バリュープロポジションは、企業が顧客に提供する価値を明確にしたものだ。
競合他社が提供できない独自の価値に焦点を置いており、市場競争を生き抜くために重要な概念とされている。
一方で、
「顧客のニーズを正確に把握するにはどうすればよいか」
「競合他社との差別化が難しい」
「バリュープロポジションを定めたものの、効果が出ているのかわからない」
といった声も多い。
そこで本記事では、バリュープロポジションの基本概念から、効果的な構築方法までを詳しく解説する。
顧客価値を中心に据えたバリュープロポジションの理解を深め、企業の競争力と競合優位性を高めていこう。
1.バリュープロボジションとは
バリュープロポジションとは、自社だけが顧客へ提供でき、競合他社では提供できない価値を指す。
自社製品やサービスの、他社にはない強みと価値を明確にし、市場での地位を確立するためのものだ。
この概念は1988年、米国のコンサルティング会社McKinsey & CompanyのMichael Lanning氏とEdward Michaels氏の論文『ビジネスは価値提供システムである』で初めて提唱された。
バリュープロポジションは、企業の事業戦略やマーケティング活動の核となるため、定めるだけではなく、定期的に見直し、市場状況や顧客ニーズの変化に応じて最適化していく必要がある。
2.バリュープロポジションの重要性
バリュープロポジションが重要視される理由として、以下が挙げられる。
- 市場の成熟と顧客の選択肢の増加
- 顧客のニーズの多様化
- コスト配分の複雑化
現代ではBtoB、BtoCを問わず類似の製品やサービスが増え、市場の成熟が見られており、競争は激化している。
また、インターネットの普及やグローバル化により、ユーザーはあらゆるタッチポイントで、膨大な量の情報やサービスに触れられるようになった。
そして、ユーザー自身が「得られるもの」「実現できること」を満たすサービスを判断し、意思決定を行える時代だ。
よって、企業は顧客が「得られて嬉しいもの」「実現できれば嬉しいもの」は何か先回りして考え、競合他社ではなく自社へ興味・関心を抱き、顧客となってもらえるように戦略を構築する必要がある。
その軸となるのが「バリュープロポジション」だ。
そして、戦略の軸であるバリュープロポジションが最適なものになっていれば、それを提供するための施策に関するコストやリソースの配分も最適化される。
ユーザーによる情報収集だけではなく、企業から仕掛ける施策もオンラインが主流となり複雑化している。
よって、企業の意思決定も効率的に行えるように、バリュープロポジションを明確化しておく必要があるのだ。
3.バリュープロポジションキャンバスとは
バリュープロポジションと似た概念として「バリュープロポジションキャンバス」を聞いたことがある方も多いだろう。
3.1.バリュープロポジションキャンバスとは
バリュープロポジションキャンバスとは、企業が提供する価値と顧客のニーズを照らし合わせ、両者のズレをなくしたり、サービスの提供価値を見直したりするためのフレームワークだ。
バリュープロポジションとの違いは、3つに分割された顧客ニーズに対応する形で自社の提供価値を分析していく点にある。
顧客理解に焦点を当てたバリュープロポジションを設定する場合に活用される。
3.2.バリュープロポジションキャンバスの構成要素
バリュープロポジションキャンバスは、顧客セグメントと顧客への提供価値という2つの主要なエリアに分かれている。
顧客セグメントの構成要素は、以下のとおりだ。
項目 | 説明 |
①顧客が解決したい課題(Customer Jobs) | 顧客が達成したい目標や解決したい課題を示す。 |
②顧客の悩み(Pains) | 顧客が直面している問題や課題を示す。
顧客が感じる問題、不満、不便が含まれる。 |
③顧客の利得(Gains) | 顧客が得たい利益や結果を指す。
顧客が期待するポジティブな成果や価値を表す。 |
