オウンドメディアの目的を問われたとき「ブランディング」と回答する方は非常に多い。
確かにブランディングはオウンドメディアの目的のひとつだ。
しかし近年は、より具体的な目的設定が必要とされている。
なぜなら、オウンドメディアの構築・運用は長期にわたり、それなりのコストがかかるものだからだ。
「オウンドメディア運用を提案したいが、説得する材料が乏しい」
「なんとなくオウンドメディアを始めたが、目的がはっきりしない」
「ブランディング以外に合理的な目的が見つからない」
などの課題を抱えている人も多いだろう。
そこでこの記事では、オウンドメディアの目的を具体的に解説した上で、目的に対する手段としてオウンドメディアが適しているケース、逆にオウンドメディアが向いていないケースを解説する。
1.オウンドメディアの目的とは
まず、オウンドメディアの一般的な目的6つを整理しておこう。
- ブランディング
- エンゲージメントの強化
- 集客
- リード獲得
- ナーチャリング
- 売上への貢献
それぞれ見ていこう。
目的1.ブランディング
オウンドメディア運用を開始する目的として、最もメジャーなものが「ブランディング」だ。
ブランディングとは、企業やブランドのイメージを明確に打ち出し、育成することである。
これには、企業のミッションやビジョンを反映したコンテンツの提供、製品やサービスの差別化要因の強調、業界内でのポジションの証明などが含まれる。
例えば、独自の視点で市場のトレンドを分析するレポートや、製品開発の背景にあるストーリーを紹介することで、消費者の心に深く響くブランドメッセージを伝えることができる。
目的2.エンゲージメントの強化
エンゲージメントは「婚約」や「契約」を語源としており、現在は「愛着」「結びつき」の意味で用いられている。
エンゲージメントが強化されることで、長期にわたって優良な取引相手を得られることがメリットだ。
オウンドメディアから、ペルソナに沿ったコンテンツを提供することで、読者(見込み客=リード)との関係性を強化することができる。
また、インタラクティブなコンテンツや、ユーザーからのフィードバックを積極的に取り入れたコンテンツ、双方向型のコミュニケーションが可能なコミュニティなどを提供し、顧客との距離を縮めることも可能だ。
エンゲージメントが強い顧客はロイヤルカスタマーになりやすく、値上げや新製品についても理解を示す傾向がある。
つまり、機能や価格とは別の軸での「差別化」が可能になるわけだ。
ただし、BtoBの場合、エンゲージメントの強化は実際の取引を通じて進む、したがって、オウンドメディアの目的としては少し弱いかもしれない。
目的3.集客
集客とは、端的にいえばPV(ページビュー)数の向上だ。
そのためには、コンテンツSEOを十分に施す必要がある。
SEOというと検索エンジン対策のキーワード選定やタイトル・見出しの工夫などを思い浮かべる方が多いかもしれない。
しかし近年は表面的なSEO対策は逆効果になることも多く、「質(内容)」を伴ったコンテンツでなければ評価されない。
テーマごとにペルソナを定義し、潜在ニーズを考慮し、コンテンツの配置を練るなどの対策が必要だ。
目的4.リード獲得
BtoBで最も多い目的がリード獲得(リードジェネレーション)ではないだろうか。
リード獲得では、コンテンツを介してユーザーからのアクションを促し、見込み客の情報(メールアドレスや会社名など)を収集する。
専門知識を要するホワイトペーパーやebookなどの提供を条件に、メールアドレスや業種などの情報の入力を求めるわけだ。
これにより、購買意欲の高いリードを把握し、後続のマーケティング活動の効率化を図ることができる。
目的5.ナーチャリング
あまり注目されないが、成功しやすい目的のひとつが「ナーチャリング」である。
ナーチャリングでは、獲得したリードに対して有益なコンテンツを定期的・継続的に提供し、契約に至るまでのハードルを徐々に下げていくことが可能だ。
例えば、MAとオウンドメディアを併用することで、顧客の購入サイクルやニーズ、状況(Web上のPDFファイルの何ページまで読んだかなど)に応じてコンテンツの提案ができる。
