コンテンツマーケティングの世界では、「メディア」の性質を把握し、使い分けていくことが求められる。
例えば、次のようなお悩みを抱えていないだろうか。
「コンテンツ量、質ともに十分だがリードが増えない」
「予算を投じて広告を打った割には、商談が増えない」
「どういったチャネルが適切か分からない」
こうしたお悩みは、メディアの性質を知り、運用方法を変えることで解決できることが多い。
ここでは、コンテンツマーケティングの主軸である「オウンドメディア」と「ペイドメディア」の概要や違い、具体的な活用方法について解説する。
1.トリプルメディアの定義と種類
まず、マーケティングにおけるトリプルメディアについて理解しておこう。
トリプルメディアとは、オウンドメディアを含む3種類のメディアの総称だ。
企業はこれらトリプルメディアを通じて顧客と接し、受注や売上につなげていく。
トリプルメディアは2000年代初頭に注目され始め、日本では2009年ころから知られるようになった。
また、2010年代中盤になるとコンテンツマーケティングが盛んにおこなわれるようになり、アーンドメディア、オウンドメディア、ペイドメディアの3つを明確に区分するようになった。
コンテンツマーケティングでは、これら3つのメディアを統合し、相乗効果を生み出すことが重要だ。
例えば、オウンドメディアである企業のブログ記事が、アーンドメディア(SNS)で共有され、ペイドメディアでさらにプッシュするという具合にだ。
各メディアの強みを活かしながら相互に補完し合うことで、コンテンツマーケティングの効果を最大化することができるわけだ。
1.1.トリプルメディアとは
トリプルメディアとは、マーケティング戦略において重要な役割を果たすとされる以下3つのメディアだ。
オウンドメディア(所有するメディア)
オウンドメディアは自社が「所有」するメディアである。
自社が直接コントロールできることが特徴で、公式Webサイトやブログ、キュレーションサイトや専門情報サイトなどが含まれる。
ペイドメディア(支払うメディア)
ペイドメディアは、広告やプロモーションに対価を支払うことで「露出」を得ることが可能なメディアだ。
コンテンツマーケティングでは、主にリスティング広告やバナー広告、純広告などが該当する。
アーンドメディア(獲得するメディア)
アーンドメディアは、第三者によって自発的に作成・共有されるコンテンツのことを指す。
アーンド(earnd)は日本語で「獲得」を意味する。
アーンドメディアでは、文字通り第三者による評価や信頼を獲得することができる。
詳細は後述するが、具体的には口コミやレビューなどを掲載するコンテンツが対象だ。
1.2.トリプルメディアを用いたPOEMモデル
ちなみにトリプルメディアを用いたメディア戦略を「POEM(ポウム)モデル」と表現することもある。
POEMモデルでは、3つのメディアを組み合わせ、相互作用によって顧客の獲得と売上への貢献を目指す。
例えば以下のようにだ。
- ペイドメディア(広告)で集客
- オウンドメディアに流入を促し、リード獲得
- アーンドメディア(SNSや口コミサイト)での流入増とブランディング
- ペイドメディアとアーンドメディアからの流入した見込み客をオウンドメディアでナーチャリング
1.3.近年はシェアドメディアを加えたPESOモデルも
ここ3年ほどで、トリプルメディアに「シェアドメディア」を加えたPESOモデルを活用する企業も増えた。
シェアドメディアとは個人が運営する拡散特化型のメディアで、端的に言えば拡散機能を持ったSNSアカウントなどを指す。
ブロガーやインフルエンサーなど、Web上で影響力を持つ個人が行う情報拡散には、単なる口コミ以上の効果がある。
この点を考慮し、従来のアーンドメディアから独立させたものがシェアドメディアだ。
BtoBにおいてPESOモデルの効果は限定的
ただし、BtoB取引は有力な個人が持つ拡散効果の影響を受けにくい。
理由については後述するが、BtoBでは従来のPOEMモデルで十分対応可能だと考えられる。
2.オウンドメディアの特徴とメリット
次に、オウンドメディアの特徴とメリットをそれぞれ見ていこう。
前述したようにトリプルメディアは相互作用を持つため、特徴を理解して組み合わせることで、成果につながりやすくなる。
まず、一般的なオウンドメディアの特徴を簡単に解説する。
2.1.特徴
オウンドメディアは企業が直接所有するメディアだけに、「コントロールのしやすさ」が特徴だ。
自社独自のノウハウや見解を自由に発信でき、それに共感・理解を示した見込み客とのつながりを深めることができる。
これは、ブランディングという側面以外にも「付き合いやすい顧客を選別する」という効果がある。
例えば、同じサービスであっても「質重視」か「安さと価格重視」なのかで需要は異なる。
自社の得意なスタイルにマッチする顧客と付き合うことができれば、安定した売上が見込みやすい。
