SaaSの市場規模は短期間で急激な拡大を遂げている。
「Japan SaaS Insights 2024」(One Capital株式会社)によると、2023年に2020年の約1.7倍となる1.4兆円を突破する見込みだ。
そうした状況のなか、SaaS業界に従事する方は、以下のような悩みを抱えていることが多い。
「競合が多く差別化が難しい」
「マーケティング施策の優先順位や最適解を知りたい」
「新規顧客の獲得やロイヤルティの構築などバランスよく取り組めていない」
そこで本記事では「SaaSのマーケティング」の特徴や戦略の進め方、具体的なKPIなどを詳しく解説していく。
1.Saasビジネスの特徴
まず、SaaSの定義とSaaSビジネスの特徴を整理しておこう。
1.1.SaaSとは
SaaSは「Software as a Service」の略で、インターネット経由で提供されるクラウドベースのソフトウェアサービスを指す。
労務管理、経理、法務など用途はさまざまだ。
SaaSと対比される従来型のソフトウェアに「オンプレミス型」のものがある。
オンプレミス型は、社内のサーバーやPCにインストールして使用するため、更新やアップデートを行う負担が発生するほか、開発や運用にかかるコストや労力も大きい。
一方でSaaSは、インターネットを通じて提供されるソフトウェアサービスだ。
ユーザーはネット環境さえあればすぐに利用を開始でき、サービスの保守、アップデート、セキュリティ対策などに関するユーザー側の負担は最低限となる。
柔軟性に優れ、現代との親和性が高いサービス形態であることから、SaaS市場は急速に拡大している。
1.2.SaaSビジネスの特徴
SaaSの事業者がマーケティングに取り組むうえで理解しておくべき「SaaSビジネスの特徴」を見ていこう。
継続的な収益が発生
SaaSビジネスは、サブスクリプション型でのサービス提供が多い。
顧客が利用を継続する限り、月額または年額料金という形で継続的な収益が発生する。
これは従来の買い切り型のソフトウェア販売とは異なり、安定した収益基盤を築くうえで大きなメリットだ。
一方で、新規顧客の獲得だけでは大幅な収益向上が見込めない。
解約率を下げ、いかに長期的に利用してもらえるかという「ロイヤルティ」や「顧客満足度」を重視したマーケティング施策が不可欠だ。
初期に大きなコストがかかる
SaaSビジネスでは、創業初期に大きなコストがかかる傾向がある。
具体的には、ソフトウェア開発やサーバーなどのインフラ整備への投資だ。
オンプレミス型と異なり、ユーザー側がサーバーやソフトウェアを持たない分、提供側の準備と対策が必須となる。
また、セキュリティ対策やシステムのスケーラビリティを確保するためのコスト、さらには新規顧客獲得のためのマーケティングや営業活動にも資金が必要だ。
そして上述のように、SaaSはサブスクリプション型の料金体系であるため、継続してもらうことにより月額・年額で少しずつコストを回収する。
コストの回収・黒字化に時間がかかるため、初期の綿密な資金計画やユニットエコノミクス(後述)を考慮した指標の追跡が非常に重要だ。
プロダクト自体がマーケティングや顧客育成の役割を担う
SaaSビジネスでは、プロダクト自体がマーケティングや顧客育成の役割を果たすという特徴がある。
わかりやすくいえば、営業担当と直接対話せずとも、顧客がプロダクトの価値を実感し、優良顧客へ移行することを実現可能だ。
顧客は自らの判断で無料トライアルを開始でき、実際に試してみることでプロダクトの価値や使い勝手を理解できる。
そこで気に入った場合、有料版へのアップグレードを行ったり、自発的に課金したり、他のユーザーに紹介してくれたりする。
つまり、営業担当がプロダクトの価値やメリットを「説明」するのではなく、プロダクト自体が営業マンの役割を果たし、優良顧客への育成まで担ってくれるのだ。