また、内部リンクによってオウンドメディア内を周回させるような作りにできれば、ナーチャリングを半自動化することも可能だ。
目的6.売上への貢献
近年は、オウンドメディア運用の目的を「売上増加」に設定する企業も増えている。
オウンドメディアは、通常の案件受注とは異なるルートで売上を発生させることができる。
もちろん、BtoBのオウンドメディアでは、ECサイトのように直接何かを売るわけではない。
しかし、検索流入からの認知獲得、リードへの転換、コンテンツでのナーチャリングを経て、問い合わせや商談につなげるというプロセスによって、「既存の営業プロセスとは別の軸」で売り上げを発生させることが可能だ。
ただし、オウンドメディアが売上に貢献し始めるのは、早くても2年目以降だと考えたほうが良い。
1年目は投資期間になる可能性が大きいが、長期的な計画を立てて早めに取り組んでおくことが望ましい。
オウンドメディアによる売上(マネタイズ)計画やその計算方法については、以下の記事でも詳しく解説しているため、参考にしていただきたい。
2.オウンドメディアが適している目的は?ユースケースで解説
ここまで紹介した目的は、あくまでも一般論的なものだ。
実際には、企業のサービスや状況によって、より具体的な目的を設定するだろう。
そこで、もう一歩踏み込み、実務目線でオウンドメディア運用の目的を紹介する。
目的1.付加価値化、差別化を進めたい
オウンドメディアは、「競争から一歩抜け出す」という目的に適したツールだ。
特に、激しい競争(レッドオーシャン)や商品・サービスの差別化が困難な(コモディティ化された)市場ではその効果は顕著である。
こうした市場では、製品やサービスが「標準化」されており、機能や価格だけでは競合他社との差別化が難しい状況にある。
自社だけが持つ付加価値や差別化要因をアピールしにくいので、顧客の意識変化を期待するしかない。
要は「ブランドイメージ向上」「エンゲージメントの強化」が必須なのだ。
また、オウンドメディアにおける「ナーチャリング」は、これらと密接に関連している。
ナーチャリングでは、顧客に対して長期間にわたり自社を深く理解してもらい、信頼や愛着を築くことが目的だからだ。
目的2.保有しているリードを活かしたい
リードを刺激しない時間が多いと、実質的な機会損失が起こっている。
しかし、ナーチャリングを行うための人員が不足していることも少なくない。
このような場合、オウンドメディアのコンテンツを効果的に利用することで、ナーチャリングを進めることができる。
また、リードはすでに十分確保できているのであれば、SEO対策を意識する必要もなく、純粋に質を追求したコンテンツ作りができる。
記事制作のリソースさえ確保できれば、内製でも効果が出やすい。
具体的なコンテンツの例としては、対談形式の記事や成功事例の紹介、セミナーの内容や専門知識を共有する記事などが挙げられる。
基本的な戦略としては、MAなどを利用して既存リードにメールを送り、オウンドメディアに誘導、そしてホワイトペーパーやセミナーの閲覧を促す。
この過程で、自然とオウンドメディアを巡回し、知識や専門情報を吸収し、企業への関心を深めるリードが出てくる。
これが最終的に商談や受注につながる、という流れである。
目的3.流入とリード獲得のコスパを上げたい
「時間がかかってもよいので、検索流入を増やしてリードを安く確保したい」という目的にも適している。
BtoBでは、ニッチキーワードやロングテールキーワードに焦点を当て、コンテンツを徐々に充実させていかなくてはならない。
したがって、オウンドメディアの成長には相応の時間が必要だ。
リード獲得から受注、売上に至るプロセスが確立されるまでには、少なくとも半年から1年、一般的には2~3年程度の期間を見込むべきである。
MAやCRMを使用してリードを管理している場合は、データと自動化を活用しながらオウンドメディアへの誘導を積極的に行うべきだ。
一方で、リード管理を特に行っていない場合は、営業やマーケティングプロセスに「オウンドメディアへの誘導」を組み込むところから始める必要がある。
メールマガジンや営業資料、ダイレクトメールにオウンドメディアへの案内を盛り込むなどして、既存チャネルとの相乗効果を狙っていこう。