こうした選別は実際に取引が始まってからでは難しく、見込み客の段階で行うことが重要だ。
2.2.メリット
見込み客の選別という点以外にも、次のようなメリットがある。
- 「潜在見込客」にアプローチできる
- ナーチャリングを低コストで自動化できる
- 売上に貢献できる
潜在見込客は市場の8割を占めると言われ、「最も購買(意思決定)から遠い層」だ。
それだけにペイドメディア(広告)が届きにくい。
また、そもそも自社が抱える課題についても気づいていないことが多い。
レッドオーシャン化が進む市場では、この層をいかに切り崩し、自社の顧客できるかが課題となる。
BtoBのオウンドメディアは、ペイドメディアが届きにくい潜在見込客に認知してもらい、ナーチャリングを経て顧客になってもらうという点で、広告よりも優秀なメディアなのだ。
また、売上への貢献という意味でもオウンドメディアは優秀だ。
コンテンツの蓄積と比例するように投資対効果が上がっていく。
この点については、下記の記事も参照してみてほしい。
オウンドメディアは「継続は力」を体現したメディアと言える。
2.3.デメリット
デメリットは、以下2点に集約される。
- 成果が出るまでに時間がかかる
- コンテンツ制作のノウハウが必要
まず時間についてだが、リードを保持していない状態で成果(売上)につなげるまでには、年単位の時間を要する。
ほとんどの場合、初年度は赤字(投資)になり、2年目からが回収期間になるだろう。
軌道に乗ってしまえば手堅いのだが、初期の投資期間を乗り切るだけの体力とノウハウが必要になってくる。
オウンドメディアのメリットとデメリットについては、こちらの記事でも解説しているので参考にしてほしい。
3.ペイドメディアの特徴とメリット
ここでは、ペイドメディアの特徴とメリットを解説していく。
3.1.特徴
ペイドメディアは、費用を支払って利用するメディアだ。
端的に言えば広告が該当する。
認知拡大や意思決定の後押しを目的とするが、ターゲットはオウンドメディアよりも狭い。
下記図のように、市場の1%を占める今すぐ客がメインターゲットになるからだ。
3.2.メリット
ペイドメディアの強みは「瞬間風速の強さ」である。
予算さえ潤沢に用意できれば、高確率でそれなりの反応(リード獲得、問い合わせなど)を得られる。
したがって、「リードがない状態からリードの”数”を増やしたい」「オウンドメディアが充実していて流入さえ増えれば売上につながる」といった場合には、即効性の高い施策だ。
広告の質やチューニング、出稿のタイミング次第では、短期間で売上向上の効果が見込める。
3.3.デメリット
一方で、次のようなデメリットもある。
- イニシャルが大きくなりがちで、費用対効果の面で課題がでがちである
- ターゲット選定が難しい
- 効果が一時的で持続しにくい
簡単にまとめると「お金がかかる割には効果が薄い」という状態になりがちなのがペイドメディアだ。
「いますぐ客」のニーズは単純明快で想定しやすい。
自然と広告も競争が激しくなり、徐々にレッドオーシャン化していく。
そのため、小さなパイを大金かけて奪い合うという状況に陥りやすい。
一方で、耳目を集める方向性に振り切りすぎると、BtoBで最も重要な「信頼性」が損なわれるリスクもある。
さらに、「リード→ナーチャリング→受注→売上」までの導線がしっかりしていないと、「流入はあるが受注がない」という状態にもつながる。
ただし、この点はオウンドメディアとの併用で補えるため、弊社ではペイドメディアとオウンドメディアの組み合わせをおすすめしている。
4.アーンドメディアの特徴とメリット
次にアーンドメディアだ。◯◯メディアという言葉がたくさん出てきたが、種類としてはこれで最後なのでしっかりついてきて欲しい。
4.1.特徴
「アーンドメディア=SNS」という解説をよく目にするが、厳密にいえば「評判や信頼を獲得するためのメディア」だ。
「オウンドメディアも同じではないか?」と疑問に思うかもしれないが、オウンドメディアは自社所有であり、アーンドメディアは外部所有という違いがある。
また、オウンドメディアが自社制作のコンテンツを主軸とするのに対し、アーンドメディアは「口コミ」「サイテーション」といった他社評価が主なコンテンツだ。
このことから、レビューサイトなどもアーンドメディアに含まれる。
4.2.メリット
アーンドメディアのメリットは、主に以下2点だ。
- 拡散力にすぐれる
- 費用が掛からない
「バズ」の発生によるマス広告をしのぐ認知拡大効果は特筆に値する。
特にX(旧Twitter)のように拡散が連鎖する仕様のSNSにおいては、優秀な口コミがほんの数時間で万単位の人間に届く。
また、口コミを閲覧した人がまた別の視点で評価するという「評価の連鎖」が起こるため、広告のように刹那的でもない。
