CRM戦略は、顧客との良好な関係性を構築・維持することで、企業の継続的な売上や成長につなげる手法だ。
世の中にはサービスが溢れ、市場が成熟している中で、顧客の消費行動やサービスへのタッチポイントも多様化している。
激化した市場競争を勝ち抜くために重要とされるのは、顧客の行動やニーズのデータを分析し、顧客1人1人にあわせたアプローチによって、顧客ロイヤルティを高め、継続的な利益を確保していくことだ。
一方で、
「自社ではどのようなCRM戦略を行えば良いかわからない」
「CRM戦略に取り組むために、何を準備すれば良いかわからない」
「メリットやプロセスをわかりやすく社内で説明し、賛同を得たい」
という声も多い。
そこで本記事では、CRM戦略の基本的な概念、具体的なプロセス、CRM戦略で成果を最大化させるためのポイントを解説していく。
最後まで読むことで、CRM戦略を始めるために必要な情報をカバーできるだろう。
1.CRM戦略とは顧客関係を強化し収益拡大を図ること
CRMとは「Customer Relationship Management(顧客関係管理)」の略称である。
つまり、CRM戦略とは、CRM、つまり顧客との良好な関係を構築・維持することによって、企業としての目標達成(収益拡大や事業の成長など)へつなげる取り組みのことだ。
まずはCRM戦略の基礎的な概念と重要性について、整理しておこう。
1.1.CRM戦略とは
CRM戦略は、単に顧客データを蓄積し、分析することではない。
企業の収益の拡大やビジネスの成長などを目標として、顧客の分析、施策の実行・検証・改善を繰り返しながら、顧客満足度を高めていく戦略全体を指す。
そんなCRM戦略の基本的な取り組みは、以下のとおりだ。
- CRMツールによる顧客データの収集と分析
- パーソナライズされたコミュニケーションとアプローチ
- 顧客体験の向上
- 顧客エンゲージメントの促進
- 顧客ロイヤルティの構築と向上(リピート・クロスセル・アップセルの実現)
CRM戦略では、主にCRMツールやMAツールを活用して、上記の取り組みを進めていく。
ツールの選定基準については、後述する。
1.2.CRM戦略が重要な理由
ではそもそも、なぜCRM戦略が重要とされているのだろうか。
その理由は、以下のとおりだ。
- 顧客の消費行動やタッチポイントが多様化している
- 新規顧客の開拓コストは既存顧客の維持コストより高い
- 顧客体験による競合との差別化が求められる
それぞれみていこう。
顧客の消費行動やタッチポイントが多様化している
インターネットやスマートフォン、SNSの普及などにより、顧客はあらゆる手段で情報を収集し、サービスとの接点を持てるようになった。
この状況で何も施策を行わないと、情報量の過多により顧客は判断が難しくなり、自社を選んでもらう確率も下がっていくばかりだ。
そこで、CRM戦略に取り組み、顧客の属性や行動、ニーズに合わせたアプローチを行ったり、オムニチャネルでの継続的なコミュニケーションを構築したりすることで、エンゲージメントを強化し、顧客の満足度やロイヤルティ向上につなげられるのである。
新規顧客の開拓コストは既存顧客の維持コストより高い
新規顧客の開拓コストは、既存顧客の維持コストの5倍であるという報告もある。
よって、既存顧客の維持に注力することは、ビジネスの成長のためには合理的だ。
特にBtoBビジネスにおいて、新規顧客の獲得には大きなコストと時間を要する。
なぜなら、見込み客の獲得や育成に向けた広告やフォローアップに多くのリソースを消費する上に、決裁までに多くのステークホルダーが関与し、セールスサイクルが長くなるためである。
もちろん新規顧客の獲得も大事だが、既存顧客の維持にリソースを費やす方が、マーケティングの投資対利益(ROI)は大きくなる可能性が高い。
そして、既存顧客との関係性を維持し、収益を最大化するために有効に働くのがCRM戦略だ。
既存顧客との関係性を維持し、さらに強固にすることで、企業やサービスへの信頼やロイヤルティが向上することに加え、口コミや実績の充実により、結果的に新規顧客の獲得にも良い影響を与えてくれるだろう。
顧客体験による競合との差別化が求められる
顧客は、サービスの機能や価格だけではなく、購買体験やベンダーとの感情的なつながり、サービスの雰囲気など、顧客体験を含めたあらゆる軸で価値を感じるようになっている。