こうした戦略は「PLG(Product-Led Growth)」と呼ばれ、セールスやプロモーションにかけるコストや手間を大幅にカットできる可能性がある。
活用できるデータが多い
SaaSビジネスのサービスはインターネット上で提供されるため、ユーザーの利用状況や行動データを記録、活用できる。
例えば、ログイン頻度、機能の使用パターン、エラー情報などが挙げられる。
これらのデータを分析することで、製品の改善や新機能の開発、個々のユーザーへの最適なサポート提供、マーケティング活動への応用が可能となり、サービスの品質向上や顧客満足度の向上につなげられるだろう。
2.SaaSのマーケティングで押さえるべき考え方
次に、BtoB SaaSビジネスのマーケティングで押さえておくべき特徴を紹介する。
2.1.継続利用の促進
SaaSビジネスは月額や年額のサブスクリプションモデルが主流であり「継続利用」が重要だ。
「新たな顧客に売る」だけではなく、顧客の利用期間の長さが収益向上やビジネスの安定性に直結する。
よって、リードジェネレーションや新規営業だけに注力することは好ましくない。
既存顧客の満足度を高め、自社のサービスが顧客の業務に溶け込み、解約の選択肢をなくさせるような取り組みが重要だ。
具体的な施策としては、迅速で質の高いカスタマーサポート、顧客の「課題解決」や「ビジネスの成長」に着目したカスタマーサクセス、顧客の声を反映した定期的な機能追加やアップデートなどが挙げられる。
2.2.ユニットエコノミクスを理解する
一般的なマーケティングでは、新規顧客の獲得にかかったコストや、1顧客あたりの売上(顧客単価)を指標とする。
一方で、SaaSビジネスのマーケティングでは、継続利用の重要性を踏まえ、1顧客単位の長期的な採算性を分析することが重要だ。
具体的には、顧客の獲得コストに対する顧客生涯価値(LTV)を把握する。
LTVとは「顧客のサービス利用期間全体における売上」だ。
この1顧客単位の採算性を「ユニットエコノミクス」という。
計算式は以下のとおりだ。
ユニットエコノミクス=顧客のLTV(ライフタイムバリュー)/ CAC(顧客獲得コスト)
ユニットエコノミクスの値が大きいほど、顧客の契約期間全体にわたって大きな収益性を保っていることになる。
ユニットエコノミクスは「3」以上であれば健全なビジネスだといわれているが、創業期には顧客獲得コストがかさむ、サービス単価が低いなどの事情も考えられるため、一概にはいえない。
自社ビジネスの単価や成長速度、スケーラビリティの確保による顧客単価の向上など、さまざまな事情を踏まえて計算し、指標として定めていく必要がある。
「ユニットエコノミクス」の考え方や計算方法などについて、詳しくは以下の記事を参考にしていただきたい。
2.3.部門を横断した協力と環境整備が必要
SaaSビジネスでは、マーケティング部門だけではなく営業部門、カスタマーサクセス部門など、部門を横断した協力体制が重要だ。
SaaSビジネスは取得できるデータが多い。
顧客のデータを、部署を超えて共有することで、一貫した顧客体験の提供やLTVの最大化に向けた組織的な活動ができるようになる。
さらに、顧客との接点が多い営業部門やカスタマーサポート部門の意見を取り入れたマーケティング施策を実施でき、より効果的なマーケティング活動につながる。
3.SaaSのマーケティング戦略の進め方
ここまで解説したSaaSビジネスやマーケティングの特徴を踏まえて、マーケティング戦略をどのように進めていくべきか、ステップ形式で見ていこう。
ステップ1.環境分析
まずは、市場構造や競合の状況を踏まえて、自社の位置付けや提供価値、ターゲットを決めるための環境分析を行うことが重要だ。
市場分析
ターゲットとする市場の規模と成長性を調査する。
その後、市場の変化が競合や自社に及ぼす影響を調査し、市場での成功要因を分析しよう。
なお、本分析に活用される手法としては、PEST分析やファイブフォース分析が代表的だ。
競合分析
