オウンドメディアは、認知拡大やブランディングなどさまざまな役割を持つメディアだ。
日本でも2010年代の中ごろからオウンドメディアへの投資が活発になり、今では業態業界を問わずにマーケティング活動の主軸となっている。
その一方で、
「利益への貢献度を求められても、数字で表現しにくい」
「PVは増えるが、売上の増加に結び付かない」
「オウンドメディアのマネタイズ方法が見えない」
など、「実利」に関する理解が進んでいないケースも散見される。
BtoBのオウンドメディア構築・運用では、商材の性質や価格から投資対効果を求めつつ、マネタイズの計画を練っていく必要がある。
ここではオウンドメディアのマネタイズ方法やマネタイズ計画の立案方法、稟議の通し方、代表的なマネタイズシナリオについて、具体的な例を含めて解説する。
1.オウンドメディアはマネタイズが必要か?
まず、オウンドメディアに対するマネタイズ戦略の必要性について理解しておこう。
「オウンドメディアにマネタイズを求めるのはナンセンス」という意見もある。
確かに、オウンドメディアは直接利益を生み出すツールではなかった。
2010年代のオウンドメディアに課された最も重要なミッションは「ブランディング」や「認知拡大」などであり、この2つを間接的に推し量る指標として「PV」が挙げられていた。
しかし、オウンドメディア自体が特別な存在ではなくなり、更新し続けるだけで付加価値を生み出す時代は終わった。
近年はより実利に近い部分、すなわち「売上や受注増加による事業への貢献」を目標とするケースが増えている。
したがって、マネタイズに関する戦略は必須といえるのだ。
2.オウンドメディアのマネタイズパターン
次にオウンドメディアにおけるマネタイズのパターンだ。
オウンドメディアのマネタイズは「直接稼ぐ」か「事業貢献で間接的に稼ぐ」かの2つに大別される。
・パターン1:商業メディアとしてのマネタイズ(直接稼ぐ)
このパターンは非常にシンプルで、いわゆるペイドメディアと同じ方法でマネタイズを目指す。もっと端的に言えば「PVを直接お金に換える」パターンでもある。
具体的には、ある程度メディアが育ってきた段階で、SSPやBtoBアフィリエイト、アドセンスなどを駆使してマネタイズする。
一昔前のキュレーションサイトが用いていたマネタイズ戦略であり、PVが増えれば増えるほど利益がもたらされる仕組みだ。
しかし、BtoBにおいてこのパターンは現実的ではない。なぜなら、BtoBでは専門性が高い話題が多く、検索キーワードのボリュームもBtoCに比べると小さいからだ。
さらに、「組織」で意思決定するBtoBでは、BtoCのように即決で何かを買うことも少ない。
何より、BtoBのオウンドメディアにおいて商業メディアとしての側面を出しすぎると、「信頼性」という最も重要な価値を損なうというリスクもある。
・パターン2:事業貢献によるマネタイズ(事業貢献で間接的に稼ぐ)
BtoBではこちらが本筋となる。
具体的には、SEO要素を加味した高品質なコンテンツでPVを稼ぎ、リード獲得、ナーチャリングを経てさまざまな顧客接点につなげていく。
最終的には営業部門にバトンタッチし、商談を経て案件化や受注を目指すという流れだ。
BtoBの取引は、程度の差はあれど「高単価」「低頻度」「高い継続率」などの特徴がある。
こうした取引の特性を踏まえると、信頼性を積み上げながら継続的に見込み客の獲得・育成をし、取引につなげていくほうがベターだ。
特に、市場に存在する「潜在見込客(まだまだ客)」を切り崩し、自社の顧客にしていくことで長期的に稼得能力を高めるという特性は、オウンドメディアならではのものである。
潜在見込客(まだまだ客)については、こちらの記事も参照してみてほしい。
3.オウンドメディアのマネタイズ計画立案ステップ
オウンドメディアでマネタイズする場合は、それなりの投資が必要だ。
そして、投資に値するかどうかを上司に判断してもらい、稟議を通さなければならない。
そこで必要になるのが、マネタイズ計画の立案である。
