「見込み客の獲得と育成」はBtoBマーケティングの主要なプロセスだ。
一方で、現代の見込み客は、オンライン・オフラインを通してさまざまな行動を取るため、一度リード化しても捕捉が難しい存在である。
「見込み客の獲得が思うように進まない」
「見込み客をどのように設定すればよいかわからない」
「リードが増えない、増えても売上につながらない」
こうした課題の多くは、見込み客に対する解像度の低さが原因かもしれない。
BtoBでは見込み客の発掘→新規顧客への転換という流れが鉄板だ。
ここのプロセスを確立しておかなければ、企業の成長は不安定になる。
見込み客の獲得、戦略的な育成、そして商談や成約に高確率でつなげるために、見込み客を高い解像度で理解することが必須となる。
ここでは、見込み客の定義や分類をはじめ、売上につなげる見込み客獲得・育成のアプローチ方法を紹介する。
1.「見込み客」の定義と重要性
見込み客の獲得がうまく進まない原因のひとつに「定義が曖昧であること」が挙げられる。
見込み客の定義が企業・部署単位で統一されていないと、有効なアプローチが成立しない。
見込み客の獲得と育成は、マーケティング・営業・カスタマーサポートといった複数の部門が連携して行うものだからだ。
そこでまずは見込み客の定義と重要性を把握しておこう。
1.1.見込み客の定義
見込み客とは「現時点では購入や契約の実績がないが、将来的に可能性のある顧客」を指す。
もう少し具体的に表現すると、見込み客は次のような特徴を持つ対象だ。
- 自社の製品やサービスに関心がある
- 明確なニーズとウォンツがある
- 自社の製品やサービスで解決可能な課題、お悩みを抱えている
- 自社がターゲットとする市場に関心があり、情報を集めている
ここで注意したいのが、「見込み客=購入や契約に近い層」だけと誤解しないことだ。
確かに購入や契約に近い層は、紛れもなく見込み客である。
しかし、BtoBでは年単位の時間をかけて意思決定が行われるため、すぐに購入・契約する顧客は少ない。
このことから、「現時点では購入や契約から少し遠いが、自社と取引の可能性がある層」も見込み客として捕捉しておく必要があることを押さえておこう。
1.2.潜在顧客や顕在顧客との違い
見込み客と似た言葉に「潜在顧客」「顕在顧客」がある。
潜在顧客と顕在顧客は、ニーズの強さや解決策の認知による分類だ。
- 潜在顧客
課題や悩みはあるが解決策の存在を知らない
(固有の製品やサービスに対するニーズがない) - 顕在顧客
課題や悩みがあり、これらを解決する方法を知っており、情報を探している
(固有の製品やサービスに対するニーズがある)
見込み客について調べていくと、「見込み客とは顕在顧客のこと」「潜在顧客は見込み客ではない」というような意見を見かけるかもしれない。
まず、顕在顧客については「=見込み客」という認識で問題ない。
一方、潜在顧客については「自社に対して何らかのモチベーションを示していない時点で見込み客とは言えない」といった説がある。
確かに間違いではないが、BtoBの特性を考慮すると潜在顧客も見込み客と定義すべきだ。
なぜなら商材自体の専門性が高く、存在が認知されていないことも多いためである。
以上のことから、顕在顧客も潜在顧客も「見込み客の候補」であると考えておこう。
1.3.見込み客を知ることがなぜ重要か
BtoBビジネスを成功させるには、見込み客の獲得とアプローチが欠かせない。
この理由として下記2点が挙げられる。
顧客1件当たりの取引額が大きいから
BtoBビジネスの特性上、1つの顧客と長期間の取引になることが多い。
サービスの単価はさまざまだが、「顧客1件あたり」で長期的に計測すると取引金額は非常に大きくなる。
「見込み客=将来的な顧客候補」であり、見込み客の獲得数は業績に大きな影響を及ぼすため、大切にすべき存在だ。
「出会い」から「売上」に至るまでの時間が長いから
BtoBはBtoCに比べて、出会いから受注、売り上げに至るまでの時間が長い。
例として、展示会で知り合った見込み客と商談するケースを挙げてみよう。
展示会の場では前向きな商談ができていても、その場で契約に至ることは稀だ。
大抵は「持ち帰って検討」となり、その後の進捗に時間を要するケースが多い。
商談から契約に至るまで年単位のリードタイムが発生することもある。
この間、何のアプローチも行わないまま放置すると、関係が途切れてしまう。
逆に「見込み客」として意識して継続的なアプローチを行えば、深い関係が構築でき、早期の受注にもつながる。
