DMCAは、著作権侵害に関する米国の法律だ。
「米国の法律」というと日本人には無関係だととらえられるかもしれない。
しかし「米国に存在するプラットフォーム」を使っているかぎり、日本人も無関係ではなく、むしろしっかり理解しておくべき法律だ。
なぜならYotubeやXはもちろん、Googlなどの検索エンジンも対象になるためである。
特に「DMCA削除申請」や「反対通知」などの対応は、自社のコンテンツの価値を守るために必須だ。
本記事では、DMCAの基礎知識、DMCAによる削除申請の方法、削除通知を受け取った場合の対応方法、SEOとの関係性などを詳しく解説する。
1.DMCA(デジタルミレニアム著作権法)とは
まずは、DMCAの概要や成立した背景についてみていこう。
1.1.DMCA(デジタルミレニアム著作権法)の概要
DMCA(Digital Millennium Copyright Act)は、1998年にアメリカで成立した著作権保護に関する法律だ。
インターネットの普及に伴い、デジタルコンテンツの違法コピーや無断使用が急増したことを受けて制定された。
その目的は、オンライン上での著作権侵害を抑制し、デジタル技術の健全な発展を促すことだ。
DMCAはアメリカの著作権法(Copyright Act)を補完する形で施行されており、以下のような特徴を持つ。
- 米国に存在するオンラインサービス上のコンテンツが対象
- ノーティスアンドテイクダウンによる責任の回避
- 日本のユーザーも影響を受ける
米国に存在するオンラインサービス上のコンテンツが対象
DMCAは米国の法律であり、その対象は「米国に存在するオンラインサービス上のコンテンツ」だ。
オンラインサービスを提供する事業者は「OSP(オンラインサービスプロバイダ)」と呼ばれる。
DMCAが作られた1998年当時であれば、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が主な対象であった。
しかし現在はSNSやEC、各種情報サイトなど多くのオンラインサービスが存在する。
こうしたサービスを提供する事業者はすべて「OSP」となる。
我々が普段の生活で使用している「Google」「X」「Instagram」を提供する企業は、すべて米国のOSPだ。
したがってこれらのサービスは全てDMCAの対象となる。
ノーティスアンドテイクダウン(OSPが責任を回避できる仕組み)
DMCAでは、OSPが著作権侵害を防ぐために一定の措置を講じている場合、侵害行為そのものが免責される。
この「著作権侵害を防ぐための一定の措置」は「ノーティスアンドテイクダウン」と呼ばれる。
簡単に言うと「通知と削除」の仕組みだ。
「ノーティス」とは、著作権者が自身のコンテンツを侵害されたとき、OSPに対して侵害の事実を通知すること。
これに対して「テイクダウン」とは、OSPが該当するコンテンツを削除(無効化)することを指す。
DMCAでは、たとえ著作権侵害があった場合でも「すみやかな削除」を行うことで、OSPの責任が問われないという考え方を採用している。
こうした免責の仕組みを「Safe Harbor(セーフハーバー)ルール」と呼ぶ。
日本語では「安全港」と訳され、何らかの違反があった場合でも、一定の条件を守ることで処罰の対象にならないという考えだ。
DMCAでも「著作権を侵害しているコンテンツが存在していても、すぐに削除すれば責任を問われない」というSafe Harborルールを導入している。
Safe Harborルールの背景には、取引における法的安定性を高めるという目的がある。
日本のユーザーも影響を受ける
DMCAは「米国に存在するOSPのプラットフォーム上のコンテンツ」が対象だ。
2025年現在、日本人が使用しているオンラインサービスは、その大半が米国企業から提供されている。
そのため、日本国内のユーザーも影響を受けることになる。
1.2.DMCAによるデメリットとリスク
DMCAはOSPにとってメリットが大きい法律だ。
前述の「ノーティスアンドテイクダウン」に則ることで、法的なリスクを回避できる。
たとえ自社のプラットフォーム上に著作権を侵害するコンテンツがあったとしても、それらを削除してしまえば責任を追及されることはない。
しかし、我々のように、コンテンツを制作しプラットフォームにアップする側にとってはリスクがある。
たとえば、以下のようなものだ。
- 「本当に侵害があったか」の確認に関する労力と時間は「指摘された側」が負担する
- 悪意を持ったユーザー(企業)が、競合他社を蹴落とすためにノーティスアンドテイクダウンを悪用する