さらに、これら圧倒的な認知拡大効果は、ほとんど費用をかけずに得られる。
近年のWebメディアにおいてSNS運用が必須になっているのは、「火が付いたときの圧倒的なコストパフォーマンス」が根底にあるからだろう。
4.3.デメリット
一見するとトリプルメディアの中で最も優秀に見えるが、デメリットもある。
- 偶発性が高く戦略に盛り込みにくい
- BtoBでは拡散や口コミの効果が薄い
- SNSから流入で売上に結び付くというケースがあまりないため効果は限定的
BtoBに限定すると、アーンドメディアはコンテンツマーケティング戦略に盛り込みにくい。
「バズ」による拡散効果はBtoCでは非常に優秀だが、クローズドでニッチなBtoBの場合はそれほど効果がない。
そもそも企業アカウント同士が、バズの波に乗って出会うことは稀だ。
どちらかと言えば、的確で信頼性の高い情報を介して「出会うべくして出会う」のがBtoBではないだろうか。
近年はBtoB IT製品専門のレビューサイトなども登場しているが、当然のことながら口コミの内容はコントロールできない。
レビューサイトの売りは「公平性」「客観性」であり、どれだけ見当違いな評価を受けようとも補足や反論が許されないのだ。
仮にアーンドメディアの口コミをコントロールしようとすると、「ステマ」認定されて景表法に抵触するリスクもある。
5.オウンドメディアとペイドメディアの組み合わせ方
アーンドメディア(シェアドメディア含む)の特徴やデメリットを考慮すると、BtoBでは「オウンドメディアとペイドメディア」の組み合わせが最適解だと考えられる。
実際に弊社でも、必要に応じてオウンドメディアとペイドメディアを組み合わせる戦略をおすすめしている。
この2つを上手く組み合わせるために、両者の特性を理解しておこう。
5.1.オウンドメディアとペイドメディアの違い
オウンドメディアとペイドメディアは「ターゲット」「費用」「期間」の3つで大きな違いがあり、以下のようにまとめることができる。
オウンドメディア | ペイドメディア | |
ターゲット | ・見込客全体がターゲット
・市場の大半を占める「まだまだ客(潜在見込客)」がメイン |
・見込客の1~数%がターゲット
・意思決定に違い「いますぐ客」がメイン |
費用 | ・規模によるが月数万円~100万円前後
・少額から開始可能 |
・最低数十万~数百万
・少額ではほぼ効果が得られない |
期間 | ・3年程度を1セットとして継続 | ・数か月など短期がメイン |
効果の出方 | ・開始~1年程度は投資の時期
・コンテンツの蓄積量と比例して効果が出やすくなる ・効果が持続しやすい ・コンテンツの量が一定ラインを超えるとリード獲得とナーチャリングが自動化される |
・1か月程度で効果が出る
・リードを保有していない場合は短期間でリードの数を増やせる ・投資をやめると効果が大幅減少 |
5.2.オウンドメディアとペイドメディアの組み合わせパターン
最後に、オウンドメディアとペイドメディアの組み合わせ事例を紹介する。
この2つは相互補完の関係にあり、コンテンツマーケティングで成果を出すための軸になるメディアだ。
どちらか一方のみに注力するのではなく、適宜使い分けていきたい。
例1:リード獲得はペイドメディア、ナーチャリングはオウンドメディア
オウンドメディアは、コンテンツSEOによって検索流入量の増加も狙えるツールだ。
一方で、コンテンツの露出が芳しくない場合は、流入量が増えにくいという弱点もある。
流入量が少ないと、それに比例してリード獲得量も増えにくい。
この場合は、リード獲得の部分を「リード獲得広告」に任せることで成果につながりやすくなる。
- 獲得広告→ホワイトペーパーやLP→商談→受注など
広告によって獲得したリードを、さらにオウンドメディアに誘導し、コンテンツを周回させてナーチャリング効果を得る。
オウンドメディアのコンテンツが質、量ともに十分であれば、高い効果が期待できるだろう。
例2:外部サイトへの純広告掲載で集客のテコ入れ
単純に露出量が少ない場合は、外部サイトへの広告掲載も有効だ。
信頼性の高い外部サイトへ純広告を掲載し、オウンドメディアへの流入を狙うのだ。
広告費が高くなりがちだが、信頼性と即効性を両立させる手段としては有望である。
ただし、広告を掲載するサイトの選定はしっかりと行うべきだろう。
6.まとめ
ここでは、トリプルメディアの概要や、オウンドメディアとペイドメディアの違い、組みあわせ方などについて解説してきた。
BtoBのコンテンツマーケティングでは、オウンドメディアとペイドペディアの運用方法が成果を左右する。
オウンドメディアは長期目線、ペイドメディアは短期目線の使い方がおすすめだ。
また、両者を併用することでより確実に成果につなげることも可能だ。
ただし、投下費用の計算やオウンドメディアの構築など課題がでるため、外部企業からノウハウを得ることも検討していきたい。