次に、競合他社の製品・サービス、価格、マーケティング戦略などを分析する。
競合分析は、バリューチェーンベース(開発から提供、サポートまでの一連の流れ)を意識して行うと、包括的な分析が可能だ。
自社ビジネスとの照合も行いやすくなるだろう。
自社独自の強み(USP)や差別化を明確にすることはマーケティングで非常に重要なプロセスだが、これは「競合を理解・分析する」ことで初めて実現するため、自社の戦略を固める前に必ず実施しよう。
自社分析
前段で解説した市場・競合分析を踏まえて、自社の「強み」と「弱み」、そして外部環境を整理しよう。
自社分析では、SWOT分析を活用するのがおすすめだ。
外部環境は「Oppotunity(機会)」と「Threat(脅威)」に分けられ、自社ビジネスを推進するうえでどのようなチャンスがあるか、どのような脅威(リスク)に備えるべきかを明確にする。
そうすることで、マーケティングを進めるうえで活用できるチャンスや、対策すべきリスクが整理されるだろう。
ステップ2.ターゲットの明確化と提供価値の規定
環境分析完了後は、ターゲットを明確にし、自社サービスの提供価値を規定していく。
ターゲットの設定
自社の製品・サービスともっとも相性の良いターゲットを明確にする。
BtoBにおけるターゲットは「企業」だ。
そのため、戦略策定段階におけるターゲットは、次のような項目をもとに設定する。
- 業界
- 年間売上高
- 従業員数
- 部署
- 課題
- 実現したいこと
- 予算
- 自社を選んだ決め手
既存顧客のデータがある場合は、既存顧客に共通する項目でグループ化し、そのなかで注力するグループをターゲットとして設定しよう。
継続利用が重要となるSaaSビジネスでは、収益にインパクトのある「継続してくれる顧客」を明確にし、ターゲットとして設定することがポイントだ。
提供価値
ターゲット顧客に対する、自社の製品・サービスの提供価値を決めていこう。
とくに、以下の点について明確にする必要がある。
- 独自性:他社との明確な違いは何か
- ニーズに沿った課題解決:顧客のどういった課題をどのように解決するのか
- 継続(選ばれている)理由:顧客が自社を長く利用してくれている理由やその価値は何か
なお、提供価値を定めるうえで重要な概念であるバリュープロポジションについては、以下の記事で詳しく解説している。
ステップ3.マーケティングの目的の設定
最後に、マーケティングの目的を設定する。
SaaSビジネスにおけるマーケティングの主な目的として、以下の4つが挙げられる。
目的1.リードの獲得
新規顧客の獲得が重要な場合は、リードの獲得を目的に設定しよう。
例えば、フリーミアム戦略などを交え、顧客となるリード数の獲得を最大化するリードジェネレーションを中心に行う。
なお、リードジェネレーションについては以下の記事で詳しく解説している。
目的2.リードの顧客化
リードが獲得できるようになったら、獲得したリードを顧客にすることを目的とする。
例えば、初回面談や受注につながるように、リードナーチャリングなどを実施するとよいだろう。
なお、リードナーチャリングについては以下の記事で詳しく解説している。
目的3.解約の防止
リードの顧客化が安定したあとは、解約の防止を目的とする。
長く継続してくれている顧客へのヒアリングを行い、長く継続してくれている要因を探ることが重要だ。
その要因をベースに、カスタマーサクセスとともに施策を打っていこう。
目的4.顧客単価の向上
顧客単価の向上をマーケティングの目的とすることもある。
単価向上には、アップセルやクロスセルが有効だ。
- アップセル:現サービスの顧客単価を向上させる取り組み
- クロスセル:顧客へ現サービスとは別のサービスを導入検討してもらう取り組み
ステップ4.成長ステージごとに目的を変更する
上記で紹介したマーケティングの目的は、サービスの成長ステージやマーケティングリソースごとに、柔軟に変更したり組み合わせたりすることが重要だ。
