顧客の購買プロセスを具体的に可視化する「カスタマージャーニー」は、BtoBマーケティングにおいても重要なマーケティング手法のひとつだ。
しかし「どのように作成すればよいかわからない」と悩んでいる方も多いのではないだろうか。
本記事では、カスタマージャーニーの基礎概念と作成ステップを図版とともに解説し、すぐに使える作成例も紹介していく。
1.カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーとは、顧客が自社の製品・サービスを認知してから購入(あるいは独自に設定するゴール)に至るまでの道のりを指す。
BtoB企業では、製品・サービスを導入するまでの検討期間がBtoCよりもはるかに長い。
- 認知フェーズや興味・関心フェーズなど、それぞれのフェーズにおいて顧客はどのような思考をしているのか
- どのようなタッチポイントがあり、どのようなコンテンツを発信するべきか
などを整理することは、顧客視点のマーケティング施策を設計するうえで重要だ。
2.BtoB企業がカスタマージャーニーを作成するメリット
BtoB企業がカスタマージャーニーを作成するメリットとして、以下の3つが挙げられる。
- 顧客理解:カスタマージャーニーを作成することで、顧客の行動、ニーズ、課題を深く理解し、それらに基づいて戦略を調整できる。
- 効果的なコミュニケーション:カスタマージャーニーを通じて、適切なタイミングで適切な情報を提供でき、信頼性の高いコミュニケーションを実現できる。
- 社内の目線合わせ:カスタマージャーニーを社内のメンバー誰もが理解できる形で可視化することで、マーケティング施策に一貫性が生まれる。
3.カスタマージャーニーの作成ステップ
カスタマージャーニーの作成ステップは、主に以下の6つに分けられる。
- ペルソナを設定する
- マップの縦軸・横軸を決める
- 顧客の行動や感情・思考を洗い出す【3ページの見出し】
- 各フェーズの期待アクションを記入する
- タッチポイントを洗い出す
- 対応策を決める
それぞれについて解説していく。
ステップ1.ペルソナを設定する
まずは、ターゲットとなる顧客のペルソナを設定する。
「ペルソナ」は理想の顧客像を詳細に描いたものだ。
「ターゲット」の場合は「中小企業のIT担当者」のように、ざっくりとした属性設定に留まるが、「ペルソナ」ではより詳細に人物像を設定する必要がある。
例えば以下のような形だ。
ステップ2.マップの縦軸・横軸を決める
カスタマージャーニーを可視化した図表を「カスタマージャーニーマップ」という。
まずは、マップの縦軸と横軸を決めていこう。
基本的には横軸に時間軸(コンバージョンまでのプロセスの変化)を書き出し、縦軸に顧客の感情や行動と、それに応じた自社のアクションを書き出すと作成しやすいだろう。
以下は、オーソドックスな認知から購入に至るまでのカスタマージャーニーマップの例だ。テンプレートとして活用してほしい。
ステップ3.顧客の行動や感情・思考を洗い出す
マップができたら、横軸に定めた各フェーズにおける顧客の行動を洗い出していく。
最初に定めたペルソナを想定して、最も代表的な行動を書き出していこう。
さらに、その行動を起こしているときに顧客はどのような感情・思考でいるのかまで書き出せると、顧客ニーズに対する解像度が上がる。
ステップ4.各フェーズの期待アクションを記入する
続いて、各フェーズで顧客に起こしてほしいアクションを記入する。
「購入」といった最終的なアクションだけではなく、それぞれのフェーズにおける中間目標を設定できると、施策の効果検証を行いやすくなるだろう。
ステップ5.タッチポイントを洗い出す
次に、各フェーズでのタッチポイント(顧客接点)を洗い出していく。
認知のフェーズでは広告や外部メディアなどが挙げられるが、検討のフェーズでは1対1の深さをより重視するタッチポイントになってくる。
現状は活用できていなくても、今後活用していけそうなタッチポイントを列挙する機会にもなるはずだ。
ステップ6.対応策を決める
最後に、これまで整理した顧客の行動・期待アクション・タッチポイントを踏まえて、自社が提供できるコンテンツのチャネルや訴求テーマを振り分けていく。
ここまでマップが埋まると、新たなコンテンツを作成するときも「どのフェーズの、どのタッチポイントで、どのような顧客のアクションを期待して作成するのか」を明確にしたうえで臨めるだろう。