「関係を途切れさせず、顧客化までの時間を短縮する」という点で、見込み客の解像度を上げ、ナーチャリングを施すことは極めて重要だ。
2.見込み客をより具体的に知るための「顧客分類」と「市場」
では、見込み客の解像度を上げるにはどうすれば良いのだろうか。
ここでは2つの視点を紹介したい。
2つの視点とは、「顧客分類」と「心理状況」だ。
2.1.顧客分類から見た見込み客
まずは顧客分類から見込み客の解像度をあげていこう。
顧客は「無関心層」「潜在顧客」「顕在顧客」「顧客」の4つに分類できる。
このうち、見込み客になりうるのは「潜在顧客」と「顕在顧客」だ。
顕在顧客は「課題や悩みを自覚していて、その手段を欲している」層だ。
ニーズ・ウォンツともにはっきりしていて、解決方法の具体化もできている。
顕在顧客が自社の製品やサービスを熱心に欲してくれれば、即決に近い形での契約も可能だ。
このことから、「見込み客=顕在顧客」と認識し、積極的にアプローチする企業が少なくない。
一方で、潜在顧客は「課題や悩みに対しての解決方法を探しているが、そこまで積極的ではない層」といえる。
本来なら解決策となる製品やサービスを積極的に探すべきなのだが、何らかの事情で後回しにされている。
したがって興味関心はあるがモチベーションが低く、情報感度もそれほど高くない。
ただし、コンテンツマーケティングやWeb広告の力で企業側からアプローチをかけてモチベーションを上げ、顕在顧客に近づけていくことが可能だ。
潜在顧客の母数は顕在顧客よりも多いということを考慮すると、潜在顧客を捉えてはなさない施策の重要性がわかるはずだ。
2.2.心理状況から見た見込み客
顧客分類を別の視点から表すと、上の図のようになる。
このうち、現実的な見込み客という点では、「そのうち客」「おなやみ客」「今すぐ客」が該当する。
市場に存在する見込み客の大半である「まだまだ客(無関心層)」は、そもそも気づきも課題もない。
見込み客のさらに一歩前の「潜在見込み客」と定義できる。
見込み客になってもらうためには、コンテンツマーケティングなど長期目線での施策が必要で多くの時間と労力がかかる。
ただし、自社からのアプローチ次第で意識の変化やファン化を引き起こせる可能性は大いにある。
一方で、今すぐ客は競争が激しい。
顕在顧客の中でも特に高いモチベーションを持っているが、「明確な答え」が決まっている。
裏を返せば施策による意識の変化を起こしにくいのだ。
こうした事情を考慮すると、現実的に見込み客となりうるのは「そのうち客」と「おなやみ客」の2つという結論に至る。
2.3.見込み客とは「ニーズ」と「欲求」を持つ対象
上記2つの視点をまとめると、「見込み客」を以下のような図に表現できる。
顧客分類の基準でいえば「顕在顧客」と「潜在顧客」、心理面からの分類でいえば、「そのうち客」と「おなやみ客」が該当する。
この2つの基準を満たした層が「見込み客」だ。
ニーズがあることに加え、それを満たすためのモチベーションがゼロではない(無関心ではない)ことが見込み客の条件と言える。
3.見込み客の獲得方法
続いて、見込み客の獲得方法を整理していこう。
見込み客の獲得とはBtoBマーケティングの用語でいう「リードジェネレーション」だ。
その方法は大きく下記6つになる。
- コンテンツSEO
- Web広告
- セミナー・ウェビナー
- 展示会
- オフライン広告
- 資料比較サイト
3.1.コンテンツSEO(オウンドメディア)
コンテンツSEOは、自社が保有するコンテンツ(主にオウンドメディア)に対してSEO対策を施し、検索上位に表示させて露出を高める施策だ。
また、露出を高めるだけではなく、コンバージョンにつながるような納得感や信頼性のある情報も提供する。
現在では、Googleが定める品質評価基準「E-E-A-T」に即した内容が望ましい。
コンテンツSEOは、潜在顧客・顕在顧客のどちらに対しても有効だ。
おなやみ客に対しては解決のヒントを、そのうち客に対してはモチベーションを提供できる。
見込み客の獲得方法としては万能に近いが、効果が出るまでに時間を要する。
コンテンツのキーワードを「顕在層向けのビッグキーワード」「潜在層向けのスモールキーワード」という具合に分類し、カスタマージャーニーを通じてアプローチを仕掛け流ことも可能だ。
3.2.Web広告
Web広告では、ホワイトペーパーダウンロードやサービスLPへの着地を促すことで、見込み客の獲得を狙う。
また、下記のように見込み客の中で狙う層によって使い分ける方法が一般的だ。
- SNS広告:潜在層向け
- リスティング広告:顕在層向け
