コンテンツマーケティングは長期的な施策であり、戦略が必要だ。
一方で、以下のような疑問や課題も多く寄せられる。
「戦略といっても何を決めるべきかわからない」
「KPIや目標の設計がわからない」
「投資するからにはしっかりと効果が出る戦略を立てたい」
コンテンツマーケティングでやるべきことは多岐にわたり、各施策がシナジーを発生させてはじめて効果が出る。
そのため、施策そのものの使い方と組み合わせ方が非常に重要だ。
また、BtoBの場合は、ロングテールを狙って継続的に、かつ「良質なコンテンツづくり」に取り組まなければならない。
こうした理由から、まずは行動の指針となる「戦略」を定めることが不可欠である。
この記事では、コンテンツマーケティングにおける戦略の構成要素と戦略設計の流れ、具体的な投資対効果の設計例、戦略立案のポイントを詳しく解説していきたい。
目次
1.コンテンツマーケティングに必要な戦略と戦術の基本
まず、戦略という言葉の意味を明確にしておこう。
Web上の情報には「戦略」を「戦術」と混同しているものが散見される。
そこで、戦略の意味を説明しつつ、戦術との違いについても整理していきたい。
戦略と戦術を明確に区別することは、個別の施策を設計するうえでも欠かせない。
まずはじめにマーケティング活動を全体最適で捉えたい方は、以下の「マーケティング施策全体設計」の記事も参考にしてほしい。
購買プロセスに沿った施策の配置や全体像の描き方を理解することで、戦略と戦術の関係がさらに整理できるだろう。
1.1.戦略(Strategy)
戦略は、組織の根本的な目的や目標を達成するための長期的な計画だ。
また、計画の方向性、全体的なアプローチを定義することもある。
例えば、ある電子機器メーカーが「次の10年でスマートホーム市場のリーダーになる」という目標をもっているとしよう。
この目標を達成するために、市場分析やターゲットの把握、製品設計、ブランドイメージなどを定義することが「戦略」に含まれる。
1.2.戦術(Tactic)
対して戦術は、戦略を具体的に実行するための手段やアクションのこと。
上で述べた電子機器メーカーの場合、以下が戦術に該当する。
- 「AI技術を搭載した新しいスマートホームデバイスの発売」
- 「家電量販店を中心とした販売促進キャンペーン」
- 「技術的イノベーションを生み出すためのパートナーシップ」
これらはすべて、具体的なアクションやタスクであり、なおかつ戦略に沿ったものだ。
1.3.戦略は戦術の上位概念
戦略は戦術の上位にある概念で、基本的には一度決定したら目標が達成されるまで変更されない。
また、戦術よりも長い期間を対象とするのが特徴だ。
コンテンツマーケティングにおいても、1~3年程度の中長期にわたる方向性や指針を「戦略」とすることが多い。
一般的なコンテンツマーケティングでは、オウンドメディア運用やコンテンツの作成と配信を通じて、リード獲得やナーチャリングにつなげる。
ここでは「オウンドメディア運用」や「コンテンツ作成・配信」が「戦術」である。
一方で「戦略」は、目的・目標の達成に向けて「誰に」「何を」提供するかを定めることをいう。

2.コンテンツマーケティングの戦略とは
次に、コンテンツマーケティングにおける戦略について、具体的にみていこう。
特にIT企業やSaaS事業者では、競合との差別化や導入検討期間の長期化といった特有の事情があるため、戦略の立て方にも業界特有の工夫が求められる。
その点も含めて解説していくのでぜひ参考にしてほしい。
2.1.戦略は「中長期」を前提に立案する
コンテンツマーケティングは「すぐ効果が出るもの」ではない。
少なくとも半年~1年程度は取り組みを続ける必要がある。
「コンテンツマーケティング=今すぐ顧客を得るための手段」だと誤解している人は多いが、それはどちらかというと「広告」の役割だ。
特にBtoBの場合は、見込み客が認識や態度を変えるまでに年単位の時間を要する。
ある程度の時間をかけて何度も自社のコンテンツに触れ、少しずつ自社製品への理解を深めたうえで検討候補に食い込んでいく、という流れを意識しなければならない。
こうした流れを経ることで、一度取引につながれば安定した関係性を作り出せるのだ。
