ブランディングにおけるデザインは、単に「おしゃれで洗練されたデザイン」を考案する作業ではない。
ブランディングは、直接の顧客折衝とはやや距離がある業務だが、企業としてコストやリソースを費やして取り組むのであれば、それが「成果」につながるものでなければならない。
一方で、取り組みや効果を定量化しにくいことから、デザインの目標や根拠を深いところまで理解している方は少ないだろう。
そこで本記事では、BtoBにおけるブランディングデザインの重要性や具体的な構成要素、ビジネスの成果につなげるためのポイントを詳しく解説していく。
1.ブランディングデザインの定義
まずは「ブランディング」と「ブランディングデザイン」の定義を押さえておこう。
1.1.ブランディングとは
ブランディングとは、企業やサービスの価値や信頼感を顧客へ伝え、他社との差別化を図るための戦略的な活動を指す。
そのなかで、ロゴやホームページのデザインなどの視覚的な要素や、オンライン・オフラインでの顧客体験を通じて自社に対する共感や愛着を高め、顧客との関係性を構築・強化していく。
つまり「ブランディング」とひとことに言っても、顧客を分析・理解するところから提供価値の規定、各顧客接点における発信方法の確立など多岐にわたる。
企業のコストやリソースを費やしていくのであれば、企業の認知や収益性の向上、そしてビジネスの成長につなげていく必要がある。
具体的な戦略構築や実践については以下の記事で解説しているため、参考にしてほしい。
1.2.ブランディングデザインとは
ブランディングデザインとは、単に視覚的な要素を美しく整えるだけではなく、企業が取引先や顧客に対して一貫したメッセージを提供し、信頼関係を築くためのプロセスだ。
ロゴ、カラー、タイポグラフィ、パッケージ、広告、ウェブサイトなど、あらゆる接点でのブランドのビジュアル要素についてガイドラインを作り、一貫性を保ちながらブランド価値を伝えていく。
これらのデザインは、カスタマージャーニーにおける顧客との各接点での一貫性を保つことで、顧客の自社への印象を強めつつ「愛着」や「忠誠心」を育てられる。
また、ブランディングデザインの守備範囲は視覚的な部分だけではない。
顧客体験や企業の雰囲気などにもブランディングのコンセプトは拡充し「〇〇といえば〇〇」という顧客のマインドシェアを獲得していくことが目的だ。
2.ブランディングデザインの重要性
BtoB企業やIT企業にとって、ブランディングデザインが重要な理由は以下のとおりだ。
2.1.信頼性やロイヤルティの確立
BtoB取引では、製品やサービスの質だけではなく、それらを提供する企業の信頼性が意思決定要因として大きな比重を占める。
特にIT企業の場合は、セキュリティやプライバシー確保の観点から、顧客へ信頼性を適切に伝えることが非常に重要だ。
サービスの仕様や設計自体を強固なものとしたうえで、その信頼性をどのように伝えられるかはブランディングデザインが担っているともいえる。
2.2.競合との差別化
BtoB市場では、製品やサービスが競合他社と似ている場合が多いため、ブランディングを通じて他社と差別化することが必要不可欠だ。
特にIT企業の場合、成長産業であることもあり競争が激しく、独自性と先進性を示す洗練されたデザインが差別化要素となりうる。
2.3.長期的な顧客関係の構築
一貫したデザインにより、企業のアイデンティティを強化し、顧客との長期的な関係を築きやすくなる。
特にIT・SaaS企業は長期的な契約を伴うケースが多いため、デザインも含めて企業ブランドの一貫性を保つことは顧客のリテンションに欠かせない。
3.ブランディングデザインの構成要素8つ
続いて、ブランディングにおけるデザインを構成する主要な8つの要素について解説する。
自社において以下の要素がどこまで詳細に決定されているか、社内でどのように捉えられているかを振り返ってみてほしい。
要素1.ロゴ
ロゴは企業や製品を象徴する最も重要な視覚要素であり、一目でブランドを認識できるシンボルだ。
シンプルでありながらブランドの本質を表現することが求められる。
顧客がブランドを思い出す際、最初に浮かぶのはロゴであることが多いだろう。
要素2.カラー
カラーはブランドの雰囲気や個性を視覚的に伝える要素だ。
特定の色は感情や印象に強く影響を与えるため、適切な色選びはブランドのメッセージやターゲット層に大きな影響を与える。
例えば、青は信頼感、緑は自然や成長を連想させるといわれている。
要素3.タイポグラフィ(フォント)
タイポグラフィは文章を通じてブランドのトーンやスタイルを表現する。
フォントの種類や大きさ、配置を工夫することで、ブランドが持つ価値観やメッセージが視覚的に強化されるだろう。
例えば、クラシックなフォントは伝統的なイメージを、モダンなフォントは先進的な印象を与える。
要素4.Webサイト
Webサイトのデザインは、ブランドを構成するデジタルな要素の中核で、多くのユーザーが最初に触れるブランド体験の一つだ。
