。
これらをMAツールやSFAとCRMシステムに連携させれば、フォローや集客施策から最終的な成約までの流れを自動化でき、生産性の高い組織運営が可能となる。
属人的なやり方に依存せず、一定の基準に沿って進めることで、長い検討期間を持つBtoB商材でも課題解決へ再び導ける機会を創出できるはずだ。
このように、CRMシステムとの連携は単なる情報管理ではなく、リードナーチャリングの成果を最大化するための基盤づくりといえるだろう。
8.まとめ
リードナーチャリングの施策について、具体例を上げて詳しく解説した。
リードのフェーズやニーズに合わせて、施策を組み合わせて活用し、最適化を進めていこう。
また、リードナーチャリングは、MAツールの活用により大幅な効率化が可能だ。
しかし、アプローチしている相手はあくまで「人」ということを忘れてはいけない。
そのため、施策の幅を広げ、その人に応じた適切なメッセージを適切なタイミングで届けられるよう綿密に設計すること、そして効果測定と調整をこまめに行うことが重要だ。
本記事の内容を参考にしながら、顧客との深い関係構築につながるリードナーチャリング施策を展開してほしい。