世の中には同質・類似のサービスが溢れかえっており、機能や価格などの単純な軸だけでは判断しきれないためだ。
そこで、CRM戦略に取り組むことで、顧客の属性や行動データを元に、「顧客が本当に求めているもの」「顧客が価値を感じているもの」を明確にしたうえでのアプローチが可能となる。
よって、「顧客体験の向上」という点においても競合との差別化を図れることから、CRM戦略の重要性は非常に高いのだ。
2.CRM戦略がもたらす7つのメリット
CRM戦略に取り組むことで、企業が得られるメリットは、以下の7つである。
- 顧客のニーズを具体化できる
- 顧客の満足度を高められる
- 顧客のロイヤルティを高められる
- 確度の高い顧客を特定し、アプローチの優先順位をつけられる
- データドリブンな意思決定が可能となる
- 社内の複数部門の連携を強化できる
- ビジネスの成長につながるポイントを見つけられる
それぞれみていこう。
メリット1:顧客のニーズを具体化できる
CRM戦略では、顧客のニーズを、多数の軸で具体化できることが大きなメリットである。
市場競争が激化し、ニーズが多様化している現代で、顧客の実際の行動データを元に「顧客が本当に価値を感じ、必要とするもの」を理解できることは、企業にとって非常に貴重で重要なためだ。
CRM戦略では、CRMツールを利用し、顧客の属性(業種、企業規模、エリアなど)、行動(閲覧履歴、タッチポイント、クリック履歴など)、その他のアンケート結果といったあらゆるデータをマトリクス的に分析し、顧客が興味を持ったポイントやチャネル、コンバージョンをもたらしたコンテンツなどを洗い出せる。
よって、単なる機能や価格などに関するものだけでなく、顧客体験も含めたニーズを具体的に把握できるのだ。
メリット2:顧客の満足度を高められる
CRM戦略の取り組みにより、顧客の満足度を高められる。
これは主に、顧客のニーズの具体的な理解により、パーソナライズされたアプローチを行えるためだ。
また、CRMツールには、顧客のデータがダイレクトに蓄積され、リアルタイムで確認できるため、プロダクトの開発・改善の精度とスピードも向上する。
このように、顧客へのアプローチの最適化と、プロダクトの最適化を効率よく進められることで、顧客の満足度向上を実現するのだ。
メリット3:顧客のロイヤルティを高められる
顧客のロイヤルティとは、顧客が企業やサービスに持つ信頼感や愛着、そしてその企業やサービスを繰り返し選択する意思を表す。
CRM戦略は、顧客のロイヤルティ向上にもつながる。
なぜなら、CRM戦略により、顧客のニーズをより解像度高く把握し、購買フェーズやニーズに合わせたアプローチを行うことで、顧客は企業への「信頼」や「特別感」を抱き、繰り返し長期的な関わりを持とうとするためだ。
顧客の感情にさえ、訴えかけることが可能となる。
ロイヤルティが高まると、サービス利用のリピートやアップセル・クロスセルが増加するという成果につながる。
既存顧客との関係維持・強化による収益拡大にダイレクトにつながるということだ。
メリット4:確度の高い顧客を特定し、アプローチの優先順位をつけられる
CRM戦略では、蓄積された顧客データを元に、コンバージョンや受注の確度が高い顧客をセグメントし、優先的にアプローチできるようになる。
これにより、確度の高い顧客へのフォロー不足による機会損失を回避でき、効率的なアプローチが可能となる。
確度の高い案件にリソースを集中させられるため、投資対利益率(ROI)や収益性の向上も見込めるだろう。
メリット5:データドリブンな意思決定が可能となる
CRM戦略では、マーケティングや営業活動の属人化を防ぎ、データドリブンで精度とスピードを確保した意思決定が可能となる。
なぜならCRM戦略では、CRMツールを利用して顧客データを管理・活用し、様々な戦略やアプローチの策定・実践が可能なためだ。
データドリブンな意思決定は、個人のスキルや経験に左右されないため、企業として一貫した施策の実践にもつながる。
また、その施策により得られたデータも、サービスの開発や次の施策に活用する、というサイクルを確立でき、取り組めば取り組むほど戦略や施策の精度は向上していくだろう。
メリット6:社内の複数部門の連携を強化できる
CRM戦略の取り組みにより、社内の複数部門の連携を強化し、組織力を底上げできる。
なぜなら、CRMツールの導入により、マーケティング、セールス、カスタマーサポート、開発などの複数部門で、同一の顧客データと分析結果を共有できるためだ。