しがたって、コンテンツマーケティングは「中長期で取り組む」ことを前提に戦略を立案すべきだろう。
特にSaaSや基幹システムの導入は「検討→社内稟議→PoC(概念実証)→本格導入」という長期的なプロセスをたどるケースが多い。
そのため、単発的な記事や広告ではなく、継続的に技術解説・導入事例・成功体験を積み重ねることが信頼構築のカギとなる。
2.2.戦略設計のステップ
次に、コンテンツマーケティングにおける戦略設計のステップを具体的に紹介していきたい。

ステップ1.目標(ゴール)の設定
厳密には目標設定と戦略立案は別のものだ。
しかし、実務では一体として扱われることが多いため、目標設定の方法から解説していこう。
一般的なコンテンツマーケティングの目標としては、以下が挙げられる。
- 認知拡大
- リード獲得
- 顧客エンゲージメントの強化
- 売上の増加 など
BtoBであれば、
- 問い合わせ数の増加
- 商談化率の向上
などを目的にすることも多いだろう。
目標は抽象的でも問題ないが、可能な限り定量化したほうが後々の施策や最適化につなげやすい。
例えば「売上を2倍にする」「オウンドメディアの訪問者数を5倍にする」や「コンバージョン率を2倍にする」など、誰もがはっきりと体感できる目標がおすすめだ。
たとえば、SaaS系企業では「トライアル申込数」「有料プラン移行率」「解約率低下」といったKPIも重要である。
リード獲得だけでなく、利用継続につながる指標をゴールに組み込むと戦略に一貫性が生まれる。
ステップ2.現状分析
戦略立案の最初のステップは「現状分析」だ。
現状分析では、既存顧客の状態や競合他社の状況、市場トレンドの概況などをリサーチする。
アクセス解析に加え、SaaSSaaS系企業ではユーザーの利用ログやAPIリクエスト数などのデータも有効だ。こうしたプロダクト利用データを戦略設計に取り込むことで、精度の高い顧客理解につながる。
ステップ3.既存顧客の分析
まず、既存顧客の状態を把握しよう。
ここでいう状態とは、自社メディアへのアクセス状況、ECサイトの購買履歴、アンケートやインタビューを通じた直接的なフィードバックなど、顧客の行動や嗜好が含まれる。
これらを把握することで、顧客ニーズや好まれるコンテンツの傾向を把握しやすくなる。
詳しくは、戦術で解説するが、戦略段階では「個別の人物像(ペルソナ)」まで落とし込む必要はなく、むしろ顧客層をどうセグメントするかを重視すべきである。
たとえば、
- 利用規模別セグメント(中小企業/大企業)
- 導入目的別セグメント(コスト削減/業務効率化/新規事業開発)
- 役割別セグメント(現場利用者/意思決定者/情報システム部門)
といった切り口で既存顧客を分類すると、後のターゲティングやコンテンツ戦略の大枠が明確になる。
ステップ4.競合他社の分析
次に、競合他社の状況も分析しておく必要がある。
同一業界に属する競合他社のオウンドメディアやソーシャルメディア、マーケティングキャンペーンなどを調査することで、競合他社の戦略の一部が見えてくる。
競合他社の戦略は自社の戦略立案において参考になるほか、差別化ポイントの抽出にも役立つ。
特にクラウドサービスや基幹システムの分野では、「サポート・導入事例・パートナー体制」の発信力が比較優位を生む。
競合の情報発信が弱い領域を見つけ、重点的にコンテンツ化するとよいだろう。
ステップ5.市場トレンドの概況
業界レポート、市場調査データなどを用いて市場の状況を把握する。
基本的にBtoBのトレンド変化は、BtoCに比べて緩やかだ。
一方で、法改正やビジネストレンドの影響から大きな転換を迎えることもある。
IT業界では「法規制対応(電子帳簿保存法や個人情報保護法)」「セキュリティ基準(FISC、SOC2など)」が急なトレンド変化を生む。
こうした要素をウォッチし、即時に記事化する体制を整えることが重要だ。
ステップ6.ターゲットとペルソナの把握
ターゲットとペルソナの設定は、コンテンツマーケティングを「誰に」向けて行うかを定義する作業だ。
これを定めておくことで、コンテンツの効果を高め、効率よく成果につながりやすくなる。