4.カスタマージャーニー作成時に注意すべきポイント
カスタマージャーニーを作成する際に注意したいポイントは3つある。
- 実際の顧客の行動を参考にする
- 顧客接点の多い社内関係者を巻き込む
- 定期的に見直す
それぞれについて解説していく。
4.1.実際の顧客の行動を参考にする
1つ目のポイントは、実際の顧客の行動を参考にすることだ。
そのためには、各タッチポイントにおいて顧客がどのようなことを考えて行動しているのか、情報を集める必要がある。
ウェブサイトの解析から見えてくることもあれば、商談やアンケートなどでのヒアリングによりわかることもあるだろう。
カスタマージャーニーを作る前に、情報を1か所に集約しておくことが大切だ。
自分の想像だけでカスタマージャーニーを作ってしまうと、的外れな施策を打つことになりかねないため十分に注意してほしい。
4.2.顧客接点の多い社内関係者を巻き込む
2つ目のポイントは、顧客接点の多い社内関係者を巻き込むことだ。
これは1つ目のポイントにも関連するが、顧客接点の少ないマーケティング担当者のみでジャーニーを設計すると、実態よりも理想を反映してしまうことがある。
最初の草案はマーケティング担当者が作っても構わないが、必ず営業担当などのチェックを通し、「ここは違和感がある」というポイントを指摘してもらおう。
4.3.定期的に見直す
3つ目のポイントは、カスタマージャーニーを一度作って終わりにするのではなく、定期的に見直すことだ。
現代はVUCA時代といわれ、どの業界においても市場の変化や顧客の課題感・ニーズの変化がめまぐるしく起こっている。
1年に一度はカスタマージャーニーマップをチーム内で見直し、「このタッチポイントはこっちに変わってきている」「いま顧客の課題感はこれよりもこっちのほうが主流だ」というように、時代の変化を捉えた会話ができると、自社の競争優位性を担保できるだろう。
5.すぐに使えるカスタマージャーニーの作成例
ここまで、汎用的なカスタマージャーニーの作成方法やポイントを紹介した。
ここからは、より具体的な作成例を紹介していきたい。
以下は「セキュリティ対策ソリューションを提供しているIT企業」がいくつかのゴールに分けてカスタマージャーニーを作成した事例だ。
5.1.認知フェーズ~興味・関心フェーズまでのジャーニー
このカスタマージャーニーは、販売サイクルのなかでもマーケティングとして貢献できる領域である認知フェーズから興味・関心フェーズまでを「認知」「課題認識」「情報収集」「比較検討」の4つのプロセスに分けて作成されている。
認知:
まずは商材どうこうよりも、顧客がセキュリティというテーマに関心をもち、セキュリティの基本知識を得る必要がある。
この時点では顧客はリード化もしていないため、ブログ記事や業界レポートを通じてセキュリティの重要性を強調し、認知を高めていく。
課題認識:
顧客がセキュリティ課題を認識し、それを顧客自身の会社の課題に紐づけて考える必要がある。
具体的な脅威に関する情報と攻撃の事例をSEOコンテンツやウェビナーで取り上げて課題の深刻さを伝え、顧客の認識を高めていく。
情報収集:
顧客はセキュリティ対策ソリューションに関心をもつと、具体的な情報を求める。
詳細な情報を提供して顧客の興味を引き、ソリューションの理解を深めていく。
比較検討:
顧客は異なるソリューションを比較し、最適な選択をしたいと考えている。
主体的に製品の比較情報を提供することで自社に対する信頼性を高め、顧客の意思決定をサポートする。
5.2.セミナー申し込みをゴールとしたジャーニー
このカスタマージャーニーは、あえて「セミナー申し込み」というひとつの中間コンバージョンに至るまでのプロセスを細かく定義している。
実際のところ、顧客は何もないところからいきなりセミナーに申し込むことはなく、さまざまな思考の変遷を辿ってセミナーに申し込むという決断をしているはずだ。
その変遷をきちんと可視化することで、自社のタッチポイントの導線設計などを振り返るきっかけとなる。
情報収集:
顧客は通常、セキュリティに関する基本的な情報を検索エンジンなどを通じて最初に探し始める。
検索行動は、顧客が問題意識をもち始めた段階を示しているため、SEO対策を行いタッチポイントの機会損失を防ぐことが重要だ。
さらに、SEO対策によって得たアクセスを抜かりなくリード獲得につなげるための工夫も欠かせない。