分散したデータや、コミュニケーション不足による認識の齟齬がなくなり、部門間でのミーティングや意見交換もスムーズに行えるようになるだろう。
メリット7:ビジネスの成長につながるポイントを見つけられる
CRM戦略の取り組みは、今後のビジネスを成長させる機会やポイントをを見つけることにもつながる。
CRMツールを利用した顧客データの分析やカスタマージャーニーの可視化により、従来は把握しきれていなかった顧客にとってのサービスの価値や、訴求ポイントが見つかる可能性があるためだ。
自社視点や、仮説をメインにマーケティングを行っていた場合、顧客視点を得ることはビジネスの大きな成長につながるだろう。
CRM戦略により得られた顧客データや分析結果は企業の重要な資産として、最大限に活用していこう。
3.CRM戦略を進めるプロセス【7ステップ】
ここからは、CRM戦略を実際に進めるプロセスを、7つのステップに分けて解説していく。
- 目標設定(KGIとKPIの設定)
- 課題を明確にする
- カスタマージャーニーを可視化する
- サービスの価値を明確化する
- 適切なツールを選定する
- ツールの実装計画を建てる
- 目標達成に向けてPDCAを繰り返
詳しくみていこう。
ステップ1:目標設定(KGIとKPIの設定)
まずは、CRM戦略における目標を設定する。
具体的な目標がなければ、週次や日次の目標も定まらず、日々の業務の効率や成果、モチベーションが維持できないだろう。
また、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)やKPI(Key Performance Indicator:重要達成度指標)を設定することで、パフォーマンスの定量的で正確な効果測定が可能となる。
以下では、CRM戦略における代表的なKGIとKPIを紹介する。
CRM戦略における代表的なKGI
CRM戦略で指標とする代表的なKGIは以下の通りだ。
KGI | 説明 | 具体例 |
年間収益・売上の増加 | CRM戦略を通じて年間収益・売上を向上させる | 年間収益20%増加 |
顧客維持率の向上 | 既存顧客のエンゲージメントを高め、安定した収益を確保する | 顧客維持率を70%から80%へ向上させる |
新規顧客の獲得 | 新しい市場やセグメントに進出し、新規顧客を獲得する | 新規顧客を年間100企業獲得する |
カスタマーサクセスの向上 | サービスの使用による顧客の成功を促進し、長期的な関係を構築する。 | カスタマーサクセススコアを75から85に向上させる |
CRM戦略における代表的なKPI
CRM戦略の代表的なKPIは以下の通りだ。
KPI | 説明 | 具体例 |
リードコンバージョン率 | リードが顧客に転換される割合 | リードコンバージョン率を5%から10%に向上させる
→メールマーケティングキャンペーンを最適化する |
月間経常収益(MRR) | サブスクリプションベースのビジネスモデルで、毎月の収益を測定する指標
CRMにおいては、主にアップセルとクロスセル戦略が有効 |
MRRを20%増加させる
→新しいプレミアムプランを導入・提案する |
顧客ライフタイムバリュー(CLV) | 顧客が生涯にわたって企業にもたらす総収益 | CLVを15%増加させる |
解約率(チャーン率) | 顧客がサブスクリプションを解約する割合 | チャーン率を5%から3%に削減する |
顧客満足度(CSAT) | 顧客がサービスに対してどれだけ満足しているかを測定した指標 | CSATを85%から90%に向上させる |
顧客ロイヤルティ指標(NPS) | 顧客がどれだけ企業やサービスを他人に推薦する意欲があるかを表す指標 | NPSを40から50に向上させる |
サポートチケット解決時間 | チャット、メール、電話などでの顧客サポートの問い合わせが解決されるまでの平均時間 | サポートチケット解決時間を48時間から24時間に短縮する |
プロダクト利用率 | 顧客がサービスをどれだけ利用しているかを表す指標 | プロダクト利用率を20%増加させる |
ステップ2:課題を明確にする
KGIやKPIなどの目標とともに、自社が直面している「課題」も明確にしよう。
目標が実現し、月間経常利益(MRR)や年間売上が上がったとしても、その他に課題が残されていれば、その課題が足かせとなり、達成した目標が一時的なものになってしまう可能性もある。
