オウンドメディアは2010年代中盤から広まり、今では業界業態を問わず主要なマーケティングツールとなっている。
しかし、ここ数年は「作っても意味がない」「更新し続ける意味がない」といった声も挙がっている。
そこで本記事では、
「オウンドメディアを立ち上げるべきか判断したい」
「運用中のオウンドメディアがあまり上手くいっていないため、継続するか判断したい」
「営業部門からオウンドメディアの価値が理解されない」
といった方々に対して、オウンドメディアはどのような場面で役立つのか、逆にどのようなケースだと役立たないのかといった情報をはじめ、オウンドメディアの役割や特に力を発揮する場面について詳しく解説する。
1.オウンドメディアは「意味がない」とされる3つの理由
まず、オウンドメディアについて「意味がない」と語られる理由を整理してみよう。
理由1.PVが伸びず露出が増えない
オウンドメディアには「検索上位表示による露出増」が期待されがちだ。
リード獲得にしてもナーチャリングにしても、露出が増えれば増えるほど効率が良くなることは間違いない。
しかし、PVは一朝一夕に伸びるものではなく、ある程度の時間が必要だ。
特に、BtoBの場合はキーワードの検索ボリューム自体が小さく、PVが思うように伸びないこともある。
理由2.売上に直結しない
オウンドメディアはECサイトとは異なり、何かを直に販売しているわけではない。
このことから「運営しても売上につながらない」という文脈で「意味がない」と指摘されることがある。
確かにオウンドメディアは売上に「直接」関係しない部分がある。
しかし、ホワイトペーパーやセミナーへの誘導、さらには商談に行き着くための「意識変化」を担うことから、広い意味で言えば売上に貢献するツールだ。
理由3.コストセンターとみなされる(投資回収の見込みがない)
前述の売上の問題に関係して、「コストセンター」と見なされることもある。
コストセンターとは経営学用語のひとつで、「コストが集約される(利益が集約されない)」部門を指す言葉だ。
コストセンターでは、営業やマーケティングと異なり「低コスト」であることが評価されるようになる。
特にブランディングを目的としている場合、その効果は定量的に把握しにくいため、コストセンターのレッテルを貼られることも珍しくない。
2.オウンドメディアは本当に「意味がない」のか?
このように、オウンドメディアは「意味がない」と見なされがちだ。
しかし、意味があるかないかは、「目的次第」である。
オウンドメディア自体はマーケティングツールであり、その特徴やメリットと「目的」がマッチしていないと意味がなくなる(=成果がでない)のだ。
一方で、しっかりと目的に適合したオウンドメディアは、ペイドメディアやアーンドメディアを凌ぐ成果を上げる。
しかも、その効果は長期にわたり、コストパフォーマンスも高い。
そこで、オウンドメディアの役割と特徴、特に力を発揮しやすい業界について知っておこう。
オウンドメディアの役割と特徴は以下のとおりである。
2.1.オウンドメディアの役割
一般的なオウンドメディアの役割は、「集客」「リード獲得」「ナーチャリング」「ブランディング」「売上への貢献」の4つだ。
集客
検索上位にコンテンツを露出させることで、PVを増やし、見込み客候補を誘引する。
オウンドメディアの場合は、「集客=PVの確保」と考えても良い。
特にBtoBではSNSなど他のチャネルからの流入が望めないため、オウンドメディアのPVがそのまま集客に結び付きやすい。
リード獲得
検索流入から得られるPVを、ホワイトペーパーDLやセミナー申し込みへつなげ、メールアドレスなどを含む連絡先を取得する。
リードは厳密にいえば「見込み客」だが、オウンドメディア運用では「メールアドレス」「電話番号」「企業情報」などが該当する。
いずれも顧客との重要な接点となりうる。
ナーチャリング
有益な情報やノウハウを提供することで信頼感を高めつつ、顧客の意識変化を狙う。
オウンドメディアでは、コンテンツごとに役割を設け、コンテンツ内を周回させながらナーチャリングを行う。
また、MAから配信したメールにURLを記載し、オウンドメディアのコンテンツを紹介するといった施策も有効だ。
ブランディング
ブランドイメージの向上や顧客の帰属意識、所有欲求などを刺激し、顧客にとっての価値を高めていく。
オウンドメディアが注目され始めた2010年代初頭は、ブランディングが主な役割であった。
今でもブランディングは重要だが、リード獲得やナーチャリングの過程である程度は達成されるため、最優先事項とまでは言えないのが実情だ。
売上への貢献
BtoBでは売上への貢献が求められる傾向が強まっている。
冒頭で「売上に直結しない」と述べたので矛盾しているように聞こえるかもしれない。
