ABテストは複数の要素を比較検証し、より効果が高いものを採用する手法だ。
デジタルマーケティングやBtoBマーケティングでは定番の手法だが、本格的に取り組めていない企業も多い。
本記事では、以下のような疑問や課題を持つ方におすすめだ。
「ABテストとはどういったものなのか」
「ABテストのやり方を1から見直したい」
「現状のLPやWebページのパフォーマンスを高めたい」
ABテストの基礎知識から、実施するメリット、ABテストを行うべき対象や効果的な進め方について、網羅的に解説する。
1.ABテストとは
ABテスト(別名:スプリットテスト)とは、複数の異なるパターンを作成し、それらを顧客にランダムに表示(送信)し、どちらのパターンがより効果的なのか比較検証する手法である。
たとえば、Webサイトのデザインや行動喚起(以下、CTA)ボタンの文言などを変更し、クリック数や表示回数などを比較して効果的なパターンを特定する。
これにより、WebサイトやLP、メールなどのコンバージョン(成果)の改善に役立てられる。
マーケティング施策のパフォーマンスを向上させたいが「何を変えればよいか正解かわからない」という状況で最適解を導きだすのがABテストである。
2.ABテストのメリット
ABテストには、以下の3つのメリットがある。
- 低コスト・低リスクで改善できる
- 正確なデータに基づいた意思決定ができる
- ノウハウや知見がたまり、ほかの施策でも活用できる
それぞれ見ていこう。
メリット1.低コスト・低リスクで改善できる
ABテストでは比較検証する要素を1つに絞るため、取り組む際の工数が少なく低コストで実施できる。
また、要素を完全に変更してしまうのではなく、比較検証により改善を進められるので、決めうちでWebサイトやLPを変更してしまうよりもリスクが小さい。
また、ABテストはマーケティング施策では定番なので、多くのMAツールや広告配信のプラットフォームにはABテスト機能が内蔵されている。
知識が少なくてもツールの機能を活用して簡単に取り組める点も、コスト削減につながるポイントだ。
メリット2.正確なデータに基づいた意思決定ができる
ABテストでは感覚的な判断ではなく、客観的なデータに基づいた意思決定を行える。
ABテストは統計的に行われ、結果は数値で表れる。
つまり、顧客の行動データに基づいて、どのパターンが効果的なのかが定量的に把握できるのだ。
よって、社内の好みや固定観念を除いた正確なデータによる正しい意思決定につながる。
メリット3.ノウハウや知見がたまり、他の施策でも活用できる
ABテストの結果は社内のノウハウや知見になり、ほかの施策に活用、展開もできる。
1回1回のABテストでは、一つの要素について比較検討を行うが、それぞれのテストから得られた顧客やリードの行動に関するデータは、一定汎用性があるからだ。
たとえば、ファーストビューでのメッセージングにおけるトンマナについてをA・Bの2パターンでテストを行ったとする。
Aのほうがよい成果につながった場合、Aのトンマナはバナー広告やメルマガの件名などにも活用可能だ。
さらにその活用先でもABテストを実施すれば、活用先の特徴に合わせて最適なチューニングが可能となる。
このPDCAの連続が顧客の行動や好みに関するノウハウや知見の蓄積につながる。
3.ABテストの対象と目的【BtoB向け】
では具体的に、どんなケースや施策でABテストを行うべきなのか。
BtoB企業が実施すべきABテストの対象を解説する。
- Webサイト(ランディングページを含む)
- フォーム
- メールマガジン
- Web広告
それぞれの対象におけるABテストの目的と、検証すべき要素の例を見ていこう。
3.1.Webサイト(ランディングページを含む)
WebサイトにおけるABテストは、複数の異なるパターンのWebページを作成したり、ページの一部を変更したものを顧客にランダムに表示したりして、どのパターンがより効果的なのかを検証する。
WebサイトにおけるABテストの目的は、たとえば以下のとおりだ。
- コンバージョン率(以下、CVR)の向上
- クリック率(以下、CTR)の向上
- Webサイトへのトラフィック増加
- エンゲージメント率の上昇
次に、WebサイトのABテストで検証すべき要素の代表例を紹介する。
要素の例 | 詳細 |
ナビゲーションリンク |
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行動喚起(以下、CTA) |
|
デザイン/レイアウト |
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コピー |
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画像 |
