Webブランディングとは、Webサイトを通じて企業やサービスのブランドイメージを構築する取り組みだ。
BtoBではほとんどの情報収集がWeb上で行われ、企業の信頼性もWeb上である程度判断されてしまうため、重要性が非常に高い。
一方で、以下のような悩みを抱える企業も多い。
「Webサイト改修のタイミングでブランディングを強化したいが、やり方がわからない」
「ブランディングをHPにも反映したいが、リソースや知識がない」
「現状のWebサイトでは自社の良さが伝わらず、あまり機能していない」
そこで本記事では、BtoB企業におけるWebブランディングの重要性や押さえるべきポイント、実施の流れを紹介していく。
目次
Toggle1.Webブランディングとは
まず、Webサイトにおけるブランディングの概要や、BtoB企業におけるWebサイトのブランディング(以下Webブランディング)の必要性について確認していこう。
1.1 Webブランディングとは
Webブランディングとは、企業がWebサイトを通じてブランドイメージを構築し、顧客の興味関心を高めたり、顧客との関係を深める取り組みだ。
効果的なWebブランディングを行うには「顧客がどのような印象を抱くか」「どのような価値を感じるか」を中心としたメッセージや体験を提供する必要がある。
さらに、企業としての信頼性の確保やほかのチャネルとの一貫性などを重視して進めなければならない。
1.2.ブランディングとWebブランディングの関係
ブランディングとは、顧客に自社製品・サービスを認識させ、他社とは異なる独自の価値やイメージを築き上げるための総合的な取り組みを指す。
そのブランディング活動をWebサイト上で行う、またはブランディングをWebサイトへ反映することをWebブランディングという。
つまり、Webブランディングはブランディングの一環だ。
Webサイトはブランドを伝える企業の顔として大きな役割を果たす。
そのため、Webブランディングでは、土台となるブランディング戦略と整合性をとり、統一されたメッセージやイメージを発信していくことが重要だ。
2.BtoB企業がWebブランディングを行うべき3つの理由
次に、BtoB企業においてWebブランディングを行うべき3つの理由を解説する。
理由1.顧客接点の前半で明確な差別化が求められるため
かつてBtoB企業では、製品やサービスの内容や営業力で差別化を図れたが、コモディティ化、デジタルの進化、コロナ禍により状況は変わった。
現代においては、顧客接点の早い段階から、自社の独自性の訴求や差別化を行うことが重要だ。
Googleの調査(※)によると、57%の購買担当者は営業と会う前に勝負を決め、61%は営業と会う前に自身でオンラインで情報収集したいと考えている。
つまり、顧客は営業と会う前にある程度の情報収集を行っており、検討の土俵にのった企業のみ先に進める状態にあるということだ。
そのため、顧客接点の前半であるWebサイトでWebブランディングをしておかなければ、顧客は他社との違いやその根拠がわからず、土俵にさえに上げてもらえないおそれがある。
※出典:The Digital evolution in B2B Marketing
https://www.thinkwithgoogle.com/_qs/documents/677/the-digital-evolution-in-b2b-marketing_research-studies.pdf
理由2.信頼性の評価をWebサイト上でも行っているため
BtoB取引では、高額取引や長期契約となることが多く、情報収集の段階で信頼に足る企業を選別する傾向がある。
上述のデータからも、顧客はWeb上で情報収集をあらかた済ませていることがわかるだろう。
つまり、選別作業を通過して問い合わせなどを受けた企業は、すでに顧客との信頼構築が少し進んだ状態となっている。
では、何が信頼構築につながるのかというと、Web上での情報整備とWebブランディングだ。
顧客は、例えば
- 企業の明確なビジョン
- 一貫したメッセージ
- 顧客の課題解決に役立つオウンドメディア
- 業界で権威のある方の監修したサービス
- 導入実績や事例
- IR情報
などを確認する。
これらの情報を吟味し「自社の課題を解決できそうか」「嘘なく自社の成功に伴走してくれそうか」といった選別を行っている。
逆にいえば、Web上での発信のなかで信頼を失うおそれのある部分があれば、その時点で選択肢から外されてしまうおそれもあるため注意が必要だ。
理由3.あらゆるWeb施策の中心となるため
WebサイトはあらゆるWeb施策の中心となる。
具体的には、以下のような流れがある。