ターゲットは「層」であり、製品やサービスがもっとも効果的に響く顧客層だ。
一方でペルソナは、ターゲットのなかに存在する具体的な「顧客像」である。
戦略の段階では、ペルソナは広範に設定し、可能であれば複数のパターンを作成して幅をもたせておこう。
ペルソナを突き詰めていく作業は戦術レベルで行うため、ここでは「大枠」をとらえておくことが大切だ。
ステップ7.自社が提供する価値の把握
戦略設計において意外と見落としがちなのが「自社が提供する価値の把握」である。
戦略設計では「コンテンツに何を組み込むか」についても定めていくが、その「何を」の部分の核となるのが「自社価値」だ。
自社がもつ価値はコンテンツの核となるため、できるだけ具体的に把握しておく必要がある
なぜコンテンツの核になるかというと、自社の強みや独自性をコンテンツに組み込むことで、訴求力が強くCVにつながりやすいコンテンツ制作が可能となるからだ。
自社価値の把握に使える汎用的なフレームワークとしては「バリュープロポジションキャンバス(VPC)」がある。
VPCではまず、顧客に関する以下の項目を洗い出す。
- 顧客が解決したい課題
- 顧客がプラスに感じること
- 顧客の苦痛、悩み
そして、これらと対比する形で以下のように自社の価値を定義する。
- 自社が顧客に提供できる製品やサービス
- 顧客に利益をもたらす要素
- 顧客の痛みや悩みを取り除く力
VPCのポイントは、顧客の課題や悩みに自社価値を結び付けることだ。
これにより、製品やサービスの機能や価格だけでなく「あまり知られていない使い方」「カスタマイズで解決できるビジネス上の課題」など、ニッチな部分での価値が見えてくる場合もある。
これらをコンテンツに組み込むことで訴求力の向上につながるだろう。
VPCの概要や作り方は、以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしていただきたい。
ステップ8.カスタマージャーニーとコンテンツマップの制作
カスタマージャーニーは、顧客が製品やサービスに到達するまでの一連の過程を示す。
また、コンテンツマップは、ジャーニーに沿ったコンテンツの種類や配信方法を計画としてまとめた図だ。
例えば、認知段階ではトレンド解説によって時事ネタを提供し、情報収集の段階では製品の詳細や活用事例を提示するなど、顧客の心理状態に適したコンテンツを提供するために必要となる。
ここでは「露出重視か質重視か」という選択も行っておくとよいだろう。
企業やサービスがすでにある程度のシェアや知名度をもつ場合は、短期的な露出重視のアプローチに振ったコンテンツマップでも問題ない。
しかし、一般には、長期視点でのロングテール戦略が推奨される。
つまりコンテンツは「質重視」で制作し、長い時間をかけて顧客を取り込んでいく方法といえる。
コンテンツマーケティングの大半はロングテール戦略といわれており、そもそもが長期間をかけてコンテンツを蓄積し、集客装置として育てていくことが王道だと考えている。
一方で、新たなサービスを展開したり、まだ認知自体が少なかったりする場合は、広告との併用でスピード感を高めることも必要だ。
どちらが正解というわけではなく、状況に応じて使い分け・併用していくべきだろう。
3.コンテンツマーケティング戦略の設計ステップ
では、前述の内容に従って実際にコンテンツマーケティング戦略を設計してみよう。
ここでは「BtoB向けのセキュリティソリューションやクラウドソリューションを販売する企業」を想定し、コンテンツマーケティングの戦略設計を行っていく。
具体例を用いながら解説していきたい。
3.1.目標(ゴール)の設定
目標を、「売上増加:セキュリティ関連製品の売り上げを20%増加させる。」と設定する。
3.2.現状分析
以下の視点で分析する。

●既存顧客の状況
最近の顧客調査では、顧客満足度は平均して80%であり、特に高い評価を得ているのは機能の豊富さとシステムの安定性である。
一方で、ユーザーインターフェースの複雑さや一部の機能の使いにくさを指摘する顧客が50%以上存在し、「高機能ではあるが十分な活用には専門知識が必要」というイメージが強くなっている。