そこで、企業やプロジェクトが直面している課題を具体的にしておくことで、「課題の改善」と「目標への施策」を実践し、持続可能な成果につながるのだ。
課題の具体例は、以下のとおりである。
課題の例 | 詳細 |
データの統合と一元管理 |
|
顧客理解の深化 |
|
マーケティングとセールスの連携 |
|
顧客サポートの向上 |
|
ステップ3:カスタマージャーニーを可視化する
カスタマージャーニーとは、顧客がサービスの導入を決定するまでの行動や体験の一連のプロセスだ。
顧客はサービスを知らない状態から、広告や検索などの形でサービスを認知し、検討し、利用を決める。
中には、検討途中で離脱してしまう顧客もいる。
このようにさまざまなセグメントの顧客のカスタマージャーニーを可視化することで、各フェーズにおける適切なアプローチや、顧客の離脱に対する改善策を考案できるようになるのだ。
ステップ4:サービスの価値を明確化する
カスタマージャーニーを設定したら、自社製品やサービスがもたらす価値を明確にしていこう。
CRM戦略は顧客視点が大原則だ。
顧客のセグメントや、カスタマージャーニーから、自社のサービスが与えられる価値は何かを考え、訴求することで、コンバージョンやロイヤルティの向上を実現できる。
価値は、製品の機能により得られるものだけではない。
顧客体験における価値、ブランドに対して抱く価値などさまざまである。
特に、同様・類似のサービスや商品が溢れかえる現代では、自社にしかない価値の具体化が非常に重要となる。
ステップ5:適切なツールを選定する
CRM戦略では顧客データの分析と活用が軸となるため、ツールの導入が欠かせない。
CRM戦略では、セキュリティとプライバシーを確保しながら、膨大な顧客データを管理・分析していかなければならないためだ。
また、ツールの活用により、マーケティングの効率化だけでなく、経験や感覚に依存しないデータドリブンな意思決定を実現できる。
CRM戦略を実践するには、主にCRMツールとMAツールの導入が必要だ。
CRMツールは、顧客情報の管理や分析、カスタマージャーニーの可視化、営業プロセスの管理、リード情報の管理など、「顧客」に関するさまざまなデータを一元管理・分析する機能を備えている。
MAツールは、主にマーケティング施策を自動化するツールだ。顧客のセグメントやフェーズごとに最適化されたメール配信や、A/Bテスト、LPの作成などを自動化し、パフォーマンスを分析することができる。
また、CRMツールとMAツールを連携することで、顧客データを最大限に活用してスムーズでシームレスなマーケティング・セールス活動が可能となる。
企業規模別の選定ポイント
今や多数のCRMツールやMAツールが展開されているが、ツールの選択においては企業規模ごとに重視して欲しいポイントが異なる。
以下は、企業規模を小規模、中規模、大規模に分けた上で、ツールの選定ポイントを示した表である。
実際のツール選定時にも活用して欲しい。
企業規模 | 選定基準 |
小規模企業
(従業員数:1〜50人) |
|
中規模企業
(従業員数:51〜500人) |
|
大規模企業
(従業員数:501人〜) |
|
ステップ6:ツールの実装計画を建てる
ツールを導入するだけでは、CRM戦略は成功しない。
CRMツールやMAツールで、どんなデータをどのように管理・分析するのか、業務プロセスにどう組み込んでいくのか、実装計画を十分に立てる必要がある。
多くのツールでは、機能やダッシュボードの、入力項目などにカスタマイズ性があるが、サービスや営業プロセス、チーム・プロジェクトの状況によって適切に設定しなければ、ツール導入によるメリットが得られなくなってしまうためだ。
具体的には、以下のような作業が必要となる。
- 自社の目標やプロセスに合わせた機能や仕様のカスタマイズ
- マニュアルの作成
- 社内でのトレーニングと人材育成
- 移行するデータのクリーンアップ
ツールの実装について、オンボーディングで手厚いサポートをしてくれるベンダーも多い。
ツール選定の際には、ツール自体の機能や仕様だけでなく、実装作業や実装後のサポートにも気をかけておこう。
ステップ7:目標達成に向けてPDCAを繰り返す
ツールを導入したら、PDCAを回しながらCRM戦略を実行、改善していこう。
顧客を中心とするマーケティングは、実際の顧客データを元にしなければ本質的な成功へつながらないためである。
