ビジネスの成長と市場の発展において、マーケティングがますます重要な時代になった。
しかし、マーケティングは投資効率が計測しにくい分野でもある。
特に「顧客獲得コスト」に関しては、複数の計測方法がある。
この中で重要な位置を占めるのが、CAC(Customer Acquisition Cost)とCPA(Cost Per Acquisition/Action)だ。
本記事では、CACとCPAの定義と違い、改善方法、必要とされるシーン、業界別の平均値などを解説する。
CACとCPAを熟知し、マーケティング戦略を最適化させていこう。
1.CACとCPAとは?それぞれの定義と違い
まず、CACとCPAそれぞれの定義と、両者の違いについておさらいしておこう。
1.1.CAC(Customer Acquisition Cost)とは
CAC(Customer Acquisition Cost)とは、顧客1人を獲得するのにかかった総コストを示す指標だ。
マーケティングや営業活動におけるコスト効率を評価するために用いられ、ビジネスの成長戦略において重要な役割を果たす。
計算式は以下の通りだ。
CAC=マーケティング費用+営業費用/獲得した顧客数
CACが小さいほど「効率よく顧客を獲得できている」という判断ができる。
また、CACには主に3つの種類が存在し、下記のように性質が異なる。
①Organic CAC
非有料チャネルにおける維持費用などを総計し、それを非有料チャネルから獲得した新規顧客数で割ったもの。
②Paid CAC
有料チャネルに投入したコストを有料チャネルから獲得した新規顧客数で割ったもの。
③Blended CAC
新規顧客獲得にかかった全費用を新規獲得顧客数で割ったもの。
複数チャネルのコストを一括して考慮するため、全体的なコスト評価に適している。
一般的にはBlended CACが広く用いられている。
ユニットエコノミクスの材料として使われるCAC
ちなみにCACはLTV(顧客生涯価値)と比較することで、ユニットエコノミクスの算出にも使われる。
ユニットエコノミクスとは「ある単位あたりの収益性」を示す指標だ。
具体的には「顧客1人あたり」「製品1つあたり」のように、基本的な単位あたりで収益性を計測し、ビジネスが採算に合うものかどうかを評価する。
SaaSなどの継続的な収益性の追跡が必要な業界で多く使用される傾向にある。
1.2.CPA(Cost Per Acquisition/Action)の定義
CACと混同されやすい指標にCPA(Cost Per Acquisition/Action)がある。
CAPもCACと同じく「顧客獲得コスト」を示す指標だ。
具体的には、広告経由で1つのコンバージョン(購入、会員登録など)を獲得するのにかかったコストを指す。
計算式は以下の通りだ。
CPA=広告費用/コンバージョン数
1.3.CACとCPAの違い
CACとCPAはどちらも「顧客獲得コスト」として知られているが、その中身は全く異なる。
CACは「真の意味での顧客獲得コスト」だ。
つまり、自社の活動全体を視野に入れた顧客獲得コストを示す指標である。
マーケティング費用や営業費用を包括的に考慮し、ビジネスのコスト構造を把握するために用いられる。
一方、CPAは端的に言えば「広告のコンバージョン単価」を示す。
特定のキャンペーンや広告のコスト効率を示す指標であり、「購入」や「登録」など特定のイベントをベースに計算される。
このように「CACは顧客1人に対する総コスト」を示すのに対し、CPAは「特定のアクションやイベント単位のコスト」を示す点で異なる。
CAC(Customer Acquisition Cost) | CPA(Cost Per Acquisition/Action) |
「真の意味での顧客獲得コスト」
マーケティングや営業など、自社の活動全体を視野に入れた顧客獲得コスト |
「コンバージョン単価」
特定のキャンペーンや広告のコスト効率を示す。「購入」や「登録」など特定のイベントをもたらすためのコスト |
2.CACとCPAの重要性
CACは「真の顧客獲得コスト」、CPAは「コンバージョン単価」を表すことを解説した。
どちらもビジネスの成長と持続可能性を評価する上で極めて重要な指標だ。