特に2つ目はマーケターも無視できない問題だろう。
「せっかく制作したコンテンツが嫌がらせによって検索結果から削除され、SEO的な価値が低下する」という事態に発展するためだ。
この点については後段で詳しく解説する。
1.3.Google検索の結果もDMCAの対象に
我々日本人が日常的に使用する「Google検索」もDMCAの影響を受ける。
Googleは米国企業のサービスであり、米国でホストされているからだ。
Googleは世界中からDMCA通知を受け付けている。
日本語で作成されたコンテンツであっても、侵害が認められれば該当ページの検索結果を削除する可能性が高い。
もし著作権侵害の事実がない場合は「反対通知(Counter Notification)」を行って侵害の事実がないことを訴える必要がある。
では、具体的な申請方法や通知を受けた場合の対処法をみていこう。
2.DMCAに申請する方法、通知を受け取った場合の対処法
ここでは「DMCAを申し立てる側(著作権を侵害された側)」と「削除通知を受け取った側(侵害を指摘された側)」の2つに分けて解説する。
2.1.DMCAの申請手順(著作権侵害を申し立てる側となる場合)
自社が制作したコンテンツに対して著作権の侵害を発見した場合、まずOSPに対して「侵害の事実を通知」する。
ここではGoogleを例に申請の手順を見ていこう。
Googleでは、DMCAの申請ページを設けている。
DMCAの申請ページにアクセスすると「著作権侵害による削除通知」という見出しがあるので、その下に続く項目を埋めていこう。
まず氏名、会社名を入力し、対象となる著作権者で「本人」を選択する。
また「私は当該コンテンツの著作権所有者です。〜通知を提出しています」のチェックボックスをオンにする。
さらにメールアドレスを入力し、国を選択する。
続いて「対象著作物」のボックスに記入していこう。
ここでは、著作物の性質や存在箇所、侵害しているコンテンツのURLを入力する。
ここで注意したいのが「対象著作物」の選択だ。
よく見ると「申し立ては、予定されているライブイベントの不正なストリーミングに関連していますか?※」という文言がある。
ここで「はい」を選択すると「動画や音声コンテンツ」が対象、「いいえ」を選択すると「テキストのコンテンツ」が対象となる。
SEO対策用のテキストコンテンツなどが対象であれば「いいえ」を選択しよう。
さらに「対象著作物の特定と説明」「正当な対象著作物を確認できる場所」「権利を侵害している著作物の場所」も入力していこう。
- 対象著作物の特定と説明:著作権侵害を受けているコンテンツの具体的な説明
- 正当な対象著作物を確認できる場所:上記コンテンツのURL
- 権利を侵害している著作物の場所:著作権を侵害しているコンテンツのURL
入力が完了したら、さらにスクロールして誓約文にチェックを入れ、署名する。
最後にreCAPTCHA(ロボットではありませんのチェック)にチェックを入れ、送信をクリックすれば申請は完了だ。
申請はLumenで公開される
DMCAに関する申請は「Lumen」という専用のサイトに公開される。
Lumenは、オンラインコンテンツの削除リクエストに関する透明性を高めるためのプロジェクトだ。
LumenではGoogleなどのOSPが受け取ったコンテンツ削除リクエストのコピーを保管、共有公開している。
対象となる情報は以下のとおりだ。
- リクエストの種類(著作権または商標)
- リクエストを行った個人の名前
- 権利者の名前
- 報告された URL
- リクエスト元の国
- リクエストが行われた日付
- 当該リクエストの裏付け資料として提示された文書
- 削除リクエスト フォームに記載されている当該リクエストの説明
- 権利侵害にあたるとされるコンテンツからの引用
2.2.DMCA通知(削除通知)を受け取った場合の対処方法
続いて、DMCAの削除通知を受け取った場合、つまり著作権侵害を疑われた場合の対処法を紹介する。
本当に著作権を侵害しているか(削除対象か)を確認する
削除通知を受け取った際にまずやるべきことは「対象のコンテンツが本当に著作権を侵害しているかの確認」だ。
これについては、米国が掲げる著作権に対する考え方「フェアユース」が参考になるだろう。
フェアユースに該当する場合は「著作権を侵害していない」可能性が高くなる。
フェアユースに該当するための要件は以下4つだ。
出典:「フェアユース」とは|Google Legal ヘルプ
「フェアユース」の要点をまとめると、以下のようになる。