一方「顧客への提供価値」には、以下の3つの要素が含まれる。
項目 | 説明 |
④製品とサービス(Products and Services) | 顧客に提供する具体的な製品やサービスを示す。
企業が顧客に提供する価値を備えたもの。 |
⑤顧客の悩みを取り除くもの(Pain Relievers) | 製品やサービスがどのように顧客の悩みを軽減するかを示す。 |
⑥顧客に利得をもたらすもの(Gain Creators) | 顧客にどのような利益を提供するかを明示する。
顧客が期待する結果や利益を具体的に記載する。 |
両者を照らし合わせて、最適な提供価値を見出していくことが重要だ。
3.3.バリュープロポジションとの使い分け
「バリュープロポジション」は競合他社、自社、顧客についての3つに焦点を当てているため、いわば「3C分析」をベースとして、提供価値を定めていく。
一方、バリュープロポジションキャンバスでは、顧客ニーズを細分化し、それぞれに応じた提供価値を照らし合わせ、最終的な提供価値を定める。
どちらも提供価値を定めるうえで重要だが、バリュープロポジションには競合他社の概念が入るため、すでに市場が成熟している場合や、市場での競争力をさらに高めたい場合に使うことがおすすめだ。
一方で、新たな市場に参入したり、長年固まったブランディングを、顧客ニーズの理解とともに大幅に見直したりしたいときには、バリュープロポジションキャンバスを活用できるだろう。
ただし、どちらも顧客への提供価値を明確にするうえでは役立つフレームワークのため、必要に応じて併用することも効果的だ。
4.バリュープロポジションの効果的な構築方法
では、実際にバリュープロポジションを構築する方法についてみていこう。
4.1.ターゲット顧客を理解する
顧客の理解なしに、バリュープロポジションの構築は進まない。
アンケート、インタビュー、既存顧客の声、市場調査などを活用し、顧客が抱える問題や不満、期待する成果を具体的に知ることが重要だ。
4.2.具体的かつ明確に表現する
バリュープロポジションは、抽象的な表現は避け、具体的かつ明確に表現する必要がある。
顧客が価値をイメージしやすくするためだ。
例えば「高品質なサービス」ではなく、「24時間のカスタマーサポートを受けられる」といった具体的な数値や事例を示し、顧客視点で定めていこう。
具体的な利益を強調することで、顧客が自社の製品やサービスを選ぶべき理由を明確に伝えられる。
また、顧客が競合他社との違いを明確にイメージできるようになるため、差別化につながる。
4.3.製品ごとに作成する
製品やサービスが複数ある場合、それぞれに個別のバリュープロポジションを作成し、ターゲットとする顧客層に合わせたメッセージを伝えることが重要だ。
例えば、コスト削減を強調する製品と高品質・高級性をアピールする製品では、それぞれ異なるメッセージが必要だろう。
4.4.チャネルによって表現・伝え方を変える
バリュープロポジションをすべての顧客接点とチャネルで一貫して伝えることは、非常に重要だ。
顧客はどのタッチポイントでも同じメッセージを受け取れるため、ブランドの信頼性と統一性を高められる。
顧客の購買意欲が高まり、長期的な関係の構築にもつながるだろう。
チャネル | バリュープロポジションの伝え方 |
ウェブサイト・
ランディングページ |
訪問者が瞬時に価値を理解できるよう、視覚的に魅力的なデザインとともに配置し、CTAを明確にして次のステップへ誘導する。 |
ソーシャルメディア | バリュープロポジションをストーリーテリング形式で伝える。
短い動画やインフォグラフィックを活用して視覚的に訴え、顧客の関心を引く。 コメントやシェアを促し、ユーザーのエンゲージメントを高める。 |
メール・広告 | ターゲット顧客に合わせたメッセージを送り、一貫性を保ちながらも個別のニーズに応じた内容を提供する。
パーソナライズされたメールは、顧客との関係を深めるのに有効。 |
パンフレット・