- リード保証型広告:潜在層、顕在層向け
コンテンツSEOのように長い時間をかけて信頼を得る方法ではないため、どちらかといえば顕在顧客に強く、即効性が高い。
また、ニーズはあるが価格や機能面で悩んでいるおなやみ客に刺さりやすい。
3.3.セミナー(ウェビナー)
セミナーは双方向のコミュニケーションが可能なため、聴衆からの信頼を得やすく、見込み客の獲得効果も高い。
ウェビナーであれば物理的・時間的な制約がなくなるため、さらに獲得効率を上げやすいだろう。
参加者数を稼ぐための集客用媒体(Web広告や集客メディア)が必要なことや、資料制作の労力がかかるなどのデメリットはある。
だが、それを差し引いても期待値の高い方法といえるだろう。
「参加登録→実際に参加」という行動が必要なため、見込み客の中でもモチベーションが高い層を取り込みやすい。
つまり顕在層に近い見込み客が獲得できる。
また、「ニーズはあるが、製品・サービスを絞り込めていない」というおなやみ客に対するアプローチとしても有効だ。
3.4.展示会
展示会は、業界内のさまざまな企業と直接触れ合うことができる出会いの場だ。
ここで出会う層は、Web上で知り合う見込み客よりもニーズがはっきりしていることが多い。
見込み客の中では「顕在層」かつ「おなやみ客」を獲得しやすいと言えるだろう。
加えて、オンラインでは出回りにくい具体的な価格・仕様などの情報が提供できれば、そのうち客のアプローチにもつながる。
3.5.オフライン広告
オフライン広告は、見込み客の獲得というよりも「認知拡大」「集客」に役立つツールだ。
特にBtoBでは、交通広告が有望である。
交通広告は、自然な形でかつ頻繁にビジネスパーソンの目に入りやすい。
つまり、Web上で情報収集していない(モチベーションがそれほど高くない)「そのうち客」や「潜在顧客」に対して有効な手段といえる。
3.6資料比較サイト
資料比較サイトは、「具体的な打ち手」や「製品情報の比較」を行っている層に効きやすい。
つまり、見込み客の中でも「顕在顧客」に対して有効な手段だ。
また、課題解決から具体的な製品・サービスの紹介につなげる資料であれば、「おなやみ客」へのアプローチにもなる。
3.7.見込み客の分類と獲得方法の一覧
以上の内容をまとめたものが、下記の表だ。
「顕在顧客」「潜在顧客」「おなやみ客」「そのうち客」に対してどのような方法が有効かを判断するための参考にして欲しい。
獲得方法 | 見込み客の種類 |
コンテンツSEO | 潜在顧客、顕在顧客
おなやみ客、そのうち客 (ただしリードタイムが長い) |
Web広告 | 顕在顧客、おなやみ客 |
セミナー(ウェビナー) | 顕在顧客、おなやみ客 |
展示会 | 顕在顧客、おなやみ客、そのうち客 |
オフライン広告 | 潜在顧客、そのうち客 |
資料比較サイト | 顕在顧客、おなやみ客 |
4.見込み客が取りうる行動とアプローチ方法
見込み客を効率よく獲得するために、彼らがとりうる行動を把握し、先回りして施策を打っていこう。
ここでは、見込み客がとりうる行動を踏まえたアプローチ方法を解説する。
見込み客がとりうる行動は、上図のように状況によって変化する。
具体的には「認知→興味関心→比較検討」という流れだ。
4.1.認知
認知段階の見込み客は、主にインターネット上で基礎的な知識の情報収集を行っている。
具体的なニーズはまだ明確ではなく、1語~2語の広範囲な知識をカバーするキーワードで情報を集めているだろう。
この層に対しては、コンテンツSEOによる露出の増加と情報提供が効きやすい。
月間検索ボリュームが1000以上のミドル~ビッグキーワードをテーマに据えたコンテンツを提供していこう。
また、Webリサーチを使わない層に対しては展示会によるアピールも有効だ。
4.2.興味関心
興味関心の段階に移行すると、より具体的な情報や提供元の実績などに矛先が向く。
この段階での行動としては「オウンドメディア内の回遊」「LP閲覧」や「資料ダウンロード」などが多い。
アプローチ方法としては、引き続きコンテンツSEOを継続しつつステップメールによるメールナーチャリングなども併用したい。
また、ホワイトペーパーや事例集を活用し、ダウンロード時に個人情報を得る導線を設置することで、リード情報を得やすくなる。
4.3.比較検討
比較検討に移行した見込み客は、双方向型のコミュニケーションによりクローズドな情報を求める傾向が強まる。
セミナー(ウェビナー)への参加や、オンラインセッションへの申し込みなど、徐々に提供側に近づいてくる。