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なお、ランディングページの利便性を高める施策については、以下の記事で詳しく解説している。
3.2.フォーム
フォームにおけるABテストは、顧客がフォームを記入し送信するCVRの向上を目的としている。
フォームのABテストは、テスト期間中に一定の顧客に複数のフォームをランダムに表示させる。
フォームにおけるABテストでは、たとえば以下の要素を検証する。
要素の例 | 詳細 |
入力項目 |
|
デザイン |
|
文言 |
|
形式 |
|
画像 |
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3.3.メールマガジン
メールマガジン(以下、メルマガ)におけるABテストは、主に開封率やメール内のリンクにおけるCTR・CVRの向上を目的とする。
複数の異なるバージョンのメールを作成・配信し、どのバージョンがより効果的なのかを検証する。
メルマガにおけるABテストでは、たとえば以下の要素を検証する。
要素の例 | 詳細 |
件名 |
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パーソナライズ(宛先に個人名を含めるか否かなど) |
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送信者名やアイコン |
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配信形式 |
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画像 |
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CTA |
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本文 |
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3.4.広告
広告におけるABテストは、複数の異なるバージョンの広告を作成・配信し、どのバージョンがより効果的なのかを検証する。
たとえば、CTRの向上を目的としたバナー広告やリスティング広告で行われる。
バナー広告におけるABテストでは、たとえば以下の要素を検証する。
要素の例 | 詳細 |
バナーのビジュアル |
|
キャッチコピー |
|
ボタン |
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次にリスティング広告におけるABテストでは、たとえば以下の要素を検証する。
要素の例 | 詳細 |
広告文 |
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表示URL |
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広告には広告の遷移先があるため、その遷移先と広告の一貫性をABテストで検証する場合もある。
4.ABテストの実施ステップ
次に、ABテスト実施のステップについて解説する。
ステップ1.目的・目標設定
まず、なぜABテストを実施したいのか、何を明確にしたいのかといった目的設定を行う。
目的設定では、各数値(CTR・CVR)の改善、訴求軸の発見などが挙げられる。
この目的や特定の数値の改善が、ABテストの本質となるため、必ず明確に定めるようにしよう。
ステップ2.仮説検証対象の設定と仮説立案
次は文言やデザイン、画像などのABテストの検証対象を決める。
検証対象設定のポイントは、数値への影響が大きい場所の優先的な実施と変数の限定である(詳細は後述)。
次にその検証対象に対して、何を明確にしたいのかという仮説を立案する。
以上のものを整理すると、次のような形になる。
対象 | 目的 | 検証対象 | 仮説の例 |
Webサイト | CTR向上 | CTAボタン | CTAボタンをほかの場所にもいれたほうがCTRが上がるのではないか |
フォーム | CVR向上 | ファーストビュー | アイキャッチ画像をいれたほうがCVRが上がるのではないか |
メルマガ | CTR向上 | 件名 | 件名に記号を入れたほうがCTRが上がるのではないか |
また、仮説が検証された場合とそうでない場合で分け、次にどんなアクションを取るのかといった案も決めておく。
さらに、仮説は1つではなく、目的に影響を与えるものを複数作り、優先順位を決めて順番に検証するという全体の設計を作っておくとよいだろう(下図参照)。