プレゼンテーション |
バリュープロポジションを具体的な事例やデータを用いて説明し、カラフルなチャートや図表、わかりやすいイラストを活用する。
視覚的に魅力的で説得力のあるストーリーテリングを用いることで、顧客に価値を伝えるだけではなく、彼らの心に残るメッセージを届けられる。 |
4.5.社会的証明を活用する
社会的証明とは、第三者や専門家、著名人によるレビューや評価を指す。
社会的証明には、ユーザーに安心感を与え、サービスや企業に対する信頼度を高める効果がある。
例えば、以下が挙げられる。
- 顧客満足度や成功事例の提示
- 利用者(企業)数の提示
- 有名企業や著名な専門家による推薦
4.6定期的に見直しと更新を行う
バリュープロポジションは、時代や市場の変化に合わせて定期的に見直し、更新していく必要がある。
市場環境や顧客のニーズは常に変化しており、バリュープロポジションを更新せずに放置していると、顧客のニーズから乖離するおそれがあるためだ。
顧客の関心を維持し、競争力を保てるだけではなく、見直しの過程で新たな顧客層や市場の機会を発見できる可能性もあるだろう。
5.バリュープロポジションの効果測定、改善方法
バリュープロポジションは、設定して終わりではない。
バリュープロポジションによって、本当に企業にとって効果が現れているのかを検証し、必要に応じて改善することが重要だ。
本章では、そのステップを解説する。
ステップ1:目的とKPIの設定
バリュープロポジションの効果を測定する最初のステップは、達成したい目標と目的を明確に定義することだ。
具体的で測定可能な成果の設定により、進捗状況とパフォーマンスを追跡しやすくなる。
以下は、設定すべき目的とKPIの例だ。
目的 | KPI | 内容 |
認知度の向上 | ブランド認知度 | 新規顧客に対するブランドの認知度を測定し、キャンペーンの効果を評価する。 |
顧客ロイヤルティの強化 | リピート購入率
顧客満足度 NPS |
リピート購入率や顧客満足度、NPSを向上させるための施策を実施する。 |
ウェブ施策の改善 | コンバージョン率(購入、資料請求など) | ウェブサイトやランディングページの訪問者が、購入や資料請求などの行動を取る割合を高める。 |
優良顧客の育成 | 顧客維持率 | 既存顧客の離脱を防ぎ、長期的な関係を維持する。 |
紹介率 | 既存顧客が新規顧客を紹介する割合を高める。 | |
収益の増加 | 売上高
粗利高 粗利率 |
バリュープロポジションの設定が、売上高や利益率の向上につながっているかを評価する。 |
ステップ2:バリュープロポジションの設定
前述の構築方法を参考に「競合他社」「自社サービス」「顧客」の3つの観点から分析を行い、自社にしか提供できない顧客への価値を設定する。
ステップ3:KPIの追跡
バリュープロポジションの影響を正確に把握するためには、目標と目的に沿ったKPIを追跡することが不可欠だ。
これにより、バリュープロポジションが顧客やビジネスに与える影響を評価できる。
ステップ1で紹介した、ブランド認知度、リピート購入率、顧客満足度、コンバージョン率などのKPIを以下の方法で定期的に追跡し、分析していこう。
方法 | 詳細 |
定期的なミーティングでのデータ共有 | KPIデータを定期的にミーティングで共有する。
月次や四半期ごとに開催し、全体の進捗状況を確認することで、部門間での連携を強化する。 |
データの統合と分析 | 各部門で収集したKPIデータを統合し、全社的な視点で分析する。
部門ごとのパフォーマンスだけではなく、全体の傾向や課題を明確にできる。 |
フィードバックループの確立 | 顧客からのフィードバックや市場の反応を収集し、KPIデータと照らし合わせて分析する。
分析結果から改善点を洗い出し、顧客のニーズに適応する。 |
部門間の協力強化 | 各部門が、KPIの追跡と分析にお互いに協力できる体制を構築する。
