市場が成熟するとともに製品やサービスがいわば「ありきたり」なものとなってしまうコモディティ化は、企業にとっては死活問題だ。
コモディティ化の原因や問題点はどのようなところにあるのだろうか。
また、解決する方法はあるのだろうか。
本記事では、コモディティ化の定義やコモディティ化が発生する原因と主な解決策、取り組みやすい施策としてコンテンツマーケティングについて詳しく紹介していきたい。
1.コモディティ化とは
コモディティ化とは、製品やサービスが市場で標準化され、ほとんどの競合と区別がつかなくなる現象のことだ。
スマートフォンはコモディティ化の代表例だ。
ガラパゴスケータイが主流だった時代に登場したスマートフォンは画期的な製品として注目され、高価で特別な存在だったが、いまや多くのメーカーが当たり前のようにスマートフォンを製造・販売しており、製品ごとの差は年々小さくなっている。
ドコモとソフトバンク、auを思い浮かべてみてほしい。サービス内容や料金体系、扱っている機種まで、ほとんど同じに見えるだろう。
コモディティ化は良いことなのか、悪いことなのか。
答えは視点によって異なる。
社会という大きなくくりでみると、新しい市場が標準化されることは経済の活性化につながるだろう。
消費者にとっても、低価格で便利な製品・サービスにアクセスできるという利点がある。
しかし、一企業の立場でみれば、コモディティ化がもたらす問題点が複数あるのも事実だ。
2.コモディティ化が起こる原因
コモディティ化が起こる主な原因は以下の4つだ。
- 市場の成熟
- 技術の標準化
- 価格の競争
- 消費者の選択基準の変化
それぞれみていこう。
原因1.市場の成熟
製品やサービスが広く普及し、消費者によく知られるようになると市場は成熟する。
この過程で製品間の差異が小さくなり、コモディティ化が進む。
原因2.技術の標準化
特定の技術や製造方法が業界標準となると、製品の差異が減少する。
競合他社も似たような製品を生産し始め、市場は均一化されていく。
原因3.価格競争の激化
激しい価格競争は企業をコスト削減に駆り立て、製品の特徴や品質よりも価格を重視させる。
原因4.消費者の選択基準の変化
消費者が価格や基本的な機能を重視するようになることで、高度な機能やブランドイメージの重要性が低下する。
原因5.グローバル化
製品やサービスがグローバル市場に展開されると、より多くの競合が参入し、製品の均一化が加速する傾向がある。
これらの原因を見てみると、コモディティ化は製品・サービスが市場に受容されることと、トレードオフのようにも感じられるだろう。
実際のところ、一企業の力でコモディティ化を完全に食い止めるのは難しい。
3.コモデティ化の問題点
企業の製品・サービスがコモディティ化に陥ると、以下のような問題が発生する。
- 利益率の低下
- イノベーションの減少
- ブランド価値の低下
- 市場の飽和
- 顧客ロイヤルティの低下
それぞれ見ていこう。
問題点1.利益率の低下
コモディティ化した市場では価格競争が激しくなり、それに対応した結果、利益率が低下するリスクがある。
問題点2.イノベーションの減少
市場が均一化すると、新しい製品開発やイノベーションへの投資が減少し、長期的な成長が妨げられるおそれがある。
問題点3.ブランド価値の低下
製品がコモディティ化すると、ブランドの独自性や価値を維持することが難しくなる。
問題点4.市場の飽和
コモディティ化により市場が飽和状態になると、成長の機会が減少し、結果的に業界全体の発展が停滞する可能性がある。
問題点5.顧客ロイヤルティの低下
似たり寄ったりの製品が多い市場では、顧客がブランドに忠実でいる理由が減少する。
利益率の低下やイノベーションの減少など、企業の存続においては致命的な問題となるだろう。
難しい問題だが、やはり企業が長く繁栄するためにはコモディティ化に何らかの対策を講じなければいけない。
4.コモディティ化の解決方法
では、コモディティ化を解決する方法はあるのだろうか。
確かに、一度成熟した市場を元に戻すことは不可能だ。
しかし、以下のような対策を講じることで、コモディティ化が企業にもたらす利益率の低下、ブランド価値の低下、顧客ロイヤルティの低下といった問題に立ち向かえるようになる。
- STP戦略を立てる、活用する
- 価格戦略を見直す
- 顧客との関係構築を強化する
- 新製品やサービスを開発する
それぞれ詳しくみていこう。
4.1.STP戦略を立てる、活用する
STP戦略とは、マーケティング戦略の一つで「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の3つのプロセスから成り立っている。
これらのプロセスを通じて、企業は市場を効率的に分析し、製品やサービスを提供するターゲット顧客を特定して競合他社との差異化を図れる。
- セグメンテーション
広範囲の市場を消費者のニーズ、特性、行動などに基づいて小さなグループに分割する - ターゲティング