目的、特性 | 「商用目的」か「非商用目的か」(教育的もしくは社会的価値が高い」か)
(非商用であればフェアユースに近い ) |
性質 | 事実か創作物か (創作性が高いほどフェアユースが認められにくい) |
分量 | 使用箇所の量 (多ければ侵害に近く、少なければフェアユースに近い) |
市場価値 | 市場価値 (収益性が高ければフェアユースとして認められにくい) |
著作権侵害は判断が難しい。
必要に応じて弁護士など外部の専門家に相談することも視野に入れていこう。
反対通知の判断を行う
もし「フェアユースに該当する」などの理由でDMCAによる削除の対象ではないと判断した場合は「反対通知(Counter Notification)」を行おう。
反対通知が受理され、なおかつ相手方が訴訟を提起していなければ、おおむね10~14営業日後にコンテンツが復活する。
なお、反対通知のやり方はプラットフォームによって異なる。
Xであれば「DMCA異議申し立て通知」から反対通知の作成が可能だ。
Googleの場合は「DMCAに基づくGoogle検索からの削除のお知らせ」という通知メールの中に「DMCAに基づく異議申し立て通知」のリンクがあるため、こちらから反対通知を行おう。
入力内容は個人情報やコンテンツのURLなどが主で、おおむね前段で解説した「申請時」の情報に近い。
侵害が確認されたらすぐにコンテンツを削除する
自社のコンテンツが著作権侵害の対象となっている場合は、反対通知を行わず、すぐに削除しよう。
明確な侵害がある状態での反対通知は、訴訟のリスクを増大させてしまうからだ。
3.DMCAとSEOの関係・注意点
近年、Googleの仕組みを悪用し「競合企業のコンテンツを削除させ、SEO的な価値を低下させる」ケースが報告されている。
自社の情報資産を守るためにも、SEOの側面からリスクを把握しておこう。
3.1.Googleの「自動的な削除」を応用した攻撃も
近年、DMCA絡みで問題になっているのが「自動削除を悪用した攻撃」だ。
DMCAが採用する「ノーティスアンドテイクダウン」は、迅速性を重視した手続きである。
OSPは著作権侵害の通知を受けると「事実」を確認する前にコンテンツの削除を行う。
これにより、OSPは責任追及を回避できるのだ。
例えばGoogleでは、何らかのコンテンツに対してDMCA削除申請があった場合、申請対象のコンテンツを自動的に無効化することがある。
つまり「申し立ての内容が形式的に正しければ」自動的にコンテンツが検索結果に表示されなくなるのだ。
勘の良い方はお気づきかもしれないが、この仕組みを利用することで他社のSEO対策を無効化できてしまう。
例えば以下のような形である。
- 競合他社のコンテンツに対して、虚偽の著作権侵害の申請を行う
- Googleがノーティスアンドテイクダウンに則り、対象コンテンツを自動的に無効化する
- 申請された企業のコンテンツは検索結果に表示されない
- コンテンツが復活するまでの間、PVはゼロになりリード獲得が進まない
これは実際に確認されている攻撃であり「DMCA攻撃」とも呼ばれる。
すでに述べたように「本当にコンテンツが著作権を侵害しているか」の確認は、侵害の通知を受け取った側が行う。
DMCA攻撃を食らってしまうと、最低でも10日~14日間はコンテンツのSEO的な価値がゼロになり、さらに確認や反対通知の手間が上乗せされてしまうのだ。
もっとも、Googleはこの事実を重く受け止めており、DMCA攻撃を行っていた人物を訴えるなど防止策に努めているようだ。
参考:DMCAを悪用して競合サービスを検索結果から削除する「SEO」を行っていた人物にGoogleが勝訴|Gigazine
DMCAの申請には「個人情報」が必要だが、「身元確認」までは厳密に行っていない。
また、コンテンツの内容に対する判定も十分ではない。
このことから、現時点ではDMCA攻撃に対する決定的な解決策がない。
現状ではこまめにDMCAの削除通知が来ていないかを確認し、随時「反対通知」を送信していくほかないだろう。
3.2.OSPが国内業者の場合は「プロバイダ責任制限法」
DMCAは米国のOSPが提供するサービス上のコンテンツに対する法律だ。
では、もし国内のOSPが提供するサービス上で著作権侵害があった場合はどうするべきだろうか。
日本国内のプラットフォームでは、「著作権法」と「プロバイダ責任制限法」のどちらかに則って対応する。
一般的には後者(プロバイダ責任制限法)が対象になるだろう。
4.DMCAに関するリスクの低減に向けてやるべきこと
ここまでの内容から、DMCAについては以下のように理解できる。
