市場やトレンドの変化が激しい現代において、マーケティング戦略・戦術の立案において「自社が置かれた環境」を認識することが非常に重要だ。
3C分析は、この「環境」を分析し、把握するためのフレームワークである。
よく知られる「4P分析」や「4C分析」とは役割が異なり「戦略立案の前」に行われることが特徴だ。
現代のマーケティング施策は、複数のフレームワークを組み合わせて立案される。
4Pや4Cを活用する場合は、3C分析も併せて理解しておきたい。
本記事では、3C分析の基礎や目的、わかること、実践に使える具体的な分析方法などを紹介する。
1. 3C分析とは
冒頭でも述べたとおり、3C分析は「環境分析」のために使われる。
環境分析は戦略・戦術両面に深くかかわるため、実は非常に重要なフレームワークだ。
1.1.3C分析の概要、歴史、背景
まず、3C分析の概要を理解しておこう。
3C分析は、マーケティング戦略の基盤となる「環境」を3つの視点から分析する。
3つの視点とは「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」だ。
3C分析は、1980年代に日本の経営コンサルタントである大前研一氏によって提唱された。
この時代の日本は、高度成長期を終えた後の「成熟期」といえる時代。
バブル景気の恩恵を受けつつ、グローバル市場では日本企業が国際的な競争の中で急成長を遂げていた。
特に自動車や家電などの産業では、日本企業が技術力やコスト効率で世界市場を席巻し、競合他社との激しい競争が展開されていた。
こうした状況下で企業が競争に勝つためには「顧客」「競合」「自社」という3つの視点、つまり「企業の内外」から自社を見つめ、戦略を立案する必要があった。
このフレームワークは、現代でも、マーケティングの実務において戦略立案の下準備として活用されることが多い。
1.2.シンプルで使いやすく客観的に状況を整理できる
3Cの特徴は「環境分析を通じて、企業が直面する状況を客観的かつ正確に把握できる」点にある。
客観的で正確な状況把握によって、自社が目指すべき方向性を具体的に定められる。
さらに「集中して解決すべき課題」も見えやすくなる。
方向性の決定(戦略策定)、課題解決(戦術の選定)という下流の作業をスムーズに、かつ的確に遂行するための前提が3C分析なのだ。
つまり、3C分析をもとにマーケティングを進めれば、経営資源を無駄にせず、施策の命中率が高まるといえる。
そして、外部要因と内部要因をバランスよく分析できるシンプルで実用的な構造も長期にわたって広く使われている理由のひとつだ。
2.3C分析の3つの要素
3CはCustomer(顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)の3要素で構成されている。
それぞれの具体的な内容は以下のとおりだ。
2.1.Customer(市場・顧客):ターゲット市場の特性と顧客を把握
Customerは直訳すると「顧客」だが、3C分析においては「市場」も含まれる。
よって、Customerの分析では「市場」と「顧客」という2つの視点での分析が必要だ。
詳細は後述するが、市場についてはマクロ分析(PEST分析)およびミクロ分析(5フォース分析)を行い、そこから顧客分析へとつなげる。
★Customerの分析で必要な情報
- 市場規模と成長率
市場全体の動向を把握し、成長性や競争の激しさを評価する。 - 市場セグメンテーション
ターゲット顧客層を細分化し、それぞれの特性を明確化する。 - ターゲット顧客のニーズ
顧客が抱える課題や解決したい問題を把握する。 - 購買行動
顧客がどのように情報収集を行い、意思決定をするのかを理解する。
2.2.Competitor(競合): 競合の戦略、製品、価格、プロモーションから弱点や立ち位置を把握
Competitorはその名のとおり「競合」だ。
Competitorの分析では「競合の現状」と「競合との比較」という2つの視点での分析を行う。
競合製品の特徴や戦略を調べ、比較分析では自社が差別化できるポイントを特定する。
競合情報を集めるには、市場レポート、ウェブサイト、業界ニュースなどが有用だ。
★Competitorの分析に必要な情報
- 競合製品やサービスの特徴
機能、品質、価格、付加価値を把握する。 - 市場でのシェアと動向
競合が市場内でどの程度の規模を持ち、どのような成長をしているかを評価する。 - 競合の強みと弱み
技術力、顧客サポート、ブランド力などを評価し、弱点を突けるポイントを探す。 - 価格戦略
競合がどの価格帯で製品やサービスを提供しているか、割引やサブスクリプションモデルの詳細を理解する。 - プロモーション手法
競合がどのチャネル(広告、SNS、ウェビナー)でプロモーションを行っているかを調べる。