さらに購入に近い見込み客は、デモやトライアルへの申し込みを行うこともあるだろう。
この層へのアプローチとしては、メールによるセミナー/ウェビナーの案内、アンケートやサイト閲覧履歴によるスコアリングなどが適切だ。
リードスコアリングの仕組みを確立しておくと、より角度の高い見込み客が見極められる。
5.見込み客の獲得、育成、顧客化を促進するツール
最後に、見込み客の獲得や育成、顧客化をサポートするツールを紹介する。
5.1.CRM(Customer Relationship Management)
CRMは、顧客との関係を管理し、最適化するためのツールである。
顧客の連絡先情報、行動履歴などを一元管理し、顧客行動やニーズの詳しい理解に役立つ。
本来は見込み客向けのツールではないが、MAとの連携によって見込み客から顧客への転換も促進する。
活用方法
見込み客の獲得と育成におけるCRMの活用方法をみておこう。
- リードソースのトラッキング
CRMを利用することで、どのチャネルからリードが獲得されているのかを正確に把握できる。
複数のチャネルを統合してデータを管理することで、最も効果的なリード獲得チャネルを特定し、リソースを集中させることができる。 - リードキャプチャの自動化
WebフォームやLPとCRMを連携させることで、見込み客が興味を示した時点で自動的にCRMに登録し、担当者に通知を出す。
迅速にフォローアップを開始でき、取りこぼしを防ぐことができる。 - パーソナライズされたコミュニケーション
CRMに蓄積されたデータをもとに、見込み客ごとのニーズや興味に合わせたパーソナライズドメッセージを送信する。
例えば、以前にダウンロードした資料や参加したセミナーに基づいて、関連性の高いコンテンツを提案する。
5.2. SFA(Sales Force Automation)
SFAは、営業活動を自動化し、効率化するためのツールである。
見込み客のフォローアップ、商談の進行状況の管理、営業活動の成果の分析など、営業チームの効率的な行動をサポートする。
近年はCRMに統合されている製品が増えている。
活用方法
SFAは本来「営業活動」のためのツールだが、現代ではマーケティングとセールスのシームレスなアプローチが求められるため、大いに活用可能だ。
活用方法をみておこう。
- リード・顧客獲得プロセスの可視化
SFAを利用して、見込み客が現在どのフェーズにいるかをリアルタイムで把握し、適切なタイミングでのフォローアップを可能にする。 - データに基づく意思決定
SFAを用いて、営業活動の結果を分析し、見込み客の反応や商談の進捗状況をデータに基づいて評価する。これにより、どのアプローチが最も効果的であるかを判断し、営業戦略を最適化することができる。
5.3. MA(Marketing Automation)
MAは、マーケティング活動を自動化し、主に見込み客の育成(リードナーチャリング)を支援するツールだ。
「リードスコアリング」「メールキャンペーンの自動配信」「顧客の行動分析」などを通じて、効率的に見込み客を育成する。
活用方法
- リードスコアリング
見込み客の行動や属性に基づいてスコアリングを行い、最も有望なリードに優先的にリソースを割り当てる。 - パーソナライズドマーケティング
MAを使用して、見込み客の行動データに基づいた施策を実行する。
具体的には、パーソナライズされたメールやコンテンツを自動で送信し、リードナーチャリングにつなげていこう。 - キャンペーン効果の分析
ウェビナーやメルマガ、ホワイトペーパーなど、各マーケティングキャンペーンの結果をリアルタイムで分析し、最適化することで見込み客の顧客化につながる施策を見極められる。
6.まとめ
見込み客の定義や解像度の高め方、獲得方法、アプローチ方法などを紹介してきた。
BtoBではBtoCよりも見込み客の獲得と育成、アプローチが重要である。
見込み客を具体的にセグメント化したうえで、ITツールを活用した行動把握とアプローチにより、顧客化を促進していこう。
顧客行動が多様化し、市場競争も激化している現代では、見込み客の理解、把握、アプローチ、そして顧客への転換とスムーズに成果へつなげることは簡単ではない。
ノウハウがない場合は、外部の支援も視野に入れながら、企業の成長のために取り組みを進めてほしい。
弊社では、IT企業、SaaS企業への専門知識を生かしたマーケティング支援を行っている。
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