購買意思決定プロセスは、顧客が購買(契約、受注)に至るまでの思考や心理的なプロセスをまとめたものだ。
日本ではAIDMAやAISASといったモデルがよく知られているが、BtoCかBtoBかによって、また対象のサービスや顧客層によって最適なものは異なる。
もし、下記のようなお悩みを抱えているのなら、購買意思決定プロセスを見直すべきかもしれない。
「営業やマーケティングのアプローチに対して、顧客から反応が無い」
「購買意欲を刺激しようとキャンペーンを打っているが、成果が思わしくない」
「決裁権を持つ人物をターゲットにしているが、思うように契約が増えない」
ここでは、購買意思決定プロセスの定義や代表的なモデル、BtoB特有の事情を踏まえた活用のポイントなどを紹介する。
目次
Toggle1.購買意思決定プロセスとは
まず、購買意思決定プロセスの概要を理解しておこう。
1.1.購買意思決定プロセスとは
購買意思決定プロセスとは、顧客がニーズ(課題)を認識してから購買に至るまでの過程を、思考・行動・心理などの面から整理したものだ。
顧客が何かを欲するとき、そこには「解決したい問題」「対応すべき課題」が存在する。
また、問題解決の方法や課題を充足する方法についても調べる。
さらに「何か別の方法はないか」と考えてリサーチを重ね、複数の方法を比較・検討した結果、「購買」に至る。
購買が完了した後も、もし満足がいくものであれば他者へ推奨したり再購入を検討したりといった「評価」を行う。
こうしたプロセスの中では、何度も「情報検索」「分析」「比較」が行われるとともに、「感情」や「思考」も動く。
「購買」という意思決定に必要な材料を集め、思考・感情が生み出される過程をまとめたものが購買意思決定プロセスと言えるだろう。
1.2.購買意思決定プロセスの重要性
購買意思決定プロセスは、マーケティング領域でとても重要なテーマのひとつだ。
なぜなら、購買意思決定プロセスに「顧客を購買に導くための全情報」が濃縮されているからだ。
製品やサービスをもっと売りたいと考えたとき、どうしても「直前」の行動だけにフォーカスしてしまいがちだ。
しかし、顧客の中では購買のかなり前から、思考と感情が動いている。
「なぜ欲しいと考えたのか」「何を探しているのか」「競合は何か」などを把握しなければ、最適なアプローチにはつながらない。
この最適なアプローチを採るための基礎となるのが購買意思決定プロセスだ。
購買意思決定プロセスを理解することで、プロセスのフェーズに応じた適切なマーケティング施策の立案につながる。
また、よく知られたフレームワークであるマーケティングファネルやファネル図も、購買意思決定プロセスが根底にある。
さらに、リードジェネレーションを起点とするリードベースドマーケティングも、購買意思決定プロセスがなければ成り立たない。
このようにマーケティング施策のほぼすべてに影響するのが、購買意思決定プロセスなのだ。
2.購買意思決定プロセスの代表的なモデル
購買意思決定プロセスにはいくつかの代表的なモデルがある。
ここでは、現在主に使われている購買意思決定プロセスのモデルを紹介する。
2.1.コトラーによる5段階モデル
最もよく知られているのは、フィリップ・コトラーが示したとされる下記の5段階モデルだ。
1.問題認識
問題認識とは、「不足していること」「やらなくてはならないこと」の存在を自覚することだ。
同時に何かが必要だと感じること、つまりニーズの認識でもある。
問題認識は、内的刺激(空腹、喉の渇きなどの生理的欲求)や外的刺激(広告、他者の影響、新製品の発売など)によって引き起こされる。
例えば、友人が新しいスマートフォンを購入し、その機能性を見て自分のスマートフォンに不満を感じ始める場合などが該当する。
2.情報探索
前述の問題を解決する方法を探す段階が情報探索だ。
ここでは、解決方法を見つけ出すための情報収集がメインになる。
情報収集源としては、以下4つが挙げられる。
- 個人的情報源:家族、友人、同僚などからの口コミや経験談
- 商業的情報源:広告、カタログ、公式ウェブサイトや検索結果、オンラインのレビューサイトなど企業から提供される情報
- 公共的情報源:専門誌、消費者団体、公的機関など第三者機関からの情報
- 経験的情報源:実際に商品を試用する、デモンストレーションを見るなどの直接的な体験
BtoBの場合は、「商業的情報源」「経験的情報源」を用いて収集される傾向が強い。