セグメンテーションのプロセスで特定された顧客グループの中から、最も魅力的でビジネスの目標に合致するセグメントを選択し、焦点を当てる - ポジショニング
選択したターゲット市場内で製品やブランドをどのように位置づけるかを決める
4.2.新製品やサービスを開発する
イノベーションはコモディティ化への対抗策の中核だ。
新しい製品やサービスの開発は、市場に新たな価値を提供し、競合との差異化を可能とする。
これには、既存の製品の改良、新技術の導入、またはまったく新しいカテゴリーの製品の創出が含まれる。
イノベーションにより、顧客に新しい選択肢を提供でき、ブランドの魅力を高められるだろう。
4.3.価格戦略を見直す
価格戦略の見直しもコモディティ化に対する重要なアプローチである。
現在よりさらに価格を下げてコストリーダーとして市場に挑むのも戦略の一つだが、自社の体力的に現実的ではないケースもあるだろう。
その場合、価格を上げて、あえてプレミアムブランドとしてのポジションを狙うのも一つの方法だ。
価格以外にも割引、ロイヤルティプログラム(複数回利用するほどお得になる仕組み)、バンドル販売(複数個まとめての購入でお得になる仕組み)など、価格周辺の戦略を工夫することが重要となる。
4.4.顧客との関係構築を強化する
顧客との強い関係を築くことで、企業はコモディティ化の影響を緩和できる。
これには、優れたカスタマーサービス、パーソナライズされたコミュニケーション、顧客の声に基づく製品改良などが含まれる。
顧客ロイヤルティを高めることで、価格競争に依存しない持続可能なビジネスモデルを構築できるだろう。
5.コモディティ化の解消に役立つコンテンツマーケティングとは
ここまで、コモディティ化の解決方法を4つ紹介したが、難易度はそれぞれ異なる。
例えば、STP戦略は有効な手段だが、取り組んでみると自社が優位に立てるセグメントやポジションが見つからないことがある。
新製品やサービスの開発は、せっかく自社の製品・サービスが受け入れられた市場から脱却して新しい市場に挑むことになり、チャンスである反面大きなリスクも伴う。
また、価格戦略の見直しも、現在の経営状況次第では難しいだろう。
そこで、どの企業でも取り組みやすいのが「顧客との関係構築強化を第一歩にする」ことだ。
さまざまな関係構築の方法があるなかで、現在主流となっているのが「コンテンツマーケティング」である。
コンテンツマーケティングとは、顧客の関心を引くコンテンツを制作・配信し、関係を築くマーケティング手法だ。
具体的な方法や効果についてみていこう。
5.1.コンテンツマーケティングがコモディティ化の解消に役立つ理由
コンテンツマーケティングがコモディティ化の解消に役立つ主な理由は、独自の価値提案を通じて製品やサービスを差異化し、顧客との深い関係を築くことにある。
コモディティ化された市場では、製品やサービスの機能や価格がどこも似たり寄ったりで、顧客が選択する基準が限られてしまうが、コンテンツマーケティングは以下の点で役立つ。
ブランドの独自性強化
質の高い、関連性のあるコンテンツを提供することで、ブランド独自の声と価値観を伝え、競合とは異なる独自の立場を築く。
顧客との関係構築
教育的・啓蒙的なコンテンツは、必ずしも自社の製品やサービスの売り込みに直結しなくとも、顧客との信頼関係を築き、ロイヤルティを高めることにつながる。
これにより、単なる製品の機能性だけではなく、ブランドに対する信頼や好意に基づいた選択を促せる。
顧客のニーズと関心に対応
コンテンツマーケティングにより、顧客の関心やニーズに直接応えるコンテンツを提供できる。
これは、製品やサービスを単なる商品ではなく、顧客の問題を解決する手段(または「顧客の問題の解決策」)として位置づけることを可能とする。
市場における知識リーダーシップの確立
専門知識や業界に関する深い洞察を共有することで、ブランドをその分野の権威として確立できる。
これにより、競合他社との差異化を図り、コモディティ化からの脱却を実現できる。
SEO(検索エンジン最適化)との相乗効果
有益で関連性の高いコンテンツには、検索エンジンでの可視性を高める効果がある。
潜在顧客が自社の製品やサービスを見つけやすくなり、ブランドの認知度と差異化が促進されるだろう。
コンテンツマーケティングはコモディティ化の回避に有効
コンテンツマーケティングが製品やサービスの機能的な側面を超えて顧客との関係を深め、コモディティ化の課題を克服する強力な手段であることを理解いただけただろうか。
例えば、営業担当やサポートデスクの力量も顧客との関係構築に大きく影響するが、それらはある程度属人性があり完全な均一化は難しいこと、またリソースの問題からすべての顧客に同じ量・質のサポートを提供できるわけではないというデメリットがある。
その点、コンテンツマーケティングはマス的なアプローチのため、潜在層〜顕在層のどのフェーズの顧客に対しても関係構築につなげられる施策だ。
取り組んでおいて損はないだろう。
5.2.どのようなコンテンツを配信すべきか?