- DMCAは著作権を侵害するコンテンツの削除に使われている
- 一部のプラットフォームでは、申請受理と削除の自動化が進んでいる
- 自動化を悪用したDMCA攻撃が存在する
- 著作権を侵害するとコンテンツの削除や無効化のみならず、訴訟のリスクもある
SEO対策の労力を無駄にしないためにも、DMCAがらみのリスクはできるだけ小さくしておきたい。
そのためには、次のような対策が有効だ。
4.1. 「独自性」への注力
著作権侵害のリスクを低下させる最もシンプルな方法は「独自性」を高めることだ。
独自性は近年のSEOで特に重視される要素であり、コンテンツの評価にも影響する。
SEO対策で「100%オリジナル」を作り続けることは難しい。
しかし、公になっている事実に対して「独自の見解」「解決事例」などを示すことは可能だ。
自社の見解やノウハウがしっかり反映されていれば、たとえDMCA攻撃を食らったとしても何ら恐れることはない。
4.2. コンテンツの監視
自社コンテンツの無断使用を防ぐために、専用ツールを活用しよう。
例えばGoogleアラートを利用することで、特定のキーワードやフレーズに基づく無断使用を検知できる。
また、CopyscapeやGrammarly Plagiarism Checkerといったツールでは、ウェブ上でのコンテンツの重複やコピーを検出できる。
より高精度な監視を行いたい場合は、ブランド名や商品名を追跡する専用のモニタリングサービスの導入も検討しよう。
4.3. コンテンツ制作チームと法務部門の連携
コンテンツ制作チームは、著作権法やDMCAに関する基本的な知識を理解する必要がある。
例えば、引用ルールやフリー素材の商用利用条件を確認などは、比較的容易にできるだろう。
また、コンテンツ公開前には法務担当者が内容を確認するプロセスを導入し、著作権侵害の可能性がないかを精査することも重要だ。
4.4. サイトの著作権保護
自社サイト内で使用するコンテンツには、著作権表示を明確に記載し、第三者による無断使用を抑止する。
たとえば「© 2025 [会社名] All Rights Reserved」などの著作権表記をサイトのフッターやコンテンツに表示する。
また、サイト利用規約を整備し、無断での転載や改変を禁止する条項を盛りこもう。
こうした表記は、著作権侵害やDMCA攻撃に対して正当性を主張する根拠となる。
さらに画像や動画、音声、フォントなどの素材については、フリー素材でも利用規約を確認し、不明点があれば必ず権利者に問い合わせよう。
4.5. プラットフォームごとに対応手順を確認しておく
Google、YouTube、Xなどの主要プラットフォームでは、DMCAに関する対応方法を公開している。
各プラットフォームのDMCA削除通知や反対通知のフローを確認し、必要書類や手順を整理しておこう。
4.6. ペナルティ回避とスクレイピング対策
重複コンテンツによるペナルティを回避するため、Canonicalタグを活用して検索エンジンに対して優先するページを明示することも有効だ。
また、他者によるスクレイピング行為を防ぐため、サイトへのセキュリティ対策を強化することも重要だ。
具体的には、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)の導入や、アクセス解析ツールを活用した異常アクセスの検出が挙げられる。
さらに、スクレイピングが発生した場合にはアクセス元を遮断し、状況に応じてDMCA削除通知を送付する準備を整えておこう。
4.7. 証拠の保存
著作権侵害のトラブルに備え、自社コンテンツの著作権を証明するための証拠を確保しておこう。
具体的には、コンテンツの作成日時や編集履歴、初回公開日時を記録し、必要に応じてスクリーンショットやPDFで保存する。
さらに、データを第三者に預ける「タイムスタンプサービス」を活用することで、証拠能力を強化できる。
こうしたデータは、DMCA削除通知や反対通知の証拠として活用できる。
5.まとめ
本記事では、DMCAの概要や特徴、申請や反対通知の具体的な方法を解説してきた。
DMCAは米国の法律だが、日本人がよく使うGoogleやX、Youtube上のコンテンツも対象になる。
どのOSPでも、DMCAに関する手続きはそれほど難しくない。
ただし、虚偽の申し立て(DMCA攻撃)を放置すると、自動的にコンテンツが無効になり、せっかくのSEO対策が水の泡と化す可能性もある。
「独自性」を担保して著作権侵害の攻守両面を強化しつつ、手続きのフローの確認やコンテンツの作成ルールの確立など、普段からリスク軽減に努めておくことが大切だ。