コンテンツマーケティングを用いて商業的情報を、デモやトライアルによって経験的情報を提供することで、購買の候補に食い込むことが可能だ。
3.代替品評価
代替品評価では、2で発見した解決策とは異なる選択肢を探し、評価する。
簡単に言えば比較検討段階だ。
代替品評価で使用される評価基準としては、下記2つが有力だ。
- 問題を解決できる能力:処理速度やUIの使いやすさ、特定の業務を自動化できるかなど
- 属性:価格や品質、デザイン、ブランドイメージなど属性面に関する情報
4.購買決定
文字通り、購買のための最終決定を行う段階だ。
2の情報探索と3の代替品評価でひと通りの解決策が示されたあとに、総合的な判断によって決定を下す。
5.購買後の行動
自身の購買決定が適切であったかを評価する段階だ。
評価基準はさまざまだが、BtoCでは「満足度」など個人の主観が主な基準だ。
これに対してBtoBでは、満足度に加えて「TCO(総保有コスト)」や、「業務課題の改善効果(短縮時間や削減コスト)」など、定量的な面で評価されることが多い。
2.2.AIDA
AIDAは、購買意思決定プロセスを説明する基本的なモデルのひとつだ。
モデルは、Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Action(行動)の4つの段階から構成される。
顧客は製品やサービスに対して注意を向け、興味を抱き、商品を欲しいと感じる欲求が生まれ、購買に至るというモデルだ。
AIDAモデルは、広告やプロモーション活動において効果的なメッセージ伝達のためのフレームワークとして活用されている。
2.3.AIDMA
AIDMAは、AIDAモデルにMemory(記憶)の要素を加えたモデルだ。
AIDAと同じように4段階のプロセスをたどり、最終的に製品・サービスに関する情報や印象を記憶する。
その記憶をもとに購買行動を起こすわけだ。
AIDMAモデルは、マスメディアが主流だった時代における消費者の心理プロセスを説明するために提唱された。
記憶の段階が加わることで、消費者が情報を一時的に保持し、購買行動までの時間的な遅延が発生することが考慮されている。
2.4.AISAS
AISASは、インターネットやSNSを活用する現代人の行動を反映させたモデルだ。
Attention(注意)、Interest(興味)、Search(検索)、Action(行動)、Share(共有)の5つの段階から構成される。
AISASでは、「インターネットを利用した検索」が購買行動の中で重要な位置を示すことを説明している。
購買行動はSearch(検索)の結果から生まれることが多いからだ。
また、購入後の感想や評価をSNSなどで共有するShare(共有)のプロセスも現代の購買行動プロセスに合致している。
BtoBの意思決定においてもインターネットによる検索は無視できない。
情報検索と情報共有が容易になった現代の消費者行動を的確に捉えていると言えるだろう。
3.BtoBの購買意思決定プロセスの特徴
これまで、購買意思決定プロセスの概要と主要なモデルを紹介してきた。
購買意思決定プロセスは、BtoC・BtoB問わず活用可能なノウハウである。
一方で、実際の意思決定プロセスを分析すると、両者には明確な違いがあることがわかる。
購買意思決定プロセスの違いを把握して、適切なマーケティング施策の立案に役立てよう。
3.1.意思決定は「組織(ユニット)」で行われる
BtoBの購買意思決定プロセスを理解するうえで最も重要なのは「意思決定が組織(ユニット)」で行われるという事実だ。
上図のように、企業では「DMU(購買意思決定ユニット)」が購買の可否を判断する。
意思決定に関与する人間をピックアップし、それぞれのペルソナを知ったうえで「組織としての意思決定の傾向」必要がある。
3.2.意思決定にかかる時間が長い
BtoCの購買は、必ずしも購買意思決定プロセスに沿ったものではない。
例えば、風の流行時期に風邪薬がない(問題認識)ことが分かった場合、通勤の帰りに見かけたドラックストアーで風邪薬を即決購入した経験はないだろうか。
この場合、本来ならば行われるはずの「情報探索」「代替品の評価」といったプロセスが省略されている。
これは個人が単独で意思決定を下せるからこそ起こりえることだ。
一方、BtoBの場合は、高額で導入に時間がかかるものが多く、業務への影響も大きい。
また、予算や事業のフェーズなど種々の事情が絡む。
こうした事情から、BtoCよりも時間をかけて意思決定が行われる。