複数の仮説とABテストの戦略をはじめに決めておくと、一番の目的である「コンバージョンや成果の改善」への取り組みをスムーズに進められる。
ステップ3.アセットの準備
次に、仮説に沿って実際にABテストで検証するために必要なアセット(Webページ、広告バナー、メールの件名、キャッチコピーなど)を作成する。
デザイナーやWeb制作会社、ライターなどとの連携も必要となるため、上述で定めた目的や具体的な数値目標などを連携したうえで進めよう。
ステップ4.テストの実行
次に、準備したアセットを用いてABテストを実施する。
テストは以下のプロセスを経て行われる場合が多い。
- テスト対象のトラフィックを分割
対照群と実験群と呼ばれるグループへユーザーをランダムに振り分け、各パターンをユーザーに表示する。 - データの取得
一定期間、各パターンのパフォーマンスデータ(CVRやCTRなど)を収集する。
ABテストツール、MAツール、または広告プラットフォームを利用していれば、テストの実行はツールの機能を活用して自動的に行える。
ステップ5.効果検証・ネクストアクション
次に、取得したデータに基づいて各パターンのパフォーマンスを分析し、仮説が検証されたかどうかを判断する。
ABテストツール、MAツール、または広告プラットフォームを利用していれば、比較的簡単にABテストの結果が得られる。
ABテストの結果は大きく次の3パターンがある。
- 複数パターンのうち、統計的に有意な差が出た
- 複数パターンのうち、数値上差があった
- 複数パターンで大きな差がなかった
この結果に基づいて、仮説立案の際に設計したネクストアクションを実行する。
ネクストアクションは、先のパターンによって変わってくる。
①複数パターンのうち、統計的に有意な差が出て一つのパターンが勝った
仮説立案の際に決めた場合分けに沿ってネクストアクションを実施する。
その際、なぜこの差が出たのか?について仮説を立て、必要であればネクストアクションの内容を変更して実行する。
②複数パターンのうち、数値上差があった
統計的な有意な差はないが、数値上は差がある場合がある。
たとえばMAツールを活用したメルマガ配信の場合、まず全体の一部に対して配信し、その後開封率でよかったものを残りのユーザーに送信する場合がある。
そのため、ABテストによって開封率に差が出ても、それが統計的に有意な差とはいえない場合もある。このときは、実質差がないとして③と同じアクションをとる。
③複数パターンで大きな差がなかった
BtoB企業の場合、サンプル数が少ないため、大きな有意の差がでない場合が多い。
仮説立案の際に設計したネクストアクションをもとに、次のネクストアクションを実行する。
- 同じ仮説検証対象内で、次に優先順位の高い仮説を検証する
- 仮説検証対象を変える
- 計測する指標を手前に指標に変える(例:CVR→CTR→エンゲージメント率など)
ABテストは仮説の検証であるため、差が出るにしろ出ないにしろ、一つの仮説の答え合わせになっている。
つまり、差の有無に一喜一憂するのではなく、さまざまな切り口で仮説を立て、検証を続けることが重要だ。
5.ABテストの成功率を高めるポイント
最後にBtoB企業において、ABテストを漠然と終わらせないための6つの注意点を紹介する。
ポイント1.対象は一定以上のボリュームやサンプルを満たすものにする
有効なABテストには、一定以上のボリュームやサンプルが必要だ。
基準値としてよくいわれるのが、PV数2,000、サンプル数400は最低必要になる。(ただしこれはあくまで目安である)
サンプルサイズが小さすぎると、テストの結果が偶然によるもので、実際には意味のある差でない可能性が高くなる。
特にBtoB企業はBtoCと比べ顧客数が限られている。そのため、BtoB企業で有益なABテストを実施するために、以下のような対策が必要となる。
- テスト対象を絞り込む
ABテストの実施対象を、アクセス数の多いページやCVに近い箇所に絞り込めば、より短期間で十分なサンプルサイズを確保できる。 - テスト期間を調整する
曜日や時間帯によってアクセス数が変動することを考慮し、アクセス数の多い曜日や時間帯にテストを実施すれば、効率的にサンプルサイズを確保できる。 - 外部ツール・サービスの利用
ABテストツールの中には、統計的有意差を出すために必要なサンプルサイズ計算機能が搭載されているものがある。また、統計知識があれば活用できる無料のサンプルサイズ計算ツールもネット上に存在する。これらのツールを活用すると、適切なサンプルサイズを設定し、比較的正確な結果を得られる。
つまり、BtoB企業ではABテストに必要なサンプルサイズが収集できない場合は効果を発揮しないため、サンプルサイズが集まる場合のみの実施が重要だ。