2.3.Company(自社):自社の強み・弱みを把握し競争優位性を明確化
Companyには「自社の内部環境」と「市場における自社のポジショニング」が含まれる。
内部環境については経営資源の把握(ヒト・モノ・カネ・情報)を行い、ポジショニングについてはSWOT分析を活用することが多い。
★Companyの分析に必要な情報
- 自社製品やサービスの特徴
競合と比較した際の優位性(技術力、機能性、品質)を整理する。 - リソースと能力
ヒト(人材のスキル)、モノ(設備・製品)、カネ(資金力)、情報(ノウハウや顧客データ)を把握する。 - 市場でのポジショニング
自社が市場のどのターゲット層に最適で、どの位置にいるかを評価する。 - 内部課題とリスク
サポート体制の弱さや、リソース不足などの課題を特定する。
3. 3C分析の目的、わかること
次に3C分析の目的と、分析の結果から得られることについてみていこう。
3C分析の目的
3C分析の目的は「ビジネスの成功要因(Key Success Factor)を見つける」ことにある。
3C分析を徹底することで、顧客ニーズへの理解や競合との差別化(あるいは衝突の回避)、自社の強みを活かした独自のポジションなどが見えてくる。
たとえば、SaaS企業がリモートワークツールを展開する際「中小企業が求める簡易性」と「大手企業が求める複雑な機能」という2つのニーズの存在が明らかになったとしよう。
このとき、考えるべき課題として以下の内容が挙げられる。
- 「自社が満たすべき(満たしやすい)ニーズはどちらか」
- 「競合他社は2つのニーズに対してどのように動いているか」
- 「それぞれのニーズに属する企業のセグメントはどうか」
- 「各セグメントに対してどう接すべきか」
こうした課題を満たすことで、ビジネスが成功する可能性は非常に高くなる。
つまりこれらは、成功要因(Key Success Factor)と言えるわけだ。
3C分析でわかる3つのこと
前述のように、3C分析では顧客と市場、自社、競合について複数の情報を集め、多角的に分析する。
その結果、以下のような理解が得られる。
1.市場と顧客(Customer):「市場・顧客との親和性」
Customerの分析では「自社と市場・顧客との親和性」を判断できる。
例えばマクロ視点の市場分析である「PEST分析」では、ビジネスの外部要因(政治・経済・社会・技術)を総合的に俯瞰する。
また、ミクロ視点の5フォース分析では、新規参入や代替品の脅威などを可視化する。
その結果、以下のように親和性が判断できる。
- 市場・顧客との親和性が低い場合
「自社の製品が法規制の対象になりそう」
「代替品の技術的な成熟が早く、リスクが大きい」
- 市場・顧客との親和性が高い場合
「少子高齢化と労働人口の低下により、自社サービスのような自動化ツールは必須」
「クラウドプラットフォームが安く使える時代になったので、以前よりも低価格で提案できる」
BtoBの場合、市場ごとの特性、つまり自社が参入する「場の傾向」を理解していなければ、ビジネスは成功しない。
したがって、3C分析の中でも特に重要な要素といえる。
2.競合(Competitor):「競合企業との向き合い方」
競合分析では「競合企業との向き合い方」がわかる。
たとえば、競合が「大手企業向けに豊富な機能を提供」している場合、自社は「中小企業向けにシンプルさを重視」することで異なるポジションを確立できる。
また、競合が割引キャンペーンを積極的に行っている場合、自社は「無料トライアル期間の延長」や「初期費用ゼロ」といった独自の施策を考える余地がある。
「競合との衝突をいかに回避するか」「市場での棲み分けをどう進めるか」の材料になりうるのがこの「競合(Competitor)」の分析だ。
3.自社(Company):「自社の立ち位置と価値」
3C分析の3つの要素のうち、CustomerとCompetitorは「外部要因」に関する分析だ。
これに対してCompanyは唯一の「内部要因」であり、実は分析が難しい。
自社に対する分析とは、端的に言えば「自社が持つ価値」を明確にすることだ。
CustomerとCompetitorといった外部要因の分析結果を受け、自社がどういった強みと弱みを持ち、どのような脅威にさらされていて、どういった価値を持つのか。
これを見極めるのがCompanyの分析から得られることである。
自社の提供できる価値を知るという意味では、バリュープロポジションにも似ている。
実際に3C分析の結果をバリュープロポジションマップの作成に役立てる例も少なくない。
4. 3C分析のステップ
続いて、3C分析の実践方法を把握しておこう。
3C分析は「市場と顧客(Customer)」→「競合(Competitor)」→「自社(Company)」の順で行うのがセオリーだ。