オウンドメディアに求められる「売上への貢献」とは、端的に言えば「オウンドメディアが起点となって生まれた売上の額」である。
つまり、オウンドメディアの訪問者が見込み客(リード)となり、ホワイトペーパーDLやセミナー参加、商談を経て売上につながった場合を指している。
一昔前のオウンドメディアは「PVが増えて、自社の認知度が向上した」という証明があれば存在意義を認められた。
しかし最近は、オウンドメディアからセールスにどれだけ橋渡しができているかもチェックされる。
また、ECサイトとの連携を強化する企業も増えており、今後も売上の貢献という役割は重視されるだろう。
2.2.オウンドメディアの特徴
オウンドメディアの特徴は、主に以下3点に集約される。
特徴1.リード獲得までに時間を要する
広告などのペイドメディアとは異なり、オウンドメディアは基本的に「待ち」のメディアだ。
つまり、訪問者の意識が変化し、行動(ダウンロードや問い合わせ)が起こるまでは目に見える成果がない。
特に時間を要するのが意識変化だ。
企業としての意識変化は、担当者が何度もコンテンツに触れ、社内へ持ち帰って情報共有し、上長や同僚に理解されたあたりでようやく起こる。
そのため、数か月から数年単位の時間を要することも珍しくない。
特徴2.いますぐ客へアプローチし、まだまだ客に広く浸透させる
ある市場に存在する見込み客を4段階に分けると、以下のようになる。
- いますぐ客(必要性、欲求ともに高い状態で購入に近い)
- おなやみ客(必要性の割には欲求が低い)
- そのうち客(魅力を感じていて欲求はあるが、必要性が低い)
- まだまだ客(必要性も欲求も著しく低い、もしくは気づいていない)
また、下記のようにそれぞれの見込み客の割合には大きな隔たりがある。
一般的に広告は1%の「いますぐ客」をターゲットにするが、オウンドメディアはいますぐ客と同時に「まだまだ客」にもアプローチする。
まだまだ客に対して時間をかけてアプローチし、徐々にいますぐ客に近づけていくことがオウンドメディアの強みだ。
広告とは真逆の性質を持つが、目的は似ているので併用すると効果的だ。
この点について、オウンドメディアのメリットでも詳しく解説しているので参考にしてみて欲しい。
2.3.オウンドメディアが「必須」となる業界の例
オウンドメディアは、意味がないどころか大いに力を発揮する業界もある。
例えば「レッドオーシャン化」や「コモディティ化」が起きやすい業界はその典型例だ。
レッドオーシャン化やコモディティ化が起こりやすい業界は、「標準化」が進んでいる。
つまり、機能や価格のみでは差別化しにくいのだ。
例えばPCやスマートフォンは、外形やデザインは異なるものの、機能・性能については似たり寄ったりな部分が多い。
価格についても、競争に次ぐ競争でいくつかの価格帯に落ち着いてしまっている。
こうした状況において、自社が顧客にとって「特別」であることを意識づけるには、時間をかけてブランディングを進めていくしかない。
さらに、オウンドメディアの主な役割のひとつである「ナーチャリング」は、「ブランディング」と切り離せない。
時間をかけて自社のことを知ってもらい、信頼や愛着を根付かせるというプロセスが共通しているからだ。
3.オウンドメディアの「意味」が発揮されるケース
ここからは、オウンドメディアが「意味」を持ちやすいケースを具体的に紹介していく。弊社が考えるケースは、以下4つだ。
ケース1.十分なリードを確保できている場合
「いますぐにでもオウンドメディアを使うべき」というケースがこれだ。
日々の営業・マーケティングの中でリードが蓄積されているならば、寝かせている時間は「ロス」になる。
かといって、ナーチャリングやブランディングを施すには人手が足りない。
こうしたケースでは、オウンドメディアのコンテンツを周回させることでナーチャリングやブランディングが進む。
また、検索流入を意識した(SEOを考慮した)コンテンツである必要がないため、独自色を出しやすいこともメリットだ。
コンテンツの種類としては、対談記事や(成功)事例記事、セミナー記事、ノウハウ記事などが適しているだろう。
大まかな流れとしては、「MAなどで既存リードへメール配信」しつつ、オウンドメディアへの流入を促し、ホワイトペーパーやセミナーの閲覧を促していく。
その中の一定数は、勝手にオウンドメディア内を周回し、知識やノウハウを得て自社に対する興味関心を深めていく。
さらにそこから商談や受注が発生するという仕組みだ。
オウンドメディアの内容次第では、この「ナーチャリング→成果(商談、受注)」という流れが半ば自動化される。
ケース2.時間をかけて長期でコストパフォーマンスを出したい場合
このケースは、ゼロベースでリード獲得を狙うが、ある程度時間をかけられる場合だ。