オウンドメディアのマネタイズ計画を立案する際には、以下のステップを踏む。
ステップ1:受注率や受注金額で「粗い目標」を立てる
まずやるべきことは、過去の売り上げに関する数値の洗い出しと、ざっくりとした売上目標値の算出だ。
これは以下A・B・Cの3ステップで導き出せる。
A:過去実績の洗い出し
まず、過去の実績から以下3つの数値を算出しよう。
- 有効商談率
- 受注率
- 受注単価平均
B:PV目標の算出
次に、オウンドメディアのPV目標を算出する。コンテンツマーケティングの戦略立案では、顧客層(ターゲット)を決定したあとに、より具体的な顧客像(ペルソナ)を作る。
さらに、ペルソナが辿るであろう認知変化を旅のように表現した「ジャーニー」も作成する。
このジャーニーを作りこむことで、狙うべき検索キーワードが見えてくる。
検索キーワードをあらかじめ数十個に絞り込み、そこから年間のPV目標を立てるのだ。
詳細は以下のとおり。
- ペルソナとジャーニーから検索キーワードを抽出
- 抽出した検索キーワードの検索ボリュームを合算する…①
- 前年の検索1位の平均CTR(クリック率)をかける(2023年は39.8%)…②
- ①×②によって求められた数値を1年後のPV目標に設定する
C:売上目標の算出
つづいてPV目標を参考にしながら、売上目標を立てる。売上目標のためには、以下の数値が必要だ。
オウンドメディア運用が初めてでCVRが存在しない場合には、仮の数値でも良い。
- 問い合わせ数=PV目標×CVR
- 有効商談数=問い合わせ数×有効商談率
- 受注数=有効商談数×契約率
- 売上目標=受注数×受注単価
これらの数値とPV目標を用いてざっくりと売上目標を計算する。
ステップ2:コストの算出と予算策定
売上目標が算出しおわったら、実際にオウンドメディアに投下すべき予算を把握しよう。
予算は投資対効果から推測が可能だ。
そのために、以下のコストを簡単に計算しておこう。
- 人件費
- 外注費(経費含む)
上で算出した売上目標から人件費と外注費の合計を差し引いたものが利益となる。1年目は高確率で赤字になるはずなので、2年目以降の利益が伸びていくような予算を設定していこう。
具体的には、人件費と外注費をどの程度投下するかが予算策定の肝になるはずだ。
4.オウンドメディアにおける予算策定例
予算策定の例として以下2つを紹介する。マネタイズ戦略立案の参考にしてみて欲しい。
例1:月額課金型のソリューション
- 商材:インフラ運用管理ツール
- 有効商談率:40%
- 受注率:35%
- 受注単価平均:月額10万円
- PV目標(月間):1年目5万、2年目8万、3年目12万
売上目標(月間)
- 問い合わせ数=PV目標×CVR(0.1%)
- 有効商談数=問い合わせ数×有効商談率
- 受注数=有効商談数×受注率
- 売上目標=受注数×受注単価
※解約率は考慮せず
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
累計公開記事数 | 180 | 360 | 540 |
PV数(月間/年間) | 5万/60万 | 8万/96万 | 12万/144万 |
問い合わせ数 | 50 | 80 | 120 |
有効商談数 | 20 | 32 | 48 |
新規受注数 | 7 | 11 | 17 |
売上目標(月間) | 70万円 | 180万円
(前年+110万円) |
350万円
(前年+170万円) |
売上目標(年間) | 840万円 | 2160万円 | 4200万円 |
コスト算出
目標PV数を達成するための記事数を月間15記事とし、人件費および外注費を算出
- 人件費:60万円(月)
- 人件費:720万円(年間)
CMSやサーバー運営費用などの外注費、諸経費を計上
- 外注費(諸経費こみ):100万円(月)
利益と投資対効果の算出
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