実際のデータ分析を始めるまでは、CRM戦略は基本的に仮説でしかない。
まず、顧客データを分析して戦略的な計画を立て、その計画を実行する。
次に、実行した結果を評価し、問題点や改善点を把握する。
最後に、得られたフィードバックを次のサイクルの計画に反映させることで、継続的な改善を行えるだろう。
このプロセスを繰り返すことで、実際の顧客行動や顧客の満足度が改善していき、持続可能な企業の成長が実現するだろう。
4.CRM戦略の活用事例
実際にCRM戦略を導入した事例を見ると、CRM戦略やツールの導入のイメージをつかみやすくなるだろう。
ここでは、2つの活用事例を紹介していきたい。
4.1.セブンアンドアイホールディングスの事例
株式会社セブン&アイホールディングスは、デジタル戦略の一環としてCRMシステムを活用している。
同社グループ共通のIDを導入することで、グループ内に散らばる顧客データの統合把握を実現した。
CRMシステムの特徴を生かして、外部システムとのシームレスな連携を目指している。
将来的な外部システムとの連携では、統合把握できた顧客情報を活用して、新たな商品開発やマーケティング活動に反映させる考えだ。
具体的には、以下のような連携が可能となる。
共通IDが統合把握する顧客データ |
|
共通IDが反映させる施策 |
|
出典元:株式会社セブン&アイホールディングス「グループ事業戦略」
https://www.7andi.com/library/dbps_data/_template_/_res/ir/library/co/pdf/2018_05.pdf
さらに同社は、スマートフォン用アプリを導入し、店舗やWebサイトを問わずグループ内の顧客情報を一元管理できる仕組みを構築した。
この取り組みにより、顧客行動に応じたパーソナライズな情報提供が実現する。
4.2.栃木建築社の事例
株式会社栃木建築社は、栃木県鹿沼市に本社を置く、従業員数は37名の設計事務所・工務店だ。
同社は「デザイン住宅」を得意としており、その課題は、「日本の住宅市場の縮小」だ。
日本の住宅市場は人口減少により年々厳しくなっており、新設住宅着工戸数は減少傾向にある。
こうした市場環境のなか、同社は「顧客生涯密着型経営」を目指し、顧客情報の可視化・共有化と、AIやBIの技術を組み合わせた施策の採用を決意した。
そこで、CRMツールを導入し、顧客や商談に関する情報の一元管理に取り組んでいる。
これにより、情報の把握が容易となり、会議時間が大幅に短縮されるなど業務効率が向上した。
さらに、施工後のメンテナンス管理もCRMツールで徹底し、顧客からの要望を抜け漏れなく管理。
その結果、紹介率が向上し、ビジネスの発展で成果を上げている。
出典元:Salesforce「縮小する住宅市場で勝ち抜くため”顧客生涯密着型経営”を志向」
https://www.salesforce.com/jp/customer-success-stories/tochigi-kenchikusha/
5.CRM戦略の成果を高める10のポイント
CRM戦略に取り組むからには、単に顧客データを蓄積・分析するだけでなく、顧客の細かいニーズまで把握し、パーソナライズしたアプローチで顧客体験の向上を図り、強固なロイヤルティを構築していきたいはずだ。
そこで、大きな成果を実現するために押さえておくべき10のポイントを解説していく。
- 顧客の行動に応じてアプローチをパーソナライズする
- コンテンツの品質を向上させる
- リピート・クロスセル・アップセルに重点を置く
- 顧客データを定期的に整理し、最新に保つ
- レポート機能を活用する
- 顧客の問い合わせデータを管理・活用する
- マルチチャネルでの継続的なコミュニケーションを行う
- 従業員のトレーニングと人材の育成
- SNSを積極的に活用する
- 自動化に焦点を当てる
それぞれ詳しくみていこう。
ポイント1:顧客の行動に応じてアプローチをパーソナライズする
CRM戦略では、顧客のデータを蓄積・分析するだけではなく、そのデータに応じてパーソナライズされたアプローチを行うことが重要だ。
顧客の属性や興味に合った情報提供を行うことで、顧客満足度やロイヤルティが上がり、エンゲージメントの向上につながるためである。
例えば、顧客が特定の製品ページを閲覧した場合、その製品や関連するノウハウについてのメールを送信するというアプローチができる。