また、既存顧客の60%が基本プランのまま2年以上利用しており、上位プランへのアップセルや関連オプションの契約がうまく進んでいない。
●競合他社の状況
2つの大手企業が市場をリードしており、弊社は3位に位置している。
2つの企業は広範な製品ラインナップを提供しているが、該当サービスの機能性や価格については弊社と大きな差はない。
一方で、オウンドメディアのアクセス数が非常に大きく、これを活用してオプションプランへの誘導に成功している。
●市場トレンドの概況
BtoB向けのセキュリティソリューション市場は、リモートワークの普及によって急速に成長しつつある。
「不正アクセスへの対応」や「マルウェア対策としてのエンドポイントセキュリティ」などのニーズが伸びている。
また、データプライバシーに関する法規制が厳しくなる中、コンプライアンスを重視したソリューションへの関心が高まっている。
3.3.ターゲットとペルソナの把握
主要ターゲットとペルソナは、以下のように設定する。
ターゲット
中小企業のITマネージャー、企業規模は売上50億~100億円、従業員数は100人程度
ペルソナ(3パターン)
- 事業会社のセキュリティ担当役員
- セキュリティ担当マネージャー
- 社内SE(ベンダー選定と社内調整が中心)
いずれも技術的にはそれほど高度な知識を有していない。
ただし、多様化する働き方や勤務形態に対してセキュリティが追随していないことは理解している。
また、社内外からのアクセスを横断的にチェックする仕組みが無く、セキュリティインシデントの発生リスクが上昇していることも理解している。
さらに、その分析結果を基に ペルソナ設計 を行うことで、単なる「顧客像」ではなく、より具体的で戦略的なターゲット像を描ける。
たとえば、
- 情報システム部門の担当者:新しいSaaSを検討するが、導入コストに敏感
- 経営企画部門の管理職:ROIや業務効率化の裏付けを求める
といった形で、実在の顧客データに基づいたペルソナを作成する。
既存顧客分析とペルソナ設計をセットで行うことで、配信すべきブログ記事やホワイトペーパー、セミナー企画などを、より的確にジャーニーへ配置できるようになる。
こうしたニーズを整理するために以下のような「ペルソナ作成テンプレート」を使うと、誰もが同じ基準でペルソナ像を共有(シェア)できる状態をつくることができる。

さらに、ペルソナを「購買フェーズ」で区切ることで、各段階に応じた適切な情報提供が可能となる。

「認知」「興味・関心」「比較・検討」といった購買フェーズに対応づけて、ペルソナをより具体化することが重要だ。
「企業属性(業種・規模)」「担当者(役職・部門)」「フェーズ(検討段階)」の3軸を掛け合わせることで「誰に・どのタイミングで・何を提示すべきか」が明確となる。
3.4.提供すべき自社価値
コンテンツ内で訴求する自社独自の価値として、以下を定義する。
| 自社価値 | 概要 |
|---|---|
| コストパフォーマンスの高さ | クラウドセキュリティツールのラインナップ、機能、価格を大手2社と比較した場合、大半がコストパフォーマンスで優れている。 |
| カスタマーサポートの優位性 | 大半の製品を社内で実際に運用しており、細かなトラブル対応や問い合わせを自社のみで完結できるカスタマーサポートを有している。 |
| 伴走型サポート | 法改正に伴う製品アップデートやカスタマイズ、そのほか顧客の独自要件についても自社開発部で対応可能である。運用保守サービスの提供も可能。 |
3.5.カスタマージャーニーとコンテンツマップの作成
ターゲットとペルソナ、自社価値を踏まえたうえで、以下のようにカスタマージャーニーを設定する。
カスタマージャーニー
| ステージ | 認知 | 情報収集 | 比較・検討 | 選定 |
|---|---|---|---|---|
| 行動 | セキュリティインシデントの例や実害について調べている | インシデント別の予防策について調べている | 大手2社および主要ベンダーとの製品比較 | 自社サイトへの会員登録および問合せ |