累計公開記事数 | 180 | 360 | 540 |
PV数(月間/年間) | 5万/60万 | 8万/96万 | 12万/144万 |
売上目標(月間) | 70万円 | 180万円 | 350万円 |
売上目標(年間) | 840万円 | 2160万円 | 4200万円 |
コスト(月間) | 160万円 | 160万円 | 160万円 |
コスト(年間) | 1920万円 | 1920万円 | 1920万円 |
利益目標(月間) | ▲90万円 | 20万円 | 190万円 |
利益目標(年間) | ▲1080万円 | 240万円 | 2280万円 |
投資対効果の推計
1年目:(▲1080÷1920)=▲56.3%
2年目:(2160÷1920)=12.5%
3年目:(2280÷1920)=119.7%
以上の結果をもとに、投下予算の調整を行う。
例2:イニシャル+年間保守のソリューション
- 商材:カスタマイズ可能な特定業種 × 大企業向けERPの導入+保守サービス
- 有効商談率:20%
- 受注率:10%
- 受注単価平均:3120万円(イニシャル3000万円+年間保守120万円)
- PV目標(月間):1年目0.6万、2年目1万、3年目1.2万
売上目標(月間)
- 問い合わせ数=PV目標×CVR(0.1%)
- 有効商談数=問い合わせ数×有効商談率
- 受注数=有効商談数×受注率
- 売上目標=受注数×受注単価
※解約率は考慮せず
※1年目は下半期6か月のみ実施
※高単価、低頻度商材のため年間のみ算出
1年目
(下半期のみ) |
2年目 | 3年目 | |
累計公開記事数 | 90 | 270 | 450 |
PV数(月間/年間) | 0.6万/3.6万 | 1万/12万 | 1.2万/14.4万 |
問い合わせ数
(年間) |
72 | 120 | 140 |
有効商談数
(年間) |
14 | 24 | 28 |
新規受注数
(年間) |
0 | 2 | 3 |
売上目標
(年間) |
– | 6240万 | 9600万円
新規3件9360万+継続保守契約2件240万 |
※ニッチなソリューションのためPVは低めに設定
コスト算出
目標PV数を達成するための記事数を月間15記事とし、人件費および外注費を算出(専門性の高い記事を作成するため人件費は高めに設定)
- 人件費:120万円(月)
- 人件費:1440万円(年間)
CMSやサーバー運営費用などの外注費、諸経費
- 外注費(諸経費こみ):100万円(月)
利益と投資対効果の算出
1年目
(下半期のみ) |
2年目 | 3年目 | |
累計公開記事数 | 90 | 270 | 450 |
PV数(月間/年間) | 0.6万/3.6万 | 1万/12万 | 1.2万/14.4万 |
売上目標(年間) | 0万円 | 6240万円 | 9600万円 |
コスト(年間) | 1320万円 | 2640万円 | 2640万円 |
利益目標(年間) | ▲1320万円 | 3600万円 | 6960万円 |
投資対効果の推計
1年目:(▲1320÷1320)=▲100%
2年目:(3600÷2640)=136.3%
3年目:(6960÷2640)=263.6%
以上の結果をもとに、投下予算の調整を行う。
5.オウンドメディアのマネタイズにおける注意点
オウンドメディアのマネタイズでは、以下2点に注意したい。
「オウンドメディア内」に固執しない
オウンドメディアはコンテンツマーケティングの主要ツールである。
しかし、オウンドメディアのみで受注まで完結させようとすると、訴求力が弱まってしまう。
なぜなら、BtoBで受注の決め手になるのは、あくまでも商談の場だからだ。
MAからコンテンツを配信してセミナーにつなげるなど、オウンドメディア以外への出口も検討していこう。
追跡調査を徹底してPDCAを回す
PDCAを回して予算投下額などをブラッシュアップする場合、マネタイズの成功率を把握しなくてはならない。