SaaSビジネスは、プロダクトライフサイクルとはやや異なり、以下の3つのステージで語られることが多い。
- 創業期
サービスの認知獲得やリードの獲得に注力するため「リードの獲得」を目的とする場合が多い。
まずは多くのリードを獲得し、どのような顧客層にマッチするか、好まれる機能は何かなどのデータを多く集め、施策の最適化を進めていく。 - 成長期
サービスの認知度が向上している成長期では、収益を最大化するために「リードの顧客化」や「解約の防止」を目的とする。
リソースに余裕がある企業は、引き続き「リードの獲得」を目的とするチームを編成することもある。 - 成熟期
成熟期では新規顧客の獲得を進めつつも、既存顧客と良好な関係を継続することが重要となる。
一般的に、新規顧客の獲得コストよりも、既存顧客の維持コストのほうが数倍大きいためだ。
「解約の防止」や「顧客単価の向上」を目的とし、売上の最大化を図っていこう。
4.SaaSのマーケティングで押さえるべきKPI
次に、BtoB SaaSビジネスのマーケティングでKPIとして設定する重要指標を紹介する。
KPI1.LTV(ライフタイムバリュー)
LTV(ライフタイムバリュー)とは、1人の顧客がサービス利用開始から終了までの間に企業にもたらす利益の総額だ。
LTVが高いほど、顧客1人あたりの収益性が高いことを示し、SaaSビジネスの成長にはLTVの最大化が重要視される。
顧客維持率を高めることで、LTV向上につながる。
KPI2.CVR(コンバージョンレート)
コンバージョンレートとは、マーケティング活動において、一定の行動をしている人が実際に目的とする行動(コンバージョン)をとった割合を示す指標だ。
例えば、Webサイトの訪問者数から資料ダウンロードをした人(数)の割合などが挙げられる。
CVRは、自社の顧客獲得策がどれだけうまくいっているかを把握するための数値となる。
KPI3.CAC(顧客獲得単価)
CAC(顧客獲得コスト)とは、新しい顧客を1人獲得するために必要な合計費用だ。
CACが低いほど、新しい顧客を効果的に獲得できていると評価できる。
また、CPA(顧客獲得単価:Cost Per Acquisition)という言葉もある。
両者は以下のように計算する。
- CAC:
顧客獲得にかかるコストの総額 ÷ 顧客獲得数
- CPA:
広告費などのマーケティング費用 ÷ コンバージョン数
両者は同じ顧客の獲得単価だが、異分子のコストの範囲と分母の定義に違いがある。
KPI4.ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスは、1顧客あたりの採算性を示す指標だ。
計算式は「ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC」となる。
この指標から、顧客獲得にコストをかけるか、収益力増強に注力すべきかの判断が可能だ。
KPI5.解約率(Churn Rate)
解約率(チャーンレート)は、一定期間内に解約や退会をした顧客の割合を表す。
解約率が低いほど、顧客が満足している可能性が高く、長期的な収益性が見込める。
KPI6.受注件数・受注金額
受注件数や受注金額は、マーケティング活動がどれくらい売上に貢献したかを示す指標だ。
これらの指標から売上への影響を見ることで、施策を評価できる。
KPI7.MQLからSQLへの転換率
MQLとSQLは、以下を表す指標だ。
- MQL(Marketing Qualified Lead):
マーケティング活動を通じて獲得した見込み顧客
- SQL(Sales Qualified Lead):
MQLのなかで購入の可能性が高く、営業がフォローすべきと判断された顧客
つまり、獲得したリード(MQL)を営業が対応できるほど意欲が高まった状態のリード(SQL)にどれだけ転換できたかを示す、リードナーチャリング施策を評価する指標となる。