| 状況・思考 | セキュリティリスクが実際になにを引き起こすか知る | 複数のツールを同時に導入する必要があるかもしれない | もっとも安く使いやすいところはどこだろう | サポートや技術力も重視したいので直接話が聞きたい |
| キーワード | 「社内 セキュリティ」 「セキュリティインシデント」 など |
「不正アクセス ツール」 「不正侵入 ツール」 など |
「クラウドセキュリティ 比較」 など |
「(自社名) ツール」 「(自社ツール名) 価格」 など |
| コンテンツ |
|
|
|
|
コンテンツマップ
カスタマージャーで示した各フェーズの顧客に対して、コンテンツマップに従い適切なコンテンツを配信する。
各フェーズに対応したコンテンツの整理
- 認知フェーズ:
セキュリティトレンドやノウハウなどを提供することで、自社の存在を認知してもらう。 - 情報収集フェーズ:
事例記事、ホワイトペーパー、製品ガイド、比較コンテンツなどを提供し、自社製品の詳細な魅力を伝える。 - 比較・検討フェーズ:
事例記事、ホワイトペーパーを通じて他社との差別化ポイントなどを提供する。 - 選定フェーズ:
営業用資料を織り交ぜながら、自社製品に関する機能の詳細、価格やオプションプランの詳細、ウェビナー動画などによって営業とのタッチポイントを提供する。
| ステージ | 認知 | 情報収集 | 比較・検討 | 選定 |
|---|---|---|---|---|
| コンテンツ |
|
|
|
|
カスタマージャーニーで示した各フェーズの顧客に対して、コンテンツマップに従い適切なコンテンツを配信することが重要である。
特にIT企業やSaaS事業者では、購買プロセスが長期化するため、フェーズごとに最適な情報を提供し続けることで、関心を維持し信頼を積み重ねていくことができる。
以下は、各購買フェーズに対応したコンテンツの整理例である。
- 認知フェーズ:セキュリティトレンドやノウハウなどを提供し、自社の存在を認知してもらう。
- 情報収集フェーズ:事例記事、ホワイトペーパー、製品ガイド、比較コンテンツを通じて詳細な魅力を伝える。
- 比較・検討フェーズ:事例記事やホワイトペーパーを活用し、差別化ポイントを明確に提示する。
- 選定フェーズ:営業資料、機能や価格の詳細、オプションプラン、ウェビナー動画などを提供し、営業との接点を作る。
これらを体系的に整理したものが「コンテンツマップ」であり、以下の図はその具体例を示している。

4.戦略の成功には投資対効果(ROI)の設計が不可欠
せっかくのコンテンツマーケティング戦略も、周囲や上長からの賛同を得られなくては実現には至らない。
コンテンツマーケティングは長期にわたる投資であり、投資する価値を明示できなければ上長の承認は得られないだろう。
スムーズに賛同や承認を得るためには「投資対効果(ROI)」を提示する方法が有効だ。
4.1.投資対効果(ROI)とは
投資対効果(ROI)とは、特定期間に行った投資に対して、どれだけの収益が生まれたかを割合で示したものだ。
具体的には、売上から投資額を引いた値(利益)を、投資コストで割ることで算出される。
4.2.投資対効果の設計がなぜ重要なのか
投資対効果の設計が重要とされる背景には「コンテンツマーケティングに課せられた使命の変化」がある。
売れる仕組みづくりとしてのコンテンツマーケティング
かつて、コンテンツマーケティングは「ブランドイメージ」や「知名度」を強化する目的で行われており、定量的な効果を求められることは少なかった。
しかし、現在は「売れる仕組みづくり」の一環としてコンテンツマーケティングをとらえる企業が増えた。
そうした背景から、戦略の有効性を具体的な数値で説明する必要がでてきたのである。
特に、経営層や部門長を説得する際は、投資対効果による明確な根拠の提示が効果的だ。
高単価・長期というBtoB市場の特性
BtoBは1件あたりの取引単価が高く、長期的な関係構築が前提である。
新規顧客獲得には高いコストがかかるが、既存顧客維持コストは低くROIが高まりやすい。
この点を数値で示せれば、上層部の承認を得やすい。
さらに、一度取引した相手とは、その後も長期にわたって関係が続きやすいことも見逃せない。