このような、パーソナライズされたアプローチを効率的に行い、最適化していくには、CRMツールとMAツールの連携が欠かせないだろう。
ポイント2:コンテンツの品質を向上させる
CRM戦略では、顧客のデータ分析やアプローチ方法に目が行きがちだが、顧客へ提供するコンテンツの品質向上も、非常に重要である。
高品質のコンテンツを定期的に提供することで、顧客のエンゲージメント、企業やブランドの信頼性や認知度を高められるためだ。
反対に、例えば、あるサービスに興味を示した顧客へ送信したメールが、サービスの押し売りのような内容だったり、専門用語が多用され理解しにくかったりすると、顧客の関心や信頼は得られず、コンバージョンにもつながらないだろう。
CRM戦略では、顧客と企業をつなぎ、関係性を深めていくために、オウンドメディア、ホワイトペーパー、ウェビナー、メルマガなどのコンテンツが必要だ。
コンテンツの内容も、正確で有益性が高く、顧客にとって価値のあるものに整備しておくことで、CRM戦略の成果を大幅に向上させられるだろう。
コンテンツマーケティングについては、以下の記事でも詳しく解説している。
ポイント3:リピート・クロスセル・アップセルに重点を置く
CRM戦略では、既存顧客のリピート、クロスセル、アップセルの促進を目標として取り組むことが重要だ。
なぜなら、既存顧客との関係構築のコストは、新規顧客の獲得のコストよりも低く、長期的な収益性を高められるためだ。
具体的には、既存顧客の属性や行動の傾向を分析し、パーソナライズされたクロスセルやアップセルの提案、一定期間の契約や更新に関する特典(ロイヤルティプログラム)などが挙げられる。
実際の顧客データを元にすることで、確度の高いアプローチができ、持続的な収益性の向上や安定を実現できるだろう。
ポイント4:顧客データを定期的に整理し、最新に保つ
CRM戦略で利用するデータは、定期的に整理やクレンジングを行い、最新の状態に保つことが重要である。
CRMツールなどのデータベースには、膨大なデータが蓄積されるが、施策の中で不正確なデータや重複データが取り込まれ、分析やアプローチの精度を下げるおそれがあるためだ。
不正確な情報や古い情報を元にしたアプローチは、顧客からの信頼低下を招きかねない。
よって、以下のような取り組みを行い、データを常にクリーンな状態へ保つようにしよう。
- 重複データの削除
- 不正確なデータの修正
- 最新データへの更新
- データ入力ガイドラインの作成・整備
ポイント5:レポート機能を活用する
CRMツールでは、顧客データを元に様々な指標をカスタマイズし、レポートを作成し分析することが可能である。
CRMでは、基本機能としてこのレポート機能が備えられている。
KPIやチームパフォーマンスの追跡、可視化、分析を定期的に行うことで、プロジェクトやビジネスの健康状態を常に把握し、維持できるようにしておこう。
レポートを活用した現状の把握と改善によって、最適なリソースの配分や業務の効率化を図れるだろう。
CRMツールを大いに活用し、CRM戦略において絶えることのない意思決定を最適に、かつスピーディに行える体制を整えておくことが重要である。
ポイント6:顧客の問い合わせデータを管理・活用する
お問い合わせフォーム、メール、電話、チャットボットなどを通した顧客の問い合わせデータも、ツールを活用して管理し、施策につなげることが重要である。
顧客からの問い合わせデータは、顧客の直接的な意見や疑問を得られる貴重なデータであり、これらを適切に理解した上で施策を行うことで、高い顧客満足度を実現できるためだ。
具体的には、以下のような流れで進めると良い。
- CRMツールやZendeskなどのヘルプデスクソフトウェアを用いて、問い合わせデータを管理する
- 問い合わせ内容の分類やタグ付け、顧客の属性や行動データとの統合を行い分析する
- 問い合わせ内容や対応する解決方法を社内で共有し、ナレッジベースなどに蓄積する
- 問い合わせデータを元にした施策を実行する(FAQの充実、プロダクトの改善、問い合わせツールや対応の改善など)
これらの取り組みにより、顧客のストレス減少、問い合わせに対する対応力の強化、顧客のニーズに応じたプロダクトの改善が可能となり、顧客ロイヤルティの向上を実現できるだろう。
また、実際の顧客の問い合わせを元にした施策により、新規顧客の悩みや疑問を根本から潰していけるため、新規顧客の獲得にも良い影響を与えられる。
ポイント7:マルチチャネルでの継続的なコミュニケーションを行う