KPI8.リード獲得数に含まれるターゲット企業の数
ターゲットとした企業群で、どれだけリードを獲得できたかを示す。
例えば、エンタープライズ向けのサービスを展開している企業は、ターゲット数がそこまで多くないため、リードの獲得数も指標として取り入れてマーケティング活動を行う。
なお、リード獲得数は、会社数や部署数ではなく、コンタクト(人)単位で測定することが多い。
5.SaaSビジネスで有効なマーケティング施策
ここからは、BtoBのSaaSビジネスにおける有効なマーケティング施策(リードジェネレーション、リードナーチャリング、継続率の向上)を紹介していく。
5.1.施策一覧:リードジェネレーション
リードジェネレーションについて詳しく知りたい場合は、まず以下の記事から確認していただきたい。
施策の種類について詳しくみていこう。
SEO
SEOは成果がでるまでに期間とコストがかかる。
また、実施後のメンテナンスコストも必要だ。
そのため、着手するのであれば、本腰を入れて取り組まなければならない。
成功のポイントは、BUYクエリといわれる、自社サービスの購買に近いキーワードから露出していくことだ。
なお、SEOの詳細については以下の記事で解説している。
比較サイトへの出稿
短期間で成果をだしたい場合には、比較サイトへの出稿がおすすめだ。
比較サイトがどういったキーワードで上位を取れているのか、比較サイト側で顧客からの一次ヒアリングまでを実施してくれるのかなどを調査したうえで出稿しよう。
オウンドメディア
オウンドメディアも短期では成果がでにくいため、専門チームを組み、長期的に取り組む必要がある。
オウンドメディアを通した発信によりサービスがブランディングされ、競合が多いSaaSサービスにおいても差別化を図れるだろう。
なお、オウンドメディアの詳細については以下の記事で解説している。
リスティング広告
SEOで上位表示が難しいキーワードで露出したい場合や、短期的に成果を出したい場合、リスティング広告も有効に働く。
ただし、効果を出すには運用スキルが必要だ。
外部に運用を依頼する場合は、月額の運用費がかかることが多い。
ホワイトペーパー
ホワイトペーパーの作成・配布は、認知を獲得するために有効な施策だ。
また、企画次第では、SNSやプレスリリースと組み合わせることで大きくリードを獲得できる可能性がある。
ただし、ホワイトペーパー経由のリードは、まだ情報収集段階の場合が多い。
そのため、実施する場合はリードナーチャリングと組み合わせる仕掛けが必要だ。
なお、ホワイトペーパーの詳細については以下の記事で解説している。
他社メディアへの出稿
WEB記事への出稿は、広告とはいえ自社発信ではないため、客観性や発信メディアの権威性を付与できる。
顧客ヒアリングなどを実施し、顧客や見込み顧客が業務上の情報収集として活用しているメディアへ出稿するのが好ましい。
導入事例
BtoBのSaaSサービスは無形サービスが多いため、導入事例を増やすことが重要だ。
ただし、中身が薄い導入事例を量産しても成果はでない。
課題から解決、成果まで見込み顧客の行動を促すストーリーを意識して作成する必要がある。
導入事例は検索以外で探す場合にも効果的に働くため、必ず作成したい。
タクシー広告
タクシー広告は、テレビCMよりも安価に出稿できるため着手しやすい。
ただし、業界特化のサービスやエンタープライズ向けサービスの場合、大きな効果を得られないおそれがある。
つまり、自社サービスがターゲットとする顧客の属性との相性が重要だ。
代理店販売
代理店販売とは、他社に自社サービスを代理で販売してもらうことを指す。
マーケティング部門は、代理店(パートナー)が営業活動をしやすくするための支援を行う。
現状のマーケティング活動では効果の最大化が難しい場合は、代理店販売に注力することも選択肢の一つだろう。
EXPO・展示会
EXPO・展示会の実施は認知を獲得するだけではなく、顕在層の獲得にも役立つ。