「高単価・長期」の取引が大半を占めることから、ビジネスへの影響度が高く、投資対効果の測定は必須に近いといえるだろう。
顧客獲得のコストが高く、維持コストは低い
BtoBにおいて、新規顧客の獲得には長い時間と高額な費用がかかる。
一方で、既存顧客の維持は比較的低コストで済む。
つまり、いったん取引が始まってしまえば収益化しやすく、時間の経過とともに利益が大きくなりやすいのである。
こうしたBtoBビジネスの特性をうまく利用することで、BtoCよりも高い投資対効果を得ることができる。
この点を可視化できれば、承認や稟議がおりやすくなるだろう。
中長期的な効果の可視化
コンテンツマーケティングは、短期間で効果が出にくい特性をもつ。
つまり、投下したコストが回収できない期間が一定続くことに納得してもらわなければならない。
そのため、中長期にわたる効果の出方を数値で示し、持続的な戦略の重要性を認識させることが必要だ。
4.3.コンテンツマーケティング戦略成功のためのROI設計
では、実際にコンテンツマーケティングの投資対効果(ROI)を設計してみよう。
ここでは、以下のステップで進める方法を紹介していきたい。
- 売上目標の算出
- 費用算出
- 利益算出
- 投資対効果(ROI)の推計
①売上目標の算出
まず、目標の基礎とするために下記4つについて前年の数値を確認する。
※()の数値は仮。
- CVR(1%)
- 有効商談率(10%)
- 契約率(40%)
- 契約単価(500,000円)※月額
さらに、オウンドメディアのPV目標を年ごとに算出しよう。
PV目標の算出方法はさまざまだが、ここでは仮の目標として初年度を月間10万PV、2年目以降は前年+30%と仮定する。
各種数値とPV目標を掛け合わせ、売上目標を算出する。
- 問い合わせ数=PV目標×CVR
- 有効商談数=問い合わせ数×有効商談率
- 契約数=有効商談数×契約率
- 売上=契約数×契約単価
上記にの式に当てはめた場合、各年の具体的な売上目標は下記のとおりとなる。
| 1年目 | 2年目 | 3年目 | |
|---|---|---|---|
| 問い合わせ数 | 100 | 130 | 170 |
| 有効商談数 | 10 | 13 | 17 |
| 新規契約数 | 4 | 5 | 7 |
| 売上目標(月) | 200万円 | 450万円 | 800万円 |
| 売上目標(年間)※ | 400万円 | 3,900万円 | 7,500万円 |
※わかりやすくするため、解約率はここでは考慮していない
※初年度は10か月目、以降は毎年6か月で目標契約数に到達したとする。
②費用算出
コンテンツマーケティングの場合、費用は「人件費」および「外注費」「経費」が大半を占める。
ここでは社内メンバー2人でまかなう場合を想定して計算してみよう。
社内メンバー1人あたりの人件費を年間500万円とし、2人の社員がリソースの6割を投入して制作にあたると考えると、以下のようになる。
- 人件費(年)=500万×60%×2=600万円
- 人件費(月)=600万÷12=50万円
さらに、CMSの運用費用やコンテンツの外注費や経費を年間1,200万円ほど計上し、月当たりで計算する。
最後に人件費と合算し、費用を算出する。
- 外注費+経費(年)=1,200万
- 外注費+経費(月)=1,200万÷12=100万円
- 費用合計(月)=50万+100万=150万円
- 費用合計(年)=600万+1,200万=1,800万
③利益算出
売上目標と費用の推計が完了したら、利益目標を算出する。
| 1年目 | 2年目 | 3年目 | |
|---|---|---|---|
| 問い合わせ数 | 100 | 130 | 170 |
| 有効商談数 | 10 | 13 | 17 |
| 新規契約数 | 4 | 5 | 7 |
| 売上目標(月) | 200万円 | 450万円 | 800万円 |
| 売上目標(年間) | 400万円 | 3,900万円 | 7,500万円 |
| 費用(年間) | 1,800万円 | 1,800万円 | 1,800万円 |
| 利益目標(年間) | ▲1,400万円 | 2,100万円 | 5,700万円 |