また、各要素の分析に入る前にまずはデータを集めること、分析後はその結果をさら突き詰める「クロス3C分析」を行うことなども押さえておこう。(本章で順に解説する。)
ここでは「プロジェクト管理ツールを主力製品とする企業」が新規市場に参入する場合の3C分析を例として解説する。
ステップ1.データ収集
最初のステップは、3C分析に必要なデータを収集することだ。
市場調査を通じて、
- 市場の大きさや成長性
- 顧客ニーズや購買行動
- 競合の動向
を把握する。
そのためには、公開データ、業界レポート、顧客インタビュー、アンケート調査、デジタル分析ツール(Google AnalyticsやCRMデータなど)などの活用が可能だ。
また、自社の内部データも活用しよう。
今までの売上データ、製品の特性、リソースの状況、既存顧客の声などを収集する。
特にSaaSやBtoB IT企業では、契約更新率や顧客満足度(NPS)といったKPIもデータ収集の対象となる。
ステップ2.市場と顧客(Customer)の分析
市場と顧客の分析では、まずSTEP分析でマクロ視点を、次に5フォース分析でミクロ視点をフォローする。
続いて顧客分析でニーズを把握するという流れが一般的だ。
マクロ視点:STEP分析
STEP分析は「社会(Social)」「技術(Technological)」「経済(Economic)」「政治(Political)」の4つの観点から、マクロ環境を分析する手法だ。
市場や業界に影響を与える外部要因を把握し、ビジネス戦略やマーケティング施策に役立てる目的で活用される。
ミクロ視点:5フォース分析
5フォース分析は、以下5つの要素から自社に対する「脅威」を予測する手法だ。
- 業界内の競争(既存競合の強度)
競合他社間の競争の激しさ。 - 新規参入の脅威
新規参入企業が市場に入る可能性とその影響。 - 代替品の脅威
顧客が代替製品やサービスに移行する可能性。 - 買い手の交渉力
顧客が価格や条件で交渉力を持つ度合い。 - 供給業者の交渉力
サプライヤーが価格や供給条件に影響を与える力。
顧客分析
顧客分析では、ミクロ視点よりもさらに小さく「顧客」に焦点を当てる。
この時の材料は顧客インタビューやCRMなどに蓄積されたデータから得ると実効性が高い。
ステップ3.競合(Competitor)の分析
競合の製品やサービス、価格戦略、プロモーション施策を詳細に比較する。
たとえば競合が「大企業向けに高機能なプロジェクト管理ツール」を提供している場合、自社は「中小企業向けの簡易ツール」を強みにすることで差別化を図れる。
ステップ4.自社(Company)の分析
自社の分析では主にSWOT分析を活用して自社の「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」を整理する。
内部のリソース(人材、資金、技術力)や製品の特性を詳細に把握し、競争優位性を明確化したい。
また、バリューチェーン分析を行い、自社がどのプロセスで価値を生み出しているのかを理解することも有効だ。
ステップ5.クロス3C分析による統合的な分析
最後に、得られた分析結果を統合してより正確に「環境」を把握するためのクロス3C分析を行う。
クロス3C分析では3Cの各要素をクロスさせる。
あくまでも一例ではあるが、下記図のように3つのポイントで考察が得られるはずだ。
Customer(市場・顧客)×Company(自社)
市場の特徴 | リモートワークの普及により、中小企業が進捗管理の可視化やタスク整理を求めている。
シンプルで使いやすいツールが特に人気。 無料トライアルを好み、短期間での導入を重視する購買傾向がある。 |
自社の状況 | 強み:直感的なUI、3日以内に導入可能なスピード感。
弱み:カスタマーサポート体制が弱い。 |
考察 | 中小企業向け市場において、自社の「シンプルなUI」と「迅速な導入」は強みとして活用できる。
一方で、サポート体制の改善が必要であり、FAQやチュートリアル動画などセルフヘルプ型のサポートを充実させることが求められる。 |
Customer(市場・顧客)×Competitor(競合)
市場の特徴 | 中小企業は低価格を求める傾向があり、導入の複雑さを嫌う。
大企業はカスタマイズ性や高度な機能性を重視する。 |
競合の状況 | 競合A社 大企業向けに高度な機能を提供。価格が高く、導入が複雑。競合B社 低価格かつシンプルなツールを提供。ただし、機能が限定的でサポート体制が弱い。 |
考察 | 競合A社は中小企業向け市場に対応しきれておらず、複雑さが導入障壁になっている。
競合B社は低価格戦略を展開しているが、十分な機能性を提供できていない。 自社は中価格帯で「簡単な操作性+必要十分な機能」を提供することで、競合の隙間を埋める戦略を採れる。 |
Company(自社)×Competitor(競合)
自社の強みと弱み | 強み:使いやすいUIと迅速な導入。