EXPOにおいて重要なのは、サービスと親和性が高いテーマのEXPOに出展することだ。
また、立地の良いコマ(出展する場所)で、比較的大きいブースで出展すると効果を高められる。
また、EXPO後の顧客へのフォロー体制を整えることも欠かせない。
カンファレンス
基調講演や複数社の登壇がある大規模イベントであるカンファレンスへの参加も見込み顧客の獲得に有効だ。
業界やテーマの第一人者などが講演を行うため集客力があり、普段獲得できないリードを獲得できる可能性がある。
ただし、自社サービスに興味がない層も多いため、リードナーチャリング施策もあわせて実施する必要がある。
共催セミナー(ウェビナー)
ターゲットが近い企業と協力し、共催でセミナー(ウェビナー)を行うことで、新規リードの獲得につながる。
最近では共催セミナーを行うためのマッチングサービスもあり、比較的開催しやすい点がメリットだ。
また、自社のリードナーチャリング施策としても活用できる。
共催セミナーを実施する際は、共催先企業がどれだけリードを持ち、どの程度集客できるかをヒアリングしておこう。
CXOレター
エンタープライズ向けサービスなどの場合、決裁者へ直接アプローチできる手段が少ない。
そこで有効な施策が、企業の役員や決裁者へ手紙を送り、アポイントを獲得するCXOレターだ。
ただし、ただパソコンで書かれた手紙をただ送るだけでは効果が薄い。
手書きの手紙で特別感を出すほか、全日本DM大賞のような目を引く仕掛けや、対象者にとって有益なオファーが盛り込まれていることが重要だ。
5.2.施策一覧:リードナーチャリング
次に、獲得したリードを顧客へと育成する「リードナーチャリング」に有効な施策を見ていこう。
自社セミナー(ウェビナー)
自社セミナーは、企画次第では多くの初回面談につながる施策だ。
顕在層向けのサービス紹介のセミナーや、潜在層向けのノウハウのセミナー、業界を絞ってクライアントを呼ぶセミナーなど、多くのセミナーを実施できる。
またオンラインであれば、過去ウェビナーを複数回活用することも可能だ。
なお、ウェビナーの集客については以下の記事で詳細を解説している。
メールマーケティング
メールマーケティングは、顧客に有益なコンテンツを送り、自社への信頼を構築するのに有効な手段だ。
メールを送り続ければ、必要な際に社名やサービス名の想起につながることもある。
送信リストや配信コンテンツ、配信シナリオなど工夫できる点も多く、大きな効果が期待できるだろう。
なお、メールマーケティングにおいては以下の記事で詳しく解説している。
5.3.施策一覧:継続率の向上
最後に、すでに受注済みの顧客の継続率を高める施策を紹介する。
継続による恩恵を大きく受けるSaaSビジネスでは、新規顧客獲得につながるリードジェネレーションやナーチャリングだけでなく、継続率の向上の取り組みも非常に重要だ。
カスタマーサクセスの設置
継続率向上には、カスタマーサクセスの設置が重要だ。
カスタマーサクセスには、顧客がサービスを使いこなし、ビジネス成果を得るためにサポートする役割がある。
さらに、顧客へのアップセルやクロスセルの機会をつくり、顧客単価の向上に貢献する。
活用を促すコンテンツを充実させる
サービスの継続利用を促すためには、顧客の課題や不安を迅速に解消し、ストレスなく使用してもらえる環境づくりが欠かせない。
その一つがコンテンツ制作だ。
自社のサービスを活用することで得られる具体的なメリットや、サービスの使い方、活用ノウハウなどを定期的に提供するとよいだろう。
例えば、営業DXサービスなどを提供しているSansan株式会社では「Sansan Innovation Navi」を作り、活用のためのセミナーや事例、メソッドといったコンテンツを発信している。
コミュニティの開設、運用
顧客と自社の関係構築だけではなく、顧客同士が交流し、課題の解決方法のヒントを得られるコミュニティなどを開設することも有効だ。