コンテンツにはさまざまな形式がある。
ここでは、BtoB企業におけるコンテンツマーケティング手法の代表例を紹介していきたい。
ホワイトペーパー
業界知識や調査レポートなど、有益な情報をわかりやすく数ページにまとめた資料。
自社のWebサイトや外部メディアに設置し、ダウンロードと引き換えに顧客のリード情報(個人情報)を取得できる。
記事/コラム
特定のテーマに関して解説する記事をWebサイト上に公開する。
誰でもアクセスできるため広範囲にリーチできるのがメリットだ。
SEOの観点からも有効で、Webサイトへの定期的なトラフィックを促進できる。
メールマガジン
新製品の紹介、業界の最新ニュース、専門的な知識やアドバイス、限定オファーやイベントの案内などさまざまな内容を通じて、読者に継続的な価値を提供できる。
オウンドメディアに掲載した記事やホワイトペーパーを顧客のフェーズに応じてメール配信することも有効だ。
セミナー/ウェビナー
リアルタイムまたは録画されたプレゼンテーションを通じて、特定のトピックについて深く掘り下げる。
複雑で情報量の多い内容を、要点を押さえて伝えたいときや、ナーチャリングの後半に向いている。
動画
動画には、文章よりも理解促進につながる、ユーザーがいつでも見られるといった利点がある。
例えば、既存顧客に向けたチュートリアルやガイドを動画コンテンツとすることで、自社への信頼度アップにつながる。
こちらもナーチャリングの後半に有効な施策だ。
コンテンツマーケティングの種類については、以下の記事を参考にしてほしい。
6.コンテンツマーケティングのユースケース
コモディティ化対策としてコンテンツマーケティングを行う場合、どのようなコンテンツが有効なのだろうか。
挙げるべき具体例は業界によって大きく異なるが、ここではIT企業の事例をいくつか紹介していきたい。
ツールのチュートリアルとガイド
ソフトウェア開発のプラットフォームGitHubは、新しいプログラミング言語やツールを学ぶための詳細なチュートリアルやガイドを提供している。
これにより、開発者コミュニティに価値を提供し、プラットフォームの使用を促進している。
クラウドサービスのベストプラクティス紹介
クラウドコンピューティングサービスを提供する大手企業のAWSは、クラウドインフラを構築、管理するためのベストプラクティスを紹介する豊富なブログ記事、ホワイトペーパー、ケーススタディを公開中。
顧客がAWSのサービスをより効果的に使用するための洞察と学習を提供している。
セキュリティに関する教育的ウェビナー
SymantecやMcAfeeのようなセキュリティソフトウェア企業は、サイバーセキュリティのトレンド、脅威、対策に関するウェビナーやオンライントレーニングを定期的に開催している。
これらの教育的コンテンツは、顧客が自社のセキュリティ対策を強化するのを助けるとともに、企業の専門知識の高さを示す効果がある。
データ分析ツールのインタラクティブデモ
TableauやPower BIのようなデータビジュアライゼーションツールの提供企業は、製品のインタラクティブデモやオンライン体験版を提供。
これらのデモを通じて、顧客は実際にツールを試用し、その強力な機能と使いやすさを体験できる。
AIと機械学習の研究論文とブログ
Google DeepMindやOpenAIは、AIと機械学習の最先端というポジショニングを維持するため、研究成果を定期的に公開している。
これらの研究論文やブログ記事は、技術コミュニティ内での議論を促進し、企業のイノベーションへの貢献を示している。
7.まとめ
この記事では、コモディティ化の問題点や対策方法について解説してきた。
コモディティ化の対策方法はさまざまだが、まずはリスクの少ない顧客との関係構築強化に取り組むことをおすすめしたい。
なかでもコンテンツマーケティングは、複数の種類やコンテンツの切り口があり、どのような企業であっても取り組みやすい手法といえるだろう。
本記事を参考にしながら、ぜひコンテンツマーケティングに取り組んでみてほしい。