ポイント2.成果への影響が大きいものに絞る
BtoB企業では、ABテストを行う対象を成果への影響が大きいものに絞ることが重要となる。たとえば、アクセス数が比較的少ないBtoBサイトでABテストを実施し、CVRが0.1%改善しても、そのインパクトは小さい。
そこで、以下の視点でABテストの対象を絞る必要がある。
- CVに近い箇所
CVに近い箇所は、成果への影響が大きいため優先的にテストする。たとえば、資料請求ボタンのデザインや文言、入力フォームの項目数などだ。 - セッション数の多いページ
セッション数の多いページの要素を変更すると、多くのユーザーに影響を与えられる。たとえば、トップページやランディングページのファーストビューのデザインやキャッチコピーなどだ。 - ボトルネックとなっている箇所
サイト分析の結果、ボトルネックとなっている箇所を特定し改善すれば、大きな効果が期待できる。たとえば、CTAの位置が低い場合は、ファーストビューの直下やページの途中などに配置する。
以上より、BtoB企業が効果的なABテストを行うには、成果に大きく影響するポイントのみに絞ることが重要だ。逆にいえば、それ以外はABテストを行わないという意思決定も必要になる。
ポイント3.同時期に比較する変数は一つにする
最後は同時期に比較する変数を一つにすることだ。
複数の要素を同時に変更すると、どの要素が結果に影響を与えたかがわからず、正確な分析ができなくなる。
たとえば、ウェブサイトのボタンの色とテキストを同時に変更し、クリック率が向上したとする。
しかし、色の変更がクリック率向上につながったのか、テキストの変更がクリック率向上につながったのか、あるいはその両方が複合的に作用したのかは判断できない。
今回実施するABテストでは、何を明確にしたいか、そしてそれを検証するためにはどの変数を変更するべきかを明確に絞ることが重要だ。
ポイント4.ABテストの定石を押さえる
成果への影響が大きい要素はある程度決まっている場合がある。
これらの要素を押さえておけば、ABテストの優先順位付けや戦略立てをスピーディに進められるだろう。
Webサイト
Webサイトでは、顧客がファーストビューに滞在する時間は平均1〜3秒といわれている。
顧客はこの間に、サービスが自身に関連するか、さらに情報を見るかを判断する。
つまり、Webサイトにおいてファーストビューが重要な要素であり、ABテストの対象とする場合が多い。
そこで、Webサイトでは、ファーストビューである以下からABテストを実施することが重要だ。
- ファーストビューのアイキャッチ画像
- ファーストビューのキャッチコピー
- ファーストビューのデザイン
フォーム
フォームでは、以下の要素に関するABテストが定石だ。
- 入力項目数
- 1ページ完結 or ステップ式
- フォーム周辺のビジュアル(画像やイラスト)の有無
あるBtoBサイトへの調査によれば、フォームの入力項目を1つ減らすと通過率は約2%向上する、または入力項目が5つを超えると通過率が下がる、などの調査結果がある。
また、フォームでは操作性も重要だ。
ファーストビューにフォームがある場合とない場合(スクロールしないとフォームが表示されないページなど)では、入力完了率が大きく変わるというデータも多い。
さらに、入力項目だけがあるフォームと、左にビジュアルがあるフォームでは印象が大きく異なる。
メルマガ
さまざまな配信先から送られてくるメルマガは、ほかのメルマガに埋もれて開かれない場合がほとんどだ。
つまりメルマガではまずは開いてもらう(開封率を高める)ための施策が重要となる。
以下の要素に関するABテストを優先的に行うとよいだろう。
- 件名
- 送信者(個人名or会社名orその他)
- 送信者の画像(Gmailなどの場合)
バナー広告
バナー広告は、見るか見ないかを一瞬で判断され、見られても2秒といわれている。
BtoC企業では、1ヶ月間のMeta広告運用で15パターンほどのデザインを用意する場合もある。バナー広告では、まず一瞬で目に留まるように、以下についてのABテストの実施が重要だ。
- バナーデザイン
-
- 色
- 文字サイズ
- 人 or イラスト
6.まとめ
ツールの発達に伴い、ABテストを実施するコストとハードルは大きく下がっている。
しかし手軽にできるからこそ、なんとなくABテストを実施している会社も多いのではないだろうか。
BtoB企業においてABテストはやみくもに実施するのではなく、いかに実施する対象を絞るかが重要である。
本記事で紹介した成果につながるABテストを実施して、漠然と実施していたABテストをより効果の出るものに変えてほしい。
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