④ROIの推計
最後に利益と投資額(費用)を使って投資対効果(ROI)を算出する。
ROIの計算式は「利益金額÷投資金額×100(%)」だ。
- 1年目ROI=(400万÷1,800万)×100=▲22%
- 2年目ROI=(2,100万÷1,800万)×100=116%
- 3年目ROI=(7,500万÷1,800万)×100=416%
2年目終了までは利益は少額だが、3年目から大きく投資対効果を得られていることがわかる。
実際は解約率を考慮するため、もう少し投資対効果は小さくなるだろう。
このように、コンテンツマーケティングは立ち上がりに時間がかかるものの、効果が出始めてからは広告と比較すると非常に投資対効果が高い施策だ。
ROI測定でやってはいけないNG施策
ROI測定の最大の落とし穴は、PV数やwebサイトのアクセス数だけで成果を評価してしまうことである。
一見「ページビューが増えたから成功だ」と思いがちだが、そこから問い合わせやダウンロード、相談の増加、成功事例に至る経路へとつながらなければ、デジタルマーケティングの投資対効果は正しく測定できない。
たとえば、ある会社がブログやコラムを定期的に更新・公開してPVを増やしても、最終的に商品購入やサービス改善提案に寄与しなければ意味が薄い。
ROIを評価するなら、ファネル全体での計測が欠かせない。

- 問い合わせ件数の増加(例:気軽に資料請求や相談をするユーザー数)
- 商談化率や比較検討の進展(例:イベントやウェビナー参加後のアクション)
- 契約数や売上(例:導入事例や成功事例に基づく数字)
こうしたデータ分析を行い、Google AnalyticsやMAツール、アナリティクス基盤を使って効果測定することが重要だ。
単に「見られた」だけでなく「どう行動したか」に着目することで、マーケティングオートメーションやインサイドセールスとの連携も活かせる。
ROI測定においては、メリットだけでなくデメリットの把握も忘れてはならない。単にPVを増やすことにリソースを割くのではなく、信頼関係の構築、認知度の向上、顧客育成といった戦略的な目標を持ち、最終的に会社全体の利益に寄与する評価基準を設定するべきである。
SEO流入やSNS拡散をROIでどう測るか?
SEOやSNSの効果は「流入数が増えた」という表面的な指標で終わらせてはいけない。
Google Analyticsやアナリティクスツールを用いれば、検索エンジン経由の流入・twitterやfacebook・instagram・youtubeといったSNS経由の経路を詳細に把握できる。
しかし本当に重要なのは、単なるアクセス解析ではなく購買行動や成果にどれだけ寄与したかである。
たとえば、SEOで上位掲載されたwebマーケティング記事ページからホワイトペーパーのダウンロードやメルマガ登録につながったのか、SNS拡散で流入したユーザーがイベント参加や商品購入に至ったのかを追跡することが欠かせない。
ROI設計に活かすためには、
- 検索エンジン経由の問い合わせや資料ダウンロード数を計測する
- SNS経由のリード育成プロセス(例:公開した成功事例をシェア → メルマガ登録 → コンサルティング相談)を整理する
- デジタル広告やインサイドセールスとの相性を把握し、改善の提案につなげる
とKPI指標の例-scaled.png)
また、ROI測定の中では「無料の情報提供がどのように最終的な契約に寄与したか」を追えるようにすることが重要だ。
目次を整えた記事、更新を続けるコラム、専門家によるテキスト解説などが、読者に有益な情報を届け、信頼性の高い会社ブランドを育てる。
こうした効果測定の仕組みを定期的に実施すれば、潜在層から顕在層に至る購買経路を把握できる。
結果として「どの媒体が最終的に契約や売上に寄与したのか」を可視化でき、戦略的に予算を配分する判断が可能になる。
5.コンテンツマーケティング戦略設計時の注意点
コンテンツマーケティング戦略は、一度動き出してしまうと変更が難しい。
手戻りが難しいことを念頭に置き、下記の点に注意して設計を進めていこう。
注意点1.「戦術ありき」にならない