ブランドの信頼性や専門性を、視覚やオンライン上の体験で伝える手段であり、使いやすさやビジュアルの一貫性、サイト構造の整合性などが重要となる。
Webサイトは顧客にとって情報収集や問い合わせの主要な手段となるため、デザインの質がビジネスの成果にも影響する。
要素5.広告クリエイティブ
広告クリエイティブとは、広告掲載時の画像や動画、訴求のためのテキストを含む一連の素材を指す。
広告という性質上、企業やサービスの信頼性を高めつつ、コンバージョンにつながるよう興味や購買意欲を掻き立てる技術が必要となる。
インパクトのあるデザインと明確なメッセージが必要なため、媒体やフォーマットによって最適化されるべきだ。
広告クリエイティブが強力であれば、顧客にブランド認知を広め、購買意欲を高める効果が期待できる。
要素6.アプリ・ソフトウェア
製品としてのアプリやソフトウェアのユーザーインターフェースは、顧客にとって直接的なブランド体験となる重要な要素となる。
直接的なブランド体験とはつまり、顧客はそれをサービスとして利用するため、アプリやソフトウェアのデザインは顧客にとっての自社のブランド評価にそのままつながるということだ。
直感的な操作性やブランドカラーの使用、統一されたデザインが、ユーザーにブランドの一貫性を感じさせ、信頼性や使いやすさを強調する。
特にIT企業では、アプリのデザインが企業の技術力やユーザーに対する配慮を反映するため、ブランディングの要として機能する。
要素7.オフィス
BtoCではあまり意識されることはないが、BtoB企業におけるオフィスデザインは、従業員だけではなく顧客や取引先などの訪問者に対してもブランドイメージを伝える重要な要素だ。
ブランドカラーやロゴ、デザインコンセプトがオフィス内に反映されていると、社員のモチベーションを高めるとともに、来訪者にも企業の価値観や文化を強く印象づける効果がある。
要素8.名刺
特にBtoB企業にとって名刺は、顧客との初対面でのコミュニケーションにおいて最初に渡す物理的なアイテムであり、ブランドを代表する重要なツールだ。
現在は名刺を格納できるソフトやアプリも登場しており、顧客や取引先はいつでもそのデザインに触れられるようになった。
そのため、名刺を通して自社のイメージを相手に植え付けることができる。
QRコードを活用してWebサイトへ誘導するなど、オンライン・オフラインを通したユーザー体験の構築も可能だ。
4.ブランディングデザインを成功させるためのポイント
ここまでブランディングデザインの基本的な内容を解説してきた。
次に、ブランディングデザインを成功させるために押さえておきたいポイントを解説する。
ポイント1.ブランドコンセプトを明確化する
ブランディングを行う際、いきなりデザインからを始めようとするのは本質的ではない。
まずは、企業がどのようなサービスで、どのような顧客にどういった「価値」を提供する(できる)のかというコンセプトを明確にすることが第一歩だ。
ブランディングデザインは、事前に定めたコンセプトを実現するために制作しなければならない。
もし、単に「おしゃれさ」や「洗練さ」というイメージからブランディングを始めている場合は要注意だ。
ポイント2.ターゲット層に共感されるデザインにする
ブランディングのプロセスにおいて、ターゲットやペルソナの設定は欠かせない。
当然デザインの面においても、ブランドがターゲットとする顧客層を深く理解し、その顧客に響くデザインを検討する必要がある。
顧客のニーズや好み、購買行動を考慮して、デザインが彼らの共感を得られるようにすることが、効果的なブランディングの鍵となる。
顧客の購買行動を考慮するうえでは、カスタマージャーニーを描いてみることが効果的だ。
顧客のカスタマージャーニーがわかれば、具体的にどの接点・チャネルにおいてどのようなデザインが好まれるか、成果につながるかを洗い出しやすくなる。
カスタマージャーニーについて詳しくは、以下の記事を参照してほしい。
ポイント3.デザイナーにブランドコンセプトを正しく伝える
デザイナーに対して、ブランドのコンセプトやターゲットを正確に伝えることも成功の鍵となる。
想定するデザインの雰囲気や色使いだけではなく、プロジェクトにおける狙いや、それに紐づく経営戦略、詳細なターゲット像などすべてを伝えなければならない。
デザイナーもそのブランディングにおけるプロジェクトの一員であるため、ブランディングの意義を知り、好きになってもらう必要がある。
コンセプトを正しく伝えることで、デザイナー自身の表現の幅もより広く、深くなり、ターゲットに刺さるデザインを制作しやすくなるだろう。
ひとつの工夫として、ブランドのコンセプトやターゲットについて、写真や文字を使ってまとめた「コンセプトブック」などを関係者間で作成しておくと、社内関係者や外部委託業者と共通認識を持ちやすくなるはずだ。
ポイント4.一貫性を維持する
ブランディングデザインは、ロゴ、カラー、タイポグラフィ、Webサイト、ユーザーインターフェースなど、あらゆるチャネルで一貫性を保つことが重要だ。
