BtoBマーケティングは、大きく「アウトバウンド」と「インバウンド」に大別される。
近年はインバウンドマーケティングに注力する企業が増え、「アウトバウンドマーケティングは時代遅れ」と評する声も少なくない。
しかし、アウトバウンドマーケティングはまだまだ活用できる。
インバウンドマーケティングを補完し、「攻めの施策」として非常に有用だからだ。
本記事では、BtoB IT企業に向けて、アウトバウンドマーケティングの基本から、具体的な手法、その選び方までを解説する。


1. アウトバウンドマーケティングとは?
アウトバウンドマーケティングとは、「企業側が自発的にアプローチするマーケティング」だ。
新聞広告やテレビCM、テレアポなどが代表的な例だ。
どちらかといえば一方通行で古典的な施策が多い。
一方で、アウトバウンドマーケティングを再評価する動きもある。
「接点を創りやすい」「決定力がある」など、インバウンドマーケティングにはない強みがあるからだ。
そこでアウトバウンドマーケティングの特徴をもう一度おさらいしておこう。
1.1.インバウンドマーケティングとの違い
まず、よく対比されるインバウンドマーケティングとの違いを整理しておこう。

インバウンドマーケティングの手法は「プル型」が主軸で、オンライン上で行うものが多い。
過度なアプローチを嫌う層に対して有効である一方で、決定力に欠ける場面もある。
一方、アウトバウンドマーケティングは即効性があり、接点を自ら創り出せる点がメリットだ。
どちらかといえばアナログな施策が多いが、使い方次第では現在でも十分に通用する。
1.2.アウトバウンドマーケティングが持つ3つの強み
アウトバウンドマーケティングの強みは以下3点に集約される。
- 即効性がある
- 興味関心のない層にもリーチ可能
- 接点を自ら作り出せる
強み1.即効性がある
1つ目の強みは「即効性」だ。
ターゲットリストに基づいてテレアポやメール営業を行えば、数日以内に商談化できるケースもある。
実際、SaaS企業では「リスティング広告 → ホワイトペーパーDL → 当日中に架電」という流れで、数時間以内に商談を獲得する事例も珍しくない。
施策を打てば即座に接点を生み出せるのがアウトバウンドの強みだ。
強み2.潜在層にも強くアピールできる
2つ目の強みは「潜在層にも強くアピールできる」という点だ。
たとえば、クラウドERPの導入を検討していない企業に対して、電話やDMで直接アピールすることにより「必要かもしれない」という印象を与えられる。
インバウンドマーケティングでも潜在層へのアプローチは可能だが、訴求の「強さ」で言えばアウトバウンドのほうが圧倒的に上だ。
強み3.自ら接点を創出できる
3つ目の強みは上述の通り、接点を自ら創出できるという点だ。
インバウンドマーケティングでは「顧客による能動的な情報収集を誘い込む」ような手法がとられる。
つまり「待ち」の時間が長く、接点の創出をコントロールしにくい。
一方でアウトバウンドマーケティングは「この企業のこの職種」といった具合に、ピンポイントで接点を創出できる。
たとえば、情報システム部門の部長職にDMを郵送し、その直後に架電して「見ていただけましたか?」と切り出す手法などだ。
また、テレアポであれば架電数に比例してアポイントの数も増えていく。
「短期間で最低〇〇件のリードを増やしたい」
「3か月で商談数を倍増させたい」
など、短期的な目標と相性が良い。
1.3.アウトバウンドマーケティングの課題
アウトバウンドマーケティングには課題も存在する。
それは以下2点だ。
- 費用対効果が見えにくい
- 中長期的な関係構築につながりにくい
課題1.費用対効果が見えにくい
1つ目の課題は「費用対効果の見えにくさ」だ。
オフライン広告やテレアポなどは「不特定多数に対して、半ば無作為に」アピールする。
こうした施策は「無駄打ち」が発生しやすい。
また、大規模・無作為であることが災いし、効果測定が難しくなりがちだ。
課題2.中長期的な関係構築につながりにくい
アウトバウンドマーケティングの多くは「企業側からの一方的なアプローチ」ととらえらえることも多い。