弱み:カスタマーサポートの不十分さ。 |
競合の状況 | 競合A社
競合B社
|
考察 | 自社は、競合A社と比較して「簡単さ」で優位性を持つが、大企業市場では高度な機能性が不足している。
一方、競合B社と比較すると、価格で劣る可能性があるが、機能の充実度と導入スピードで差別化できる。 今後、自社のカスタマーサポート体制を改善することで、競合B社との差をさらに広げる余地がある。 |
クロス3C分析は、自社の立ち位置や課題を導き出すための最終ステップだといえる。
5. 3C分析+αによるマーケティング施策立案の例
具体例を交えて3C分析について体系的に解説してきた。
複数視点から分析できる3C分析のフレームワークは、一見万能なようにも思われる。
しかし、3Cは本来「環境を知る」ためのものであり、あくまでも分析や戦略立案の任の「材料」だ。
3C分析+αで分析を行い、さらに多くのデータや分析を踏まえて、精度の高い施策を立案していくことがベストだ。
そこで最後に、3C分析と他のフレームワークを連携したマーケティング施策の立案とおすすめの方法について紹介しておこう。
5.1.STP分析との連携
STP分析は、顧客をセグメント化(S)し、特定の顧客層をターゲットに選定(T)し、競合との差別化ポイントを明確にしてポジショニング(P)を行うフレームワークである。
3C分析の結果から得た市場特性や競合の隙間、自社の強みを活用し、どの顧客層に注力し、ポジションを築くかの具体化が可能だ。
2つのフレームワークを併用することで、ターゲット顧客に最適化された施策立案につながる。
3C分析
リモートワーク普及により中小企業がシンプルな進捗管理ツールを求めている。
競合B社は低価格だが機能が不足、自社は「シンプルなUI」と「迅速な導入」が強み。
STP分析
セグメンテーション(S): ITリテラシーの低い中小企業層を特定。
ターゲティング(T):IT管理者が不在の中小企業をターゲットに設定。
ポジショニング(P):「誰でも使いやすい進捗管理ツール」と明確化。
施策案
「3クリックでタスク管理が完了」を訴求した広告展開。
ワンクリックで使える機能を開発。
5.2. 4P分析との連携
3C分析で得た顧客ニーズ、自社の強み、競合との差別化要素を基に、4P分析で製品、価格、流通、プロモーションの各施策を組み合わせる。
3C分析
中小企業市場では「低価格」「迅速な導入」「必要十分な機能」が重視される。
競合B社は低価格だが、機能が限定的。
4P分析
製品(Product):最小限の機能を提供し、追加機能をオプション化。
価格(Price):月額料金に初年度割引を導入し、無料トライアルを実施。
流通(Place):公式ウェブサイトとレビューサイトで認知度を高める。
プロモーション(Promotion):SNS広告で「3日で導入完了」と訴求。
施策案
無料トライアルの実施に加え、レビューサイトでの高評価をプロモーションに活用。
動画広告で「導入スピード」を具体的に示す。
5.3.7P分析との連携
7P分析を通じて、顧客体験全体を最適化するために「人」「プロセス」「物的証拠」の分析を加え、サービス提供の質を向上させる。
また、3C分析での課題を解決する形で各要素を設計する。
3C分析
中小企業市場では「サポートの充実」「簡単な操作性」が求められる。
自社のUIは直感的だが、サポート体制が弱い。
7P分析
製品(Product):FAQやチュートリアル動画を充実させ、操作性を補強。
価格(Price):基本プラン+追加サポートプランの柔軟な料金体系を設計。
プロセス(Process):ユーザー登録から初期設定完了まで30分以内で可能にする。
人(Personnel)カスタマーサクセスチームを新設し、オンボーディングをサポート。
物的証拠(Physical Evidence):ウェブサイトに成功事例や具体的なデータ(導入後○%の効率向上)を掲載。
施策案
カスタマーサクセス専任チームを立ち上げ、導入サポートを充実させる。
ウェブ広告に「導入後すぐに成果が出る具体例」を掲載し信頼感向上を狙う。
マーケティングでは、このように様々なフレームワークや要素の分析を組み合わせて施策を立案していく「マーケティング・ミックス」が重要だ。
ぜひ、上述の内容を参考に、具体的な分析へと進めていただきたい。
6.まとめ
本記事では、3C分析の基礎知識や実践に役立つ例を紹介してきた。
3C分析は、マーケティング施策の基盤となる重要なフレームワークである。
しかし実際に3Cを有効活用している企業は少ない。
なぜなら、3Cのみでは具体的な施策立案に結び付きにくいからだ。
しかし、クロス3C分析、STP分析、4P分析などを組み合わせることで、顧客のニーズに応じた戦略を設計できる。
3C分析を起点に他のフレームワークと連携させ、ビジネスの成功要因を特定していこう。