CACとCPAを追跡・分析することで、リソースの最適配分や作業の効率化につながる。
重要性をまとめると、以下のとおりだ。
- 効果的な予算管理
- ROI(投資対効果)の測定
- 継続的な改善と戦略調整
それぞれ見ていこう。
重要性1.効果的な予算管理
CACとCPAを追跡することで、どの施策が効率的であるかを把握できる。
その結果、企業は最も効果的なチャネルに予算を配分することができる。
重要性2.ROI(投資対効果)の測定
CACは顧客を獲得するためのコストと、それに見合う収益を明確にする。
企業はCACを活用することで成長戦略を見直し、持続可能な経営を維持するための調整がしやすくなる。
一方、CPAは特定の施策の短期的なリターンを把握するために役立つ。
CPAを追跡することで、各広告キャンペーンや施策が、どの程度の収益性を持つかを分析する材料を得られるわけだ。
重要性3.継続的な改善と戦略調整
CACとCPAは、継続的に追跡することでより意味のあるデータになる。
各施策のパフォーマンスの変動を把握し、長期と短期双方の視点で戦略を調整できる。
3.CACとCPAの改善方法
CACとCPAを効率的に改善するためには、下記のようなアプローチが有効だ。
3.1.CACの改善方法
①マーケティングと営業の連携強化
営業部門とマーケティング部門が一体となって動くために、共通の目標(KPI)を設定しよう。
顧客獲得に関与する両部門が同じ指標に基づいて行動を改善することで、リードの質とコンバージョン率が向上し、CACの削減につながる。
②顧客教育とリードナーチャリング
リード獲得から顧客転換までのプロセスを短縮するために、リードナーチャリング戦略を強化する。
特にウェビナーやメールマーケティングでの顧客教育がうまくいくと、顧客転換が低コストで進み、CACが低下する。
また、ナーチャリングをうまく進めるには、提供するコンテンツの内容や質が重要だ。
③コンテンツの最適化によるCVRの改善
WebコンテンツやLP(ランディングページ)、ホワイトペーパーの最適化を行い、CVRを高めていく。
同じマーケティングコストでより多くの顧客を獲得できるため、相対的にCACが低下する。
④MA(マーケティングオートメーション)とCRMの活用
MAツールによる自動化で、マーケティングコストの削減が見込める。
見込み顧客がウェブサイトを訪問した際に、自動的にフォローアップメールを送信したり、特定のアクションを取ったリードに対してコンテンツを提供したりと、顧客転換の作業が自動化されるわけだ。
また、リードの行動や特性に基づいてスコアを付ける「リードスコアリング」機能も役立つ。
リードスコアリングを行った上で、営業チームがコンバージョンの可能性が高いリードに集中すれば、成約率が高まり、顧客獲得の効率が向上する。
さらにCRMに蓄積された見込み客の情報をMAと連携させることで、上記の施策の精度を上げることも可能だ。
3.2.CPAの改善方法
①広告のターゲティング精度向上
広告のターゲティングを見直し、より適切なオーディエンスにリーチすることで、CPAを低減できる。
②キーワードの見直し
ランディングページ(LP)のキーワードを見直し、「勝ちやすい」キーワードを選定する。
また、ユーザーがスムーズにコンバージョンできるようにLPの中身を見直すことでもCPA改善につながる。
③品質スコアを向上させる
広告配信プラットフォームでは、「品質スコア」という指標を設けている。
広告の品質スコアを向上させることで、クリック単価を下げ、同じ予算でより多くのコンバージョンを得ることができる。
4. CACが使われるシーン、CPAが使われるシーン
続いて、CACとCPAが使われるシーンをそれぞれ見ていこう。
4.1.CACが使われるシーン
CACは、以下のようなシーンで活用される。
例1:BtoBのように、1件の顧客獲得に長いリードタイムが必要なケース
BtoB企業では、顧客獲得までのプロセスが複雑であり、複数のマーケティング活動や営業ステップが絡むことが多い。
したがって、営業担当者の活動時間や商談にかかるコストなどを含めた総合的なコストの把握が欠かせない。
CACを追跡することで、顧客獲得に必要なコストを長期的に把握し、ビジネスの収益性を検証することができる。
例2:SaaSのように、顧客との長期的な関係構築が重視されるビジネスモデル