顧客は、無意識に自社の企業情報や各種サービス、広告などに触れているかもしれないが、顧客のなかでそれらがすべて紐付けられているとは限らない。
例えば、Webサイトのデザイン、広告のLPのデザイン、カラーリングなどが統一されてなければ、顧客は企業との貴重な接点を持っているのにも関わらず、顧客との関係性をうまく構築できないという無駄が生じるおそれがある。
上述のように、デザインの要素は複数あるが、土台となるブランドガイドラインをまずは確立し、それに基づいてそれぞれのデザインを決めていこう。
ポイント5. 顧客体験を考慮したデザインにする
ブランディングデザインでは、単に視覚的な美しさを追求するのではなく、顧客がどのようにブランドと接触し、感じ、理解するかという体験全体を整備することが重要だ。
例えば、WebサイトやアプリケーションのUI/UXデザインにおいては、見た目のデザインに加え、顧客が直感的に操作でき、スムーズに目的を達成できる使いやすさが欠かせない。
特にBtoBにおいて、企業ユーザーは業務の効率化を重視するため、情報の整理、操作の簡便さ、必要な機能への迅速なアクセスが好まれる。
これにより、顧客はブランドに対して一貫した高品質の体験を期待するようになり、その期待を超えるサービスが提供されることで、ブランドの信頼性がさらに高まる。
また、ホワイトペーパーやオウンドメディアといったコンテンツマーケティングにおいても、視覚的な魅力だけではなく、内容のわかりやすさや論理的な構造、メッセージ性の明確さが必要不可欠だ。
特にBtoB領域では、顧客は専門的かつ具体的な情報を求める。
そのため、目を引くだけのデザインではなく、ブランドが課題への解決策を提供できると確信させるような信頼性の高いコンテンツが必要だ。
5.ブランディングデザインの成功事例
最後に、ブランディングデザインに成功しているIT系企業の事例を3つ紹介する。
成功事例1.Salesforce
Salesforceは、クラウドベースのCRMプラットフォームを提供するBtoB IT企業で、ブランディングデザインに成功している代表例だ。
Salesforceの水色の雲(=Cloud、クラウド)のロゴは、クラウドベースのソリューションを強調し、従来のオンプレミス型ソフトウェアからの脱却を視覚的に訴えた。
また、同社がWebサイトやアプリのインターフェースに採用している「Astro Nomical」や「Einstein」といったキャラクターは、顧客に親しみやすさを提供し、Salesforceの複雑なサービスを理解しやすくするために設計されている。
キャラクターを通じて、Salesforceは学習や技術的な支援を視覚的にわかりやすく提供し、ユーザーのエンゲージメントを高めている。
成功事例2.Slack
コミュニケーションツールを提供するSlackは、シンプルかつ親しみやすいブランディングデザインで大きな成功を収めた。
Slackがローンチしたのは2013年で、コミュニケーションツール市場はすでにレッドオーシャンだ。
競合他社との差別化を図るために、カラフルな紙吹雪が発射されたようなロゴがデザインされた。
また、鮮やかな色使い、サンセリフのフォント、フレンドリーな顔文字や絵文字などのアイコンがコミュニケーションツールとしての親しみやすさを強調している。
ローンチ当初から直観的でわかりやすいインターフェースが人気だったが、ユーザーの声を吸収してデザインがアップデートされ続けているところも、アプリを製品としている企業ならではの努力だといえる。
成功事例3.富士通
富士通は、日本を代表する総合IT企業であり、特にBtoB領域でのブランド構築に成功している。
富士通のロゴや赤いカラーは、信頼感と技術力を強調したものだ。
また、Webサイトデザインや製品ページは、使いやすさと情報のわかりやすさに重点を置いており、複雑な技術をシンプルに伝えることに成功している。
同社はもともと社内にデザイン部隊を抱え、数々のデザイン賞を受賞してきたことでも有名だ。
2020年にはグループ内のデザイン機能を強化し、企業活動に役立てるため本社内にデザインセンターを設立。
組織体制の面でもデザイン経営を推進している点が、一貫したブランディングを推進する追い風となっていることは疑いようがないだろう。
6.まとめ
ブランディングデザインの定義や重要性、構成要素、BtoBで成果につなげるためのポイントを解説した。
企業は、長期にわたってブランディングデザインとともに成長への道筋を辿っていくこととなる。
単なるデザインとして考えずに、ほかの記事でも解説しているブランディング戦略や顧客のニーズ、行動を意識してデザインを進めていく必要があるだろう。
一方で、自社リソースのみでブランディング戦略を構築してデザインし、効果の測定まで行える企業は多くない。
自社のリソースが不足している場合は、外部の支援も視野に入れながら進めていこう。
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