しかし、BtoBの場合はセミナーや商談で受注に至ることも多く、ゴール(受注、契約)にたどり着いたかの確認が難しい。
営業に渡したリードの結果を常に追いかけ、マネタイズの成功率を把握しておこう。
6.BtoBオウンドメディアのマネタイズにおける4つのシナリオ
オウンドメディアのマネタイズは、あらかじめシナリオを想定しておくと計画が立てやすい。
以下は、BtoBにおけるマネタイズの基本となるパターンだ。
シナリオ1:MA発信型
シナリオ概要:MAからコンテンツ配信→セミナーおよびウェビナーへ誘導→商談→受注
MA発信型では、獲得済みリードや既存顧客に向けて、MAを起点としたコンテンツ誘導を行う。
メールやキャンペーンを活用し、オウンドメディアのコンテンツへの接触を増やすことに注力するわけだ。
すでに自社商材の魅力を知っている層に向けているため、マネタイズしやすいのが特徴だ。
近年はオウンドメディアを既存リードのナーチャリングに活用する企業が増えており、このマネタイズにおいても王道のひとつと言える。
ただし、オウンドメディアが存在していることが前提であるため、ある程度の初期投資が必要だ。
シナリオ2:Web記事起点型
シナリオ概要:Web記事→ホワイトペーパーダウンロード→問合せ→商談→受注
オウンドメディアのマネタイズとしては最もスタンダードなシナリオである。
トレンド解説やノウハウ提供記事でPVを集め、ダウンロード型コンテンツで訴求し、営業へ渡すというルートを想定し、コンテンツを充実させていく。
Web記事起点型では、各コンテンツの役割を明確にし、ジャーニーに沿ってコンテンツを配置することが何より重要である。
また、記事コンテンツへの継続的な投資が必要な点もおさえておきたい。
ダウンロード→問い合わせの流れはとても少数なので、ダウンロードした人に対してDの流れでナーチャリングしていく形がメインだと解説して欲しい。
シナリオ3:広告起点型
シナリオ概要:リード獲得広告→ホワイトペーパーやLP→商談→受注
集客の部分をWeb記事ではなく、リード獲得広告に任せるのが広告起点型だ。
リード獲得は広告に任せるが、ナーチャリングはオウンドメディアで行う。
オウンドメディアのコンテンツが質、量ともに十分であれば、高い効果が期待できる。
Web記事起点型よりも短期間でマネタイズしやすいが、広告の打ち方次第ではコストパフォーマンスが低下する可能性もあるため注意が必要だ。
シナリオ4:EC連動型
シナリオ概要:オウンドメディアで潜在見込客を取り込み→BtoB ECへ誘導
自社でBtoB ECサイトを運営している場合には、EC連動型を検討すべきだ。
BtoB ECサイトはオウンドメディアとの連携が十分でなく、商材の強みを活かせていないケースが散見される。
これは、ECサイトとオウンドメディアの性質が異なるために、訴求対象の整合が取れてないことに起因する。
ECサイトは「今すぐ客(見込み客の中で最も購買に近い層)」に対しては非常に有効な施策だ。
しかし「まだまだ客(潜在見込客)」を取り込むことはほぼ不可能に近い。
なぜなら「まだまだ客」はECサイトに並ぶ商材を認識していないばかりか、それによって解決できる課題も思いついていないからだ。
したがって、オウンドメディアで「まだまだ客」を取り込み、コンテンツを周回させながら「いますぐ客」へと育成し、ECへの流入を目指すことで売上への貢献が見込める。
7.まとめ
ここでは、オウンドメディアのマネタイズに関する具体的な計画やシナリオのパターンを紹介してきた。
BtoBのオウンドメディアにおけるマネタイズは、長期的な事業への貢献を意識して、年単位で計画を練りたいところだ。
効果が出るまでには時間がかかり、本格的な黒字化は2年目以降になることも珍しくない。
それだけに、できるだけ早急にマネタイズを意識したオウンドメディア運営を始めるべきだ。
もし、マネタイズに関する知見が乏しい場合は、業界知識を持った専門企業の支援も検討してみてはいかがだろうか。