マーケティングでは獲得したリードを育成し、有望なリードを「評価」し、「選別」して営業チームに引き渡す。
この評価作業が「リードスコアリング」だ。
BtoBのリードは「質」が重要である。
そして質とは、端的に言えば購買意欲の高さを表す。
「リードの数は揃ってきたが、なかなか商談に至らない」
「リードの質の評価方法がわからない」
「有望なリードをどう見極めるべきか悩んでいる」
といったお悩みがある場合、リードスコアリングのノウハウが役立つかもしれない。
ここでは、リードスコアリングの基礎知識やスコアリングの方法、実施タイミング、実例など、実務で役立つ情報を紹介する。
1.リードスコアリングとは?
まず、リードスコアリングの定義と重要性について確認しておこう。
1.1.リードスコアリングの定義
リードスコアリングとは、リードに関する情報に対してスコア(数値)を割り当て、値を合計して評価し、順位付けすることだ。
定量的かつ客観的な順位付けによって、リードの「質」をより正確に可視化できる。
また、「購買行動フェーズのどこに位置しているのか」「具体的なアプローチとして何が有効か」などの理解にも役立つ。
スコアが高いリードは、購買意欲や契約確度が高い「ホットリード」とされ、アプローチの優先度が高くなる。
1.2.BtoBにおけるリードスコアリングの重要性
BtoBマーケティングにおいて、リードスコアリングは重要な役割を果たす。
以下で解説していこう。
「質」の見極めが難しいから
BtoBはBtoCよりもリードが集まりにくく、リード1件当たりの獲得コストが高い。
また、営業へ連携する際には、スコアが高いリードを優先しなければ、営業リソースの浪費が発生しかねない。
そのため、リードの「質の見極め」がより重要になる。
従来は各営業パーソンがその見極めを行い、自身でアプローチのタイミングや施策を判断していただろう。
しかし、顧客行動が多様化し、オンライン上のサービスが溢れかえる近年では、リードのオンライン上の細かな行動を考慮し、ツールを用いた数値による定量的な評価が求められるということだ。
また、リードスコアリングを取り入れることで、マーケ部門と営業部門が互いに意見交換を行い、スコアリングの精度向上によるROIの向上や、連携力・組織力の強化にもつながる。
よって、現代のBtoB企業では、リードスコアリングを必ず取り入れるべきだといえる。
意思決定に要する時間が長いから
BtoBでは、BtoCよりも購買行動のステップが多く、意思決定に要する時間が長い。
担当者から課長や部長、さらに経理や法務などの他部門のチェックも必要となり、多くのステップを経て合理的な判断がなされる。
よって、リードスコアリングによって定期的に行動のチェックや優先順位付けを行い、「リードが動き出すタイミング」「リードに刺さるタイミング」に気づけるようにしておきたい。
1.3.リードスコアリングのメリット
リードスコアリングのメリットは主に以下3つだ。
スコアに応じて適切なアプローチができる
ハイスコアなリードに対しては購買意欲を掻き立てるアプローチを、ロースコアなリードに対してはニーズの調査や有用なノウハウの提供など、アプローチにメリハリが生まれる。
また、「名刺交換後しばらくはハイスコアだったが、徐々にスコアが下がってきて「いる」といったリードに対して、休眠顧客化を防ぐアプローチもできる。
客観的な数値によってリードの状況が可視化されているからこそのメリットだ。
利益の期待値が大きくなる
一般的にハイスコアなリードは購買意欲、契約確度ともに高い。
購入・契約後にアップセルやクロスセルを受け入れてくれる可能性もある。
ハイスコアなリードへのアプローチを続けることで、利益の期待値が大きくなるだろう。
マーケティング、営業のリソースを有効活用できる
「将来の優良顧客」を早期に発見して無駄なくアプローチできるため、営業やマーケティングのROI向上につながる。
マーケティングや営業の人材は常に複数のタスクを抱えている。
手間のかかる「リードの評価」を仕組み化しておくと、施策立案や商談といったコア業務に投下するリソースを、最適に配分できるのだ。
1.4.リードクオリフィケーションとの関係