具体的には、他のチャネルでリード獲得や受注の流れができていて、時間をかけながら+アルファのチャネルを育てるというケースに向いている。
つまりマーケティングや営業の補強だ。
BtoBではニッチキーワードやロングテールキーワードを軸とし、地道にコンテンツを充足させるため、オウンドメディアの成長には時間を要する。
一方で、ある程度育ってしまえばWEB広告と比較してもかなりコストパフォーマンスが良いツールになる。
ちなみに、どんなに記事を量産してもリード獲得から受注・売上というタームが確立されるまで、半年から1年はかかると考えたほうが良い。
一般的な目安は2~3年程度だ。
このケースでは、既存のチャネル(セミナー、展示会、DMなど)とオウンドメディアをいかに連携させるかが重要なポイントになる。
もしMAやCRMでリードを管理しているならば、前述のケースと同じようにオウンドメディアへの流入を促すべきだろう。
反対に特にリードを管理していない場合は、営業・マーケティングプロセスの中に「オウンドメディアへの流入」というタスクを設ける必要がある。
メルマガや営業用資料、DMの中にオウンドメディアの案内を記載するなど、既存チャネルといかにシナジーを発生させるかがカギになりそうだ。
ケース3.ニーズ、課題を共有した顧客と出会いたい場合
BtoBのオウンドメディアでは、事例(成功事例、解決事例)の持つ力が非常に強い。
見込み客の多くは、自らが抱える「痛み、悩み、課題」をどのような製品で、どのようなプロセスで解決できたかを重視している。
裏を返せば「自社が得意とする製品、サービス、導入プロセス」の組み合わせ、つまり「成功パターン」を具体的にアピールしやすいのだ。
強みとニーズが合致した顧客との付き合いはうまくいくことが多く「長期、優良顧客との出会い」にもつながる。
成功事例はニーズのニーズ(裏のニーズ、つまり実利)を突いていることが多く、見込み客に対する強い訴求となる。
ケース4.公式サイトなど他で流入が稼げるメディアがある場合
このケースでは、オウンドメディアの役割をさらに限定し、ナーチャリングに特化させる。
例えば、社名や製品名の知名度が高く、すでに公式サイトから十分な流入がある場合などだ。
オウンドメディアは、「本体(公式サイト)」をサポートして付加価値を上げる別動隊のようなイメージになる。
具体的には、製品の特設サイトや事例サイトという形で「特徴」ではなく「利点」を解説し、売上につなげていく。
社名や製品名で十分な知名度があるため、「名前は聞いたことがあるが、実際にどのように、どれくらいの効果があるのか」という点を補強するだけで売上に貢献する。
こちらも検索流入を意識する必要がないので、良質なコンテンツを作りやすい。
4.オウンドメディアが「意味がない」状態になりやすいケース
最後に、オウンドメディアの効果が薄くなりがちなケースを紹介しておこう。
下記2つのケースでは、オウンドメディア単体での運用はおすすめしない。
ケース1.いますぐ客をスピーディに獲得する場合
上でも述べた通り、「いますぐ客」に対するアプローチは広告が得意とする。
スタートアップや新規事業などで「すぐに実績(受注)が欲しい」という場合には、いますぐ客を取り込まなくてはならない。
しかし、このアプローチはオウンドメディアの特徴に合致しない。
いますぐ客を早急に囲い込みたい場合は、「WEB広告+ホワイトペーパー」や「WEB広告+ウェビナー」などの即効性の高い施策を検討すべきだ。
つまり、ペイドメディアを軸にするのだ。
ケース2.リードがほとんどなく、短期で大量に獲得したい場合
リードをゼロベースで、なおかつ短期間で大量獲得するということ自体が至難の業である。
オウンドメディアのように「中長期」「ストック型」の施策では、こうした目的はほぼ達成不可能だ。
どんなに早く見積もっても運営2年目の前半から軌道に乗るケースが大半だからだ。
もっとも、コンテンツを内容よりも露出重視(つまりSEO重視)に振り切ることで、ある程度のリード獲得は可能だ。
しかし、ジェネレーション(獲得)は可能であっても、ナーチャリング(育成)やクオリフィケーション(選別)に耐えうるか、という点では疑問が残る。
要は、「売上につながらないリード」である可能性が高いのだ。
5.まとめ
ここでは、「オウンドメディアは意味がない」という指摘の理由や、効果が出やすいケースなどを紹介してきた。
オウンドメディアが「意味ない」と判断される背景には、目的とのアンマッチがある。
また、自社が保有する資産(リードや公式サイトへの流入)によっても有用性は変わる。
オウンドメディア自体は、目的とのマッチングができていれば長期にわたって絶大な効果を発揮するツールだ。
初期段階では、現状分析と戦略、コンテンツの制作ノウハウが欠かせないため、この点を外注化してしまう方法もおすすめだ。