受け手側にとっては押し付けがましく感じられ、接触を拒否されることもある。
また「しつこい」というイメージが企業の信用力を低下させるリスクがあり、中長期的かつ良好な関係構築につながりにくいこともある。
2. アウトバウンドマーケティングが適している企業
アウトバウンドマーケティングは、インバウンドマーケティングの弱点を補完する役割も担う。
インバウンドマーケティングは、「ゆるく、長く」アプローチし、必然的に「待ち」の時間も発生する。
言い方を変えればスピード感に欠けるということだ。
一方、アウトバウンドマーケティングであれば、顧客に対してダイレクトかつスピーディーにアピールできる。
この点を踏まえ、アウトバウンドマーケティングが適している企業を整理してみよう。
2.1.新規市場へのアプローチを急ぐ企業
アウトバウンドマーケティングは、新規市場で早急に商談機会を創出したい企業に適している。
たとえば、新規プロダクトのリリース直後や、競合に先んじてシェアを確保したい場合などだ。
例:
パートナー開拓やチャネル拡大を狙うSaaSベンダーなど、新たな業界や業種への認知浸透を急ぐ企業
2.2.高単価・ハイタッチ商材を扱う企業
導入までに複数の関係者が関与し、検討を重ねるような「高単価商材」は、アウトバウンドマーケティングと相性が良い。
アウトバウンドマーケティングでは、「キーパーソン」に直接アプローチし、狙い撃ちで商談の機会を創出できるためだ。
例:
ソフトウェア開発・ITインフラ提供など、専門的な技術提案が求められる企業
2.3.明確なターゲット企業が存在する業界特化型の企業
業種特化型のソリューションなど、ターゲット企業が明確な場合にも適している。
Web広告やSEOによる流入に頼るよりも、ターゲット企業へ直接アプローチを行うほうが確実だからだ。
たとえば、製造業向けの設備管理ソフトや医療機関向けのIT支援ツールなど、特定業界に深く入り込む商材では、リスト営業やABMと組み合わせたアウトバウンドが成果を出しやすい。
例:
製造業向けの設備保全システムや医療機関向けの業務支援ツールなど、業界特化型のITソリューションを提供する企業
3. アウトバウンドマーケティングの主な手法
続いて、アウトバウンドマーケティングの具体的な手法を見ていこう。
- 広告
- テレアポ
- 代理店販売
- フォーム営業
- メールマーケティング
- 展示会・オフラインセミナー
- DM(ダイレクトメール)
手法1.広告:オンラインとオフラインを組み合わせた接点創出
広告は、大きくオンライン広告とオフライン広告に分類される。
オンライン広告では、Googleディスプレイネットワークや業界メディアへのバナー出稿、LinkedIn広告などが代表的だ。
特定業種・職種へのターゲティングが可能で、セミナーやホワイトペーパーへの誘導にも適している。
一方、展示会に合わせて出稿する駅構内の交通広告や、会場周辺のデジタルサイネージなども有効だ。
キーパーソンに対するアプローチでは、業界専門誌への出稿なども視野に入る。
手法2.テレアポ:最も直接的なアプローチ手段
テレアポは、アウトバウンド施策の中でも最も即効性が高い。
相手の反応をリアルタイムで確認しながらアプローチできるため、専門性が高く高単価な商材に向いている。
また、インサイドセールスとの連携により、スクリーニングやナーチャリングへの橋渡しとしての役割も果たす。
手法3.代理店販売:営業リソースと販路の拡張に有効
代理店や販売パートナーを活用することで、自社単独では接点を持ちにくい業界やエリアへ展開が可能となる。
販売ノウハウや広範なチャネルを持つ代理店と連携することで、効率的に販路を開拓できる。
ただし、代理店への教育やインセンティブ設計、販促資料の提供などの支援体制が確立されていることが前提だ。
手法4.フォーム営業:効率的かつ新しいアウトバウンド手法
フォーム営業とは、企業のWebサイト上にあるフォームに、営業メッセージを直接送信する手法である。
テレアポやメールよりも開封・閲覧される可能性が高く、初回の接点づくりに適している。