自社がかかわらない部分でも、顧客同士の関で自社サービスに関する理解やエンゲージメントを高めることができる。
例えば、タレントマネジメントシステムや労務管理システムなどを提供する株式会社カオナビでは、人事担当者がオンライン・オフラインで大学のように学び合える「カオナビキャンパス」を運用し、継続率の向上につなげている。
6.企業の成長フェーズ別|SaaSのマーケティング施策一覧
ここでは、各成長フェーズ(創業期、成長期、成熟期)別に、おすすめの施策を以下のように評価して紹介する。
評価:
- ◎:おすすめである
- ◯:コストやリソースの状態によってはおすすめ
- △:基本的にはおすすめしない、他にベストな施策がある
なお、リードジェネレーションの施策として解説したが、実務的にはリードナーチャリングの施策としても活用できるものもある。
6.1.創業期におすすめの施策
創業期は、マーケティング予算やリソースが少ないなかで、短期的にも成果を出す必要がある。
そのため、実施までのコストがかからず、即効性が高い施策が中心となる。
ただし、SEOやオウンドメディアは即効性は低いものの、成果を出すには長期的な取り組みが必要となるため、創業期から着手するとよいだろう。
施策一覧 | リードジェネレーション | リードナーチャリング | 継続率の向上 |
SEO | ◎ | ◎ | – |
比較サイト | ◎ | – | – |
オウンドメディア | ◎ | ◎ | – |
リスティング広告 | ◎ | – | – |
ホワイトペーパー | ◯ | ◯ | – |
他社メディアへの出稿 | △ | – | – |
導入事例 | ◯ | ◯ | – |
タクシー広告 | △ | – | – |
代理店販売 | ◯ | – | – |
EXPO・展示会 | ◯ | – | – |
カンファレンス | △ | – | – |
共催セミナー | ◎ | ◎ | – |
CXOレター | △ | – | – |
自社セミナー | ◎ | ◎ | – |
メールマーケティング | ◯ | ◯ | – |
カスタマーサクセスの設置 | – | – | ◎ |
活用を促すコンテンツの発信 | – | – | ◯ |
コミュニティの開設、運用 | – | – | △ |
6.2.成長期におすすめの施策
成長期になると、マーケティング予算やリソースが増えてきて、さまざまな施策にチャンレンジできる。
優先順位を決めて多くの施策をやりきり、自社の勝ちパターンを構築していこう。
また、予算に余裕があれば、先の成熟期を見越し、ブランディングの種となる施策に取り組むのもおすすめだ。
施策一覧 | リードジェネレーション | リードナーチャリング | 継続率の向上 |
SEO | ◎ | ◎ | – |
比較サイト | ◎ | – | – |
オウンドメディア | ◎ | ◎ | – |
リスティング広告 | ◎ | – | – |
ホワイトペーパー | ◎ | ◎ | – |
他社メディアへの出稿 | ◯ | ◯ | – |
導入事例 | ◎ | ◎ | – |
タクシー広告 | ◯ | – | – |
代理店販売 | ◯ | – | – |
EXPO・展示会 | ◎ | ◎ | – |
カンファレンス | ◯ | – | – |
共催セミナー | ◎ | ◎ | – |
CXOレター | ◯ | – | – |
自社セミナー | ◎ | ◎ | – |
メールマーケティング | – | ◎ | – |
カスタマーサクセスの設置 | – | – | ◎ |
活用を促すコンテンツ | – | – | ◎ |
コミュニティの開設、運用 | – | – | ◯ |
6.3.成熟期におすすめの施策
3章で紹介したとおり、成熟期では獲得した顧客の継続率が重要だ。
また、潤沢なリソースを元手に、数値には直結しないが差別化につながる施策も実施できる。