- オウンドメディアからWebサイトへ流入しコンバージョン(お問い合わせ、資料請求など)
- Web広告からランディングページに流入しコンバージョン
- メルマガによるリードナーチャリングから、Webサイトへ遷移、ホワイトペーパーのコンバージョン
2023年8月にナイル株式会社が行った調査によると、BtoBマーケティング施策において効果を感じている施策のほとんどがWebに関連する施策だという。
このようにWeb施策の中心となるWebサイトは、ブランディングやマーケティングにおける顧客との接点を考えるうえでの最重要チャネルといえる。
さらに最近では、展示会などのオフライン施策でも、名刺交換→Webサイト→ウェビナー→Webサイト→問い合わせなどの流れで進み、Webサイトをが顧客行動のハブとなっている。
つまり、顧客との関係を築いていくうえで、Webブランディングは欠かせない取り組みといえるだろう。
3.Webブランディングの流れ4ステップ
Webブランディングの全体の流れは以下のとおりだ。
- ブランドアイデンティティの開発
- Webブランディングの目的設定
- Webブランディング戦略の策定
- Webサイト設計・ワイヤーフレーム作成・ユーザーテスト
Webブランディングでは通常のWebサイト公開や更新と異なり、そもそものブランディングの開発やそれに沿ったメッセージやコンテンツの戦略や情報・導線設計が必要となる。
ここからは、ステップごとに重視すべきポイントを見ていこう。
ステップ1.ブランディングの規定
Webブランディングはあくまでブランディングの一環であるため、Webブランディングに入る前にブランド提供価値を規定する必要がある。
Webサイトを通じて何を伝えたいか、顧客にどう感じてもらうべきかは、ほかの施策とも一貫されている必要があるためだ。
ブランディングの進め方については以下の記事でより詳しく解説しているため、参考にしてほしい。
特に、Webブランディングでは以下の情報が重要となる。
- ブランドミッションとビジョンの定義
- ブランドパーソナリティの構築
- ブランドバリューの策定
- ビジュアルアイデンティティのデザイン
ブランドミッションとビジョンの定義
ブランドが何を提供し、なぜ存在するのか、将来的に目指す姿や目標を明確にする。
ブランドパーソナリティの構築
ブランドが持つ個性を人格になぞらえて表現するブランドパーソナリティを構築する。
ブランドバリューの策定
ブランドが大切にする価値観や信念を明確にする。
(例:誠実さ、品質第一、持続可能性など)
ビジュアルアイデンティティのデザイン
ロゴ、カラーパレット、タイポグラフィ、ビジュアルエレメントなどのブランドにまつわるデザインを規定する。
なお、アウトプットのイメージをつけるために、SmartHRのブランドパーソナリティ〜ビジュアルアイデンティティまでを定めているページを紹介する。
参考:SmartHR Design System
https://smarthr.design/foundation/
これらを定め、社内浸透が徹底されればブレが生じにくく、Webブランディングをスムーズに進めていけるだろう。
ステップ2.現状の把握と目的設定
次に、ブランディングのなかでも「Webブランディング」において、何を達成したいかを決定する。
まずは以下について整理しよう。
- ビジネスゴールの設定
- Webサイトの現状把握
- KPI(重要業績評価指標)の決定
- ペルソナの再確認
ビジネスゴールの設定
売上の向上、ブランド認知度の拡大、顧客ロイヤルティの強化など、Webブランディングの具体的なビジネス目標を設定しよう。
「売上20%向上」「ロイヤルカスタマー30%増加」など、定量的で根拠のあるゴールを設定することがポイントだ。
Webサイトの現状把握
すでにWebサイトを持っている場合は、Webサイトを分析し、課題を整理する必要がある。
例えば、そもそものセッション数が少ない、オーガニックの流入が少ない、流入後の回遊率が低いなど、現状Webサイトのどこに課題があるかを明確にしておく。
現状のWebサイトでの顧客行動から顧客ニーズを読み取れる可能性もあるため、できる限り多くのデータを洗い出し、整理しよう。
課題の明確化とKPI(重要業績評価指標)の決定
ビジネスゴールと現状のギャップから、課題を明確にする。
さらに、KPI(重要業績評価指標)を定め、ビジネスゴール達成に向けてどういった数値を定点観測していくかを決定しよう。
ターゲットニーズの再確認
知らず知らずのうちに、自社の打ち出しがターゲットのニーズから逸れてしまうケースは少なくない。
そのため、顧客や営業へのヒアリング、見込み顧客へのヒアリングを行い、ターゲットが抱えているリアルな課題を改めて確認し、整理しておくことが重要だ。