目的4.ニーズ、課題を共有した顧客と出会いたい
ニーズや課題を共有した顧客とは「将来にわたって付き合いやすい顧客」でもある。
付き合いやすい顧客との間にはシナジーが生まれやすい。
つまり、自社も顧客も成長する。
こうした顧客との出会いも、オウンドメディアの目的のひとつだ。
この場合に有効なのは「成功事例」や「問題解決事例」などの事例コンテンツの提供である。
市場に存在する見込み客は、自身が直面する「問題や課題」がどの製品でどのように解決されたのかについての「実際のところ」を、常に知りたがっているからだ。
このことから、自社が得意とする製品やサービスに関する事例を「成功事例」として示すことで、顧客と出会いやすくなる。
特に「成功」の部分をしっかりとアピールできている事例は、隠れたニーズや実際の利益を的確に捉えるため、見込み客への訴求力が強い。
目的5.既存メディアのPVを売上につなげたい
広く言えば「売上への貢献」なのだが、ポイントは「大きなメディアがあるにも関わらず、売上がイマイチ」という点だ。
社名や製品名が広く認知されており、コーポレートサイトなどへの訪問者数が充分に多い場合は「イメージ」「特徴」などはすでに理解されているだろう。
しかし「実利」の部分が広く知れ渡っていないために、売上に結び付いていない可能性がある。
この場合のオウンドメディアは、「事例紹介サイト」や「製品紹介サイト」といった専門サイトとして運営し「特徴」ではなく「利点」に焦点を当ててコンテンツを制作する。
既に社名・製品名で高い知名度を確保しているため、重要なのは「実利」の部分だ。
端的にいえば「どれだけの時間を節約できたか」「顧客満足度はどう変化したか」「コストはどれだけカットできたか」などの定量化しやすい指標の訴求が効果的だ。
これらをオウンドメディアで補足することで、顧客の意識変化が起こり、購買意識へとつながっていくのだ。
3.オウンドメディアが適さない目的
反対に、オウンドメディアが適さない目的もある。
例えば以下の2つのケースだ。
ケース1.いますぐ受注をとりたい
前提として、オウンドメディアは「いますぐ客(ニーズ・ウォンツともに高く、購買に近い見込み客)」をメインターゲットにしない。
これについては、以下の記事でも詳しく解説している。
特にスタートアップや新規事業を立ち上げたばかりで、「すぐに成果(受注)が必要」と考えている場合は、即効性のある広告を打つ必要がある。
ただし、広告のみでは、コストパフォーマンスが下がる可能性もある。
広告が効くのはレッドオーシャン化した「いますぐ客」であり、競争が激しいからだ。
したがって、少しでも獲得効率を上げるために、
- WEB広告からホワイトペーパーDLへ誘導
- WEB広告からウェビナーに誘導して囲い込む
などの施策が必要になってくるだろう。
ケース2.短期間で大量のリードを獲得したい
「短期」がどの程度の期間かにもよるが「立ち上げて2か月程度で数十件ほしい」などの要求には答えにくいのがオウンドメディアだ。
オウンドメディアは、運用開始後2年目以降に「蓄積されたコンテンツ」によってリードが増えていき、そのうちの一定数が売上につながるというツール・施策だ。
少し語弊があるかもしれないが「露出優先(SEO特化)」であれば、短期間でのリード獲得は可能だろう。
ただし、リードの質を確保できるかというと疑問が残る。
そもそも、リードは獲得して終わりではなく、顧客・売上に転換することが目的なはずだ。
売上につなげるためには、「ナーチャリング(育成)」「クオリフィケーション(選別)」に耐えうるものであることが望ましい。
この点を考慮すると、「リード獲得」だけに特化したオウンドメディア運用は、あまり意味がないとも言える。
4.まとめ
ここでは、オウンドメディアの目的について解説してきた。
オウンドメディアが適する目的はさまざまだが、「長期目線で事業を強化したい」「今ある資産(リード、流入など)を活かしたい」という目的にマッチしやすい。
一方で、1年目は投資の期間となるため、継続のためには社内の理解・承認を得る必要があるだろう。
まず自社の目的を明確にするところから始め、目的に応じた運用方法を行うことを心がけよう。