リードスコアリングと混同されがちな言葉に「リードクオリフィケーション」がある。
リードクオリフィケーションとは、「見込み客の選別」のことだ。
一般的に、まずリードスコアリングで「数値化」「順位付け」を行い、その結果をもとに選別(クオリフィケーション)を行う。
リードスコアリングはリードクオリフィケーションの一部であり、2者は連続したタスクである。
2.BtoBにおけるリードスコアリングの実践プロセス
BtoBにおけるリードスコアリングは、以下3つのステップで行う。
- 対象リードの絞り込み
- スコアリング制度の設計
- スコアリング
順に詳しく見ていこう。
ステップ①:対象リードの絞り込み
リードスコアリングの最初のステップは、対象リードの絞り込みだ。
特に初めてスコアリングを導入する場合は、リードの範囲を限定したほうが実施しやすい。
例えば、インサイドセールスで獲得したリードのみに限定する、ウェビナー参加者だけを追いかけるなど、獲得経路によって絞り込む方法がおすすめだ。
ステップ②:スコアリング方法の設計
一般的なリードスコアリングで使われるのは「外面的情報」「内面的情報」「行動情報」の3項目だ。
外面的情報
外面的情報には、リードが属する業界、業種、部門、役職などが含まれる。
つまり、リードの基本的なプロファイルを形成する情報だ。
自社の製品やサービスに対する適合度が高い業界で決裁権も有するリードであれば、加点は大きくなる。
また、外面情報は定量化しやすく、AIの活用による自動的なスコアリングも可能だ。
内面的情報
内面的情報は、リードの内部的な特性やニーズを示す情報だ。
一般的なスコアリングでは、「資料をダウンロードしたあとにセミナーに参加した」という具合に、「行動の連続性」によって内面的情報を評価する。
ただし、「課題の具体的な内容」「深刻さ」などは、ヒアリングを通して把握するほかない。
内面的情報は「心理状況」や「抱えている痛み」とも言い換えられ、特に入手難易度が高いため、人手とMAツールの併用により収集しよう。
「人手」とは、インサイドセールスによる定期的なヒアリングや、マーケティングによるアンケートの実施などが挙げられる。
行動情報
行動情報は、リードの具体的なアクションに基づく情報を指す。
リードがセミナーに参加したら2点、資料をダウンロードしたら3点という具合に、行動ごとにスコアが加算される。
また、可能ならば「活性度」による重みづけも行いたい。
例えば、同じスコアのリードが2つ存在する場合は、直近で行動を起こしている(=活性度が高い)リードのほうが順位は高くなる、といった具合だ。
ステップ③:スコアリング
3つの情報が取得できたタイミングでスコアを加算(減算)していく。
スコアリングは手動で行ってもよいが、MAツールのスコアリング機能を活用することで、ある程度の自動化が可能だ。
特に外面的情報や行動情報は自動化しやすいため、積極的に検討しよう。
3.リードスコアリングの実施タイミング
リードスコアリングに適したタイミングとしては、次の3つがある。
- リード獲得直後
- リードがアクションを起こしたタイミング
- 営業チームへの引渡し前
それぞれみていこう。
3.1.リード獲得直後
リードの獲得直後は、外面的情報、内面的情報、行動情報のすべてを取得しやすいことが特徴だ。
特に以下3つのタイミングは重要度が高い。
ウェブサイトのフォームに記入したとき
リードがウェブサイトのフォームに記入した直後にスコアリングを行う。
この段階で、外面的情報(企業規模、役職、業界など)を元に初期スコアを付与する。
MAツールやAIによる自動化によって、リードの重要度を早期に把握することができる。
資料をダウンロードしたとき
リードが資料をダウンロードした際には、その行動をトラッキングし、スコアリングに反映する。
ここでは内面的情報や行動情報によるスコアリングが可能だ。
ダウンロードの検知とスコアリングは、MAツールによる自動化が望ましい。
インサイドセールスがコンタクトをとったとき(ヒアリングに応じたとき)
インサイドセールスがリードに直接コンタクトし、ヒアリングを行った際には、その内容を基にスコアを加算する。