ステップ3.Webブランディング戦略の策定
ここからは、Webブランディングの戦略を策定していくフェーズだ。
大きく「メッセージング戦略」と「コンテンツ戦略」に分けられる。
それぞれ見ていこう。
メッセージング戦略
ブランドが伝えたい主要なメッセージを明確化し、タグライン(企業の提供価値や想いを短い言葉で表現したもの)やストーリーテリングを構築する。
顧客への提供価値を明確にしつつも、シンプルで伝わりやすい表現を考案することが重要だ。
タグラインやストーリーテリングでは、価値を明示しながら、顧客の情緒に訴えかけることができる。
自社のターゲットの属性やカスタマージャーニーを分析し、強く印象づける内容を定めていこう。
ストーリーテリングについては以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしてほしい。
コンテンツ戦略
ターゲットにからの信頼を得るために、どのような切り口でコンテンツを提供する必要があるかを考えていく。
土台となるブランディングに沿ったコンテンツを発信できるように気をつけよう。
なお、コンテンツ戦略において成功を収めているのが、サイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」だ。
参考:サイボウズ式
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/
自社のメッセージをテキストやストーリーで直接表現するのではなく、自社の提供価値とターゲットのカスタマージャーニーを考慮し、彼らと長期的に添い遂げられるようなコンテンツを構築していきたい。
ターゲットやブランディングを徹底した価値あるコンテンツの長期的な発信は、ターゲット以外へのブランド認知を促進させ、ビジネス機会の創出につながる可能性も秘めているだろう。
(偶然オーガニック検索で流入し、高品質なコンテンツに価値を感じ、問い合わせにつながるなど)
ステップ4.Webサイト設計・ワイヤーフレーム作成・ユーザーテストの実施
ここまでで定めた方針に沿って実際にWebサイトを構築していくなかで、特にWebブランディングにおいて重要となる以下のポイントを解説する。
- 情報・導線設計
- ワイヤーフレームの作成
- ユーザーテストの実施
それぞれ詳しく見ていこう。
情報・導線設計
情報・導線設計において重要なポイントは2つある。
一つ目は、サイトマップの作成だ。
サイトマップには、Webサイトで提供する情報をユーザーにわかりやすく、見つけやすいように整理し、構造化する役割がある。
また、サイトマップにより検索エンジンへもサイト構造を適切に伝えることができるため、サイトのクローラビリティ向上や適切な評価にもつながる。
二つ目は、ユーザー視点の導線設計だ。
ユーザーがWebサイト内で迷うことなく、目的の情報にたどり着けるよう、スムーズな導線を設計を行う必要がある。
階層構造を深くしすぎず、ほしい情報を瞬時に手に入れられる導線が理想だ。
どちらもユーザー視点での設計が基盤となる。
ワイヤーフレームとプロトタイプの作成
ワイヤーフレーム(各ページの構成)を作成し、それをもとにプロトタイプを作っていく。
サイト構築では専門人材が必要となるため、リソースがない場合は外部委託も検討しよう。
以下の記事では、Webサイトの構築も含めたブランディング支援企業についてまとめているため、参考にしてほしい。
ここでは、事前に行ったブランディングの規定に沿って一貫したデザインとなっているか、ユーザー体験は損なわれていないか、ブランドメッセージはわかりやすいかなど、複数の視点から繰り返し見直しを行う必要がある。
ユーザーテストの実施
プロジェクトのメンバーだけではなく、他部署のメンバーや既存顧客などの協力も得ながら、実際にWebサイトを利用してユーザーテストを実施しよう。
これにより、Webサイトの使いやすさやブランドメッセージの伝わりやすさを客観的に評価できる。
「ブランディング」の大前提は「顧客視点」であるため、ユーザーテストは非常に重要なフェーズだ。
4.効果的なWebブランディングのための5つのポイントとチェックリスト
最後に、Webブランディングを進めるうえでのポイントをチェックリスト形式で解説する。
実際にWebブランディングを行う際にも、こちらを活用しながら進めてもらいたい。
4.1.ブランドとWebサイトの基礎設計
全社的なブランド戦略との一貫性や、ブランディングメッセージがターゲットに正しく届く設計となっているかなどを確認する。
項目 | 詳細 |