一般的なコンテンツマーケティングでは、コンテンツ制作やオウンドメディア運用といった「戦術」に終始することが多い。
稼働時間の大半は戦術に費やされるが、だからといって「戦術ありき」の戦略にならないように注意してほしい。
なぜなら、主従が逆になってしまうとさまざまな弊害が生じるからだ。
例えば「記事コンテンツ主体で進める」という戦略を立てたとしよう。
一見正しい戦略のようだが、記事コンテンツは戦術のひとつであり、これに縛られてしまうと目標が達成されないリスクが発生する。
仮に「売上の増加」が目標であった場合を考えると、以下のような事態が想定される。
- 記事コンテンツのみでコンテンツマーケティングに取り組む
- PVの向上は達成されたが、CVRが悪化する
- 商談数と契約数が減り、売上が落ちる
コンテンツマーケティングでコンバージョンを稼ぐには、さまざまな種類の複数のコンテンツを使い、徐々に信頼感や納得感を高めていく必要がある。
そのため、記事コンテンツのみでは心もとないのが実情だ。
こうした実情を踏まえて戦略を立案すれば「記事コンテンツ」という戦術に縛られることはないだろう。
しかし、コストやリソースの関係から、どうしても戦術に制限が出てしまうこともある。
もし、戦略と戦術に溝があれば、まずはそれを埋める方法を検討すべきだ。
コンテンツを活用した具体的なナーチャリング施策については、こちらを参考にしてほしい。
注意点2.他部署の材料を徹底活用する
マーケティング戦略の設計と実行には、マーケティング以外のデータも必要になることがある。
例えば、製品資料に関しては開発部や営業部、顧客のニーズについてはカスタマーサポートなど、他部署から提供される情報が優秀な材料になるだろう。
できるだけ早い段階で他部署の協力を取り付けておくことも、戦略設計をスムーズに進める方法のひとつだ。
注意点3.EEATとAI検索に拾われるための工夫
近年はAI検索(Google検索のAIモード、ChatGPTなど)の普及により、コンテンツ評価の基準も変化している。
AIに選ばれるためには以下を意識すべきだ。
- 一次データの提示(自社調査・実績データ)
- 出典リンクの明記(公式情報や信頼性ある外部ソース)
- 事例や利用実績の強調(導入企業数やユーザーインタビュー)
これらにより、EEAT(経験・専門性・権威性・信頼性)を満たし、AI経由の流入獲得につながる。
6.まとめ
この記事は、コンテンツマーケティング戦略の設計方法について、具体的に解説してきた。
コンテンツマーケティングに求められるものは、ブランディングや認知拡大から「売上への貢献」へと変化している。
特に2025年以降のデジタルマーケティング環境では、Google検索やSNSプラットフォームの変化に合わせて、効率化された支援体制と数値によるROIの可視化がますます重要になる。
そのため、構造的な戦略設計と定期的な解析・効果測定を行い、課題解決に直結するやり方を選ぶことが求められている。
記事やメールマガジン、ウェビナーセッションなどのmedia運営は、それぞれ異なる役割を持ち、ファンとのコミュニケーションや共感を育成する場として役立ち続けるだろう。
・社内リソース不足と外部支援の活用
戦略設計は本来、自社の業務環境や人材をよく知っている人物が担当するのが良い。
しかし、現実にはリソース不足を抱え、効率的な支援を外部代理店に依頼する選択肢も増えている。
とくに自社全体でプロフェッショナルなチームを組むことが難しい中堅企業では、戦略設計から実行までワンストップで提供する企業に委託することが、優良なやり方といえるだろう。
さらに、オンライン相談やイベント開催など、幅広いテーマで顧客接点を作り、投稿・クリック・ダウンロードといった行動を積み重ねることで、ファンの共感を得ながら課題解決の機会を増やすことができる。
こうした仕組みを管理し、続けて運営することで、持続的な成長とブランド価値の向上が実現できる。
もし社内でリソースを確保できない場合でも、異なる会社と協働する外部パートナーをうまく選び方次第で活かせる。
戦略をスタートさせる第一歩として、効率化や個人情報保護に配慮した基本方針を定め、プロフェッショナルな支援会社や代理店に依頼してみてはどうだろうか。