顧客と企業がコミュニケーションを取る手段は、メール、SNS、Webサイト、チャットボットなど、多岐に渡る。
CRM戦略では、これらのマルチチャネルでのコミュニケーションを統合し、顧客の属性や行動に応じてパーソナライズされた情報を、一貫して届けることが重要だ。
なぜなら、顧客の利便性や満足度が向上してエンゲージメントが強化され、クロスセルやアップセルの機会が増えたり、顧客データの精度・鮮度が向上して施策の成果を高められたりするためだ。
CRMツールを用いると、全てのコミュニケーションチャネルを統合し、分析もできる。
また、MAツールの連携によって、全てのデータを元にしたマーケティング施策の自動化も可能となるだろう。
ポイント8:従業員のトレーニングと人材の育成
CRM戦略では、従業員のトレーニングと、プロジェクトやビジネスを先導する人材の育成も重要だ。
どれだけ優秀なCRMツールを導入したとしても、CRM戦略の概念や、CRMツールの使用方法について十分に理解できていなければ、適切な分析やデータの活用、施策の立案、成果の最大化は、実現しないためである。
具体的には、CRMツールの使用方法やレポート作成、CRM戦略の思考や施策立案に関するトレーニングなどが挙げられる。
トレーニングは、CRM戦略の導入時や新入社員の入社時に行うだけでなく、最新の機能やトレンドを踏まえて定期的に行いたい。
また、長期を見据えてCRM戦略に効率的に取り組んでいくためには、チームリーダーとなる人材の育成も行い、各チームが自己主導で成果を出していける体制を構築することも重要だ。
トレーニングや人材育成については、オンボーディング支援や定期的なサポート、戦略の支援を提供しているCRMベンダーもある。
ツールの導入時には、確認しておくと良いだろう。
ポイント9:SNSを積極的に活用する
CRM戦略では、SNSの積極的な活用も効果的である。
SNSでの顧客の行動や反応などについても、CRMツールに統合して一元管理することで、アプローチのパーソナライズを強化できるためだ。
また、SNSは顧客と気軽に、直接コミュニケーションを取れるプラットフォームであり、製品開発やサービス改善のアイデアを得ることも可能である。
ポイント10:自動化に焦点を当てる
CRM戦略では、積極的にプロセスを自動化していくことも重要だ。
自動化を進めることで、反復的なタスクやデータ分析の効率化や、人的ミスの低減、一貫した顧客対応などが可能となるためである。
CRMツールでのデータ統合や分析の自動化に加え、MAツールでのアプローチの自動化も実装すれば、より業務効率や生産性を高められるだろう。
それぞれの作業の自動化に対する具体的な効果は以下のとおりだ。
作業・業務 | 自動化による効果 |
反復作業(データ入力、フォローアップメールの送信、顧客データの更新など) | 従業員の時間が節約できる
重要タスクへのリソースを確保し生産性が向上する 人的ミスが減少する |
顧客とのコミュニケーション(定期的なフォローアップ、キャンペーンメールの送信、問い合わせへの対応) | 顧客との迅速で一貫性のあるコミュニケーションが可能となる
顧客満足度が向上する |
リードのスコアリング、リードへのアプローチ | リードナーチャリングが強化できる
コンバージョン率が向上する |
データの統合、クレンジング(マルチチャネルデータの統合、重複データの排除) | データ分析と意思決定の精度が向上する |
レポートの作成や分析(KPIの追跡レポートやダッシュボードの更新) | 迅速な意思決定と解決案の策定が可能となる
定型的なレポート作成や分析にかかるリソースを削減できる |
6.まとめ
CRM戦略の概要やプロセス、成果を高めるためのポイントを解説してきた。
CRM戦略は、既存顧客との関係構築を重視し、エンゲージメントを高め、持続可能な収益基盤の確立と、企業の成長のための重要な戦略である、
CRM戦略に取り組むには、マルチチャネルでの顧客データを一元管理し、分析・活用するためのCRMツールの導入が欠かせない。
本記事で解説した選定基準を参考にツール選定を行い、導入だけでなくその後の長期的な活用を見据えて、実装計画を立てていこう。
自社のリソースだけでの戦略策定が難しい場合は、CRMツールのベンダーによるオンボーディングや、マーケティング支援を提供する企業など、外部のリソース活用も視野に入れながら、進めていくと良い。