ブランド価値 | 明確に定義されており、Webサイトを通じて一貫して表現されているか? |
ミッション・ビジョン・バリュー | Webサイト上で明確に示され、ブランド価値と整合性が取れているか? |
ターゲット顧客 | 誰に、どのような価値を提供したいかが明確に定義され、Webサイトのデザインやコンテンツに反映されているか? |
競合との差別化 |
|
サイト構成 | サイトの構成がわかりやすくなっているか? |
トーン&マナー |
|
メッセージ | ブランド提供価値を顧客の言葉で示せているか? |
ユーザーインタビュー | ユーザーインタビューを行い、期待どおりの知覚がされていることをテストしたか? |
4.2.Webサイトのデザイン
視覚から入る情報が、全社的なブランド戦略と一貫しているか、ブランドガイドラインと一致しているかを確認する。
項目 | 詳細 |
ロゴ | すべてのページに適切に配置されているか? |
カラー | ブランドカラーは統一され、効果的に使用されているか? |
フォント | 指定のフォントが使用され、サイズや行間も適切に設定されているか? |
写真・画像 | ブランドイメージに合致した高品質な写真・画像を使用しているか? |
レイアウト | ページレイアウトは統一され、ユーザーにとって見やすく、理解しやすいものになっているか? |
モバイル対応 | スマートフォンやタブレット端末など、さまざまなデバイスに最適化されているか? |
ユーザーテスト | ユーザーテストを行い、期待どおりの知覚がされていることを確認したか? |
4.3.コンテンツ(各ページやオウンドメディアなど)
ブランドメッセージがサイト全体で一貫しているか、顧客目線で伝えられているかといった視点で、信頼醸成や共感形成につながっていることを確認する。
項目 | 詳細 |
メッセージ | Webサイト全体を通じて、ブランドに沿った一貫性のあるメッセージが発信されているか? |
事実や実績 | 根拠たる事実や実績に即した内容になっているか? |
顧客視点 |
|
表現 |
|
最新情報 | ブログやニュースリリースなど、最新情報は定期的に更新されているか? |
ストーリー | 企業理念やビジョン、商品・サービスに込められた想いを伝えるストーリーは効果的に語られているか? |
有益性 | この会社に依頼したいという行動変容につながる有益なコンテンツを発信できているか? |
拡散性 | SNSなどを活用して、発信した情報を効果的に広げられる仕組みや戦略があるか? |
4.4.顧客体験
信頼醸成・共感喚起につながる、信頼を失わない体験を提供できているかを確認する。
項目 | 詳細 |
ユーザビリティ | Webサイトは使いやすく、目的の情報に容易にアクセスできるか? |
ナビゲーション | メニュー構成はわかりやすく、迷わず目的のページにたどり着けるか? |
CTA | 各ページの目的は明確で、適切な行動喚起(CTA)が設置されているか? |
ページ速度 | Webサイトの表示速度は適切か? |
セキュリティ | Webサイトは安全に利用できる環境か? |
お問い合わせ | 問い合わせ方法はわかりやすく、容易に連絡できるか? |
FAQ | FAQが充実し、顧客が知りたい情報提供ができているか? |
ユーザーインタビュー | ユーザーインタビューを行い、期待どおりの体験がされていることをテストしたか? |
4.5.継続的な改善
Webブランディングでは、公開後のPDCAも重要だ。
継続的に改善できる組織構造や仕組みがあるかを確認しよう。
項目 | 詳細 |
リソース | 継続改善が可能なリソースを確保できているか? |
目標設定 | 目標数値の設定ができているか? |
アクセス解析 | アクセス状況を定期的に分析し、改善点を見つけ出す設定や取り組みができているか? |
顧客フィードバック | 顧客アンケートやヒアリングなどを通じて、顧客の意見を収集する仕組みがあるか? |
競合比較 | 競合他社のWebサイトを定期的に分析し、自社サイトとの差別化ポイントや改善点を見つける取り組みを行っているか? |
メッセージの再確認 | メッセージが顧客に届く文言となっているか? |
5.まとめ
BtoB企業のWebサイトは、単なる情報発信の場ではない。
自社のビジョンや価値観を顧客に伝え、共感と信頼を得ることで長期的な関係構築を目指すブランディングを実現するための重要な場だ。
BtoB企業は、Webブランディングを戦略的に活用することで、競争優位性を築き、持続的な成長につなげられるだろう。
そのためには、まず自社のWebサイトが顧客にどう知覚されており、信頼できる情報発信や体験を提供できているか、改めて見直してみることが重要だ。