ヒアリングは内面的情報を可視化する貴重な機会だ。
ヒアリング内容の設計やスクリプトなども用意し、リードにストレスを与えないようスムーズに情報収集できるよう、準備しておきたい。
3.2.リードがアクションを起こしたタイミング
リードがアクションを起こしたタイミングでは、主に行動情報をスコアリングできる。
メールキャンペーンに対する反応があったとき
リードがメールキャンペーンに反応した場合(メールの開封やリンクのクリック)、スコアに反映する。
特に、メール内リンクのクリックは高い関心を示すため、高めのスコアを付与しよう。
メールの開封自体は小さなアクションだが、頻度や回数に応じて関心や興味の高さは異なることにも気をつけよう。
複数回のクリックはより強い興味を示すため、追加のスコアを付与する。
ウェビナーに参加したとき
ウェビナーに参加した際には、参加した時点で行動情報をスコアリングし、その後の行動次第で内面的情報としてもスコアリングする。
ウェビナーへの参加は、そのために時間を割くほどテーマに対して関心を持っているという証拠であるため、必ず押さえるべきスコアリングポイントだ。
イベントに参加したとき
リードが展示会やオフラインセミナーなどのイベントに参加した場合もスコアリングしよう。
他企業が出展している場合は、自社との関連性が高いとは限らないが、リソースを割いて足を運ぶほどテーマについては関心があると考えられる。
さらに、自社のブースや講演に参加したり、アンケートに回答したりしたリードには、より高いスコアを付与できるだろう。
デモのリクエストがあったとき
サービスのデモリクエストは、具体的な解決策の要求や、製品への具体的な検討を示すサインだ。
その行動は購買意欲を強く示すため、高いスコアを付与しよう。
問い合わせ
リードからの問い合わせも重要なアクションだ。
行動情報としてスコアリングするとともに、問い合わせ内容次第では内面的情報のスコアも加算する。
スコアリングの効率化のため、フォーム内に問い合わせ内容を区別するための項目を設ける、といった工夫もおすすめだ。
3.3.営業チームへの引き渡し前
リードが一定のスコアに達した際には、営業チームへの引き渡し前に最終確認を行う。
この段階では、リードの全体的なスコアと最新の行動履歴を確認し、営業チームがスムーズにアプローチできるようにする。
リードの情報が正確で、なおかつ活性度が高い(直近で動きがある)ことが大切だ。
リードスコアリングは一度行って終わりではない。
毎月や四半期ごとにスコアの再評価やシナリオの最適化を行い、スコアリングの精度やリード管理の質を高めていくことも忘れてはならない。
4.リードスコアリングの運用ポイント
以上が、BtoBにおけるリードスコアリングの基礎だ。
これを踏まえ、実際にスコアリングを運用する際のポイントも理解しておこう。
ポイント①:複雑にしすぎない
ここまで解説したように、リードスコアリングではさまざまな指標が考慮される。
ただし、初めから全ての行動や情報をスコアリングに盛り込もうとする必要はない。
そもそも、スコアリングの実績やデータが積み重ねられていなければ、リード評価の精度を高めることは難しいためだ。
まずはスモールスタートを意識して簡単な内容から始めていこう。
おすすめは、「外面的情報+行動情報」の組み合わせだ。
入力フォームからの情報で外面的情報を揃え、資料DLやウェビナー参加といったわかりやすい行動情報を加算することで、リードスコアリングの大枠が完成する。
内面的情報の取得には時間とノウハウが必要なので、まずは上記の組み合わせで簡易的に運用しよう。
その後、セールスとの意見交換や定期的なフィードバッグを通じて、自社に最適なスコアリング方法を確立していこう。
ポイント②:内面的情報の精度向上を心掛ける
リードスコアリングが定着してきたら、内面的情報の精度を向上させよう。
前述したように、内面的情報によるスコアリングは最も難しいポイントだ。
「製品・サービスへの適合度」でもあるため、機械的に取得しづらい。
MAによる行動追跡とともに、インサイドセールスによるヒアリングに注力することで適合度が把握できる。