あくまでも一般論だが、「情報探索」や「代替品評価」の段階に、それぞれ数か月~数年を要することもあるだろう。
もし足踏みが発生していると感じた場合は、セールスとマーケティングが連携したアプローチで意思決定を促進するなどの工夫が必要だ。
3.3.複数のステークホルダーがいる
BtoBの購買意思決定プロセスに関与するのは、DMUだけではない。
DMUの外側にいる「技術担当者」や「業務担当者」である可能性もある。
特に、BtoB ITやSaaSビジネスにおいては、「DMUの外のペルソナ」を大事にしていきたい。
「既存のシステムとうまく連携できないかもしれない」「UIが新しくなると、日常業務に停滞が発生する」などの意見が、DMUの意思決定を覆すことがあるからだ。
DMUの外側にいるステークホルダーを発見するには、より具体的な目線でのペルソナ設定やカスタマージャーニーの作成が役立つ。
4.BtoBにおける購買意思決定プロセスの活用ポイント
前述のような理由から、BtoBでは汎用的な購買意思決定プロセスのモデルを適用しづらい。
そこで、以下のような点に配慮してマーケティング施策を立案していこう。
4.1.ターゲット企業を想定し、購買意思決定プロセスを推測
新規顧客や取引回数が少ない顧客の場合、購買意思決定プロセスの把握が難しい。
「DMUが何を重視しているか」「発言力が最も高い人物は誰か」などの情報がないからだ。
そこで、顧客企業の内情を最もよく知るセールスとの連携により、意思決定プロセスのモデルを作ってみよう。
ちなみに、購買意思決定プロセスのモデルは自社製品やサービスの性質にも影響を受ける。
経費精算や支払い自動化など経理系のSaaSならば会計・経理担当部門の現場担当者の意見が重要になるだろう。
これに対して、CRMならばカスタマーサポート、SFAならば営業部のリーダークラスが強い発言力を持つことが多い。
「ターゲット企業の意思決定プロセス」×「自社製品やサービスの性質」で独自の購買意思決定プロセスを作っていこう。
4.2.カスタマージャーニーに落とし込み、施策を練る
カスタマージャーニーとは、顧客が自社の製品・サービスを認知してから購入(あるいは独自に設定するゴール)に至るまでの道のりを指す。
BtoB企業がカスタマージャーニーを作成するメリットは以下の3つだ。
- 顧客理解
カスタマージャーニーを作成することで、顧客の行動、ニーズ、課題を深く理解し、それらに基づいて戦略を調整できる。 - 効果的なコミュニケーション
カスタマージャーニーを通じて、適切なタイミングで適切な情報を提供でき、信頼性の高いコミュニケーションを実現できる。 - 社内の目線合わせ
カスタマージャーニーを社内のメンバー誰もが理解できる形で可視化することで、マーケティング施策に一貫性が生まれる。
このうち「顧客理解」は、顧客企業の購買意思決定プロセスを理解するために役立つ。
カスタマージャーニーを作成するうえでは、「ペルソナ」の構築が欠かせない。
ペルソナは顧客像を詳細に記したものであり、そこから購買意思決定プロセスの予測が立つ。
上図を見ると、ペルソナAならば「安さやセキュリティの強固さ」が意思決定を後押しする要素になるだろう。
同じようにペルソナBでは「技術的な優位性」が、ペルソナCでは「運用効率や可用性の高さ」がポイントになると推測できる。
このようにペルソナから推測される「意思決定プロセスが進みそうなポイント」を割り出していくのだ。
あとは情報探索や代替品の評価段階で、これらの要素をアピールする施策を考案する。
オウンドメディアやMAから情報発信、無料デモの案内などが有力な施策案になりそうだ。
カスタマージャーニーについては、こちらでも詳しく解説している。
4.3.ファネル図として可視化し、施策を対応させる
ファネル図は、顧客の購買行動をファネル(漏斗)状に図式化したものだ。
ファネル図が、そのまま購買意思決定プロセスになることも多い。
「購買意思決定プロセスを作るためのきっかけがない」という場合は、まず顧客に関する情報をファネル図にまとめてみよう。
ファネル図を使ったファネル分析によってとるべきアプローチが見えてくる。
5.まとめ
本記事では、購買意思決定プロセスの定義や代表的なモデル、BtoBにおける実践ポイントなどを紹介してきた。
購買意思決定プロセスにはいくつかの汎用的なモデルがある。
ただしBtoBでは、汎用的なモデルをそのまま使うことができないこともある。
そこで、既存顧客の意思決定行動や自社製品の性質なども加味しながら、独自のプロセスを定義してみよう。