施策一覧 | リードジェネレーション | リードナーチャリング | 継続率の向上 |
SEO | ◎ | ◎ | – |
比較サイトへの出稿 | ◯ | – | – |
オウンドメディア | ◎ | ◎ | ◎ |
リスティング広告 | ◯ | – | – |
ホワイトペーパー | ◎ | ◎ | – |
WEB記事出稿 | ◎ | ◎ | – |
導入事例 | ◎ | ◎ | – |
タクシー広告 | ◯ | – | – |
代理店販売 | ◎ | – | – |
EXPO・展示会 | ◎ | ◎ | – |
カンファレンス | ◎ | – | – |
共催セミナー | ◎ | ◎ | – |
CXOレター | ◯ | – | – |
自社セミナー | ◎ | ◎ | – |
メールマーケティング | – | ◎ | – |
カスタマーサクセスの設置 | – | – | (設置済) |
活用を促すコンテンツ | – | – | ◎ |
コミュニティの開設、運用 | – | – | ◎ |
7.SaaSのマーケティングにおける注意点
SaaSマーケティングを成功へと導くためには、以下の3点に注意して進めていくことが重要だ。
注意点1.データの連携とターゲットのチューニングを行う
継続利用による収益へのインパクトが大きいSaaSでは、リードの獲得だけではなく「LTVの最大化」を意識する必要がある。
とくに組織が大きくなると、マーケティング部門では広告やメルマガなど、リード獲得目的の施策に集中しがちだ。
「継続率」については、カスタマーサクセス部門や営業部門が中心となって追跡するようになる。
このように、収集・分析するデータが分断されている場合、マーケティング部門のターゲットと、自社に大きな収益をもたらしている顧客層にズレが生じやすくなる。
結果的に、ユニットエコノミクスが悪化し、ビジネス全体の成長に影響を与えてしまうだろう。
よって、他部門と連携し、顧客獲得だけではなくユニットエコノミクスやロイヤルティを意識した施策を行うことが重要だ。
注意点2.ツールを最大限に活用する
インターネット上に多くのデータを蓄積できるSaaSでは、データの記録や管理、共有、活用を効率的かつ効果的に行えるよう、ツールを最大限に活用することがおすすめだ。
マーケティングオートメーション(MA)ツール
リードナーチャリング、メールマーケティングの自動化やリードのデータ管理などを効率化できる。
顧客関係管理(CRM)ツール
顧客情報の一元管理、営業活動の可視化、顧客とのコミュニケーション履歴管理などを実現できる。
アクセス解析ツール
ウェブサイトへのアクセス状況を分析し、顧客の行動理解やウェブサイト改善に役立てることができる。
Googleが提供する「Google Analytics 4」は、無料で詳細な分析ができるためおすすめだ。
注意点3.カスタマージャーニーを意識する
カスタマージャーニーとは、顧客が自社の製品・サービスを認知してから購入や継続に至るまでの道のりを指す。
同じターゲットでも、時間の経過や検討段階によって最適な施策は異なるため、マーケティング施策はカスタマージャーニーを意識して策定する必要がある。
なお、カスタマージャーニーについては以下の記事で詳しく解説しているため、SaaSのマーケティング施策を1つレベルアップさせたい方は、ぜひご覧いただきたい。
8.まとめ
本記事では、SaaSビジネスにおけるマーケティングについて戦略やKPI、施策や成功のポイントなどを解説してきた。
SaaSビジネスでは、いかに顧客にサービスを長く利用してもらうかが重要だ。
そのため、顧客のロイヤリティを向上させ、継続率をあげることを軸に、マーケティング施策の実施や組織体制・環境づくりを行う必要がある。
弊社では、SaaS企業のマーケティング支援や、IT領域の高い専門性を備えたコンテンツ制作代行を提供している。
外部の支援を検討している方は、ぜひお気軽に問い合わせいただきたい。