ヒアリングでは、「導入時期が具体的であるか」「濃いニーズ/ウォンツを持っているか」なども把握し、スコアリングに反映できる仕組みを整えておきたい。
ポイント③:情報の鮮度を保つ
行動情報は鮮度が非常に重要なため、最低でも月に1回度程度は見直そう。
また、直近数日でオウンドメディアに何度もアクセスし、資料ダウンロードを繰り返しているようなユーザーは活性度が高い。
スコアの絶対値のみならず、活性度の評価も交えた総合値を把握することが重要だ。
ポイント④:スコアリングモデルを活用する
リードスコアリングには、いくつかのモデルがある。
サービス内容やマーケティング施策の成熟度に応じてこのモデルを活用することで、スコアリング制度の設計がスムーズに進む。
代表的なスコアリングモデルを見ていこう。
①FITスコアリング(外面的情報を重視)
FITスコアリングは、リードの基本的な適合度を評価するモデルである。
外面的情報が主軸となるため、初心者でも扱いやすいモデルだ。
- 業界: 自社が強みを持つ業界であるかどうか
- 会社の規模: 売上高や従業員数などの規模
- 役職: 意思決定者や影響力のある役職に就いているかどうか
②PAINスコアリング(内面的情報を重視)
PAINスコアリングでは、リードが抱える課題やニーズの深刻度を評価する。
難易度が高い一方で、正確に実施できれば高精度なリードスコアリングが実現する。
- 課題の緊急性: リードが直面している課題の解決をどれだけ急いでいるか
- 課題の重要性: リードのビジネスにとってその課題がどれだけ重要か
- 解決策の必要性: リードが解決策を探しているかどうか
③サイバークリックモデル(オンラインでの行動情報を重視)
サイバークリックモデルは、リードのオンライン行動を重視したモデルだ。
オウンドメディアから流入したリードなどに適用しやすい。
- ウェブサイトの訪問回数: 任意の期間における訪問回数や頻度
- ページ閲覧数: 訪問時にどれだけのページを閲覧しているか
- 資料ダウンロード: 資料をダウンロードした回数や種類
- メールの開封やクリック: メールキャンペーンに対する反応
5.リードスコアリングの具体例
最後に、リードスコアリングの具体例を紹介する。
実際のリードスコアリングにはさまざまなパターンがあるが、制度設計の参考にしてみてほしい。
例1:FITスコアリング + PAINスコアリング
FITスコアリング:評価基準 | スコア |
業界の適合度(SaaS、BtoB IT) | +5 |
従業員が100~500人 | +4 |
CIO,CTOなどの意思決定者 | +5 |
合計 | 14点 |
PAINスコアリング:評価基準 | スコア |
課題の深刻度(低) | +1 |
積極性、ニーズの濃さ(低) | +1 |
ビジネスへの影響度(中) | +3 |
合計 | 5点 |
総合スコア | 19点 |
例2:FITスコアリング + サイバークリックモデル(マイナススコアあり)
FITスコアリング:評価基準 | スコア |
業界の適合度(製造業) | +5 |
売上高が5億円~20億円 | +3 |
非意思決定権者 | -2 |
従業員数100~500人 | +2 |
合計 | 8点 |
サイバークリックモデル:評価基準 | スコア |
過去1ヶ月で5回以上訪問(活性度:高) | +4 |
1回の訪問で3ページ以上を閲覧 | +3 |
資料ダウンロード3回以上 | +5 |
メールに対する反応(開封) | +3 |
メールに対する反応(URLクリック) | +3 |
合計 | 18点 |
総合スコア | 26点 |
6.まとめ
ここでは、リードスコアリングの定義や重要性、運用上のポイント、スコアリングモデルや具体例などを紹介してきた。
リードスコアリングは、リードクオリフィケーションにおける「根拠」であり、その後の施策を決定する土台となる。
BtoBのようにリードの数よりも質が重視される領域では、スコアリングの精度がマーティング・セールス全体のパフォーマンスに直結するだろう。
また、コンテンツマーケティングのパフォーマンスを計測する指標としても活用できるため、本記事の実施プロセスや具体例を参考に、ぜひとも取り組んでいただきたい。