ただし「スパム」と判断されかねないため、文面の工夫や送信先企業の選定には細心の注意が必要だ。
手法5.メールマーケティング:継続性とコスト効率に優れた王道手法
メールマーケティングは、最もポピュラーなアウトバウンド手法の一つだ。
テレアポに比べてコストが低く、継続的にアプローチできる。
現代ではMAを活用したパーソナライズドメールや、ステップメールなども主流である。
ただし即効性には欠けるため、ナーチャリングを前提とした設計が必要だ。
手法6.展示会・オフラインセミナー:対面での深い接点づくり
展示会やセミナーなどのオフラインイベントは、商材の価値を直接伝えられる貴重な機会だ。
対面であることから信頼や納得を勝ち取りやすく、即効性に優れている。
高単価な無形商材であるIT製品は、オンラインでの接点のみではどうしても「信頼性」を得ることが難しい。
IT商材特有の弱点を補いつつ、深い関係を構築できるのが展示会やオフラインセミナーの強みだ。
また、名刺情報を収集し、MAに取り込むことでインサイドセールスのための材料も得られる。
手法7.DM(ダイレクトメール):印象に残る差別化手法
郵送によるDMは、現在ではやや珍しい手法だが、差別化の手段として注目されている。
特に「決裁権」を持つ役職者へ直接、資料やカタログ、手書き風メッセージを送付することで強い印象を残せる。
無作為な送付ではなく、特定のキーマンに絞って送付することが重要だ。
4. アウトバウンド手法の選び方
アウトバウンド施策の効果は、手法の選び方で大きく変わる。
ここでは自社に最適なアウトバウンド手法を見極めるための基準を紹介する。
選び方1.ターゲット層の属性と接触手段を見極める
アウトバウンド施策を選定するうえで、まず重要となるのがターゲットの属性である。
具体的には、部門、担当者の職種によって手法を変えよう。
例:
●エンジニアや開発部門をターゲットとする場合
テレアポは敬遠されやすく、メールやLinkedInなどのテキストベースの接触手段の方が反応を得やすい
●情シス部門をターゲットとする場合
展示会や業界紙を通じたリーチが効果的
対面での製品説明や業界実績の提示によって信頼を獲得しやすい
●経営層や決済権を持つ役職層をターゲットとする場合
郵送DMやチラシ、カタログなど「手元で吟味できる資料」が効果的
このように、ターゲットの属性によって、接点の作り方は大きく変わる。
選び方2.商材の特徴(単価・検討期間・複雑さ)に合わせる
商材の単価や検討期間、導入までの複雑さも考慮しよう。
例:
●高単価で複数部門の合意が必要な企業向けIT製品の場合
テレアポやDMなどのハイタッチ型施策
●比較的シンプルで低単価なツール系SaaSの場合
Web広告→ホワイトペーパーDL→フォーム営業といったデジタルな導線で効率的に商談を創出
●複雑な製品・サービスの場合
展示会やセミナーなど「対面型かつ質疑応答がある手法
選び方3.営業とマーケティングのバランスを取る
アウトバウンドマーケティングは、こちらから働きかけなければ始まらないため「人の手」が必要となる。
また、営業的な要素も大きく、営業部門との連携も重要だ。
自社の営業部門やマーケティング部門のリソースに応じて、手法を変えていこう。
双方に十分なリソースがあれば、初期接点をマーケティングが創出し、営業が商談化に集中できる分業体制が望ましい。
一方、人的リソースが限られている場合は、フォーム営業やSNS広告など、運用負荷の低い手法を優先するのが現実的だ。
無理にすべてのチャネルを網羅するのではなく、自社にとって最も再現性の高い接点形成手段を見極めることが鍵となる。

5. まとめ
アウトバウンドマーケティングは、即効性と能動性を備えた手法だ。
また、手法の選択とターゲット選定の精度をあげることで、弱点である「無駄うち」を防ぐことができる。
一部では「アナログで古い」と見られることもあるが、インバウンドでは届きにくい層へのアプローチや、早期の関係構築には有効な手段だ。
インバウンドマーケティングと組み合わせながら、強く素早く接点を構築していこう。