マーケティング、営業、カスタマーサポート、開発などの部門が情報を共有し、同じ目標に向かうことが重要。 |
ステップ4:バリュープロポジションのテスト・最適化
バリュープロポジションの効果を測定するためには、異なるバージョンの媒体物を作成し、顧客の反応と行動にどのような影響を与えるかをテストする必要がある。
テスト方法 | 内容 | 最適化の方法 |
A/Bテスト | 2つの異なるバージョンの要素を比較し、どちらがより良い結果を生むかを確認する。 | 効果的なバリュープロポジションを選定し、読者がアクションを起こしやすい内容にする。 |
複合変数テスト | 複数の要素を同時に変更し、どの組み合わせが最も効果的かを確認する。 | 最も効果的な要素の組み合わせを見つけ出し、読者の関心を引きやすいバリュープロポジションを構築する。 |
分割テスト | 異なるセグメントの顧客に対して異なるバリュープロポジションを提供し、各セグメントの反応を比較する。 | 特定の顧客層に対して効果的なバリュープロポジションを構築する。 |
ユーザーテスト | 実際のユーザーに対してバリュープロポジションを提示し、どのように反応するかを観察する。 | 読者が自然とアクションを起こしたくなるような効果的なメッセージを提供する。 |
上記のテスト結果を分析し、バリュープロポジションの要素を最適化することで、顧客にとって魅力的な内容に改善できる。
6.バリュープロポジションの展望:顧客価値がより重視される時代へ
未来を見据えたマーケティングでは、より顧客価値を重視したバリュープロポジションが重要となる。
最後に、今後のバリュープロポジションの展望についてみていこう。
6.1.顧客「体験」に重点をおいた価値提案
現代は、製品やサービスの機能を強調するだけではなく、顧客の生活や仕事、夢にどのように適合し、価値を提供するかに焦点を当てる必要がある。
多くの類似製品が生まれるなかで、顧客の日常や社会生活にどれほど価値を感じるかが重要なためだ。
製品やサービスによって、顧客の日常的な業務やプロジェクト運営、企業の成長や目標に与えられる影響を理解し、具体的な価値提案を行っていこう。
6.2.テクノロジーを用いたパーソナライズによるバリュープロポジションの変化
AIや機械学習の進化により、顧客への価値提案もパーソナライズできる時代だ。
例えば、AIを活用したレコメンデーションは、顧客の過去の購買履歴や閲覧履歴を分析し、次に購入する可能性の高い商品を提案する。
また、機械学習を用いることで顧客の行動パターンや嗜好を継続的に学習し、より精度の高いパーソナライズが可能となる。
これらの技術の進化により、企業は顧客に対してより的確な価値を提供し、競争力を強化できるだろう。
パーソナライズされたバリュープロポジションは、顧客の深い理解とそれに基づく具体的な提案を通じて、企業のブランド価値を高める重要な手段となる。
6.3.SDGsや社会的責任の反映
現代の消費者は、企業のSDGsへの取り組みや社会的責任に高い関心をもっている。
製品やサービスの質や価格だけではなく、企業が持続可能な社会や環境保護にどう貢献しているかも、購買行動につなげるための重要な要因となるのだ。
例えば、以下の取り組みを示すと、企業は消費者からの信頼を得ることができるだろう。
- 環境に優しい製品の製造
- 再生可能エネルギーの使用
- 廃棄物削減
- 公平な労働環境の提供
- 地域社会への貢献
SDGsや社会的責任を反映したバリュープロポジションは、企業が顧客との深い信頼関係を築くための重要な手段であり、持続可能な成長を実現するためにも欠かせない要素だ。
7.まとめ
本記事では、バリュープロポジションの基本から構築方法、今後の展望について解説した。
バリュープロポジションは、企業が自社の製品やサービスの価値を明確に伝え、競合他社との差別化を図るために不可欠だ。
効果的なバリュープロポジションを定めて定期的に見直し、顧客との深い関係と持続可能な競合優位性を構築していこう。