その役割を担うのがホワイトペーパーだ。
例えば、ランサムウェア攻撃に関するSEOコンテンツであれば、同様にランサムウェア関連のホワイトペーパーへの導線を作ると次のジャーニーにつながるだろう。
興味・関心:
顧客がホワイトペーパーをダウンロードする際に、あわせてメールマガジンへの登録を促すことで、定期的な情報提供と接点の維持が可能となる。
こうした継続的なコミュニケーションは、顧客との関係を深め、製品やサービスへの興味を持続させるのに効果的だ。
そして、メールマガジンを通じてセミナーの案内を送ることで、顧客に対してより具体的な学習機会を期待させることができる。
アクション:
顧客がセミナーへの関心を高めている段階で大切なことは最後のひと押しだ。
「このセミナーはどのような課題を抱える人に役立つのか」「セミナーに参加するメリットは何か」について情報提供していく。
5.3.無料トライアルをゴールとしたジャーニー
このカスタマージャーニーでは、無料トライアルに至るまでのプロセスを可視化している。
セミナー申し込みと似ているが、顧客自らがより能動的なアクションを取る傾向があり、そのぶんタッチポイントや対応策も多様化させる必要がある。
認知:
顧客が最初に製品やサービスに気づくのは、通常、情報を探しているときだ。
サイバーセキュリティの脅威に関する知識が少ない人々は、関連するコンテンツや広告を通じて初めて製品を知ることが多い。
このステージでは、一般的な認識を喚起し、関心を引くことが重要となる。
関心:
顧客が製品に興味をもつと、より多くの情報を探求し始める。
このステージでは、顧客が自社のウェブサイトやソーシャルメディアを訪れ、製品に関する詳細な情報を求めることが一般的だ。
製品の特長や利用事例を提供すると、顧客の興味を具体的なものに変えることができる。
検討:
顧客が製品に関心をもつと、ほかのオプションと比較することが一般的だ。
顧客は複数のソリューションを比較し、レビューや評価を参考にする。
比較情報を提供することで、顧客が自社製品の価値を理解しやすくなるだろう。
発見:
顧客が自社製品に関心をもった場合、無料トライアルは、製品をリスクなく試せる魅力的なオプションだ。
顧客に製品の実際の体験を提供し、その効果を自分で評価する機会を与える。
アクション:
顧客が自ら製品を体験することで、その価値と適合性を直接確認できる。
申し込みプロセスを簡単にし、必要なサポートを提供することが重要だ。
5.4.サービス購入をゴールとしたジャーニー
このカスタマージャーニーでは、営業対応も含めた「サービス購入」までのプロセスを可視化している。
マーケティング担当者と営業担当者が認識をそろえるためにも、一連の購買プロセスをジャーニーに落とし込むことが大切だ。
ここでは例として「個人データ保護に関心のある人」をペルソナに想定している。
認知:
顧客がソリューションの存在を知る最初のステップ。
ニュースやソーシャルメディアを通じて、データ保護の必要性や関連するリスクに気づくことが多い。
このステージは、問題意識を喚起し、関心を引き起こすことを目的としている。
理解:
顧客が製品についての知識を深め、特長や利点を理解することを目指す段階だ。
製品ウェブサイトやオンラインフォーラムなどを通じて、ソフトウェアがどのように問題を解決できるかを詳しく学んでいく。
検討:
顧客が製品を選定する過程。
複数のオプションを比較検討し、自分に最適なソリューションを見つけることに重点を置く。
このステージでは、顧客が自身のニーズに合った製品を見つける手助けをすることが重要だ。
商談:
自社の製品に対する関心が高まったあと、顧客は購入に向けての具体的な条件や価格などを確認する。
この段階では、顧客が購入への最終的な決断を下すためのサポートが必要だ。
購入:
最終ステップでは、顧客が実際に製品を購入する。
顧客が製品の利用をスムーズに開始し、その効果を体験できるようにする必要がある。
6.まとめ
実際に顧客が辿る行動は人それぞれであるため、なかには「カスタマージャーニーを作る意味はあまりない」と思っているマーケティング担当者もいるだろう。
しかし、カスタマージャーニーを作る最大の利点は、全体視点をもち、視野を広げられることだ。
作成してみると、意外に「ここまでは考えきれていなかった」というケースも多い。
ぜひ本記事を参考にしながら、カスタマージャーニーの作成を始めてみてはいかがだろうか。