SaaSビジネスでは、CACを計算することで、事業が持続可能かどうかを判断する材料になる。
SaaS型ビジネスでは、「採算ライン」の見極めが難しい。
なぜなら、顧客獲得コストを回収するまでの時間が非常に長いからだ。
一般的なSaaSの場合、顧客獲得コストを回収するためには1年程度の時間を要する。
年単位でビジネスを評価するには、CACとLTVの比較によってユニットエコノミクスが有効だ。
CACを用いるメリット
CACのメリットは、1件の顧客獲得にかかるコストの把握やビジネスの採算をすぐに把握できる点にある。
CACを追跡することで、ビジネスの収益力の判断や効率的なリソース配分を高精度に行うことができる。
4.2.CPAが使われるシーン
CPAは、以下のようなシーンで活用される。
例1:ECサイトで広告によって購入を促進する際、購入1件にかかったコストを把握する場合
ECサイトは、広告を通じて購入を促進する。
1件の購入にかかったコストをCPAで追跡することで、広告の費用対効果を明確に把握できる。
複数の広告キャンペーンを比較し、広告コストの最適化が進む。
また、製品価格に上乗せすべき広告費用を算出するなど、価格決定にも欠かせない指標だ。
例2:リード獲得のためのフォーム登録や資料請求といったアクションの効果測定
CPAは、コンバージョンとして定義される行動(フォームへの登録や資料請求)にかかるコストを把握することにも使われる。
特定の広告キャンペーンやランディングページのパフォーマンスを比較し、どの施策が効率的かを評価できる。
CPAを用いるメリット
CPAは広告ごとのパフォーマンスを迅速に評価できるため、施策の調整を行いやすい。
限られた広告予算を効果的に活用し、コスト効率の良いマーケティング戦略を構築できる。
5. BtoBにおけるCACとCPAの相場・平均
最後に、CACとCPAの相場や平均値を確認しておこう。
5.1.B2B SaaSのCAC平均値
BtoB SaaSに関するCACの平均値については、確定的な情報がない。
ただし、海外では平均値が公開されている。
英語圏の情報によれば、B2B SaaS全体の平均CACは「$ 239」だ。
ただし、業界別に見るとかなり差が大きい。
以下は、SaaSの業界別CAC平均だ。
Insurance($1,280)は非常に高いCACを持っている一方で、eCommerce($274)やLegaltech($299)は比較的低いCACを示している。
CACが高い業界の特徴は?
CACが高い業界は、顧客獲得に多くのリソースを要し、複雑な製品やサービスを提供していることが多い。
これらの業界では、営業プロセスが複雑で専門的な知識や長い商談期間が必要になるため、CACが高くなる。
また、規制や法的要件が厳しい業界では、顧客の信用を得るための追加コストもかかる。
CACが低い業界の特徴は?
eCommerceやLegaltechのような低CAC業界は、比較的単純な製品やサービスを提供している。
特に、eCommerceはオンライン広告やリターゲティングを通じて効率的に顧客を獲得でき、コストも抑えやすい。
一方、Legaltechは特定のニッチ市場に焦点を当てたサービスが多く、競争が少ない分だけ顧客獲得のコストが低くなる。
また、フリーミアムモデルやデモ、トライアルが活用できる業界はCACが低下する傾向にある
5.2.CPAの業界別平均
CPAは特定の広告チャネルでのコストに影響されやすく平均値が出しづらい。
ただし、Google Adsでは、自動車業界で$33.52、テクノロジー業界で$133.52程度などいくつかの目安がある。
CPAの平均値については、広告配信プラットフォームのメディアなどで情報を探してみよう。
6. まとめ
本記事では、CACとCPAの定義や違い、活用シーン、改善方法や業界別の平均値などについて解説してきた。
ビジネス全体としての顧客獲得効率を上げたいならばCACを、マーケにおける広告の効果を上げたいならばCPAを重視しよう。
また、CACとCPAは業種やサービスによって相場が異なるため、自社のCACやCPAが適正かどうかは同業他社との比較が重要になる。
効果的なマーケティング戦略を構築するために、CACとCPAをしっかり理解し、適切な施策に結び付けていこう。